第582話 大砲な溶鉱炉亀

「〈カバーシールド〉!」「〈カバーシールド〉!」


 飛んでくる砲弾を、ベルンヴァルトとルティルトさんが防御した。その隙に、〈詳細鑑定〉を掛ける。


【魔物】【名称:溶鉱炉亀】【Lv43】

・背中の甲羅が溶鉱炉の形をしている亀型魔物。普段は隠密状態で地面の中に隠れているが、獲物が近くを通り掛かると動き出し、溶鉱炉から大砲の如く鉄玉を撃ち出して攻撃する。亀である為動きは鈍いものの、四肢を上手く使い溶鉱炉の射角を調整し狙いを定めるので、命中率は悪くない。手足と首を引っ込めると防御形態になり、自身の耐久値を2段上げる。

 また、火の中を好んでおり、近くで火事が発生すると寄って行く習性がある。この時、溶鉱炉の温度が上がると、砲弾の発射頻度が上がる。

・属性:火

・耐属性:風

・弱点属性:水

【ドロップ:溶鉱炉亀の甲羅片】【レアドロップ:ランダム鉱石玉】



 ……いきなり現れたと思ったが、『隠密状態で地面の中に隠れて』いたせいか!

 そして、既に燃え盛る生垣の中に居たのも不味い。砲撃の発射で一部の生垣は吹き飛んだが、残骸が燃えたまま散らばった。その燃えている枝に溶鉱炉亀が乗り掛かり立ち上がると、背中の溶鉱炉をこちらへ向けた。先程までは山なりの砲撃だったので受け止めるのも容易だったが、水平射撃になると着弾までの時間が短くなるので厄介になる。

 黙って、撃たせる訳にも行かない。〈無充填無詠唱〉の力を借りて、即座に魔法を発動させた。


「〈ウォーターフォール〉!」


 溶鉱炉亀の群れの上から、滝の如き水が落下した。水は亀共を飲み込み、周辺に散らばっていた火を消し去って行く。その水流の中から砲弾が撃ちあがったが、勢いも弱く、あらぬ方向に落下した。水の影響で角度がズレただけでなく、威力も弱くなっているようだ。水で溶鉱炉の中まで冷えたせいか?

 どちらにせよ、チャンスである。〈フェザーステップ〉で前に出た。


 水を掻き分け接近する。〈ウォーターフォール〉の効果が終わり、水位が急速に下がると砲塔(甲羅)が姿を現す。5個全部が射程に入るよう位置取りをしてから、右手を横一文字に振るう。


「〈雷光閃〉!」


 紫色の剣閃が飛び、5個の砲塔を傷付けた。流石に両断とは行かなかったが、思ったより傷口が大きい。ついでに麻痺してくれていると楽なのだが、悠長に敵を観察している暇は無いな。そのまま、一番近い溶鉱炉亀に踏み込んで追撃のスキルを発動させた。


「〈幻影乱れ斬り〉!」


 二刀流でしか使えない4連斬り+幻影の4連斬りの8連続攻撃スキルである。亀の後ろに二刀の幻影が出現し、俺の斬撃に合わせて攻撃する。最初の×の字斬りで、砲塔がバラバラに切り刻まれた。ちょっと手に帰って来た反動からして、硬いがミスリル製武器ならば、斬れたようである。

 しかし、砲塔=甲羅なので、刻んだところで砲撃が出来なくなる(多分)だけで倒したわけでは無い。

 連続斬りの残りの2撃で、足元を薙ぎ払った。砲塔を破壊されて驚いている亀の頭を、鋏のように切り飛ばしたのである。あたり前な気もするが、亀の首は切った感触も無いくらい柔らかかった。狙うなら、こっちが早いか。


「〈ランスチャージ〉!」


 後ろから声がしたと思えば、ハルバードを構えたルティルトさんが突進して来て、溶鉱炉亀の1匹を串刺しにした。ハルバードの先端の穂先が砲塔を貫通し、そのまま持ち上げる。地面に這い蹲っている亀なので、突撃系だと頭は狙い難いか。槍に刺さって持ち上げられた亀は驚いたようにキョロキョロしていた。

 丁度、俺の剣が届く範囲であったので、首を切り落とす。


「首の方が柔らかくて、倒しやすいですよ!」

「みたいだな! しかし、ミスリルハルバードなら、これくらい……〈一刀唐竹割り〉!」


 ルティルトさんは、ハルバードを引き戻して刺さっていた亀を落とすと、振り上げる勢いも使ってジャンプした。2m程飛び上がり、大上段に構えたハルバードを別の亀に振り下ろす。

 その一撃は、溶鉱炉亀の砲塔からその下の本体まで真っ二つにし、地面を叩いて轟音を立てた。スキルの威力も乗っていると思うが、ミスリルの重量武器の破壊力は凄まじい。



 これで、残りは後方に居る2匹。結局、どいつも麻痺はしていないようで、砲撃を再開した。その狙いは前衛の俺達でなく、後方のソフィアリーセのようだ。まぁ、ベルンヴァルトを盾役に残してきたので、大丈夫だろう。

