提示部:第二主題 - Promise
EP08 欠片 - Fragment
『物事は常に少しずつ崩れ、唐突に崩壊へ至る』
何気ない日常の喧騒を適当に捌く毎日が続いて、少し季節が進みまして初夏。
気がつけば服装に注意しないと暑いったらありゃしない、と。
「服装わりかし自由な職場で良かった」
本当にお屋敷の使用人なのかと言う格好をして庭の草むしりをしている。
「あ、おにい居た。ジャージ姿ってもう用務員のおじさんだよねー」
「いきなり現れてひどい言葉かけてくるのは手伝ってくれるって事でいいのか?」
その気はないでーす、と僕の作業を見つめるモモ。
こんな時姉なら……いや、ナズナも絶対手伝ってくれないしもっとめんどくさい絡み方を――。
「なーんか酷いこと考えてない?」
「うわっ?!」
ふと顔をあげると目の前にナズナの顔。驚きすぎて尻もちをついてしまう。
「あらみんなここに……って、シオンはどうしちゃったんですか?」
お嬢様にまで見られたのはなんと言うか、雇い主にこんなタイミングを見られるのは誰でも嫌だろう……。
少し落ち込みながら体勢を戻す。
「いえ、ちょっとバランスを崩しまして」
ここでナズナがニヤッとこちらに視線を向けてくる。なんだか嫌な予感がするし勘弁して欲しいなぁ。
そんな緩やかな談笑をしていると、カリンもやってきた。
「おや、みなさんここで何を?」
「おにいの観察してる!」
ふむ、シオン君の。と呟きながら周りの顔色を見回すと笑みを浮かべる。
あぁ、この場に味方は居ないのだなと思いながら諦めた顔で草むしりを続けることにした。
でも――この何気ない日常がたまらなく好きで。
だからこそ、仕事がここまで頑張れるんだなぁと。
まぁ、その後はみんな興味を失ったかのような感じで屋敷の中に戻り、僕も無言で草むしりを続けていたのだが……。
「おにい!こっちは終わったよ!」
「まぁ、たまにはこう言うのも悪くないね」
数分後にはモモがジャージ姿で戻ってきて草をこれでもかと引き抜いていく。
その次はナズナも同じジャージでぶつくさ言いながらモモの隣で草むしりを始める。
カリンもジャージとまではいかないが軽装でやってくるとどこを手伝えばいいですかと尋ねてくる。
「とりあえず散らばってるぶんをまとめて一箇所にしてもらえると」
「一番雑な作業ですが腰は痛めそうにないのでありがたいですね」
いちいち小言をこぼして来るカリンを横目に、何も悪いことをしていないただ生える場所を間違えてしまっただけのかわいそうな雑草を処理していく。
最後にお嬢様が少し恥ずかしそうにしながらやってきた。
「お嬢様は休まれててもいいんじゃないですか?」
「みんなやってますし、それにたまにはこうやって身体を動かさないと……」
少しお腹をつまむとちょっとだけ落ち込んだ表情をしながら草むしりを始めるお嬢様。
まぁ僕だって最近ケーキとか沢山食べてたし、危機感を感じていたので天気の良い休日に草むしりを率先してやってたのもある。
なんだかんだでみんなのおかげでおやつの時間前には草むしりも終わり、そのままみんなでお茶の時間。
いつもならもう少しちゃんとした服なのに。いつもと同じお茶なのに。
ジャージやシャツやラフな格好が並んでいるのがとてもおもしろく、とても愛おしく感じる時間を満喫する。
そんな、毎日が続いていた。
***
さてはて、双子の授業参観の日がやってきた。
「私のクラスよりモモのクラスの方見てやってよ。多分そっちの方が喜ぶから」
そうボヤきながら登校して行くナズナ。
「なんて言われても、ねぇ」
どっちも見るに決まってるじゃない、とお嬢様と笑いながら授業参観に出かける準備をする。
「あぁ、二人共。丁度出る所でしたか」
「うん今から。留守は任せたよ」
えぇ、お任せくださいと微笑むカリン。
「どんな風に二人が学んでいるのか、楽しみです」
こちらはこちらで遠足気分でワクワクしているお嬢様。
