第584話 命名するなら砲撃型リビングメイル?リビングキャノン?

「任せて! 〈カバーシールド!〉!」

「2発くらい、受け止めてやるぜ!」


 ホバーダッシュして近付いて来るリビングメイルの攻撃を、ルティルトさんとベルンヴァルトがそれぞれガードした。不意打ちなら危なかったかも知れないが、直線に飛んでくるだけの砲弾なら、騎士の〈アブソーブシールド〉で衝撃を大幅に減らせるので問題ない。

 2人に守られたソフィアリーセは、反撃しようと充填済みの魔法陣を敵へ向ける。


「〈魔攻の増印〉! 〈メイル……逃げた?!」


 魔法が発動する直前、リビングメイル2体が左右に分かれた。まとめて倒そうと範囲指定していたソフィアリーセは、慌てて魔法名を言うのを中断した。

 左右に散ったリビングメイルは、こちらに近付くのを止めて横に移動している。ベルンヴァルトが「こっちへ来やがれ!」と、〈ヘイトリアクション〉を掛けたのだが、木々の合間を縫うように移動しているだけで近付く様子はない。それどころか、2射目の砲撃を仕掛けてくる。3発ともベルンヴァルトに攻撃が向かったが、これも何とか受けきる。

 どうやら、遠距離攻撃を得た事により、〈挑発〉の影響下でもヒット&アウェイに徹しているようだ。なるほど、背後には炎上中のフレイムロビン生垣、横には燃える火精樹があるので、俺達を追い詰めた状況になっている。開いている90度分だけ、円弧状に移動しつつ一方的に砲撃する戦術の様だ。


 ……砲撃を完全に防げているし、後ろから炎が迫ってきている訳でもないから、背水の陣と言う程でも無いな。

 むしろ、時間を置けば炎が鎮火するだろうから、ピンチでもない。なんなら〈ウォーターフォール〉で消火して逃げられる。

 魔物なりに戦術があると感心すれば良いのか、穴がある戦術だと笑え良いのか、微妙なところだ。もっと数が居れば脅威だったかもしれないが、敵は2体(正確には亀を入れて5体)なので、個別に対処すれば良いだけだ。


「ソフィ、範囲指定じゃなく、魔物1体を狙って仕留めてくれ。残りの方は俺が対処する」

「ええ、分かっているけど、ジグザグ動いて狙い難いのよね……そこっ!〈メイルシュトローム〉!」


 溶鉱炉亀を2体持っている方のリビングメイルが水の結界に捕えられると、渦の輪が多数出現した。亀2体も急に水に包まれて驚いたのか、甲羅から頭を出し渦の首輪が掛けられる。

 良し、これで残り1体に専念できる。俺も溶鉱炉亀1体持ちのリビングメイルをロックオンして、〈ウォーターフォール〉を発動させた。


 しかし、横にホバーダッシュするリビングメイルは、上の魔法陣から水が落ちる前に範囲外へと走り去っていく。おおう、俺も範囲魔法に狙われた時は偶にやるけど、敵にやられると面倒だな。多分、属性ダメージは入っていると思うが、期待した水による足止め効果は無い。

 さて、どう対処するか。広範囲魔法な〈アシッドレイン〉なら確実だが、1体相手に勿体ない。〈アクアジャベリン〉は、あの速さで移動されると狙い難い。〈ライトボール〉か〈ライトピラー〉辺りを当てて盲目の状態異常を狙う……いや、亀の方ならまだしも、ゴーレムなリビングメイルの視界を塞いだところで意味があるのか?


「おい、どうすんだ?

