第2話『ゾンビ特急"地獄"行き』(1972)

この世で一番面白い最強の映画ジャンルとは?


「列車」?

「ゾンビ」?

「タイムリミットサスペンス」?

「入れ替わり」?

「なりすまし」?

「人類の起源に迫るSF」?

「ロシア峰不二子」?

「人が死ぬ」?


まだ最強の映画ジャンルは決定していない。


だが『ゾンビ特急"地獄"行』は、


何やら不穏なタイトルである。明らかに過積載な「ゾンビ」「特急」「地獄行き」というタイトル。どう考えても胡乱である。絶対に破綻する。


そういう危険信号が脳から発せられ、指先に到達する前に、私は思わず再生ボタンを押下していた。


『ゾンビ特急"地獄"行』


本作は、ゾンビ、北京原人、遊星からの物体X、オリエント急行殺人事件ロッコ問題、新幹線大爆破、ロシア峰不二子、デビルマン、生命の起源、酉島伝法、その他諸々のSFが混ざり合い、あるいはその起源となった、独特の味を持つ怪奇傑作である。出演者も超豪華で、その時点での怪奇作品の総力を結集したと言ってよいのではないかと思う。


あらすじはこうだ。

満州で発掘された北京原人のミイラが棺桶に秘匿されて密かに列車に運び込まれた。不自然な棺の様子を嗅ぎ当てた盗人が、荷物番が、次々と失踪を遂げ死亡していく。探偵役である紳士は、相棒の細菌学者と共に列車の乗客に紛れ込んだを探し出そうとするのだが……。


まず劇中で暴れまわる殺人北京原人ミイラの設定が非常に良い。

このミイラの視線を浴びた生物は白眼を剥き血を流して死んでしまう。そして、死んだ人間は脳みそのシワがツルツルになってしまう。これは知識や記憶が殺人北京原人ミイラに奪われたことを意味している。


つまり、殺人北京原人ミイラは知性を現代レベルアップデートさせながら特急に潜り込み密かに殺人を繰り返す厄介な存在であるということだ。


そして、殺人北京原人ミイラには第二の能力がある。それは、彼が視線を送った相手に精神を転移させて生き残るというものだ。


例え、ミイラを破壊しても問題は解決には至らない。ミイラを殺した人物に"それ"は乗り移り、肉体と知性を近代化して、より違和感なく現代人へ溶け込んでいく、恐怖の存在であることが明らかになる。


ここで、物語はミステリーの味わいを帯びてくる。犯人は誰だ、北京原人は誰だ、そのような推理が乗客の間で交わされるようになる。


さらに、"これ"に対して、憧憬を抱く存在までが出現する。それは聖職者であるラスプーチン師である。彼は"悪魔"とも称される物体に対して服従し、あろうことか肉体を差し出そうとまでするのだ。


さて一方で探偵役の乗客には癖の多いキャラクターが多い。総じて顔が良く、画面に映っているだけで間が持つため、このようなミステリー作品にはうってつけだ。


中でも細菌学者を名乗るおばちゃんは良いキャラクターで、食事よりも死体解剖を優先させるマッドぶりを見せてくれる。彼女の解剖の結果、ミイラの能力や諸々が明らかになっていくのだから、本作に欠かせない人物だ。


彼女がミイラの死体(すでに死んでいるのだから不思議な話だが)から取り出した細胞をチェックすると、そこにはミイラが観た映像が浮かび上がることに気が付いた。殺された人々、様々な風景、プテラノドン、そして地球……どうやら"彼ら"は、遥か昔に外宇宙から地球へ訪れたことが明らかになるのである。


そして物語は佳境を迎える。吹雪の中、列車にコサック共が乗り込み事件の解決を図ろうとする。追い詰められた悪魔は、手段を選ばず乗客を殺害し次々と下僕を増やしていく。狭い列車内を前後へ移動するゾンビの群れは「新感染ファイナルエクスプレス」と同様のアクション性とグルーヴ感を生み出していく。


やがて追い詰められた人類は、列車を切り離すことに成功し、人類や宇宙の叡智を抱えたまま悪魔は列車ごと崖に落ちて大爆発を起こし、その痕跡を完全に抹消してしまう。


このことが、地球にとって正解だったのか不正解だったのか。

やがて世界的な戦争に見舞われる地球のことを考えると、私は正解と言い切ることはできない。


設定と俳優はどれだけ盛ってもよい、そんなことを教えてくれる傑作だった。


ゾンビ特急"地獄"行き(字幕版)

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0945SS7WS/ref=atv_dp_share_cu_r

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