なんだか今日は凄く疲れる気がする、少なくともいつもよりは疲れる。
屋敷を出て学校までのんびりと向かう。
珍しく二人共スーツ姿で、なんだか窮屈感を感じる。
「スーツ……慣れませんね」
「お嬢様もですか。僕もなんだか堅苦しくて苦手ですよ」
そんな話をしながら、電車に乗り通学路を行く。
学校に近づくに連れ、心做しかスーツだったりの割合が増えていく。
「……これ、やっぱり授業参観の方々なんでしょうか?」
「多分そうだと思いますよ、それらしい人がだんだん増えてきてますね」
電車が駅に着くとその群れは一斉に降りる。
まるで……遠足みたいだ。
双子の通う高校へたどり着く。
受付を済ませる為に校門へと向かう。
「こんにちは、招待状をこちらへ」
「あ、はい。桔梗です」
招待状を手渡し二人分のサインを済ませると通行証を貰う。
「桔梗さんのクラスは東棟の二階になります」
地図を二人で見る。すぐそこにある方が東棟か。
「ナズナさんのクラスはこの後数学を、モモさんは奥にある体育館で体育です」
「ありがとうございます」
さて、どうするか。
と、話そうにもやはりまわりの年齢層が明らかに違う。
「下手すりゃ僕達の親くらいの年齢層ですね」
「でもちらほら若い方も居ますね、多分あの子は中学生でしょうか?」
僕達が最年少じゃなくてよかった、と謎の安心感を抱きつつ……。
「おじょ……うさま」
「……どうしました、シオン?」
なんというか、よくわからないのだが。
「ここでお嬢様と呼ぶのは何故か抵抗があると言うか……」
ただでさえ年齢層がイレギュラーなのにお嬢様と呼ぶのは更に如何なモノかと。
「シオンの言いたいことはわかりますが……いっそのこと名前で呼んでもいいんですよ?」
「いや、それはなんだか……未だに苦手というか、それならまだお嬢様とお呼びした方が個人的には楽です」
シオンってたまにややこしくなりますよね、と文句なのかなんなのか呟かれながら。
「別に気にする人なんて居ませんよ、今日の主役は子供たちなんですから」
そう言われハッとする。そうか、そう言う考えでいけばいいのか。
「わかりました、それでは本題に戻りましょうお嬢様。どちらから見ていきます?」
手渡された地図の裏にはご丁寧に今日のスケジュールが記されている。
「数学は見てるだけでも苦手なので……先にモモの体育を見てみましょう」
「えぇ。それでは向かいましょうか」
体育館の方へ向かう。
記憶には一切合切残っては居ないが、僕にもこう言った時期があったんだろうか。
「私は……実技教科でなんとか頑張ってましたから……」
何かを思い出し苦笑いをするお嬢様。
そんな話をしながら体育館に着くと共に始業の鐘がなる。
今日の体育はバスケらしく、バスケットボールの独特の音が体育館で響く。
まずは慣らしでペアになりドリブルとパスの練習らしい。
二人でモモを見つけ、モモの方を向く。
少しすると相手にパスした間にこちらに笑顔で手を振る。
そして……手を振ることに夢中になったモモの顔面にパスが飛ぶ。
「あっ、今のは色んな意味で痛い……」
「でもシオン、それでもまた手を振ってますよ?」
しょうがないから二人で手を振り返す。なんだかこちらまで恥ずかしくなってきた。
そのうちウォーミングアップは終わり、いざ実戦。
「バスケットボール、ルールあんまり知らないんですけど……シオンは?」
「なんかどっかから入れたら点数が多いとかなんとか」
あはは、と二人で笑いながら何も考えずモモの活躍を見守ることにした。
試合に入るとモモの目付きが急激に変わる。
……狩人か、それともまた別のなにかなのか。
とてもじゃないけど、いつもの彼女とは違うものを感じる。
攻撃時は相手のマークも掻い潜り果敢に攻め、守備時は喰らいつくようにパスやシュートをブロックしていく。
「……モモ、凄い」
二人でモモの性能に圧倒される。
「あれだけやって殆ど成功してないのが逆に凄い……」
