EP20 姉妹 - Dependency

『私を埋めるのは一つだけじゃない、もうすぐ貴方もその一つになるの』


 これもとある日の事だった。

 リビングでのんびりとテレビを眺め、適当に飽きた頃合いで寝る。

「僕はもう寝るよ、みんなおやすみ」

 特に疲れてるわけでも眠いわけでもないけど。

 おやすみなさいと返すのはお嬢様とカリンとモモの三人。

 階段を登り、自室に戻ろうとするとナズナが部屋の前で立っている。

「ナズナ、なにか用事?」

「ま、そんなとこ。部屋入っていい?」

 別にいいけど、と扉を開ける。

 椅子に腰掛けるとナズナはベッドに腰掛ける。

「私ってどうすればいいと思う?」

「また唐突に何の話を……」

 ナズナは語りだす。

 モモへ依存がモモに対して負担になってないかどうか。

 そして、今後姉としてどう接していいかと。

「その相談は僕にして良いのか?」

「シオンだからこそするんだよ」

 なるほど、といまいち納得できないが返事は返す。

「依存なんて簡単に治せるもんじゃないからさ。他の人をもっと頼るとか?」

「他の人……カリンやユズ、お嬢様を?」

 あ、僕は入らないんだ。

「まぁその点では一番シオンのことを頼りにしてるかもね」

「それは……どうして?」

 軽いノリで接することが出来るから、と笑いながらナズナは言う。

 確かに、僕にならあまり重くならずに話せるのかも知れない。

「モモの事は聞いたよ、ちゃんと話し合えたらしいじゃん」

「うん、ちゃんと話しておかないと今後も抱えちゃうだろうから。このタイミングでね」

 このタイミング、かと呟くナズナ。

「何か企んでるんでしょ、と言うか大体察しはつくけど」

「あはは、ナズナには勝てないな」

 ニヤリと笑うナズナを見て苦笑する。

「私は応援してるよ。だから今こうやって相談しに来てる」

「ありがと、でも相談に何の関係が?」

 家族ならちゃんと解決しなきゃでしょ、とナズナ。

「私だけの問題じゃないけど、私個人の問題を抱えたままじゃシオンも苦い思いをしそうだし」

「確かに、ちゃんとナズナが他のはけ口を見つけれたらいいなとは考えてた所だよ」

 バカ兄貴、と吐き捨てられる。

「自分の将来よりもシオンの将来の方が心配になってきたよ本当に」

「いや、自分の将来を心配しなって」

 私はずっとここにいるつもりだから、とナズナは笑う。

「私達の居場所はここでしょ?だから、ちゃんと快適な居場所にするために努力しなきゃいけない」

 ナズナは真剣な眼差しで僕を見る。

「シオンが努力してるんだから、私だって少しは貢献できるように動いてんだよ」

「それはありがたいことだ」

 しかし。

 どうやってナズナの負担を軽減させればいいのかはやはりわからない。

「ねぇ、シオン」

「……何?」

 少しためらいながらも口を開くナズナ。

「頼ってもいいのかな」

「さっき頼りにしてるって――」

 そうじゃなくて、と。

「もっと深い意味でだよ。背中を預ける……って言うのかな」

 背中を、か。

「流石にモモみたいに甘えるなんて事はしないし得意じゃないけどさ、私も甘えれる先を増やすべきなんだよね」

「……それが、僕?」

 まぁ、そうなるねとナズナが笑いながら。

「そして、姉として。どうすべきなんだろ」

「それはナズナがどうしたいかじゃないかな」

 私がどうしたいか、とナズナは黙り込む。

 数分後、ゆっくりと喋りだす。

「……私は、今まで通り姉としてやっていきたいけど」

「それが答えなんじゃない?モモだって、そのままのナズナで居て欲しいはずだし」

 そっか、と。

「考えすぎてただけ、か」

「お互いがお互いを補完しあってるんだから、急に変わろうとせずに少しずつ二人で変わればいいと思うよ」

 ふたりとも、お互いを想ってるからこそこうやって変わろうとしているんだろうから。

 僕達の役割はそれを見守ることなんだと思う。

「ねぇ、兄貴」

「何さ」

 僕の元にナズナがやってくる。

 耳元で、ささやかれる。

「早く告白しなよ」

「ッ……あのさぁ!」

 反応を見て笑うナズナ。

「ちゃんと頼れるように背中押さなきゃダメかなって」

「押されなくてももう、決めてるよ」

 へぇ、とナズナが笑う。

「もうそろそろ、本当の兄貴になるんだね、シオンは」

「……言い方がアレだけど。そうだね」

 ナズナに言われて、改めて実感する。

 自分はなんて無謀な事を、唐突に行おうとしているのか。

「でも、心配はいらないと思うよ」

 笑うだけ笑って僕のベッドに転がるナズナが言う。

「私が保証してあげるよ」

「なんの保証だかわかんないんだけど……うん」

 だから、と天井を仰ぎながらナズナが呟く。

「私も、甘えると言うか、みんなにも背中預けるようにするから」

「ゆっくりでいいよ、少しずつやろう」

 シオンはゆっくりしてる場合じゃないよ、と笑われながら。

「ま、お互い頑張ろうよ。無理せずさ」

「言われなくても頑張るよ、ナズナの為にも」

 お嬢様のことを一番に考えな、と起き上がるナズナに釘を差される。

「それじゃ、付き合ってくれてありがと」

「別に今までもこんなことくらい何回もあっただろ?」

 そうかもね、と笑いながら部屋を出ていくナズナ。

 ……うまくいくなら、もう少しで本当に兄妹になるんだな。

 失敗したら……その時はその時で、忠誠は変わらない。

 どうにでもなるだろうと、空になったベッドに転がる。

 そうして、気が付けば意識が溶けていくのであった。



 これで少しはナズナも重荷が解けるんじゃないか。

 モモの事もそうだし、これまで以上に義兄として。

 二人なら、きっと大丈夫だと信じているから。

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