EP23 真実 - Duo
『今から話すことだけは嘘じゃないから、ちゃんと聞いて欲しい』
リビングでのんびりとコーヒーを飲んでいた時。
「なぁシオン」
これまた唐突にユズに声を掛けられる。
「この後暇か?」
「まぁ、すること無いし……暇だけど」
うん、とユズは首を縦に振る。
「そろそろ話しておかないとね」
「……何の話?」
まぁ慌てんな、とユズは携帯をいじりながら。
数分後。
「よし、出るぞ」
「えっ、いきなり!?」
有無を言わさない様子だったのでとりあえず着替えだけ済ませてこよう。
と思ったんだけど。
「シオンはいつものスーツで来て」
「……わかったよ」
何もかもがわからないままスーツに着替えて、荷物を持つ。
「さぁ行こうか、シオン。答え合わせに」
「答え合わせ……?」
ユズに連れて行かれたのは……ファミリーレストラン。
なんだかスーツ姿の自分が少し浮いて見える。
「四人です、後二人は遅れてきます」
「かしこまりました、お好きな席へどうぞ」
とりあえず座りな、と言われるので席に座る。
そしてその隣に座るユズ。
「なんで隣に?」
「もうすぐわかる」
何がなんだか全然わからないけど……。
***
「……来た」
店に二人が入ってきた。
……父さんと母さんだ。
なぜ、このタイミングで?
「こっち」
ユズが手招きをする。
二人共、僕とユズを交互に見て驚いた表情をしている。
「……シオン、久しぶり。三年ぶりくらいかしら」
「久しぶり、母さん。もうすぐ四年くらいだよ」
僕の目の前に座る母さん。
「シオン……」
「最後にあったのは……見舞いの時だっけ?父さん」
ユズの目の前に座る父さん。
人数分のドリンクバーを頼み、飲み物を取りに行く。
それくらいしかしばらく動きがない。
その沈黙を破るように、ユズが切り出した。
「――ここに居る三人がシオンを見捨てた三人だよ」
「どう言うこと?」
三人……?
「親父、母さん、そして弟と姉が揃ったわけだ」
姉……?ユズが……?
「シオン、私はあんたの――姉だ」
「ユズが僕の、姉?」
何を言っているのかがわからなくて。
一瞬なんかのドッキリかと思ったけど、空気感は一切変わらない。
むしろ悪化していく一方な気がする。
「シオンが記憶を失くしたって聞いて。……この二人はどうか知らないけど、私は間違いなくシオンの事を捨てたんだ」
『シオンが来る半年前くらいにユズは辞めた』
――ちょうど、その頃。僕は記憶を失くしている。
「……なんでそれを今更?隠しておけばよかったのに」
「隠せない事情が出来たんだよ、あんたのせいで」
僕のせいで……?
「二人共、ゆめのことは知ってるよね、私の居候先」
「えぇ、知ってるけど……柊さんが何か?」
ユズは何もかも包み隠さず、言ってのけた。
「こいつ、結婚するんだよゆめと」
「――ッ!ユズ!?」
僕の右手を強引に手に取り机に置くユズ。
「この指輪、今は逆の手にあるけど、ゆめからの贈り物なんだよ」
驚く両親と冷や汗をかく僕。
「そして、こいつはもう婚約指輪を用意してるってワケ」
「な、なんでそれを!」
実の姉に隠せるとでも思ったか?と僕の方を向いて話す。
「そして。シオンを捨てた、とは言ったけど私は完全に捨てきれなかったんだよシオンを」
「……それはどう言う」
ユズは少しだけ息を置き、話を続ける。
「シオン、あんたの口座にぶん投げた金、足りたか?」
「……あれは、うん。足りた」
お金?と母さんは僕に問う。
まぁ話してなかったし当然と言えば当然か。
「私の持ってたお金、シオンに振り込んだんだよ。あの後シオンがどう言う扱いされてるかってのはわかってたから」
固まる両親。
「前置きはここまで、本当の話はここからだよ」
続けてユズが切る。
「ゆめとシオンは……間違いなく結婚すると思う、式も挙げると思う。だから――」
だからこそ、と溜め。
「二人は呼ばない、呼ばせない。シオンに何もしなかった、出来なかった罰だ」
「ちょっと、ユズ――」
――止めるな。
力強く意思を抑えつけられる。
