趣味:露出

真野口 太一(まのぐち たいち)は、俺の会社の同期だ。

同じく営業をしている。

同期の中では1番最初に契約を取ったのが真野口で、それから順当に営業成績を上げていった。

うちの部署内ではエリートに分類される社員だ。


正直、俺は真野口のことがあまり好きではない。

出世コースに乗り、女子社員からもモテている。

俺の嫌いな要素が幕の内弁当みたいに詰まったやつなのだ。


でも、こういうやつこそ俺の人生の糧になってもらいたい。

こいつの趣味や私生活を真似れば、俺にも社内評価を上げるチャンスがあるかも知れない。


その思いで俺は、仕事終わりに真野口を飲みに誘い、趣味について聞いてみることにした。


ーーーーーーーーーー


『趣味ぃ?何でそんなことお前に教えなきゃなんねーんだよ!別に何してたっていいだろうが!』


真野口は酒に弱い。

居酒屋に入り、1時間も飲んでいるとすぐに顔を真っ赤にし、ベロベロに酔う。


だがそれでいい。

酔えばこいつの本当の趣味を聞き出しやすくなる。


『大学時代の同級生とフットサルをして、その後に食事をするのが趣味かな。』


なんて、爽やかビジネスパーソン感満載の、上っ面だけの答えなんて必要ない。

そんなことを言おうものなら、俺は今持ってるジョッキで真野口の急所という急所を殴り散らかしてしまうだろう。


俺が欲しいのは、ちょっと人に言うのは恥ずかしいくらいの、変わった趣味の情報なのだ。


「いや、いいじゃん。俺、趣味がねぇんだよ。なんかハマれるものが欲しくてさ。ないか?お前が今、こう…情熱を燃やしてるものってさ?」


真野口はビールを飲み干し、ジョッキを机にドンッと置いた。

そして充血した目で俺の方を見た。


『趣味か…趣味ね…趣味って言えんのかな?まぁいいや。あんまでかい声で言えねぇんだけどさぁ』


すでに声はデカい。


『俺、女にアソコ見せんのが好きなのよ。だから夜中に出歩いて、女に声かけてさ、近づいてきたところでアソコを見せつけてやんの。真面目な感じを出して、すみません!って声かければ大体の人が反応するから。』


俺は「まずいことを聞いたかもしれない」と感じ始めていた。


『明らかに男慣れしてますって外見の女じゃダメだぜ。処女っぽいというか、私は男なんて興味ありません!って感じの清楚そうな女がいいんだよ。リアクションが可愛くてさぁ。もしセーラー服着て歩いてる子がいたら真っ先にターゲットよ。』


これじゃ完全に犯罪者じゃないか。


『明日もやろうと思ってんだ。夢無、お前もやるか?どうせお前の息子、日の目も見ずに引きこもってんだろ?表に出してやれよ?な?』


「いや…遠慮しておく…うちの息子はインドア派だからな…」


正直、俺はアソコのデカさには自信がある。

未使用だが、大きさだけなら真野口にも優っているだろう。

だからといって、むやみやたらと露出したいかというとゴメンだ。


これ以上、真野口の趣味を深掘りしない方がいいと思った俺は、話を切り替え、終電に間に合うよう会計を済ませた。


これからもいろんな人に話を聞く予定だが、初っ端から聞く相手を間違えてしまったかもしれない。


ーーーーーーーーーー


それから3週間経ったころ、真野口が逮捕された。

罪状は準強制わいせつ。

真野口の「趣味」が災いしたのだろう。


社内ではエリート街道を歩んでいた真野口だったがこの一件を理由にクビとなり、その後、一切連絡が取れなくなった。

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