第8話『小説の神様 君としか描けない物語』(2020)

カクヨムで小説を書いているような人たちは、ある程度の発表欲求やホメられ欲求、認証欲求に突き動かされて発表をしているのだと思うけど、今日紹介する映画は、欲求がもたらす悲劇と希望を取り扱った作品だ。


『小説の神様 君としか描けない物語』


中学デビューを果たした天才少年小説家、現在は絶賛スランプ中の男子高校生と現役女子高生小説家が出会い、コンビを組んで小説を想像する、というのが本作のあらすじである。


タイトルやビジュアルからは、恋愛映画のような印象を与える作品だけど、実は『小説の神様』は恋愛要素がほとんど含まれていないことが特徴の硬派な作品である。なので、パッケージを見て敬遠している人ほどチェックしてみてほしい。


この作品は、創作論と意義・痛み・苦味について向き合う作品であり、主役二名以外の第三者からの視点も豊富で多層的にテーマが掘り下げられていく味わいのある作品である。


小説執筆というアマチュア趣味を時給換算するのは良くないけど、プロ作家は自作を時給換算していかなければならない、「志し」や「気持ち」とは別の現実的な要素が加わる葛藤描写は真摯なものだ。


主人公が自信作をボツにされて落ち込み「小説家やめます」「アルバイトします」「就職してサラリーもらいます」等と言い出すシーンは絶望的なもので、非常にいたたまれない気持ちになる。


一方で、主人公の父(小説家)と母親のエピソードや、文学部メンバー視点のエピソードは、創作者に対する応援となっている。


例えベストセラーでなくても、年間6億冊が売れなくても、私しか読んでいなくても、1冊の小説には人生を揺るがせる価値がある、ということを言い切ってくれるのは心強い。


創作者であれば共感を抱くシーンも多いと思う。たとえ売れなかった本であっても、それは世界を揺るがす力を持つ、というテーマは力強いものだ。


反面、暴力的で魅力が薄いヒロインや本作のトロにあたるはずの執筆シーンが主題歌PVの背景としてとして流され、手垢のついた紋切り型の青春表現(雨が降る、走る、坂、階段、小高い丘)で雑に処理されてしまうのが非常に残念。


しかし、だからと言って本作の魅力が減じるわけではなく、減点法だとアレだけど、加点法では五億点くらいの作品である、と思う。


小説の神様 君としか描けない物語

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08T6VQLD9/ref=atv_dp_share_cu_r

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