EP15 崩落 - Collapse

『来たるべき日は来てしまった、もう過去には戻れない』


「あぁ、ゆめ。来てくれたか」

「お父様……!」

 ベッドに寝そべる旦那様。

「シオン君も朝早くにすまないね」

「いいえ、これくらい。仕えてる身ですから当然です」

 はは、そうか。と微笑む旦那様。

 しかし、その微笑みには生気を感じない。

 あぁ、もう少しなんだろう。

「どうしてこうなる前に言ってくださらなかったんですか!?」

 焦り、動揺、苦しみ、悲しみ。

「そうしたらお前は抱え込んでしまう、そうだろう?」

「そうですけど……、そうですけども!」

 旦那様はお嬢様の頭を優しく撫でる。

「カリンも済まないね、ずっと黙っててもらって」

「……これも仕事とは言え、なんだかんだ苦しかったんですからね、本当に」

 済まない、と一言だけ返す。

「ゆめ、幸せになるんだよ」

 最後に伝えたかったことを絞り出し。

 静かに、静かに。

 命の灯火は消えた。



「二人を迎えに行ってきます。シオン君はここに、お嬢様の側に居てください」

「わかりました」

 カリンは頷くと病院の外に出る。

 病院の待ち椅子でふさぎ込むお嬢様の隣に座る。

「シオン……」

「僕は側に居ますよ」

 その言葉を聞くと、早起きと精神的な疲れもあったのか僕にもたれかかるお嬢様。

「……寝てても構いませんよ」

 ここには誰も居ませんから、と聞こえるか聞こえないか。

 僕の膝を枕にし、お嬢様は眠りにつく。

 本当に、まるで眠り姫のようだ。

 ……困った。これじゃトイレも何もいけないな。


 数十分か一時間弱か。それくらい経った頃に。

 ナズナとモモが病院の中に入ってくる。

「ナズナ」

「……そうだよ、知ってた。だけど誰にも言えないじゃないかこんな事」

 恐らくはカリンに口封じされたか、自己判断なのか。

「ゆめちゃん……悲しそうな顔して寝てるね」

「まぁ、起きて唐突だったのもあるだろうし」

 そんな話をしてるとお嬢様が起き上がる。

「……みんな、来てくれたんですね」

「当然ですよお嬢様。私達にとっても父親なんですから」

 そんな中一番マイペースな人間がやってくる。

「お、起きたんだゆめ。はい、近くのコンビニでおにぎり買ってきたから。食べれそうなら食べな」

 ユズはお嬢様におにぎりとお茶を手渡す。

「ありがとう、ユズ」

 ある意味で、このマイペースさに助けられてる所はあるだろう。

 お嬢様も、僕も、みんなも。




***




 そこからとても忙しくて忙しくて。

 葬儀の準備から何から、一気に処理しなくてはいけなくて。

 会社が会社なだけに、沢山人が来てもおかしくないので。

 所謂家族葬と言う形を取ることにした。

 喪主はお嬢様。


 一日中、ずっとお嬢様の側に居たのは何回もあったけど。

 こんなに口数も少なく、返事も単調なのは流石に初めてだ。

 お嬢様が唯一ちゃんとした意思で話したことと言えば。

「堅苦しいお通夜はしないで起きましょう、私達だけですから。お父様もそれは望んでないはずです」

 この言葉にわかりました、と返しみんなに伝える。

 カリンが封筒を出しながら。

「食事の後に軽く遺言状でも読みましょうか、まだ手を付けてませんので」

「……わかりました」


 その後、夕飯の時間から数時間前。

「……少しだけ一人で居ていいですか?何かあったら呼びますし」

「はい、それでは失礼しますね」

 お嬢様を部屋に送り、自分も部屋に戻る。


 この場合どうすればいいんだ。

 僕の最適解はなんだ。

 わからない、失ったことがあるのは記憶だけ。

 その中に誰かを失ってるかも知れないけど、そんな事は覚えてない。

