第592話 前座の43層を超えて、44層へ
業務連絡。前話にて〈ディスブラインド〉で盲目を治す展開を追記してあります。修正前しか読んでいない方は、ご注意願います。
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レスミアの盲目を〈ディスブラインド〉で癒している内に、倒した千眼孔雀が霧散して消えていく。後に残されたドロップ品は、その背中に着けていた飾り羽3本であった。拾ってみたところ、目玉のある先端はカラフルだけど、そこ以外はススキの穂みたいな羽である。
【素材】【名称:千眼孔雀の羽根】【レア度:C】
・千眼孔雀の飾り羽の1枚。先端に付いた眼には、盲目の状態異常を治す効果がある。ただし、目玉をそのまま食すると効果が強過ぎる為、中の液体を薄めてから飲もう。
目薬の材料に書かれていたので、調合すれば盲目に聞くとは知っていたが、単体でも効果があるようだ。
ああ、毒を使うモンスターが、毒消し草を落とすようなもんか。
ただ、目玉の中身かぁ……ブラストナックルを外して素手で触ってみたところ、ぶよぶよしていて液体が入っているようである。これを飲むのか? 目薬を忘れた者への救済措置としても、ちょっと嫌だな。
後衛と合流するべく移動するついでに、レスミア達にもドロップ品の解説をしておいた。一応、盲目に掛かった状態での緊急措置として、目玉の使い方を教えておいたのだが、若干引かれてしまう。
「その目玉を飲むのか……いや、目薬を忘れずに携帯しておけば良いだけの話だな、うん」
「目玉は珍味だって聞いた事はありますけど、流石に使った事はありませんねぇ」
「いやいや薬品だし、中身は液体だから料理には使えないと思うよ?」
『目玉をそのまま食すると効果が強過ぎる』とある為、料理には使えないだろう。この階層で採れた野菜が料理に使えないので、新食材に飢えているのだろうか?
レスミアには釘を刺しておいてから、皆と合流する。すると、今度はソフィアリーセが得意気に小さな赤い扇を見せ付けて来た。
「わたくしの倒した孔雀がレアドロップを残したのよ。1匹目から幸先が良いわね!」
それは、直径5㎝程の小さな扇……ではなく、千眼孔雀の頭に付いていた羽?だった。
【素材】【名称:千眼孔雀の
・千眼孔雀の頭に生える扇状の小さな羽。
「へ~、『遠視の力を得る』って事は、バフ付きの素材なのか」
「ええ、アクセサリーにしたり、髪飾りに加工したりする、女性魔導士が居るって聞いた事があるわ。遠距離の魔物を狙いやすくなるのですって」
「ああ、それ以外にも軽騎兵やDダイバーといった弓使いが身に着ける事もあるな。男性の場合、弓の飾りとして付けているよ」
武器マニアなルティルトさんが補足してくれた。こういった魔物素材の加工は、鍛冶師のサードクラス『鍛冶親方』に頼むと武具やアクセサリーに付与スキルとして組み込んでくれるそうだ。(※付与術とは別の付与スキルを増やす方法)
ソフィアリーセから手渡された千眼孔雀の冠羽を見てみる。マッチ棒サイズの軸の先端にふさふさな毛が付いており、それが5本扇状に根元でくっ付いていた。なるほど、これ自体が可愛らしいアクセサリーの様である。女性探索者が使うのも頷けると言うものだ。
そうなると、ウチのパーティーで有効に使えるのは弓を使うレスミアか、範囲魔法の狙いをつけるソフィアリーセか。そんな話を振ると、ソフィアリーセは辞退を申し出る。
「レスミアが使うと良いわ。わたくしのドレス装備は付与スキルが3つ入っていて、これ以上入らないし、アクセサリーも火属性無効のタリスマンを使いますからね」
「良いんですか? でも、私も最近弓を使っていないのですよねぇ」
レスミアの弓『パイロキルシュ・コンポジットボウ』には〈火属性耐性 小〉が付与されているのだが、防具の『氷華花咲くロングテールドレス』にも〈火属性耐性 大〉付いているので、機能しないのだよな(同種のスキルは上位のみ有効)。
