趣味:角栓採集

今夜は飲み過ぎてしまった。

大学時代からの友人・城川(しろかわ)と久しぶりに飲み、気がついたら終電を逃していた。


幸いにも、この日飲んでいたS駅付近から城川の家まで歩いて帰れるとのことだったので、始発まで泊めてもらうことにした。


歩くこと30分。

城川が住んでいるのは青っぽい外壁の4階建アパート。

部屋番号は203。


大学時代から住んでいるそうだが、俺は今日初めて上がらせてもらう。


ーーーーーーーーーー


中はいかにも一人暮らしの男の部屋といった感じ。

最低限の家具しかなく、本棚には「ワ●ピース」や「暗●教室」、「鬼●の刃」など少年マンガがぎっしりと詰まっている。


『俺、風呂入るわ。もう一枚布団あるから、それ使って寝てくれよ。』


城川は服を脱ぎ、風呂場へ向かった。


城川には悪いが、この隙に部屋を色々と探らせてもらおう。

俺はそう考えた。

エロ本の一冊でも出てきたら面白い。

それをネタに、風呂から上がってサッパリした城川をベッタベタにいじってやろう。


まずは定番のベットの下。

収納用の棚になっており、中は服でいっぱいだった。


本棚はどうだろう。

少年マンガのカバーをかけているだけで、実はエロマンガなんてことも。


そう思いながら物色していると、マンガに混ざって白いファイルが3冊入っていることに気づいた。

背表紙には、左から順に「長」「短」「女」と汚い字で書かれている。


もしかしたらアルバムかもしれない。

これはこれで面白そうだ。


俺はファイルの1つを取り出し、開いてみた。

中に入っていたのは写真ではなく、小さくて黒い歪な形をした紙のようなものだった。

何ページにも渡ってファイリングされている。

その数は100枚以上あるだろう。

別の2冊も全く同じだった。


そんな折、城川が風呂から出てきた。

バスタオルで体を拭く城川に、俺は質問した。


「なぁ、このファイルなに?なんか黒いのがいっぱい入ってるけど」


『お前見たのかよ!バカ!勝手に見んなし!』


「それはすまん!けど何だよこれ!教えろよ!」


『小鼻の角栓取るシートだよ。使うたび、そのファイルに入れてんだ。』


城川が何をいっているのか、よくわからなかった。

俺はもう一度ファイルを開き、黒い紙をよく見た。

無数の黄色っぽい粒々が付着していた。


『2〜3週間くらい放っておくとさ、スッゲェ長い角栓が取れることがあんのよ!その瞬間がたまらなくてさ!捨てるのももったいないからファイリングすることにしたんだよ。いつまた長いのが取れるかわからないじゃん?だから見返せるようにって思ってよ。』


このファイルは、友人の奇妙なコレクションだったのである。


『角栓シートあるけど、夢無も使ってくれねーか?もし長いの取れたら俺にくれよ。うちに泊まりに来た人には必ずやってもらってんだ、角栓シート。』


「そう…なんだ…彼女とかも?」


『元カノのシートも全部保存してあるぜ。1番右のファイルが女の角栓集。でも女は普段からケアしてる人が多いから、大物が取れにくいんだよ。男の方がいいな!…って勘違いするなよ、俺はノンケだからな。角栓に関しては男の方がいいってだけ。』


城川から角栓シートをもらい、俺は自分の鼻に貼り付け、10分ほど待った。

剥がして城川に見せると、


『やっぱお前すげーな!大物だわこれ!学生の頃からニキビとかよくできてたから、角栓取ったらすげーのが出るんじゃねーかなって思ってたのよ、ずっと。お前、絶対にスキンケアとかしてねーだろ?だからすげーの出ると思ってたんだよ!過去イチかもしれねぇ、これ、すげぇ、汚ねぇなお前の小鼻!定期的にうちに来て角栓シートやってくれねぇか?』


褒められてんだかディスられてんだかよくわからない。

少し潔癖なところのある俺には、この趣味を理解することはできなかった。


とりあえず今夜は泊めてもらえそうだが、今度から城川と飲む時は、必ず終電で帰るようにしようと思う。

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