展開部 - Melt

EP12 帰郷 - Homecoming

『貴方の為に帰ってきたの、少なくとも今の理由はそれだけよ』



「唐突にペアリングだなんて……ついに身を固める時が」

「来てない来てない」

 えーつまんない、と喚く義妹を取り抑えながら。

「たまには贈り物がしたくなるときだってあるんですよモモ」

「ゆめちゃんが贈ったの?それなら納得かも」

 ほら見なさいと言わんばかりにお嬢様を見る僕。

「やっぱりわかってますね……」

「ゆめちゃんの事だし……おにいはそんな事できるようなタチじゃないし」

 義妹にデコピンをおでこにぶち当てる。

「暴力反対!」

「シオン、なんてことを!」

 お嬢様に今日されましたからね?スネに一撃。

 口が裂けても言えない……。

 まぁまぁと二人をなだめながら。

「二人共、今晩はちょっと遅くなるよ」

 通りがかったナズナに声をかけられる。

「それは大丈夫だけど……」

「少なくともこの雨が過ぎるまではお預けだね」

 どう言う意味かわからないけどナズナの事だからなんらかの比喩を込めてるのだろうと流す。

「じゃあ部屋で休んでるよ……」

「時間になったら呼ぶけど寝過ごさないでね」

 ……了解、と返し部屋に戻る。

 そのままベッドに転がりそうになるのを堪えてデスクに向かう。

 いや、デスクでも寝てしまいそうなくらい疲れた気がするけど。

 のんびりと今日のことを思い出しながら……手を見る。

「嬉しいような、なんと言うか」

 唐突な事ではあったけど……贈り物をしてもらえるのは嬉しいし。

 でも物が物だからなぁ、ちゃんとした場面で渡したい……。

「ちゃんとした場面……?」

 自分で呟いてふと我に返る。

「……いや、まさか」

 心の中がもやもやする。まるであの雨雲のように。

 これが晴れる日が来るのだろうか。

 ……或いは晴らすしかないのか。

 ダメだ、考え事しだすと変な方向にしか行かない、リビングに降りたら誰か居るかな。



 リビングに降りるとナズナが台所で調理中。

「なんか普段より椅子多くない?旦那様今日帰ってくるんだっけ?」

「いや、今日も帰ってこないよ。客人……客人なのかあいつは?まぁそんな用」

 ……カリンが駅に居た理由を思い返し、なんとなく納得する。

「客人をカリンが迎えに行ったけど雨雲で足止めされてると」

「そう、客人を迎えるのに自分達だけで先に食べちゃダメでしょ?」

 そうだな、と納得する。

「何か手伝おうか?」

「疲れてるならそこで休んどきなって。どうせ部屋だと寝ちゃいそうだからってここ来たんでしょ?」

 大当たりです、と返しソファに座る。

「んで、そのリングは何」

「聞かないでくれたら嬉しいんだけど」

 じゃあ後でと返される。やっぱり聞くよな。

 のんびり外を眺めてると雨が止んできた。

「そろそろじゃないか?雨止んだし」

「うん、メッセージちょうど来た所、もうちょっとらしいからお嬢様連れてきてよ」

 了解、と手を振りお嬢様の部屋に向かう。

 コンコン、とノックをする。

「お嬢様、夕飯の準備ができたようですよ」

 しかし返事は帰ってこない。もしや。

「……開けますよ、失礼します」

 ジュエリー店の紙袋だけ丁寧にデスクに置かれ、お嬢様自体はダイナミックにベッドに転がっていた。

「起きてます……起きて……ます」

「寝ぼけてますね、そろそろ客人の方がお見えになるそうですし起きてください」

 客人ですか?とお嬢様はまぶたをこすりながら起き上がる。

「せめて顔洗うくらいはしてきてください、流石に」

「……目を覚ましてきますね。そのままリビングに行けば良いんですか?」

 はい、それで大丈夫ですと返す。僕はこのままリビングに戻ろう。

 とリビングに戻ってくる。

「お相手さんは?」

「目を覚ましに顔洗ってるよ」

 諦めて適当に返事を打つ。

 と、突如エントランス方面からお嬢様の大きな声が聞こえる。

「ちょっと確認してくる」

「まぁ杞憂だと思うけど」

 どう言う意味かわからないけど……まぁいいか。



 エントランスに向かうとお嬢様とカリンと……客人の方だろうか。

 いや、客人か?アレは。熱烈に抱きしめられてるし苦しそうにしてるんだけど。

「うぐっ、やっと抜け出せた……ゆめは変わらないねそう言う所」

「ユズも変わらないじゃないですか」

 やれやれと言った顔の客人……と言うかご友人?

