第4話『MORTAL モータル』(2020)
監督アンドレ・ウーヴレダル。
「トロールハンター」「ジェーンドゥの解剖」「スケアリー・ストーリーズ」で知られる現代きってのそういう感じの監督である。
特に「トロールハンター」でのドキュメンタリーチックでレトリックに満ちた世界観は、世のボンクラに大歓迎を持って迎えられた。
つまり、アンドレ・ウーヴレダルは、やるときはやる男だ。そういう共通認識がある。彼が次に手掛けたのは、北欧版『マイティ・ソー』であった。
『MORTAL モータル』
ノルウェーの田舎町に北欧系米国人の浮浪者が現れる。
よれよれとしてふらふらした、その男を心配に思った地元の若者が男に触れたとたん、若者は全身を沸騰させて即死してしまった。
警察は男を捕縛して尋問を行うが、ショックを受けて黙秘を続ける男から事情聴取を進めることができない。警察はカウンセラーの女性を呼び出し、話し相手になることを要求する。
やがて男は、カウンセラーを前に己の来歴を語り始める。
かつて北欧の牧場で暮らしていたこと、そしてその牧場が謎の火災で燃え尽き、唯一の生き残りとして身を隠し、森を放浪していたことを。
彼は感情が昂ると身を焦がす怒りと共にいかずちと嵐を呼び、人間を沸騰させて殺してしまう。語りながら興奮し警察署を雷雲が覆い始める。カウンセラーは見抜く、彼は己の体質を呪い、人々を遠ざけて森の中で静かに暮らしていた優しい男であるということを。
来歴や事情が明らかになり、カウンセラーの女性は浮浪者を米軍へ引き渡す。彼は人間兵器として、米国の「神の杖」として活躍してくれることだろう。
だが、再び事件が巻き起こる。男は無意識に護送ヘリを墜落させて逃亡、カウンセラーに保護を求め、二人の恋の逃避行が始まるのであった。
勘の良い読者の皆様は、もう想像がついたことだろう。彼は、まさに北欧神話の英雄・トールの力を受け継ぐものである。「トロールハンター」に続き、北欧神話の世界が現実を侵食する姿を描かんとする作品ということが見えてくる。
前半はこのような調子で丁寧に呪われた神の子とカウンセラーが北欧の美しい自然を旅する様子が丁寧に描写される。緻密で繊細な怪異の発現や、緊張や警戒が優しさや愛情に移り変わっていく感情表現等も高品質なものだ。
だが、アンドレ・ウーヴレダルは、やるときはやる男だ。
物語が後半に差し掛かり、アクションが増え、急激にスーパーヒーローアクションに舵を切ったあたりから、物語の風向きが変わり始める。急激にご
浮浪者が住んでいた牧場へ向かう橋上、ついにトールはその能力を全開させる。旋風を呼び電撃を走らせ橋を折り曲げる。彼は自ら警察に投降するが、米軍を据え物斬りにしたトールはノルウェー人の英雄となり、収容所の外を住民が囲い、英雄だ!神だ!お祝いだ!とチヤホヤされるようになるのだ。
英雄は、全ての因縁が収束する牧場跡地に訪れる。不自然にあからさまにルーン文字が散らばるその牧場内で謎の地下室を発見した一行は、世界樹の壁画の前で、ルーン文字で封印されたトレジャーボックスを発見するのであった。
その箱の中には、年代物の手袋と……一振りのハンマー。
そう、かれは雷神トールの生まれ変わりだったのです。
知ってた速報の茶番である。
おめでとうおめでとう!
だが、アンドレ・ウーヴレダルは、やるときはやる男だ。
ハンマーを手に全能を取り戻した英雄神。
カウンセラーも喜んでいる。
現地住民も笑ってる。
みんなも笑ってる。
北欧の自然もにこやかに
風が語り掛けます。
この場で笑っていないのは米軍だけだ。
このままでは世界の軍事バランスが超人によって覆されてしまう。
「射殺せよ」
米軍が特殊部隊にトールの射殺を命じる。
ターン。
命中、それは、近くにいたカウンセラーの頭部に。
え?
なんて?
これには米軍も苦笑い。
狙撃が下手すぎる!!
なんかつまづいて姿勢が崩れたとか、思い出してふりかえったとか、そういうこともないの。ただ普通に二人が近くに立っているだけ。
普通に狙撃失敗。
これまで見てきた映画の中で最もヘタクソな狙撃が炸裂した。
よりによってこのタイミングで。歴代クソ狙撃ランキングをダントツで更新。
「ええええ~~~~~~」
マジで鑑賞しながら声が出た。
声が出たのは雷神も同じだった。
もちろん激怒大爆発。
周辺地域一帯は気化爆発に巻き込まれ、地上滅亡は確定した。米軍があんな下手な狙撃手を呼んでこなければ……後悔は絶えない。
アンドレ・ウーヴレダルは、やるときはやる男だ。
バカ!こんなの小説でやったら全問不正解で失格だよ!
北米に連れ去られ、玩具にされるマイティ・ソーへ思うところがあったのかもしれない。それはそれとして、狙撃が下手すぎだろ!!もっとまじめにやれ!!いい加減にしろ!!せめて、ワンクッション「振りむく」とか「かばう」とかをエクスキューズを挟め、バカ! 急に丁寧さに飽きるな!
以上、2021年度、アカデミー呆然エンディング大賞のノミネート作品の紹介でした。
小説を執筆する我々にとっても、急にエンディングで飽きることがないように気を付けていきたいところですね。
『MORTAL モータル』
https://www.amazon.co.jp/dp/B08SLGG8W5?tag=vod_contentsdetail-22
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