50、ブレスレットの効果
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「クリスティナ様、赤いブレスレットの効果すごいです!」
私とラダとニナ、そしてルシーンの四人で、ビーズを分ける作業をしていたときこと。黙っていると眠くなるので少しお喋りしましょうか、と言うとラダがすぐに切り出した。
「ニナがブレスレットのおかげで騎士団の方とうまくいきそうなんです」
「ラダ!」
「詳しく聞かせて!」
慌てるニナをよそに、私は思わず先を促した。
「ニナ、最近とっても綺麗になったと思ったら、騎士団のラデクと仲良くなったんですよ。大人しいニナにしては珍しいなと思ったらなんと、赤いブレスレットをつけて騎士団の練習を眺めていたんです。そうしたら向こうから声をかけてきて! ブレスレット効果です!」
「もう……ラダったらクリスティナ様にそんなこと」
ニナがブレスレットより赤くなって呟く。
「そんなんじゃないんです、ただちょっと喋るようになっただけで」
「クリスティナ様からいただいた赤いブレスレットを、見えないように袖の中に入れたおかげだって言ってました!」
ラダの冷やかしにニナが口を尖らす。ラダとニナは同郷でとても仲がいいのだ。
「もう! ラダ! あなただってブレスレット付けているじゃない!」
「私はローレンツ様と同じ濃い青だもの」
「私もそれにしようかと言ったら、あなたが赤を薦めたんじゃない」
「だって焦れったかったんだもの」
明るく元気なラダと、控え目だけどテキパキしているニナ。二人ともブレスレットなどつけていなくても声をかけたいと思っている男性は多いだろう。でも、ブレスレットをつけることでニナの背中を押せたのなら、それはそれで微笑ましいことだと思っていた。
「私も赤にすればよかったかしら」
ちょうど赤いビーズをより分けていたルシーンまで、そんな冗談を言う。ルシーンもラダと同じように、健康への願いをこめた濃い青のブレスレットを持っていた。
「ルシーン様が赤? それは事件ですよ」
ラダが目を見開いた。
「じ、事件なの?」
「ルシーン様が赤いブレスレットを持っていらっしゃるという噂だけで、宮廷中の男性がそわそわしてしまいますよ」
「私もそう思います」
ニナまで大きく頷いた。
「そんなことないわよ」
苦笑するルシーンに、ラダは真剣な表情で言った。
「いいえ! ルシーン様とお近づきになりたい方は多いですよ」
「え、じゃあルシーン、赤も付けましょうよ。そわそわさせてみるのも面白いんじゃないかしら」
「クリスティナ様までそんなことおっしゃって」
「前回」も今回も、ルシーンは結婚に興味を持たなかった。だが先のことはわからない。宮廷で働く人と結婚するならルシーンが遠くに行くことはないという願望をちょっと持ってしまった。
「ルシーン様は、いいなと思う方などいらっしゃらないんですか?」
「ラダ! 失礼よ」
気のせいか、ルシーンの視線が一瞬扉の向こうに動いた気がしたが、すぐに戻った。
「そうね、今はいないわ」
でも、とルシーンが私を見た。
「もしも、この先そんな方が現れたときのために、赤いブレスレットいただいてもよろしいですか? クリスティナ様」
きゃあ、とラダが騒いだ。私も意外に思いながら答えた。
「もちろんよ!」
扉の向こうに目を向けたい気持ちを私は必死で我慢した。
‡
その翌日のことだ。
「クリスティナ。ブレスレットの評判、すごくてよ」
私をお部屋に呼んだフレイア様まで開口一番そうおっしゃった。
「やはり赤ですか?」
ついそう聞き返してしまう。
「赤? ああ、ラデクとニナね」
ご存知のようで、ふふっと笑った。
「それもあるけど、今回のはまた違うわ」
また違う?
なんのことだろうと、私はソファの上で姿勢を正した。淹れられたお茶を薦めながら、フレイア様が言う。
「クレイザ伯爵令嬢のカロリーヌ様、ご存知でしょう?」
「はい。先日、お母様であるクレイザ伯爵夫人が娘のカロリーヌ様への贈り物にしたいと、黄色のブレスレットをお求めになりましたよね」
そんなに交流はなかったが、カロリーヌ様は私と同じ年齢なので覚えていた。フレイア様は頷いた。
「昨日、そのクレイザ伯爵夫人からお礼状が届いたの」
「ではカロリーヌ様が社交界にお出になるようになったんですね!」
黄色のブレスレットにはタンポポの花のように人気者になれますようにという願いが込められている。大人しい性質のカロリーヌ様は年頃になっても社交界に出たがらなくて、クレイザ伯爵夫人が困っていたのだ。
しかしフレイア様は、首を振った。
「以前よりは社交界に興味を示すようになったらしいのだけど、今回のお礼はそのことじゃないの——リザ様のときと同じよ」
「……え?」
フレイア様は顔を近づけて、声をひそめた。
「カロリーヌ様、階段を踏み外して大怪我をしそうになったのだけど、ブレスレットのおかげで回避できたらしいわ。なんにもないところで突然足元がよろめいて階段から落ちたのだけど、ブレスレットが光ったと思ったら怪我もなく着地していたと」
私は言葉も出なかった。
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