 お嬢様と同じくらいの背丈に黒い髪のツインテール。

「シオン、彼女が今日言っていた――ユズです」

 ……なんとまぁ偶然かなんなのか。

「シオン……?」

 ユズさんは僕の名前を聞くなり僕の顔をよく見る。

「……あはは、他人の空似か!」

「それなんか今日……もしかしてあそこに居たのって」

 あぁ、ゆめっぽいの見かけたなって思ったらアレそうだったんだ、と返される。

「偶然ですね」

「いや偶然じゃなくてね」




***




 リビングにて。食事を囲みながら。

「なんでかカリンに見つかったのよ、んで連れ戻されてきたワケ」

「カリンってなんかその手の情報筋でも持ってるのか……?」

 んな訳ないじゃないですか、持ってるのは旦那様ですよと。

 確かにあの人なら持ってそうだ……。

「と言う訳でどの面下げてって感じだけどまたここでお世話になります、ユズだよ。って言っても一人以外は顔見知りだけど」

「ユズ姉が帰ってきてくれて私凄い嬉しいんだよ!」

 笑顔でご飯を食べながら喋る。

「モモ、食べるか喋るかにしなって、そう言う所変わらんねぇ」

「みんな変わってないよ?安心して!」

 まぁそれは見ればわかるよ、と言いながら僕を見る。

「これは何」

 初対面でこれ扱いとはこれ如何に。

「あ、もしかしてゆめ」

「違うからね」

 なんだか凄い慣れ親しんだ様にいつもの癖で返してしまった。

「シオン君だっけ?よろしくね」

「あ、えぇ。よろしくお願いしますユズさん」

 呼び捨てでいいよ、どうせすぐ慣れるんだからさ。と返す……ユズ。

「ユズ、開いてる部屋が無かったのでとりあえず数日客間の方で、元の部屋はシオン君が使ってます」

「えー、あの部屋地味に気に入ってたのになぁ」

 あぁ僕が来た時にやたらと物があったのはそのせいなのか。

「隣の部屋が空き部屋なのは変わりないので」

「角部屋だから良かったんだよー!」

 駄々をこねるユズとそれを見て笑うみんな。

 僕が来る前にはこんな世界が広がってたのか、これはこれで楽しそうだな。

「安心しなってシオン、昔私が居た頃と君が来た後では一切変わってないから」

 心を見透かされているような。その不思議な感覚が胸を刺す。

 なんだろう……違和感ではないんだけど……それが逆に更に胸を刺激する。

「ん、どうした?箸が止まってるぞ?」

「あ、ちょっと今日は疲れたのもあるかな」

 こんな事言えることも無いのでなんとか逸らす。

「無理はしないこった。ゆめ見てると嫌でもわかるでしょ?」

「確かにお嬢様は……たまに無理しすぎると言うか。それでこの前休暇に連れ出すハメになりましたし」

 休暇?面白そうな話だね、とユズが食いつく。

「ちょっと遠くの方まで泊りがけで」

「へぇ、みんなで?」

 二人でだなんて言えない。

「いえ、シオンと私の二人でですよ。おかげで中々に良い経験になりました」

「えっ、デート超えてるじゃん。もしかして結婚してるの?」

 まだ結婚以前の問題……と思いながらふと右手を見る。

 うん、以前の問題だ。

「でもペアリング……しかもわりと新品っぽさそうだし、もしかして今日買ってきたの?」