 ……なんだかんだで僕の人生を大きく動かしてくれた人だ、それだけ僕も喪失感はあるけど。

 他のみんなとは違うだろう、重さというものが。

 そう考えてると扉をノックする音がする。

「シオン、居るか?」

「居るよ、鍵開いてるからそのままどうぞ」

 ユズが扉を開けて、その場で話し出す。

「煙草吸う気力は?」

「一応ある」

 じゃあ、と扉を開けっ放しで廊下を歩いていくユズ。来いってことか。

 とりあえず喫煙所に向かうことにする。


「一つだけ開示してあげる」

「開示?」

 ユズは煙草を吸いながら。

「私達は会ったことがある」

「やっぱり、か」

 会ったことがある、レベルではないと思うのだけどそれは気のせいだろうか。

「小さい頃のシオンも知ってるよ。今と変わらず、だけどさ」

「それはなんと言うか、生まれつきなんだろうな」

 本当にね、と笑いながらユズは煙草を消す。

「これは熟れた果実の一つに過ぎないけど」

「事実が知れただけ十分だよ。いつどんな状況で会ったことがあるなのかはわからないけど」

 あはは、とユズは笑いながら。

「なんだかんだ、元気でやっててよかったよ。まさかこんなとこで再会するとまでは思ってなかったけど」

「それは僕も同じ、だと思う。記憶があったらどうだったのかはまた違うけど」

 いつ会ったかにもよるだろうけど。学校とかなのかな。

「そんじゃ、また夕飯の頃にでも」

「うん、ありがとうユズ」

 シオンから感謝されるのなんか面白いなと笑いながら手を振りつつ戻るユズ。

 まだ時間はあるし……少しだけ仮眠でもしよう。



 ピピピッ、ピピピッ。アラームの音がなる。

「……朝早かったからまぁまぁ眠れたか」

 十七時頃。少し陽が落ちてきた頃合い。

 一旦リビングに向かう。

 みんなリビングで……言い方はアレだけど、くつろいでいる。

「おはよ、おにい」

「うん。おはよう」

 何か飲む?と聞かれるのでコーヒーと返す。

 数分後、モモからコーヒーを手渡される。

 クーラーの効いた部屋でのんびりとブラックコーヒーを飲むだなんて。

 本来は……幸せなはずなのに。

 空気が違う、とても重たく重たく。

 とても、苦い。苦くて、苦しい。

 数分の間、眠気を覚ますためにコーヒーを飲みながら。

 色々な考え事をする。

 今自分が出来ること、それは――

「シオン、ゆめの所に行ってあげな」

「うん、そうする」

 お嬢様の元に居ることだ。



 お嬢様の部屋に向かう。

「お嬢様、起きてますか?」

「……はい、起きてます」

 ドア越しにギリギリ聞こえる声で。

「開けても?」

「大丈夫、です」

 恐る恐るドアを開けるとそこにはいつもと変わらぬお嬢様が居た。

 ひとつ、その可憐な顔に似合わない小さな目の腫れを除いては。

「みんなはリビングに居ますけど、お嬢様は?」

「ごめんなさい、今は……」

 わかりました、と答える。

「シオンは戻らなくて良いんですか?」

「いえ、僕はここに居ますよ」

 嫌でなければ、と小声で溢しながら。

「ありがとう、シオン」

 お嬢様がベッドから手招きをする。

 ベッドに座っているお嬢様の横に座る。

「本当に、優しいのねシオンは」

 いつもより近くないか……?と思いながら。

 確か、人間寂しい時は少しでも距離を詰めたいと聞いたこともある。

 肌と肌が触れる距離。

 とは言え、無理に剥がすようなモノでも無いのでそのままにする。

「シオンは知ってたんですか?」

「いえ、全然知らなかったです。今思えばわざと避けられてたとも言うんでしょうけど」

 何回も、違和感はあったんだ。

 だけど、核心的な情報もなければここまで進んでるとも思ってはいなかった。

 自分で結論を出せたとして体調が優れないのだろう、くらいにしか。