 3人で前に出て囲むか?」

「それだと、逃げそうなんだよな。出来れば脚を止めてから、叩きたい……」


 ベルンヴァルトが前に出たそうにしていたが、追いかけっこになる可能性を考慮して、押しとどめる。

 取り敢えず、幾つか思い付いた案の中で一番手っ取り早い、定番の足止め魔法を使用してみた。


「〈アクアウォール〉!」


 リビングメイルの移動先を読み、更に壁が生える時間を考慮し、木と木の間に生えて逃げ場がない様に魔法の壁を生み出した。水の壁が地面から生えてくるまで少しのタイムラグがある。その僅かな時間にリビングメイルが方向転換しようとするが、溶鉱炉亀の重量分だけ慣性を消しきれなかったようだ。ドリフトする感じで、水の壁に突っ込んだ。

 〈アクアウォール〉は粘性のある水で出来ている。捕らわれると普通なら足元が滑って動けなく……なると予想していたのだが、若干浮いているリビングメイルには効果が薄いようだ。粘着性の自ら逃げようと、外に逃げようとしている。


「逃がすかよ! 〈アクアジャベリン〉!」


 止まってしまえば、的にするのは容易い。水の投げ槍を撃ち放ち、胴体の鎧を貫通させ、水の壁に縫い留める。その隙に俺達は前に出た。

 リビングメイルの弱点である核は、身体のどこに付いているのか分からない。個体ごとに違うからだ。水の投げ槍が刺さった胸は違うのだろう。藻掻くリビングメイルは、右手に持っていた溶鉱炉亀を俺達に向けると、往生際悪く砲撃してきた。


「そろそろ、しつこいぜ! おらぁ!」


 〈カバーシールド〉ではなく、素の状態で前に出たベルンヴァルトは、その砲撃を撃ち返した。何度も受け止めていたとはいえ、飢餓の重棍をバットに見立ててピッチャーライナーを撃つとは。

 打ち返された砲弾は、そのままピッチャーミット……ではなく、溶鉱炉亀にぶち当たり、盛大な音を立てた。当たった溶鉱炉亀は、リビングメイルの腕から零れ落ち、地面へと落下する。


「リビングメイルは私が貰うぞ!」「(弱点は頭ですよ~)」

「亀の止めは俺が!」


 ルティルトさんと狙いを確認し合ってから、〈フェザーステップ〉で前に出た。地面に落ちた溶鉱炉亀は驚いているのか、頭と脚を引っ込めた防御形態だ……しかし、対処法は既に分かっている。〈フェザーステップ〉の勢いのまま駆け寄り、その砲塔の奥へミスリルバスタードソードを突き入れた後、手を放して駆け抜けた。

 直ぐに振り返って、制動を掛ける。すると、溶鉱炉亀が爆発して脚を吹き飛ばしたところであった。うん、これなら爆破ダメージも喰らわない。


「〈一刀唐竹割り〉! たあぁぁ!」


 大上段にミスリルハルバードを振り上げたルティルトさんが、裂帛の気合の声を上げた。振り下ろされた一撃は、リビングメイルを頭から切り裂き両断する。ついでに水の壁も切り裂き破壊したようで、只の水へと戻って行く。

 壁が崩れ落ちると共に、支えを失くしたリビングメイルもその場に崩れ落ちるのだった。

 〈敵影表示〉の赤点も全て消えたので、討伐完了である。ホッと安堵の息を突くと、近くの木から黒い物が落ちて来た。何かと思えば〈宵闇の帳〉で隠れたレスミアだ。解除して白い外套姿を見せると、ルティルトさんの元へ駆け寄ってハイタッチを交わす。


「お見事でした!」

「ミーアもな。弱点の位置を知らせてくれたのは助かったよ」

「いえいえ、それくらいしか出来なくてすみません。

 木の上から狙っていましたけど、あの速さで動かれると〈不意打ち〉も難しいですよ。ザックス様も、もう1本横の木の方で〈アクアウォール〉を使ってくれたら、上から狙えたのに……」

「無茶言うなよ。あの速さで移動する敵を壁に捕えただけで、精一杯だって。それにしても、いつの間に木の上に居たんだ?」

「アハハ! 闇猫ですからね!」


 鈍重な砲台が合体して機動力を得ると、ここまで厄介になるとはな。リビングメイルの方も行動パターンが変わって中距離を保つようになるのも地味に面倒臭い。救いなのは合体しても弱点が同じ水属性な為、〈メイルシュトローム〉で2、3体まとめて倒せる事か。