「えぇ、一時間くらい悩みましたよ」

 そこも変わんないねとユズは笑いながら僕とお嬢様を交互に見る。

「お似合いだと思うけどね」

 二人揃ってむせてしまう。

 それに釣られて笑い出すみんな。

「なんだかんだ、幸せそうで何よりだよ……みんな」

「ユズは……あの後はどうしてたんですか?」

 色んな所でバイトとかしてたよ、とユズは返す。

「今考えるとここが一番楽だったけどねー。カリンに連れ戻されて再実感したよ」

「……もうどこにも行きませんよね?」

 ユズは少しだけ黙る。

「ま、わかんないけど今はどこにも行かないよ、ゆめ」

 ホッとした顔をするお嬢様。

「あぁそうだ、みんなにお土産買ってきたから後で渡すね」

「あのユズが珍しい……」

 ナズナがつぶやく。

「ナズナー?人をなんだと思ってるんだ?」

「ユズはユズでしょ?珍しい事するんだなって思っただけだよ」

 ある意味でナズナはナズナでお嬢様とモモ以外に対しての扱いは雑なんだなと少し安心する。

 モモも僕に対する義兄扱いと同じような扱いをしている。



 そんなこんなで僕にとっては新たな、みんなにとっては懐かしの人間が屋敷にやってきた。

 その日の晩、いつもの隠し扉を開ける。

 先客。髪を解いたキレイな黒髪の。

「シオンじゃん、お酒飲めるの?」

「まぁそれなりになら」

 ユズの隣に座る。

 ……本当に初めて会ったのかわからないくらいなんと言うか。

 謎の安心感に近いものを感じる。

「……昔どこかで会ったこと、ありましたっけ」

「んー、少なくとも私の記憶には無いね」

 うーん、やっぱり屋敷の人間と馴染んでるからって言うだけなのかな。

「まぁ二人で話してみたい所だったしちょうどいいね」

「僕も色々聞いてみたいことはありますし」

 色々、僕が来るまでどんな感じだったのか、あの双子とどう向き合ってたかとか……。

 お嬢様とどう言う接し方をしてどう言う風に過ごしていたのか。

「シオンは今お嬢様の専属なんだっけ?」

「あとは屋敷の雑用って感じですけど大まかにはそうですね」

 最近仕事らしい仕事は雑用しかしてない気がするけど。

「あのゆめが男の子をねぇ」

「何かあったんですか?」

 いや別に、と前置きをしながらグラスのお酒を飲み話すユズ。

「あんまり男子との関わりが無かったのよねあの子。別に恐怖症とかじゃないのはわかってるんだけど」

「確かにそう言うイメージはありませんね」

 ユズは空になったグラスの氷をもて遊びながら。

「今日話してた感じではかなり懐かれてるね」

 懐かれてる……そう言った表現をされるのは初めてだなぁ。

「……楽しそうにやってるならなによりだよ」

「ここ最近は心做しか笑顔の頻度と言うか、とても活発で明るいなぁとは思いますけど」

 最近……旅に出る前後あたりだろうか。

「んで、なんで付き合ってないワケ?父親が許してないの?」

「いや、付き合うも何もそれ以前に……って言う感じが」

 ユズはふぅんとお酒を継ぎ足しながら。

「そう言うのはあんまり良くないよ、お互いに」

「確かに、そうかも知れませんけど」

 そうかも知れないけど……?