「お父様は本当に……心配性過ぎるんです」

 また、涙をこぼしながら。

「シオンが居てくれてよかった」

「僕が、ですか?」

 えぇ、とハンカチで涙を拭きながら、深呼吸すると続きを話す。

「ちゃんと私の側に居てくれる人が居るから、少し安心できるんです」

 その話を聞くとまるで……恋人みたいな言われ方で。

 赤く目を腫らすお嬢様と、顔全体が赤く染まる僕。

「僕もお嬢様がそう思ってくださるのであれば、その……嬉しいと思います」

 しどろもどろになりながら。

 意味を理解したのか、お嬢様も顔を赤くする。

「えっと、今のはそう言う事では……いえ、なんでもないです」

 別の意味でお互いが沈黙する。


「お嬢様、少し失礼な話をしてもいいでしょうか?」

「どうしたんですか、急に」

 少しだけ息を整え喋りだす。

「……僕には過去がありません。だから未来に進むしか無いんです」

 もう一息置いて。

「旦那様のことはまだ現在ですが、お嬢様にもちゃんと未来に進んで貰いたいんです」

「……そう、ですね」

 これが正しいことなのかはわからないけど、そっとお嬢様の手に手を重ね。

「何があろうと、僕は離れませんよ」

 お嬢様は逆の手を僕の手のひらの上に更に被せ、僕の目を見て話す。

「約束、ですよ?」

 これはお嬢様からの約束であり――

「えぇ。約束です」

 ――これは僕からの約束でもある。




***




「それじゃ、読みますよ」

 ――遺言状の中身はシンプルなものであった。

 次期社長はカリンに、財産は全てお嬢様に。

 その他色々な細いことを除けば概ねこの様なものだった。

「カリンが社長、ですか」

「えぇ……お嬢様が部下とはこれ如何に、と思いますが妥当でもあります」

 まぁ、この状態でお嬢様に一気に社長にさせるには色々大変だろうし、カリンになら前もって色々話せるんだろう。

「元々名義だけの副社長でしたし今更感ではあるんですけど」

 あーそう言えばこの人副社長だった。メイド服着てるの完全に趣味なんじゃないかな……。

「なんだかんだ、上層部仲良いですからねうちの会社。建前じゃない飲み会も昔は沢山あったそうですよ」

 うちの会社は仲がいいと言うか、本当に社長の人柄が濃く出てる会社だよなぁとは思っていたけど。

 重役だらけで何のにらみ合いもなくただひたすら居酒屋でワイワイしてる姿は想像できない。

「で、お嬢様」

「どうしました、カリン?」

 少し笑いながらカリンはお嬢様に向けて話す。

「人事異動です、お嬢様は明日付けで副社長と言う事で」

 お嬢様がふふっと笑い出し、みんなが釣られて笑い出す。

「えぇ、もっと良い会社にしていきましょう」

 カリンがにこりと笑う。どこまでが計算なんだろうか。

 ……旦那様と、カリンの二人は今まで相当な計算をしてきたはずだ。

 ひたすら黙ることで時間を稼ぎながら辛い思いをさせるくらいなら、と相当悩んでたんだろう。

「ちょっと一服してくる」

「それじゃあ私も」

 カリンと二人で喫煙所に向かう。

「いつからこんな計画を?」

「さぁ、なんのことですかね」

 わざとらしくはぐらかされる。

「まぁ少なくとも休暇を出す頃にはもう大まかなプロットは完成してましたよ」

「ですよね」

 大まかなプロット、と言うより。

「アレ自体も一つのシナリオだったんじゃないですか?」

「えぇ、大当たりです。はぁ、鋭いんだか鈍感なんだか」

 褒められてるのか貶されてるのか、いつもどおりのカリンだなと安心しつつ。

「でも、まだ動揺は捨てきれてませんよね、カリンも」

「本当に、シオン君の考えてることはわからないですね」

 煙草に火を点けて吸おうとした所から震える手先を見てれば否が応でもわかる。

「カリンもちゃんと休んでください」

