第15話 レパード・スキンとジョーカーマン

 午前四時。暗雲が立ち込めた。

 丸太の上、ジョーは耳を澄ました。

 車が近づいてくる。

 土を巻き上げ、車体を軋ませながら。

 やがて速度が落とされ、眩いヘッドライトが消された。

 降りてきたのはあの男。闇に光る野獣の目。

 その歯に、獲物を追い詰めた歓喜を滲ませていた。


 現れた賞金稼ぎ〝レパード・スキン〟は手を叩いて派手に笑った。

「ハハハー! BINGO! やぁっっぱ、あの時のあんたか!」



 レパードは、給油所で電話していた男の風貌その目撃情報を頼りに……女子供を連れている……定時には休息をとるだろう……デカく目立つ車が潜むとしたら……このキャンプ場近辺にいるはず。そう推察した。


 ジョーは腰を下ろしたまま平然と見つめている。

「そう、その目だ! 俺はわかったぜ」

 道化じみたレパードが不快だった。

「何の用だ?」

 レパードは懐からサングラスを出し、かけて見せた。

「これあんたのだろ? 落とし物だよ。特殊部隊ビリジアンベレーの〝ジョセフ・ハーディング〟さん」


 ジョーは立ち上がった。

 レパードはペロリと舌を出す。

 月明かりと雲の影に見え隠れする二人。

「なあ、あんた。その顔ちょっと違いすぎるぜ」

「何の話だ?」

「しらばっくれんな。これについてた指紋でわかったのさ」

 サングラスを放り、ガリッと踏み潰すレパード。

「まぁ、あんたの謎を解いてみるのも面白そうだが……生憎、今はあんたに用はない。店で聞いただろう? その車の中にいる二人を俺によこせ!」

「お前あの時バッジを見せたな。警官が職務中にビールを飲むのか?」

「え?」

「俺が店を出た後の話だ。まだ臭うぞ」

 え、そんなはずはとレパードは襟元を嗅いだ。


「……へっ! 俺はバウンティ・ハンターだ。関係ない。二人を生け捕りにするのみ!」

 そう言ってついに拳銃を抜き出した。

「ジョセフ。リリィとガキを引き渡せ!」

「俺の名はジョーだ」

「いい加減シラを切んなよ! ノースフォレストに行くこともわかってんだ」

 唾を吐き、レパードは構えた。

「表向き死んだはずの貴様ならここで殺したとて問われまい」


 その指は引き金に。

 一歩足を踏み出すジョー。彼は言った。

「俺はジョー。〝ジョーカーマン〟だ」

「……え?」


 反射的にレパードは撃った。

 しかし弾丸はその残像を突き抜けた――消えた?!

「上かっ!!」

 月光に閃くジョーカーマン。

「何?!」


 首に太い腕が絡みつく。

 背後から締めつけられる恐怖、かつてない脅威をレパードは感じた。


「……う……た、頼む……」

 全く身動きがとれない。

 硬直するレパードの耳元でジョーは囁いた。

「……何を頼むって?」

 レパードは気がつくと拳銃も奪われていた。

 を耳にし背筋が凍りついた。


「う、嘘だろ……あ、あんた、あんたがあの殺し屋……ジョ、ジョーカーマン?」

「そう。聞いたことがあるか?」

「……や、やっぱり、凄腕だ、いやぁ参った、参りました! 俺がバカだったよ……ごめん! ごめんなさい! 殺さないで」


 レパードは完全に後悔した。

 ニシキヘビのように巻き付くジョーの腕と突きつけられる銃身。

「貴様に俺の何が分かる」

 轟くジョーの声。

「は、はい、僕なんかに……」

「手を引け。分かったな?」

「はい。わかりましたぁ」

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