第3話『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』(2018)

私の趣味はファンタスティック映画を鑑賞することだ。あまり見向きもされない低俗で低カルマで低予算なジャンル映画。一発ネタを中心に、それでも心に残る奇妙な映画たち。


そんな中でもひときわヤバそうなのがやってきた。

なんでも「ヒトラー」で「ビッグフット」で、しかも「」らしいのである。どう考えても要素が過積載になっている。この列車は最後まで転覆せずに両輪をレールに乗せたまま走り切れるのか?


ところがそうした疑問は杞憂だった。本作は、結末までビシッと決まった真の男の映画であったのだ。


『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』


あらすじはこうだ。

カナダの田舎町で静かに暮らす老人・カルヴィンの元にカナダ警察と米国FBIが訪れる。彼らは、ビッグフットが出現したことを説明し、それを老人にハントして欲しいと依頼をする。


「それが俺に何の関係が?」

「このビッグフットは厄介な伝染病を媒介していている。すでに何人も死亡しているが、伝染病のため軍隊が近づくことができない。もしビッグフットが森を出そうになったら核を投下してビッグフットごと北米を焼き払う予定だ。だが、幸いなことに貴方は伝染病への抗体を持ちビッグフットに近づくことができる。かつてことがある貴方であればビッグフットを殺すことができるだろう。貴方が失敗すれば!!」


とんでもない重圧を追わされたものだ。

老人は一度は仕事を断るが、残された家族のためにハントを引き受けることを決める。ヒトラーを殺した男の最後の狩りが始まった。


この作品は、ふざけた題名に見えるけど「かつて世界を救おうとした老人が再び世界を救うために立ち上がる」姿を描く、老英雄再起のシリアスな神話類型テンプレートである。


過去と現在の同時進行で描かれるヒトラー暗殺の顛末は静かでリアルに満ちている。だが、そこで英雄的に活躍が描かれるほど、現在の老英雄・カルヴィンの苦悩が浮き彫りにされていく。


彼には、「かつて魔王ヒトラーを殺したが戦争を止めることができなかった」という苦悩がある。


彼が捨てた人々の名残がある街で彼は何十年も、つま先に小石が挟まったような暮らしを続けている。いつでも、どこにいてもその痛みが癒えることはない。


俺ひとりがどれだけ頑張っても歴史を変えることなんてできない、英雄喪失の痛みを抱える彼は彼はビッグフットのハントには消極的だ。


それでも、男はビッグフットの狩りを決断した。そして、題名通りにハントを成功させる。だが、物語はそれで終わりではない。


老人のつま先の小石が取れた姿を描き、ヒトラーを殺し、ビッグフットを殺しても、まだ続いていくことを肯定する彼の人生を描いて物語はおわる。



本作は、英雄のその後を真摯に描いた作品として最上のものであるだろう。


ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08RW576R7/ref=atv_dp_share_cu_r


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