攻めるもののシュートに戸惑い結局ボールを奪われたり。パスやシュートをブロックして横転したり。
……とてもじゃないけど狩人ではない。目付きだけは本気だけど。
試合が終わり、モモのチームは休憩に入る。
そそくさとこちらに駆け寄ってくるモモ。
「ゆめちゃん、おにい!来てくれたんだね!……えへへ」
色々な意味での照れを隠しながらも喜ぶモモを見て、三人で笑顔になる。
「はー、疲れたっ!もう帰って寝たい!」
「いやいや、まだ午前だから。と言うか授業なんだからそろそろ戻りなって」
えー、と文句を言いながら戻っていくモモを見ながら、次のナズナの授業を確認する。
「特別棟で音楽か、何するんだろうね」
「ナズナは上手ですからね。楽しみです」
チャイムが鳴る。
移動する群れからひょこっと飛び出すようにモモが駆け寄る。
「次はお姉ちゃんの所見に行くの?」
「うん。特別棟らしいんだけど」
えっ、とモモが表情を変える。
「わわっ、二人共!早く行かないと!あそこ凄い遠いんだから!」
僕達の手を引っ張りながらモモは特別棟へと連れて行ってくれる。
連れて行く……のはいいんだけど。
「モモ、自分の授業は?」
「……サボりまーす」
ダメです、と言おうにも恐らく僕の方の手だけ強烈に握られている。
「ゆめちゃんだってサボり魔だったんでしょ?それなら私だってたまには」
「な、なんで知ってるんですか!?」
カリン姉が、と隠すこと無く白状するモモ。
「う、シオンもなんとか言ってやってください!」
更に力を込め手を握られる。
「……放任主義で」
「やったーっ!でもバレたら嫌だから二人の間に隠れさせてね」
サボるどころか更に姉の授業を見に行く気なのかこいつ……。
そんなサボり魔二人と共になんとか授業が始まるまでに音楽室へ到達する。
「あ、おにい。お姉ちゃんは準備室の方みたい」
「準備室?」
そそ、音楽準備室。とモモが隣の部屋を指差す。
「今日は発表だから部屋を分けるみたい」
そうなんですねと、音楽準備室に入るお嬢様。
なるべくサボり魔が見つからないように僕の背で隠しながらなんとか部屋に入る。
ナズナを見つけるも、彼女は一切振り返る様子もなく。
ただつまらなさそうに他生徒の演奏を聞いているだけだった。
「それでは次は、桔梗さん。ピアノですね」
「桔梗ナズナです。よろしく……お願いします」
よろしく、と半分言い切ったあたりで目が合う。
そして視線が僕からお嬢様、そして隠れているモモを見つけるとにらみつける。
「ひっ。バレた」
後で何言われるのかわかったもんじゃないな、と思いながらナズナがピアノ椅子に腰掛けるのを見る。
曲名も何も言わずに、何を弾き出すんだと少しだけざわつく。
そんな事お構いなしに演奏が始まる。
――部屋中がナズナの演奏で支配される。
有名な楽曲のピアノカバー。曲名まではわからなくても、誰しもが一度は聞いた事はある曲。
演奏が終わるまで、ナズナの旋律が部屋を支配する。
「……ありがとうございました」
演奏を終え一礼すると拍手が沸き起こる。
「凄い……あんなナズナ初めてみた……」
確かに屋敷でピアノを弾いてることはあるが、ここまでの迫力のある演奏ではなかった。
「多分、私よりも上手だと思いますよあれは……」
次の生徒が萎縮しながらピアノを弾き出す。この生徒も演奏は確かに上手なのだが、やはり。
ナズナの演奏の後は全てが霞んで聞こえるような、そんな気がして――
――授業が終わる。
ナズナが教師と共にこちらに駆け寄る。
「あ、先生。こちらがおじょ……お姉様と、それにお兄様。あと隠れてる妹は見なかったことにしてやってください」
「あぁ噂はかねがね。桔梗さん……ナズナさんの演奏、如何でしたか?」
如何でしたか、と言われても……困ると言うか、なんというか。
「それにしてもナズナさん、どうして本番でいきなり曲を変えたんですか?」
あれは普段練習してた曲じゃなかったのか……?