加えて、登場する魔物に弓が効き難い奴らばかり(鎧、亀、見切り鳥)なので、火山フィールドには不向きな武器なのである。サードクラスにならないと魔弓術も覚えないし、弓が不遇なレベル帯だな。
二人して遠慮し合うのでは、話が終わらない。保留にした方が良いか?と思い掛けた時、ソフィアリーセが押し切った。
「良いのよ。わたくしが欲しいのは、千眼孔雀のレア種のドロップの方ですもの。そちらはミーアが使いなさいな」
「分かりました。それじゃあ、頂きますね」
これはソフィアリーセがパーティーに加入する時にも話した条件だな。サードクラスの魔導士になってから使う用の新装備の材料である。確か……『
運よく会えればいいが……まぁ、攻略優先で、採れなかったら後日孔雀狩りをするしかない。
そんな訳で、レスミアに譲渡される事が決まり、小休止を終えようとした時、ルティルトさんがこそっと話しかけて来た。
「(その千眼孔雀の冠羽、余分に手に入ったらで構わないから、その時には私にも譲ってくれ。
ああ、趣味で集めたいだけなので、買い取り料金くらいは払うからさ)」
どうやら、可愛らしいので個人的に欲しいそうだ。レア種狩りをする時には、通常種のレアドロップも集まりそうなので了承しておいた。それにしても、綺麗系の女騎士様が可愛い物を集めるとは、これはこれで可愛らしいな。俺が見る事はないだろうけど、自室がぬいぐるみとか可愛い物でいっぱいなファンシーな感じだったら、ギャップ萌えになりそうだ。
山道を登り、時折生えているバリケードな生垣を破壊して進む。登るにつれて木々が少なくなっているので、上空から飛来する千眼孔雀から逃れる術は無い。近く(〈敵影表示〉の範囲内)に飛んでくると、持ち前の眼の良さで俺達を狙いに来るので結構厄介である。ただ、山を中心に周回しているのか、遭遇頻度は高くないのが幸いか。レア種遭遇チャンスと考えると、周回している敵の数が少ないのはマイナスだけど。
対処法も大体固まって来た。簡単なのは爆撃される前に、〈魔攻の増印〉付きの〈アシッドレイン〉×2で即行撃墜する事である。ただし、〈無充填無詠唱〉を持っている俺は兎も角、ソフィアリーセの魔法準備が間に合わない。遭遇頻度は溶鉱炉亀やリビングメイルの方が多いので、事前に準備しているのが〈メイルシュトローム〉になるからである。敵は鳥なだけあって移動速度が早い。〈メイルシュトローム〉をキャンセルして〈アシッドレイン〉を充填していては間に合わず、〈ファイアーボール〉の爆撃にさらされてしまうのだ。
ならば、最初から〈アシッドレイン〉にすれば良いと試したところ、今度は防御形態の溶鉱炉亀が2発で倒せなかった。亀なだけにHPが高いだけでなく、防御形態でダメージが減衰するのかも知れない。リビングメイルと合体した状態で〈アシッドレイン〉×2を使うと、リビングメイルだけ倒して、溶鉱炉亀が残って砲撃して来るのだ。
3種類とも水属性弱点のくせに、対処方が異なるので実に面倒臭い。〈メイルシュトローム〉だと全部倒せるが、縦に並んで飛んでくる千眼孔雀は2羽しか入らない。範囲の広い〈アシッドレイン〉だと、溶鉱炉亀が倒せない。どっちでも倒せるリビングメイルが可愛く見え……いや、山道で遠巻きに砲撃して来るのはうざいな。
結局、千眼孔雀の対処法としては、最初の方法に一手間加えたのが一番戦い易かった。
「先頭の2羽に……〈メイルシュトローム〉!」
「もうちょい引き付けて……〈ダウンバースト〉! ……〈ウォーターフォール〉!」
ソフィアリーセが充填待機させていたランク8魔法で確実に数を減らし、俺が残りの2羽を風の鉄槌で地面に叩き下ろす。最後尾の1羽は滝で押し流した。長い飾り羽のせいで表面積が多く、滝の勢いで地面まで落とせるのである。先に落ちた2羽の直上に来てから、落とすのがミソであるな。
水属性が弱点と言うのもあるが、どちらかと言うと副次効果目当てである。飾り羽を水に濡らす事で動きを鈍らせ、更に目玉による閃光を防ぐのだ。あの目玉、目蓋が無いせいか水を浴びると動きが鈍るっぽい。まぁ、眼に直接水を掛けられたら、痛いもんな。