「言われなくても休む時は休みますよ。……これは仕事なんかじゃないんですから」

 ここに来てから、おそらく初めてかも知れない。

 カリンの心からの本音を聞くと言うことについては。



「それでは皆さん、今日はこのあたりで寝ましょう。明日は早いですから」

「うん、おやすみカリン姉」

 ギュッとカリンの事を抱きしめるモモとポンと肩を叩いて手を振り部屋に戻るナズナ。

「おやすみな、カリン」

 カリンの顔を見ないように伏せながら戻るユズ。

「えぇ、みなさん……おやすみなさい」

 ソファーに崩れるように座るカリン、そして僕とお嬢様。

 初めて、涙を流すカリン。

「あはは、お恥ずかしい所を」

 ハンカチで目頭を抑えながら、咽び泣くカリン。

「大丈夫ですよカリン、私達は家族ですから。痛みも喜びも、何もかも一人で背負う必要はないんです」

 お嬢様は優しく語りかける。

 頭を撫でながら、優しく優しく。

 立場は逆転しているものの、まるで――母のような。

「カリン、今回はしょうがないとは言え。これからは僕にでもお嬢様にでも良いからちゃんと相談してよ」

「はい、シオン君は頼りないのでお嬢様を頼りますね」

 ……本当に、どこからどこまでもカリンだ。

「うん。それなら大丈夫ですよ、社長」

 大袈裟に、わざとらしく。

「シオン君は減給で」

「それは困ります」

 いつしか雨は止み。

 その腫れた目だけが雨が降っていたことを物語っていた。




***




 翌日、葬儀当日。

「お嬢様、起きてますか?」

「えぇ、起きてますよ」

 起こしに行こうとした頃には既に喪服に着替えてるお嬢様。

 僕も喪服に着替えてこなければ。

 そう思ってるとお嬢様から思わぬ言葉をかけられる。

「シオン、今日だけでいいから。名前で呼んでほしいの」

「……わかりました、準備してきますのでまた後程」

 喪服に着替えるために部屋に戻る。

 こんな事一切想定してなかったので当然持っていなかったのであるが。

 昨日あの後カリンから手渡された時、どこまでも用意周到だなと思いつつ。

 それだけ病状が良くなかったと言う事でもある。

 ……いつからこれを仕込んでいたんだ、あの夫婦は。

 それにしても。

 お嬢様を名前で呼ぶだなんてまた難しい事を……。

 今までずっと流れるようにお嬢様と呼んで居たが故に唐突に名前で呼べと言われても難しいと言うか。

 モモがある意味特例なレベルにみんなお嬢様と呼んでいる訳で。

 悲しみを紛らわせる為なのか、それとも何か意味があるのか。

 わからないけど、言われたからには呼ぶしか無い。



 喪服に着替えて、再度お嬢様の部屋に向かう。

「お嬢様、そろそろ出ましょうか」

 ……返事が帰ってこない。

 コンコン、とノックをする。

「お嬢様?」

 人が居る気配はある、寝ているわけではなさそうだし。

「……ゆめ様」

「開いてますよ」

 ある意味で親子というか、一度決めたらひたすらそれを守る所がとても似ている。

「シオン、良かったらなんですけど」

 まだ何か注文があるのだろうか。

「敬語も無しにしませんか?」

 ……難しいことを言うなぁ、三年以上ずっと敬語だったというのに。

 しかし、これもお望みのことであらば。

「えーっと、そろそろ出ましょ……出ますか」

「そうね、みんな起きてるとも限らないし」

 なんだかぎこちない会話になってる気もするが……まぁいいか。

 出発の時間よりはまぁまぁ早いので確かに全員集まってるとは限らない。


 集まってた。

「二人共おはよう、コーヒーでも飲む?」

「えぇ、お願いします」

 ナズナがコーヒーを入れに行く。

「二人共軽く朝ごはん食べといた方が良いんじゃないの?さっきフルーツ適当に切ったからそれでも食べな」

