再現部:第一主題 - Hometown
EP17 責任 - Avoid
『重荷は背負いたくないけど、本当は逃げたくなかったの』
そろそろ赤く染まる時期、とある夜の隠し部屋。
「ねぇ、ユズ」
お嬢様がユズに話しかける。
「ん?ゆめどうした?」
少し言いづらそうに。しかし、聞くという意志ははっきりと。
「あの。どうしてあの時居なくなったんですか?」
「あー……複雑な事情があってね」
複雑な事情……?
「隠すって間柄じゃないし、まぁシオンはどうでもいいから話すけど。まぁ親族で面倒事があってね」
「面倒事、ですか」
どうでも良いってサラッと言われたけどまぁいいか、と話を聞く。
「私はそれの面倒見たくないからって、押し付けられても困るし」
それに、と付け加えながら。
「ここにも迷惑かかる可能性あったからさ。……あの時は悪かったよ」
「ユズらしいと言えばユズらしい理由ですね。ふふっ、怒ったりはしてませんよ」
身の回りの問題を屋敷に持ち込まない為、か。
なんだかんだユズもユズでちゃんと考えてるんだな。
「でもそこからシオンが来るまではまぁまぁ大変だったんですからね」
「あはは、私そんなに仕事してたかー?」
してたじゃないですか、ちゃんと。とお嬢様は笑いながら。
「シオンが来てからちょっとして少しは楽になりましたけど」
って言っても僕もそこまで何かしてるとは思ってないけどな。
屋敷のことに関しては特に。庭いじりとかの方が多い気がする。
「シオンが来た時凄かったんだって?特にモモ」
「まぁ凄かったと言うか……今思い返してもちょっと怖いですけど」
冷や汗混じりに苦笑いをするお嬢様。
「よく生きてたねあんた」
「あれくらいじゃ流石に死にはしないとは思うけど……」
いや、メンタルもだよとユズはグラスを空にしながら呟く。
「それに関しては確かによく心が折れなかったなぁとは思ったけど」
メンタル、かぁ。たしかにそうかも知れない。
「まぁ呼ばなかった理由もなんとなくわかるけどさ、顔見てると」
「……そんなに顔に出てる?」
なんとなくね、とお酒を継ぎ足しながら笑うユズ。
「それだけあの子達を大切にしてるってことだろ。最初からさ」
***
「それにしても、あの後本当にどうしてたんですか?」
「各地を転々と。あ、ちゃんと家に住んでたし危ない橋を渡る真似はしてないからね」
日本地図を指で宙に描く。
「数ヶ月くらいはここらへん。そっからは半年毎にこっちや、あっち」
「本当に日本の色んな所に行ってきたんですね」
そそ、カリンにバレるまでは好き勝手ね、と僕のツマミを持っていきながら笑う。
最後の一切れだったのに……好き勝手持って行きやがって。
「カリンに見つかるまでなんて、まるで家出みたいな……って元々家出でしたね」
「そうだよ、家出の延長線みたいなもんだよ」
家出の延長線、色々と長すぎないか?
「そのおかげでいろいろな経験も出来たけど、やっぱここが一番楽だよ。実家よりもさ」
「実家には結局帰らないの?」
嫌だよめんどくさい、とうなだれるユズに僕もお嬢様も二人で笑ってしまう。
「シオンこそ帰らないのか?記憶は無くても家はあるんだろ?」
「そうだけど、記憶失くしてから親戚みんな誰も良い顔をしてくれなかったから戻るに戻れなくて」
本当にあんた、何したんだよと笑われながら。
記憶が無いことをどう捉えたんだろう、家族は。
最初は最初で見舞いには来てくれたらしいけど、まだ誰が誰だか思い出せない状態だったし。
実家に帰れて父親と暮らしてた時も殆ど会話は無かった。
そんな中で、お嬢様と出会い今があるわけだし。
それでいいんだと思っている自分がいる。
「ま、私も私だから無理にとは言わないさ」
「説得力がありませんもんね、真っ先に家出してきたユズに言われるのは」
親がめんどくさかっただけ、とつっかかるユズ。
「でも、それでも泊めてくれてちゃんとした居場所を作ってくれたゆめには感謝してるよ」
「それなら良かったです。私もユズと毎日会えるのは嬉しかったですし」
……この二人いちゃついてるのか?
「あ、シオンが妬いてる」
「妬いてない」
少しだけ赤くなる顔は……お酒のせいだ。
「シオン、妬いてるんですか?」
「お嬢様は少し酔いを覚ましましょうか?」
冗談ですよと笑うお嬢様の顔も赤らんでる、酔いだ。
「はぁ、人数分の水を持ってきます」
「じゃあ私も頂きましょうか」
マイペースにカリンが入ってくる。
「カリン、起きてたんですね」
「えぇ、寝ようにもまだ眠れなくて。リビングに寄ったら声が聞こえたので」
四人分の水を用意する。
「それで、何の話をしてたんですか?」
「シオンが私に妬いてるって話を」
それは違うから、とグラスを置きながら訂正する。
「あぁ、なるほど」
「一回説明しますからちゃんと座ってください」
軽く今までの話をカリンに話す。
「会った瞬間凄い嫌そうな顔してましたよね、ユズ」
「そらカリンの顔みたら苦い顔してもいいでしょ」
酷い言われようだけど気持ちは……わからんでもないかも知れない。
「まぁうまいこと逃げてたつもりだったんでしょうけど。筒抜けでしたからね」
「え、まじで」
具体的にはここから、とカリンがユズの行動を先程の会話を全て聴いていたかのように……。
いや、これは話してない内容まで拾っている上に、ユズの顔は苦笑いを超えて恐怖で青ざめている。
「む、むしろ早く捕まえて欲しかった、かも」
「獲物はじわじわと追い詰めるものなんですよ」
三人が同時に怯むのを見てニコニコとするカリン。
……シラフだよな?
「本当に、カリンには誰も勝てませんね」
「お嬢様には勝てませんよ、流石に。別の意味では」
押しの強さで言えば確かにお嬢様に勝てる人間は居ないかも知れない。
力技でねじ伏せるお嬢様と、少しずつ削って仕留めるカリン。
……その他、それぞれ別の意味で反論する気力が無くなってくる双子と。
なぜだか的確に僕を撃ち抜いてくるユズと……。
あれ、やっぱり僕一番立場下……?
「シオンは誰にも勝てないよね」
「ちょうど考えてたとこだよ……」
また、的確に撃ち抜いてきた。
そんなに僕は狙いやすい的なのか……?
「ま、あの時カリンに回収されてある意味ラッキーではあったかな」
「特定のタイミングを見計らってたつもりはありませんが……」
気が抜けてきたのか少しずつだらけてくるカリン。
「そろそろお開きにしましょうか、もう遅いですし。ほら、カリン寝るならちゃんと部屋で」
「ソファーでも大丈夫ですよ」
駄目です、とお嬢様がカリンを強引にでも連れて行こうとするのでとりあえずなだめる。
「まぁリラックスできたんでちゃんと寝ますって」
みんなでゆっくりと立ち上がる。
そして笑いながら、それぞれの部屋に戻る。
と。部屋に戻ろうとした時。
ちょうどお嬢様とカリンが自室に入った時を見計らうように。
「シオン」
「どうかした?」
ユズが声を掛けてくる。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
ただそれだけ言うとユズは部屋に戻る。
少しの違和感と少しの安心感を懐きながら、僕も自室に戻る。
……とりあえず、ユズに関してはこんな所なのだろうか。
まだわからないことも多いけど、焦らずに進もう。
次へと確実に繋がるために。
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