「あぁ、なんか気まぐれで。アレじゃつまらないなって思って時間内に収まればいいかなと」
「お家で練習してたんですか?」
僕とお嬢様とモモと三人が一斉に考えても……そんなタイミング見聞きしたことない。
「いいえ、少なくとも私達は……知らなかったです」
「そりゃそうですよお姉様。してませんもの」
教師がえっ、と声を出してしまう。
「まぁ、せっかく来てくれたってのもあるし同じような曲の繰り返しだしって、先生には怒られるの覚悟でした」
「怒るも何も……また今度聴かせて欲しいくらいですよ」
えぇ、と凄く嫌そうな顔をするナズナ。あぁ、安心した。ちゃんといつものナズナだ。
「とりあえずお昼休憩入るんで、私達は失礼しますね先生。演奏はまた考えときます」
四人揃って一礼し部屋を出る。
さて……お昼だ。
***
「シオン、せっかくだし学食とか行かないの?」
「いや……絶対混んでそうだしお嬢様もそれは疲れるだろうし」
お嬢様も学食の方を一瞬だけ見て怯えていた。学食も開放するのはいいんだけど、大変だろうなぁ。
と、言う訳で。
「制服着て昼間からラーメン食べる女子高生、普段なら補導されるだろう光景だな……」
ラーメン屋の店内は授業参観で一緒に来たと思われる親御さんと一緒に食べている学生が多い。
「んー、そうでもないよ?ここらへん結構お昼は自由に食べれるようになってるし」
「へぇ、そう言うもんなんだ」
そう言うもんなのー、と言いながらモモは僕のチャーシューを奪っていく。
「……ナズナ、これもわりといつもの?」
「させるわけないでしょ」
ふふっとお嬢様が笑う。
「それにしてもナズナ、なんでその……お姉様って?」
「……あー、えっと。なんだか恥ずかしくなって。お嬢様ってお呼びするのが」
シオンはついでだからあんまり考えてなかったけど、と付け足される。
「じゃあナズナは僕と同じこと考えて、別のことをしたわけだ」
「げ、なんか嫌だな。一緒の事する方がもっと嫌だけど考えてること一緒だったのはなんか」
これが思春期の娘に嫌われる父親の心境なのかな、と悲しくなりながらラーメンを啜る。
「あ、でもお姉ちゃん、本当に嫌がってる訳じゃないっぽいよ」
「ちょっと、モモ!」
えへへ、と笑うモモ。
少し照れながらも、否定はしないナズナ。
それを優しい笑顔で見ているお嬢様。
……家族って、こう言うものなんだろうなぁ。
***
お昼過ぎからは三者面談。
僕達の場合は四者面談になるんだけど……、まぁいいか。
「それでは、桔梗ナズナさん」
「はい。行くよお嬢様、シオン」
ナズナに連れられ部屋に入る。
「改めて、ナズナさんの進路について確認していきましょう」
ナズナの……進路。
進路表がファイルから机に出される。
「……ナズナさんの事情は知っていますが、本当にこのままその……お屋敷に?」
進路希望:現在の屋敷に就職。
「はい、ちゃんと面接も受け直して。いちからお嬢様に従う気で居ます。その為にも今日、二人に来てもらいました」
二人に……?お嬢様はともかく、それなら僕よりカリンの方が都合が良かったのでは、と思うも黙り込む。
「その、保護者として……そして、雇い主として。どうお考えですか?」
お嬢様が少しだけ考え込むと、口を開いた。
「正直な所、ここ数ヶ月くらいその事ばっかり考えてて。保護者として、ナズナやモモはこれからどうしたいんだろうって」
「……悩ませてしまい申し訳ありません、お嬢様」
いいんです、いいんですよとナズナの頭を撫でるお嬢様。
「保護者としても、二人の居場所として全力で応えるしかありません。ナズナの気持ちがわかってよかったです」
「そうですか……。それなら、問題はありませんね。えっと、お兄様?も同じ考えでしょうか?」
お兄様……あっ、僕の事か。安心感で完全に気が緩んでた。
「はい、義理の兄としてではありますがこれからも今まで通り接して過ごして行こうと思ってます」
「わかりました。今回はこれくらいですね、特に問題行動もありませんし」
当たり前でしょ、と言う顔のナズナを見ながら。
「ただ、最近進路の事もあったのか少し授業中気が緩みがちですからね。そこはちゃんとしてください」
「あぁ……今日でスッキリしたので大丈夫ですよ先生」
それでは、と席を立つ。
……次はモモか。
「えーっと、桔梗モモさんの」
「ゆめちゃん、おにい、こっち!」
主張が激しすぎるぞ、義妹。
とりあえず手招きが激しいのでとっとと部屋に入る。
「では、桔梗さんの進路のお話から」
うーん、教師によって名字で呼ぶのか名前で呼ぶのかが分かれているのは構わないのだが、名字で呼ばれるとパッっとしない。
って言うのはどうでも良い話で、進路表を。
進路希望:屋敷に就職!