 ユズがテーブルを指差す。朝のフルーツは金、だっけか。

 朝が早すぎるし確かにそこまで食べれる気力はないのでありがたくフルーツ盛りを食べる。

 ある程度胃を満たした所で徐々に脳が覚醒していく。

「それじゃ、皆さん行きますよ」

 ……葬儀場へ。




***




 旦那様の葬儀が一通り終わった。

 空はバケツを引っくり返したかのような大号泣。

 それでもお嬢様はあれ以降は目を腫らすこともなく笑顔で立ち振る舞っていた。

 葬儀なんてものはただ淡々と進んでいき、気が付いたら終わっていた。

 何もかもが、ただひたすらに消化されていくように。



 葬儀が終わり、火葬が終わるのを待っている間。

「……ゆめ、少し良い?」

「いいけど、何かあったの?」

 未だにぎこちない名前呼びと敬語無し。

「右手を」

 黙って手を差し出すお嬢様の手の甲に。

「シオン、タイミングが――」

 ナズナが文句を言おうとするが、カリンが止める。

「ナズナ、位置に意味があるのは知ってますか?」

「……ある程度なら知ってるけど」

 ふてくされながら。

「忠誠、ですよ。これでシオン君が伝えたい事はわかるでしょう」

「……不器用だな、本当にシオンは」

 忠誠の証を終えると、お嬢様に宣言する。

「今までも、これからも。何があろうと側に居るから」

「えぇ、ありがとう。シオン」

 そんなこんなを見ていたモモが耐えきれずと言った感じで口を開く。

「ねぇ、いっそのこと普通にキスした方が早かったんじゃないの?」

 頭に軽く手刀を入れる。

「暴力反対ー!」

 葬儀場に似合わない、暖かい空間と笑顔が広がる。

 あぁ、やっぱり。みんなが笑顔で居ることが一番だ。




***




 その他諸々が終わり帰宅。

「シオン、着替えてくるからお茶淹れてきてもらえる?」

「わかったよ、部屋に持っていけばいい?」

 うん、と返すお嬢様。

「あぁ、慣れない……色々な意味で疲れたな……」

 お湯を沸かす。

 疲れてるだろうしカフェインの入ってない……まぁカモミールが妥当か。

 ティーポットにカモミールを入れ、お湯を注ぐ。

 花々が踊りだす様子を見て少し気が緩む。

「いけない、蒸らさないと」

 花々の舞いを名残惜しくティーポットの中に閉じ込め、砂時計をひっくり返す。

 砂時計を見ながら、ここ数日を思い返す。

「……僕も進まなきゃいけないか」

 その言葉が聞きたかったと言わんばかりに砂時計の砂が落ちきる。

 トレイに乗せてお嬢様の部屋まで持っていく。

「ゆめ、お茶淹れてきたよ」

 ……返事はない。

「ゆめ?」

 名前で呼んで、敬語も崩していると言うのに。

「……入るよ?」

 鍵は開いてたのでそのまま入る。

 喪服をそこらへんに脱ぎ部屋着に着替え、そのまま……。

「やっぱり、眠り姫みたいだ」

 ベッドに横たわるお嬢様を見る。

 部屋の中には微かな寝息と雨音だけが響く。

 とりあえず机の上にトレイを置いて。

 流石に脱ぎ散らかしてある喪服はなんとかしておかないと、と片付ける。

 起きる気配がないので、ちゃんと布団を被せ寝かせてあげることにした。

「おやすみ、ゆめ」

 なるべく静かに部屋を出る。




***




 次の日。

 毎朝の恒例行事であるお嬢様の部屋の扉をノックする。

「開いてますよ」

 眠たげな声が聞こえる。まぁ昨日の今日だからそれもそうだろう。

 部屋に入りベッドに転がるお嬢様を見て苦笑する。

「昨日はごめんなさい、せっかくお茶淹れてくれたのに……あと喪服も」

 恥ずかしそうに、申し訳無さそうにするお嬢様に、声をかける。

「おはよう、ゆめ」

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