第600話 調査隊と情報交換
火山の中の巨大洞窟に戻った俺達は、先行する調査隊の後を追う為に通れそうな通路を探し歩いた。
溶岩による通行止めが多く、遠回りを余儀なくされる。一番の難所は、通路の一部が崩れていた所だ。1m程度の幅なので、飛び超えるのは容易であるが、下が溶岩だと万が一がある。身体能力的に一番心配なソフィアリーセは、ルティルトさんがお姫様抱っこをして飛び越えた。
外だと直線で200m程度の距離だったが、遠回りする事30分。ようやく、外へ続く穴に辿り着く。そして、穴を抜けた先の大き目の中州には、3パーティーの調査隊が待っていてくれた。皆さん外套姿で凍える北風を使用しているので、見分けが付き難いが、ソフィアリーセに対して貴族の礼をしているのは騎士達だろう。それが2パーティー分12名。残る1パーティー分6名は、中州の端の方でツルハシを振るったりしている。
ソフィアリーセが外套のフードを取って顔を見せると、向こうもフードを取る……が、双方共に暑いのか、直ぐに被り直した。
「やはり、ソフィアリーセ様でしたか。我々は第2騎士団225部隊、今回の火山の異変調査を担当しております。先程は援護の魔法、有難く存じます」
「いえ、礼は不要です。サードクラスのパーティーならば、わたくし達が介入せずとも撃退は出来た事でしょう。
それよりも、調査の進捗を教えて下さる? 我々も協力するわ」
「はっ!
……とは言え、調査できる範囲が狭いので、推測段階の話も報告致します。見ての通り、過剰なまでの火山活動……ここまで溶岩が溢れ出ているのは、初めてです。恐らく、ダンジョンの階層が増える前兆かと思われますが……街中で管理されていたダンジョンが増えるなど、あり得ぬ話だと困惑しております」
ここでちょっとおさらい。ダンジョンは大地を流れるマナを吸収して成長し、階層が増えていく。ただし、階層が増えるのは放置した場合である。ダンジョン内の魔物を狩ったり、採取をしたりする事で、ダンジョンが蓄えているマナを減らし、階層が増えないように管理出来るのだ。
調査隊は街中のダンジョンを管理する第2騎士団なので、『ダンジョンが成長する前兆がある』=『自分達が仕事を怠った』事になるのが、信じられないのだろう。
俺も気になる事があるので、挙手して話に加わる。
「階層が増える前兆って、ダンジョン全体で魔物が増えるとか習った覚えがあるのですが、他の階層からも異変が報告されているのですか? 受付嬢からは火山フィールドの話しか聞いていませんけど……それと、ここまでの道中に魔物と遭遇しませんでしたし」
「……うむ、騎士団の方にも、そういった報告は上がっていない。
ここまでの道中に魔物が居なかったのは、我々がリビングメイルを倒して進んできたからだろう。もう1種類の溶鉱炉亀は、恐らく溶岩に飲まれたと思われる。奴らは溶岩に落ちると自爆して居なくなるからな」
溶鉱炉亀が居なかったのは、結構間抜けな理由なようだ。その代わりと言っては何だが、山の上を飛ぶ千眼孔雀の数はかなり多い。先程、俺達が介入した後にも、2回襲ってきたそうだ。
俺も思い返してみたが、42層の雪山鉱山……年末に行った41層の雪山とあんまり変わらなかったよな?
環境が変化してブリザードが吹いていた訳でも無し、魔物が多かった印象もない。
これらの状況から考えられるのは……
「そうなると、侵略型レア種みたいなイレギュラーが誕生して、環境を変化させたと考えられないかしら?」
「その可能性はかなり低いと思います。今のところ姿を見せてはおらず、飛んでいる孔雀も侵攻する様子もなく、上空を旋回しているだけです。襲ってきたのも、山頂付近の群が増えて、外側に押し出された孔雀だけですから」
「まだ、力を蓄えているだけかも知れないわよ?