「……修正テープ貼られてるけど」
「あ、えっと……今日使うって知らなくて、ふざけて書いてたら本番用って提出前に先生に言われて慌ててて……」
まぁ、屋敷に就職って言うのはナズナと一緒か、と二人で安心する。
お嬢様が先生と話しているのを横目に、ちなみになんて書いたの、と小声で聞く。
「……笑わない?」
「よっぽどふざけてなかったら」
僕だけに顔を向けて、僕にしか伝わらないように話す。
……。
「お嫁さんは芸が無いなぁ」
「酷いっ、おにいに振られた」
もちろんこのやり取りもお嬢様と先生が真剣な話をしてる横で小声で繰り広げている。
「……桔梗さん」
「ひゃいっ!」
先生に注意されたモモ。僕も一緒に叱られているような気になる。
「大丈夫ですよ先生、これが私達のいつもの光景ですし。この子の進路はこの延長線上にあるんですから」
「それなら……。もう少し真面目に授業を受けてくれれば申し分ないんですが」
学校でもこんな感じなのか……。まぁモモらしいと言えばそうなんだけど。
「こんなところでしょうか、桔梗さんも大丈夫ですね」
「はい、大丈夫です!それじゃゆめちゃん、おにい行こ!」
そそくさと教室を飛び出すモモ。
「モモはこう言う堅苦しい空気苦手ですもんね、わかります」
「お嬢様も苦手ですもんね。そう言う所は似てますよね、モモと」
そうですか?とお嬢様が少し考え込むと。
「シオンはシオンで、ナズナと似通った所がありますね」
「ナズナと、ですか?……まぁ嫌では無いですし、言わんとしたいことはわかりますが」
なんだか、繋がってないのに繋がってるようなそんな感じがして。
とても心がむず痒くて、同時に暖まる。
***
「さて、帰りましょうか」
一足先に学校から退散しようとする。
と、お嬢様の電話が鳴る。
「カリンからですね、ちょっとそこで話してきます」
「わかりました、ここらへんで待ってますね」
と、駆け足で電話を取りながら外に出るお嬢様を見ていると。
「……桔梗さんのお兄様でお間違い無いですか?」
「あ、はい。ナズナとモモの義兄……です」
声を掛けてきたのは二人の学年主任の教師だった。
「ナズナさんは問題ないんですが、モモさんに関して少し」
「うちの義妹が何かやらかしたんですか?」
いえ、そう言う訳ではなく……、と。
「普段から姉妹で一緒に居ることが多いのはわかりますが……ナズナさんと比べて、モモさんは少し友人関係が苦手と言うか」
「……モモが、ですか?」
聞く所、自ら人と関わろうとせず、むしろ避ける傾向にあるとのこと。
あのモモが……?
「問題になるようなことにはなってないのですが……。少し心配で」
「わかりました、気に留めておきます。……大切な妹なので」
よろしくおねがいしますと一礼されこちらもと一礼し返すとお嬢様が戻ってきた。
「どうしたんですかシオン?」
「いえ、ちょっと時間潰しに先生と話してただけですよ」
それでは改めて帰りましょうとお嬢様の気をどうにか逸し……。
どうしたもんかと、考える。
***
その日の晩。
自室でモモの話を思い返す。
「……想像し難い」
あんなに笑顔で無邪気なモモが、自ら人を避けるだなんて。
なんだ……何か引っかかるものがある。
自分の、浅い記憶の中を探る……探り出す。
コンコン、とノックの音で思考が停止する。
「……開いてる」
ガチャ、と扉を開けて入ってきたのは……モモ。
「今日は来てくれてありがと」
「わざわざそれを言いに?」
違う、と零す。
「先生と話してるの、聞こえちゃって。……あはは」
あの時……聞いてたのか。
「あのね……」
今にも泣き出しそうな顔で、モモは語りだすのであった。
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