「二人には必ず幸せになって欲しいから、幸せに出来ないような奴らには来る権利はない」
って言ったら、私も権利無くなるけどな。そう言ってユズは鎮静する。
「それだけ。じゃあこれでなんか食べてって」
ユズは封筒を机に置くと僕の手を無理やり引いていく。
「ちょっと、ユズ!?」
「場所変えるだけだからシオンも黙ってな」
***
店を出て歩きながら。
「……ユズが僕の姉」
「それまだ引きずるの?」
引きずるも何も今日ついさっき知った驚愕の事実なんですけど。
「二重の意味で覚えてないかもな。小さい頃に離婚して、私は親父の方に引き取られたから」
「確かに、記憶があっても覚えてないかも知れないけど……」
それにしても、と言うか……。
「なんで指輪の話を」
「あぁ、合ってたのか」
え。
「シオンが会社行くわけでもなく一人で休日スーツで外に出るなんておかしいだろ?」
「それは……そうだけど」
でも、なんで指輪って……。
「あの後そのままつけていったら本当にそう言う店に入っていくんだからびっくりしたよ」
「……行動力のあるお姉様だこと」
――屋敷で初めてあった時、あの違和感は。
家族だからこその違和感だったんだろう。
「さっきも言ったが、私はなんにせよシオンを見捨てた姉だ。式に呼ばなくても構わない」
「……それは違う、振込はさておいて。ここ数ヶ月で一緒に暮らしてきたじゃないか。それに――」
それに?とユズが首をかしげる。
「それ以前に、ユズはお嬢様の友人だ。その席は残されてる」
「あはは、本当にシオンは面白い奴だな」
お前が弟で良かったよ、と笑われる。
「それに……ユズには捨てられたと言う実感も無いわけだし」
「一回だけ見舞いには行ったけどな、最初の混乱してる時期」
……覚えてない。
「あぁ、こいつは私以前に両親からも捨てられるんだろうとそこで察したんだよ」
言葉が出てこない。
「だから、逃げてしまうならば少しだけでも弟の為にってな」
「それにしてもあんな金額をよく出したね……」
それは、と声が籠もるユズ。
「……何があろうが私の弟だからだよ。逃げ出した自分が嫌だったからそれで償おうとしてたのかも知れないけど」
「あれのおかげで今ここに居るんだから。感謝するのは僕の方だよ」
逃げたことにだって怒らないもんな、と零し。
「姉想いの良い弟だ、お前は」
「姉だろうがなんだろうが、ユズはユズだし。……変わらないよ」
あぁ、昔からそう。と、ユズが呟く。
「どうしようもないくらいにお人好しで世話焼きなのは変わんないね」
「記憶を失っても本質は変わらないんだろうね」
こんな姉に対しても?と聞かれる。
それに対し僕は黙って頷く。
「ゆめもゆめでお人好しだし。本当にお似合いだ二人共」
「いや、でもまだちゃんと話はしてないし」
でもいずれするんだろ?と問われる。
「機会を待ってるのもあるし、ある程度準備もしておかないといけないから」
「用意周到なこった。でも、時間は限られてんだから。逃すなよ」
これは姉からなのか、お嬢様の友人としてなのか。
「それじゃ、そろそろ帰るか、弟」
「これみよがしに弟って言い出すの辞めてくれるかな、姉さん」
ふふっ、と二人で笑いながら帰る。
「ただいま」
「あら、シオンとユズ。二人しておでかけですか?おかえりなさい」
あぁ、とお嬢様にユズは言う。
「教えてなかったけどっさ、こいつ私の弟だったわ」
「――!!」
声にならないなんとも言えない叫び声に似た何かが響く。
リビングからぞろぞろと声につられてやってくる双子とカリン。
「帰ってきて早々どうしたんですか?」
「カリン、知ってたんですか?ねぇ?!」
カリンの両肩を持ち揺さぶるお嬢様に察したような顔で僕達二人を見るカリン。
「あぁ、まぁ知ってました。しかしこればっかりは二人の事ですので」
「何?どうしたの?二人共?」
何もわからず、と言った表情のモモと嫌な予感からか苦い顔をしているナズナ。
「いや、ユズが僕の――」
また、声にならない叫び声が増えた。
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