載セルモノ、降ロスモノ
ある夜、海軍の警備艇で事件が起こったと非常呼集がかけられた。上官の軍曹が言うところによると、数分前に警備艇へ近づいて来た不審な小舟を当直の水兵が銃で撃ったのだそうだ。
「舟の方はもうえらい騒ぎだ」
軍曹は苦い表情をしている。海軍側から警備の協力を請けていたからということもあるが、小舟で警備艇に近づいた下手人の正体もその原因だった。下手人は警備艇に興味津々だったあの学童とその仲間たちだった。
学童たち三人は本部事務室の椅子に並んで座っていた。説教を受けたためか撃たれた恐怖からか、縮こまって嗚咽を漏らしていた。あの人懐っこい学童もすっかり怯えてしまっている。
事務所には軍曹と中隊長、そして警備艇の少尉がいた。表情はどれもにがにがしいが、「どうにかできないか」という視線を少尉に投げかけている。
「……まぁ、なんとかしてみましょうか」
沈黙と視線に耐え切れなくなったためか、少尉は溜息をつきながら制帽を被り直した。
少尉が戻って来たのは翌明朝だった。その前には警備艇の水兵が「もう子どもたちは返していい」と伝言を持って来たのでとりあえずは解決したと考えていいのだろうが、水兵の顔が青ざめていたのに違和感があった。
「もう解決した」
学童たち三人に当たり障りない理由をつけて親へ帰して本部事務室に戻れば、少尉は無表情のまま呟くように言った。軍曹や中隊長は仕方がないと言うように溜息をついている。それを見て直感した。学童たちを撃った水兵が死んだのだ。
「……なんともならないものですね」
どうしようもないことだとわかっていても、そんな疑問が沸き上がる。この世界は、誰かが必ずペナルティーを負わないといけない仕組みなのだろうか。あの邪神のように。
「……舟にはな、積載量ってのがあるんだ」
警備艇へ戻る少尉に供をして渡船場まで来たとき、煙草に火をつけた少尉が独り言のように言った。警備艇の背後に見える空は白みはじめていて、緑色の稜線との境界が空とにじんでいる。
「よかろうとわるかろうと、なんか大切なものを載せようと思ったら、別のものを降ろさんといかんのさ」
少尉はそう言うと、空へ向けてぱっと煙を吐いた。煙は濃紺色の空に薄れて消えていった。
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