 なんなんだろう、この違和感は。

「まぁ三年くらいも過ごしてりゃ家族みたいな感じになるか。記憶も無いわけだし」

「……僕の記憶喪失を?」

 一瞬ハッと表情を見せるユズ。

「あー、聞いたの。新しい人ってどんなヤツなのかって」

「なるほど」

 カリンから聞いたんだろう。別に隠してる訳でも無いし構わないんだけど。

「でも、もう三年くらいの記憶はある訳でしょ?」

「殆どここでの記憶ですけど、ありますね」

 今度はグラスに満たされたお酒と氷を馴染ませるように遊びながら。

「それだったら十分なんじゃない?」

「何が十分なのかはあんまりわからないけど……満足はちゃんとしてますよ」

 満足ねぇ、とお酒を飲みながらカランコロンと。

 何か至らぬ点でもあるのだろうか、わからない。

 いや、今日はじめて会ったわけだからわからなくて当然なんだけど。

「まぁ悪い人間じゃ無さそうってのは伝わってくるよ」

「それなら何よりです」

 敬語崩しなよ、と笑いながらお酒を飲むユズ。

「……善処します」

「してないしてない」

 さらに笑いながら。この人は笑い上戸なのかな。

「で、ユズは今まで何を?」

「踏み込むねぇ」

 まだ僕には彼女の情報量が足りない。踏み込むしか無い。

「まぁ放浪ってか、ここの給料のおかげである程度楽できてたからずっと旅してたんだよ」

「旅ですか」

 そう、日本だけじゃなくて他の国もちょっとね。と語りだすユズ。

 見た景色、現地の人達、食べた料理や。丁寧に話していく。

 まるでそれは一本の小説のような、語り部のような。

「それが最近になってカリンに見つかってねー。どうしてもって言うから急遽こっちまで戻ってきたの」

「逆に良くカリンは見つけたな……たまにどう言う行動力なのかわからなくなる」

 アレには勝てない勝てない、と苦笑いするユズ。

「僕もカリンには絶対勝てないですよ。なんと言うか、いろんな意味で」

「でしょ?アレに勝てるのなんてゆめか親父さんだけだよ」

 お嬢様にも勝つ時はありますけどね、なんて笑いながらお酒を飲み交わしていく。

 バイクの時とか……と考えるとお酒が回ってきたのもあり少しくらっとする。

「大丈夫?疲れてんでしょ、そろそろ寝なって」

「話足りない気もするけどそうする」

 少しおぼつかない足でカウンターから立って――。




***




 懐かしい声がする。

「ほら、シオン。あんたなら出来るんだから」

「でも……わかんないよ」

 これは……もしかしたら昔の僕の、記憶なのか?

「まったく、ひとりじゃないも出来ないなんて思い込みすぎなんだよ」

 懐かしい声、でも誰なのかは一切わからなくて。

 靄がかかってわからない、思い出そうとしても……。

 思い出せない、取り出せない、引き出せない、取り戻せない。

「あんたが一人で出来ないと私だって困るっての」

「でも――は一人で」

 名前だけがかすれる。

「そうだよ、私には出来る。だからあんたも時期に出来るようになるから」

 そう言うと、誰か懐かしい声は遠ざかっていく。

「待って、行かないで――!」

「あんたなら出来る」

 ――行かないで、行かないでよ。

 僕を独りにしないで――!


「――っ!」

 フェードアウトしていく夢から現実へ戻っていく。

「あ、起きたね」

 ……ここは、隠し部屋?

