第9話『トレジャーハンター・クミコ』(2014)
THIS IS A TRUE STORY
(これは ほんとうに あった おはなし です)
『FARGO/ファーゴ』というカルト映画の内容を真に受けた女性が財宝探しのためにアメリカへ渡り、そこで孤独死をしてしまった、という都市伝説をを元にした作品である。
『トレジャーハンター・クミコ』
日本でOL暮らしを続ける陰険女のクミコ。唯一の癒しは飼育しているうさぎと擦り切れたFARGOのVHSテープだけ。
彼女はFARGOの「THIS IS A TRUE STORY」を真実であると信じ込み、映画ラストシーンで埋められたトランクを手にするために、アメリカの雪原を目指すのであった。
現実と幻想の区別がつかない、ビシッとした美しい映像の中で紡がれる日本での生活は、とにかく陰惨なものだ。
だけど、ひたすら届かないものに手を伸ばして。手を伸ばし続けて、実話に基づくフィクションだけを心の支えに荒涼としたアメリカを歩むクミコの姿は美しかった。
雪国の美しい風景と米国の(どこかずれた)親切な人々が彼女を出迎えてくれる。
どこかで引き返すタイミングがあったのかもしれない。不親切な米国人が強制送還をさせてくれた可能性があったかもしれない。実は彼女は米国に渡っておらず部屋でうずくまってうさぎを抱きかかえているのかもしれない。
けれどこれは実話なので、どれだけ救いを想い描いても魂は救われない。彼女は遭難し孤独死をしていることは揺るぎない事実なのだ。
観客は、この映画を鑑賞しながら彼女に寄り添い、共犯関係に陥り、(もしかしたらどこかで引き返せたのではないか)そのような気持ちの折り目を心に刻み、東京の都市風景を眺めるたびに反芻することになるのだ。
ラストシーン、彼女は現金を発見して雪原を引き返していく。彼女の足あをと追うようにスタッフロールがせり上がり、楽曲が流れ始める。
エンディングテーマは、Yamasukiの『Yamasuki』である。
フランス人のプロデューザー(ダフトパンクのおやじ)が、どこからか日本人カラテカを連れてきてシャウトさせた謎の楽曲(ぜひ検索してみてください)。
フィクションにフィクションを重ねる作風の最後の最後で、勘違い日本をさらに重ねて都市伝説の風味をけむに巻く手腕。すばらしい。
私は元々大好きだったこの曲が、自分の大好きな映画で流れ始めたことで、涙腺が壊れてしまし、笑いながら泣いてしまった。
オールタイムベスト。
現実に疲れたら、いちど鑑賞してみてほしい。
トレジャーハンター・クミコ(NETFLIX )
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