ほら、あの火口の中に潜んでいるとか……この間のドラゴンみたいな巨大な魔物が中に入っていて、溶岩を押し出している……なんて、考えすぎよね? 侵略型レア種自体が、かなりレアだもの」
ソフィアリーセが仮定に仮定を重ねて話すが、あんまり洒落になっていない。確かに火山の火口と言えば、怪獣物の定番であるが、ディゾルバードラゴンの後なので2番煎じである。
どの道、溶岩が溢れる状況では、真偽を確かめる術は無い(俺以外)。
現状の騎士団としては、消極的な対処療法しか取れないそうだ。すなわち、魔物狩りと採取を行い、この階層のマナを減らすのだ。その活動は既に行われている。中州で採掘をしているパーティーがそれらしい。調査隊のリーダーが、声を掛けると、採取パーティーのリーダーらしき人がこちらへやって来た。外套のフードから突き出している2本角には見覚えがある……
「採掘の首尾はどうだ? 紅蓮鉱石や耐火煉瓦の素材は採れそうか?」
「ええ、この通り、この辺はいつも通り産出するみたいですな。問題は採掘出来る範囲が狭すぎる事かと」
彼は手にしていた赤い花を見せ……いや、やけにメタリックな感じがする……そして、アイテムボックスから砂袋を取り出して足元へ落とした。ここまで近付いて来て、ようやく顔見知りだと気が付いた。雪山鉱山を手伝ってくれた、山羊人族の採取リーダーである。俺も軽く手を振ると、笑い返してくれた。なんと、火山の異変を発見したのが彼らしい。
「我々商業ギルドの採取パーティーも、年が明けてからは誰も見に行って居なかったのでな。ソフィアリーセ様が44層に赴く前に様子を見に行ったら、こんな状況だったのだよ。あれから数日、溶岩の量が増えているように見えるな」
ここまでは、調査隊の道案内役兼採取要因として来ているそうだ。そのついでに、手に持っていた赤い金属の花を見せて貰う。
【素材】【名称:紅蓮鉱石】【レア度:C】
・溶岩が冷え固まった後に咲く、花の形状をした真っ赤な鉱石。溶岩という紅蓮地獄に咲いた
ただ、融点がミスリル並みに高いので、普通の炉で加工する事は困難である。また、硬度はあるものの靭性は弱く、武器にするには割れやすいのが難点。火属性を付与したい場合は合金化しよう。
オーブン用の熱源になるのか……いや、流石に火事が怖いから、専門業者が作ったオーブンの方が良いだろうけど。詳しく聞いてみたところ、溶岩が冷えてくると下から押し出されるように生えて来るらしい。44層は溶岩の川の流れが頻繁に変化するので、その流れの跡地に:紅蓮鉱石や鉱石が取れる土山が生えやすいそうだ。
「ここは〈サーチ・ボナンザ〉でも沢山鉱石が出て来るからな、50層未満で鉱石を取るなら一番効率が良い階層なんだ……こんな、溶岩だらけじゃなければな」
採取パーティーとしては採取効率が下がるので、さっさと異変を納めて欲しいそうだ。
因みに、砂袋に入っていたのは、耐火煉瓦の材料となる赤い砂らしい。溶岩が冷え固まる際、最後まで熱を持っていた所に、熱に強い成分の赤い砂が表出して残るのだ。その砂を粘土に混ぜて焼いたのが耐火煉瓦。溶鉱炉亀の甲羅片と共に、鍛冶用の炉を作る際に使われる。
取り敢えず、俺は使いそうにない素材なので、軽く聞くに留めた。
その後も調査隊リーダー、採取リーダーの2人を交えて相談をした。
俺のブラストナックルの性能を溶岩の中に入る事で証明し、当初の予定通り、火口を一人で見に行く事を了承してもらう。
採取パーティーは、ここの中州を〈サーチ・ボナンザ〉で調査、回収したら撤収する。もうすぐ終わるらしい。
調査隊は、空に多数居る千眼孔雀の間引きを手伝うと申し出てくれたが、離れ過ぎているし、ターゲットがバラけるのが面倒なので、お断りした。
代わりに、俺一人でも戦える事を見せておく。おっと、先にフリッシュドリンクと耐熱ベリージュースを飲んでおいて……耐熱ベリージュースのハーブ臭さに咽そうになったが、無理矢理飲み込んでスキルを発動させた。
「〈緊急換装・聖剣抜刀〉!」
セットしておいた聖剣クラウソラス(20p)と聖盾(20p)を、瞬時に装備した。現在のアビリティポイントは54。ストレージ(5p)もあるので、ブラストナックル(15p)を同時装備する事は出来ない(6p足りず)。
凍える北風は外套を着ないと効果が薄いので省いた為、ジュースだけだとちょっと暑い。聖盾に聖剣をマウントさせて、さっさと〈プリズムソード〉を発動させた。
勿論、〈聖剣共鳴〉の効果で呼び出すのは、蒼玉のヴァルキュリア(水属性)と、月長石のヴァルキュリア(氷属性)である。真っ白な翼に属性色のドレスアーマー、身長を超える長槍を携えて、美貌の女騎士が2人登場すると、調査隊からどよめきが走った。
「おおぉぉぉ……本当に、あの奇跡の夜に居た精霊様ではありませんか!」
「是非、お礼を述べさせて頂きたいと存じます!」
「あー、いえ、精霊様は中に入っていませんよ。今は只の使い魔ですから、喋れませんし」
調査隊の半数以上が、その場で跪いて最上位の礼を示した。こうなる気がしたので、誤解を解きつつ、マナポーションを飲んでMPを回復させておいた。最初は敵の数が多いので、2体召喚したけど、MP6割消費はキツイな。暑いから水分を取るのは苦ではないが……このままでは暑過ぎるので、2つ目にセットした〈緊急換装〉を使用した。
溶岩の中を登って行く為の装備である。ヴァルキュリアを召喚した後ならば、聖盾をしまっても消えはしないので、ブラストナックルに変えたのだ。
聖剣クラウソラス(20p)、ブラストナックル(15p)、ストレージ(5p)、緊急換装2枠(3p)で計43p。残りは11pしかないので、ジョブ2つ(5p、街の英雄、ニンジャ)と、充填短縮(5p)、追加スキル1枠(1p)にしておいた。
本当は〈無充填無詠唱〉が欲しかったが10pなので、ジョブ1つになってしまう。それはそれで心配なので〈充填短縮〉に妥協した次第である。
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年内最後の更新で600話! 偶々、切りが良かっただけですw
最新話まで読んで下さった皆様方、今年の更新に付いて来て下さり、ありがとうございました。来年もシュピダンをよろしくお願い致します。
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