そして、ここからは敵が復帰して立ち上がるまでが、勝負所である。フィオーレには動きを鈍らせる〈スローアダージオ〉を躍らせた。
足の速いレスミアが駆け寄って始末出来れば、それで終了。
もし、立ち上がる千眼孔雀が居ても、水に濡れて回避行動が鈍くなっているので、2人掛かりで切り掛かれば倒せる。
更に、羽や身体を振るわせて水気を飛ばして復帰された場合は、〈シールドバッシュ〉が有効だった。盾を突き出して殴るのではなく、鈍器代わりに振り回すと広い範囲を薙ぎ払えるので、千眼孔雀が回避したとしてもヒットし易い。なんなら、大量に背負っている飾り羽の1本にでも当たれば、本体も吹き飛ぶ。地面に転がった後はレスミアが止めを刺して終了なのだ。
まぁ、仮に盲目閃光を使われたとしても、癒しの奇跡〈ディスブラインド〉があるので特に脅威でもない。タイミングさえ知っていれば、盾や腕で光を遮るだけでも回避できるからな。
番外としては、落下地点に〈トリモチの罠〉を仕掛けてみたところ、くっ付いた羽毛や飾り羽を引き千切って本体が逃げてしまった。ある意味、回避に命を掛けてやがる。
他に鬼徒士の〈茨ノ呪縛〉(足元から茨を生やして拘束)とかも試したかったが、砲撃型リビングメイルが襲撃しに来る事も多いので〈カバーシールド〉役を外せずに試せず仕舞いである。
まぁ、ある程度戦術が固まったので良いとしよう。
そんな襲撃を迎撃しつつ、半日山登りをした。ソフィアリーセとフィオーレが大分疲れ果て、それぞれルティルトさんとレスミアに背中を押してもらいながら歩みを進める。
そして、お昼ご飯もそこそこに進んだ午後2時、ようやく目的地の洞窟に到着した。
「つっかれた~。ザックスー、ジュースちょーだい~」
「わたくしも……それと、椅子を……」
「ああ、今出すよ……皆も一息入れよう」
火属性無効のタリスマンを付けたフィオーレは地面に大の字に寝転べたが、ソフィアリーセはルティルトさんに支えられて何とか立っている状態である。地面は岩盤浴が出来るどころか、火傷一歩手前くらいに暑いからな。地面に座るなど論外なのである。
ソフィアリーセだけでなく、全員分の椅子をパパっと出し、ジュースで一息入れた。氷結樹の実とプラスベリーのジュースの〈火耐性中アップ〉で多少は身体が楽になる筈だ。
俺もブラストナックルを外して確認してみたところ、火山の中腹とはいえ気温が少し上がってきている。じっとしているだけで、暑さにやられそうだ。皆、冷風の出る『凍える北風』の風量を上げて耐えているに過ぎない。
……長居は無用だな。
こんな所では休むに休めない。ここまで来たのだから、次の44層を一目見るだけで今日は終了にしよう。
そんな話をして、疲れ果てた二人はルティルトさんとベルンヴァルトに背負ってもらう事にした。〈赤き宝珠の激励〉で皆を元気付け、後少しの距離を歩く。
そして、山肌にぽっかり空いた穴を覗き込むと……緩い坂道を10m程下った先に転移魔法陣が見えた。本当に直ぐそこだな。〈赤き宝珠の激励〉の赤い光で足元を照らしながら中に入り、全員で転移魔法陣へ乗り込む。
パーティー全員が乗った事により魔法陣が起動、眩い光に包まれて転移した。
転移した先も洞窟内である。転移出口なので、ちょっとした広間が広がっているが、周囲は赤い光で照らされていた。
〈赤き宝珠の激励〉の勾玉の赤い光……だけではない。広間の端の方には赤く光る川が流れているせいである。
「アレが溶岩……さっきの43層の方がマシだったわね」
「あの赤い光を浴びているだけで、熱いですよ! 顔が焼けちゃいそう!」
女性陣が手を掲げ、袖の布で顔を隠した。
そう、44層は火山内の溶岩洞窟スタートなのである。溶岩が流れているとは聞いていたが、入り口からあるとは初耳だぞ。
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