 色々反省点はあるが、未だ周囲の木々は燃えている。他の皆を休ませるために、〈ウォーターフォール〉で炎上する生垣の一部を消し、剣で伐採して先に進んだ。




 その後も、所々で行く手を阻む生垣を破壊しながら直進した。

 事前情報からある程度は知っていたが、道中普通に歩く分には魔物と遭遇する頻度は低い。溶鉱炉亀は地面に隠れているものの、背中の甲羅(砲塔)が頭を出しているので、先に目視で発見できれば迂回する事が可能である。ドロップ品の溶鉱炉亀の甲羅片は、それほど欲しい物でもないので、移動を優先した方が良いと判断したまでだ。


 そして、リビングメイルの方は、普段どこに居るのか不明。火事になると、どこからともなくホバーダッシュで寄ってくるからだ。ただ、これは火事現場から直ぐに離れれば、接敵せずに済む。

 1度だけであるが、リビングメイル1体+溶鉱炉亀4体の編成に当たった時は、少し笑ってしまった。リビングメイルの両手、両膝に溶鉱炉亀がくっ付いており、4発同時砲撃をしてきたからである。

 リビングメイル重砲撃型とか、フルバレットメイルとか名付けたくなった。

 ただ、火力の一点集中は強いのだが、重量過多の様でホバーダッシュの速度は落ちているし、バランスは悪いらしい。同時発射する度に、反動でよろけていたからだ。ついでに、5体纏まっているせいで〈メイルシュトローム〉の良い的にしかならない。一撃で全滅していた。


 他にも楽に倒せる方法を試してみたところ、罠術が良く効いた。それと言うのも、単体だと地面スレスレで浮いているリビングメイルだが、溶鉱炉亀を装備すると重さで接地してしまっていると判明した。うん、溶鉱炉亀を装備していると、ホバーダッシュした後の地面に引き摺った跡が残るのだ。

 その為、設置型の罠術に引っ掛かり易い。ホバーダッシュの移動先を読んで、〈トリモチの罠〉や〈トラバサミの罠〉を〈遠隔接地〉で接地するだけで、足を取られてすっ転ぶのである。しかも、溶鉱炉亀との合体が解けて転がり落ちるサービス付き。砲塔を下にして、逆さまにトリモチに引っ掛かった溶鉱炉亀なんて、ジタバタするしかなくて哀れでもあった。しかも、その状態で一か八かの砲撃を行ったところ、トリモチに砲弾が当たって爆発の逃げ場が無くなったのか、内爆して頭と脚が吹っ飛んでしまっていた。南無。


 他には〈崩落の罠〉は天井がないと使えない。〈落とし穴の罠〉は分断には使えるけど、中から砲撃して来て鬱陶しい。〈くくり罠〉は近くに木が生えていれば、ロープで宙吊りに出来る。ただ、溶鉱炉亀も取り落とすのでサンドバッグに出来そうだったが、軽くなると浮遊して格闘を仕掛けてくるのでイマイチ。

 木々の間に網を張る〈かすみ網の罠〉は悪くない。網に引っ掛かっても転ぶ事は無いが、その状態で砲撃すると砲弾が網に引っ掛かって、網ごと引き摺り倒されるからだ。そうなると、合体も解除されて、網に絡め捕られる。トリモチもそうであるが、機動力の無くなった格闘リビングメイルなんてミスリル武器で一方的に破壊出来るのだった。


 検証の結果〈トリモチの罠〉が一番楽に倒せる戦術になった。罠術師の初期に覚えるスキルなのに、嵌まれば強い。上手く設置すれば、複数のリビングメイルを引っ掛ける事も出来たし、そこに〈メイルシュトローム〉を撃てば一撃で全滅させられる。5体まとめて倒すと、ソフィアリーセがちょっと誇らしそうな顔をするので可愛い。ついつい、お膳立てをしてあげたくなる。


 そんな検証をしながら、先へ進んだ。

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