 の、ソファーの上で。ユズが僕の顔を覗き込んでいる。

「おはよ……う?」

 頭に伝わる温もりを数秒かけて理解する。

 ユズに膝枕をされている。

「わっ」

「慌てて動くなってシオン」

 飛び起きようとする僕を制止するユズ。

「ぶっ倒れてんだから少しはおとなしくしてな」

 そっか、あの後……。

 カウンターから立って、足がもつれて倒れ込んで。

 なんとか引き出せるのがそこまでで。

「びっくりしちゃったよ本当に」

「なんか、心配かけてごめん」

 いいんだよ、昔から慣れてんだからとユズは笑いながら。

「昔のゆめもたまにそそっかしい所があってね、授業サボりながら中庭でこうやって話してたよ」

「……お嬢様のサボりって本当だったんですね」

 そうそう、たまにだけどねとユズは続ける。

「今思えば半分口実として私に合わせてくれてたのかも知れないけどね」

「お嬢様は本当に、優しい方ですから」

 家出してきたユズを快く受け入れたのもそうだし、双子や僕。

 お嬢様の優しさで成り立っている。

「せっかくだしゆめの昔話でもしてやろう」

 何かを思いついたように、唐突に語りだすユズ。

「今となってはあぁなってるけど昔からお父さんっ子でな」

「なんか、今のお嬢様を見ると想像出来ないです」

 仕事は仕事で割り切ってんだろうね、と答えながら話を戻す。

「流石に高校に入る頃にはって思ってたらまだべったりで親父さんもびっくりしてたっつって、私がここに来る時には少しずつ変わっていったけど」

「まぁ、友人に毎日べったりな所は見せられませんもんね」

 そうとも言う、となぜか僕の頭をなでながら。まるで正解だ、と言わんばかりに。

「ここで働いてた……と言うかまぁほぼ居候だけど、生活してた頃は不思議な感じだったね」

「……お嬢様が学校に行ってる間は何を?」

 うーん、と少し考えながら口を開く。

「たまにカリンに連れ回されたりしてたけど、適当に遊びに行ったりしてたよ」

「完全に非行に走ってる」

 家出して定住の時点で十分非行だ、と次は僕の頭を軽く叩く。なんなんだ。

「学校が終わるくらいを見計らって近くまで行ってね、ゆめと二人で帰ったりしてたよ」

「本当に仲が良かったんですね」

 良くなかったら住まないってば、と笑う。

「シオンが使ってる角部屋、ちょっとわがまま言ってね。そこだけ少し揉めたって言うか、まぁお互いが譲らなかったと言うか」

「そんなに良い部屋なの……か?」

 ただ単に角部屋なだけな気がするし、特に――

「――母親の部屋なんだよ」

「……なるほど」

 少し内装が凝ってたのはさっきまではただ単にユズが居たから、だと思ってた。

 そうじゃない、あそこはお嬢様にとっては……特別な部屋なんだ。

「角部屋が良いって言ったらあそこだけは駄目ですって、じゃあなんでよってゆめの部屋で話して」

「で、結局勝ち取ったと」

 ゆめが折れたとも言うね、と苦笑しながらユズはその時の事を思い出すように、天を仰ぐ。

「その部屋も結局取られた訳だけど……よくゆめは簡単にシオンにあの部屋を渡したね」

「家具もある程度ありますし、とは言われましたけど。確かにそう言われると不思議だ」

 あんなあっさりと僕にそんな重要な部屋を与えてよかったのだろうか。

「……状態を維持しておきたかったんじゃないか?せっかく人が住んでたんだ」

 そうなのかも知れないけど……なんだか違和感がする。

「まぁこれくらいにしといてやるか、聞かれたら恥ずかしいだろうし」

「一つ、疑問があるんだけどこれは聞いて良いのかどうか」

 聞くだけタダでしょ、とユズは答える。

「ユズは――昔何を?」

「は?私の話?」

 ダメなら別に、と起き上がろうとすると抑え込まれる。

「話してやるよ、シオン」

「なんで上から目線……はぁ」

 こう言う扱いには慣れてるから良いや。

「弟が居てな。まぁ弱気だし姉にべったりだし、どうしようも無いヤツだったが。……シオンと同じ歳だよ」

「弟、ですか」

 どんな人なんだろう。って、凄いなんかボロボロに言われてる気がするけど……。

「結果置いてくる形になったんだが、元気でやってるみたいで良かったよ」

「会ってきたんですか?」

 ユズが少し硬直するのが膝から伝わってくる。

「あぁ、会ったよ。思ったより成長してたし、変わってない所は変わってないなって思ったさ」

「弟さんはどんな反応を?」

 弟のワードを出す度にピクっと反応するユズ。マズい話題だったのか。

「パッとしない感じだったなぁ。殴ってやりゃ良かったと今思ってる。代わりに良いか?」

「いや、なんで僕を」

 無言で手刀を入れられる。えぇ、理不尽。

「はぁ、調子狂うなぁ」

「もう聞かないことにします」

 そんなことじゃないさ、とユズは苦笑い。

「昔はもっと違ったんだけどなぁ」

「……昔?」

 あぁー、とわざとらしく聞こえないふりをするので流すことにする。

「さて、良い時間だし寝るとするか。ほら起き上がりな」

「さっきまで抑え込んでたのは……まぁ良いや」

 時計を見ると深夜一時。まぁ今から寝ても特に問題はないか。

「話し相手になってくれてありがとな。それじゃ明日もよろしくなシオン」

「こちらこそ、面白い話を聞けて満足だし、よろしくユズ」

 おやすみ、とお互い挨拶をすると部屋に入る。

 ……さて、寝なおそう。




***



 数日後。

「おにい、カリン姉見なかった?」

「カリン?そう言えば見てないな、喫煙所は?」

 首を振るモモ。そう言えばユズを連れてきた日以降見てないかも知れない。

「んー、じゃあおにいでいいか」

「何の妥協だよ」

 ふふふ、秘密と笑う義妹。

「僕でいいのに秘密にする理由は」

「お姉ちゃんが居ないから」

 もっと意味がわからなくなってきたけど、元々モモはこんな感じだったな。

「モモ、こっちも居なかったよ……ってシオンか」

「姉妹揃って人を何だと」

 兄、と二人声を揃えて言う。心がこもってない。

「はぁ、で。何を企んでるの二人共」

「それはね――」

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