 ルティルトさんと顔を見合わせて、頷き合う。『残り1匹ずつ、対処しよう』なんて、意図が伝わったのか、別々の亀に向かって走り出す。

 そんな折、俺の狙っていた溶鉱炉亀の横合いから黒い暗幕が颯爽と現れると、擦れ違いながら溶鉱炉亀の頭を切り飛ばして行った。レスミアに、美味しいところを横取りされたか。



 最後の1匹に目を向けると、手足と首を引っ込めて防御形態へと移行していた。仲間が倒され、ルティルトさんが駆け寄っているのを認識した為だろう。

 それに構わず、ルティルトさんはハルバードを振り上げて、砲塔ごと両断しようと振り下ろす……盛大な金属音が響き、ハルバードが跳ね返された。砲塔の先端にも傷は出来ているが、先程両断されたのと比べると、硬くなっているのは一目瞭然である。鑑定文に『手足と首を引っ込めると防御形態になり、自身の耐久値を2段上げる』なんてあったが、ミスリル武器を跳ね返す程硬くなるのは、厄介だな。更に、攻撃を受けた溶鉱炉亀は、ぐわんぐわん揺れながらも、砲撃を打ち上げた。起き上がりこぼしのように揺れているので、砲撃がどこに飛んで行くかも分からない。

 ただし、図書室の本から得た情報によると、この状態でも倒す方法はある。それを試す良いチャンスだと考えて、駆け寄った。


「ルティ! 砲塔の中を攻撃してみる!」

「砲撃のタイミングに気を付けなさい!」


 ルティルトさんも情報として知っているようだ。バックステップで離れる彼女と入れ替わり、俺は至近距離へ詰め寄る。

 砲撃はさっき飛んで行ったばかりだから、十数秒くらいは大丈夫なはず。砲塔の過熱状況で発射間隔が変わるらしいが、〈ウォーターフォール〉で冷やしたばかりなので時間の余裕はあるだろう。

 揺れる砲塔を手で押さえて止めると、その中に剣を突きたてた。右手の甲から生えた剣を右腕ごと突き入れると、奥にある砲弾に刺さったような硬い感触が返ってくる。次の瞬間、穴の中が爆発した。

 突き入れたままの右腕に小さい痛みが走り、同時に溶鉱炉亀の頭と脚が吹き飛んで行く。どうやら、内部で火薬?が暴発して、内部から亀の本体を吹き飛ばしたようだ。


 これが、手足を引っ込めた状態でのみ使える討伐法である。なんでも、亀頭が出ている時は暴発しないのだとか。なので、通常状態では首切り、防御形態なら砲塔内部を攻撃するのがセオリー。ルティルトさんのように、ミスリル武器があれば、ゴリ押しも可能……俺も魔喰抜剣の二刀流は止めて、普通のバスタードソードとして使った方が良いかも知れない。

 


「ザックス、手は大丈夫なのか?」

「え? ああ、大丈夫ですよ。軽い火傷程度の痛みはありましたけど……怪我も無いです。多分、爆発による属性ダメージかな。ブラストナックルのお陰で火属性ダメージは大幅に減るので、ほっといても回復する程度です」


 右手のブラストナックルを外してみたが、怪我は無い。むしろ、周囲の熱気の方がキツイので、早々に装備し直した。

 すると、ルティルトさんはハルバードの石突側で地面を叩く。


「本来は、長物を突き入れるのだからな。そのショートソードでは、短過ぎるのだよ」

「ですね。魔喰解放!」


 スキルを解除すると拳から刀身が消え、鞘に入ったままのミスリルバスタードソードが出現した。多分、こっちの長さと重さならハルバードのように両断したり、砲塔に突き入れたりすることが出来ると思う。問題は、スキルを使おうと武器に魔力を集めると、勝手に〈魔喰掌握〉してしまう事だが……適当な投擲用短剣を喰わせておくか。〈フェイクエンチャント〉で適当なスキルを付与しておけば良い。(〈魔喰掌握〉が吸収するのは付与スキル付きの武具のみ)


 そんな会話をしていると、溶鉱炉亀の死体が消えて行き、ドロップ品へと変わる。地面に出現したのは、歪曲した甲羅……砲塔や甲羅の一部が4つと石玉が1つだ。



【素材】【名称:溶鉱炉亀の甲羅片】【レア度:C】

・耐熱性に優れた溶鉱炉亀の甲羅の一部。パーツをそろえて組み立てれば、ミスリル鉱石をも溶かす溶鉱炉になる。ただし、熱源は別に用意しなければならないし、サイズも小さめ。

 ミスリルの溶融温度にも耐える為、これを材料にして大型の炉を作るのに使われる事が多い。ただし、非常に重く固い為、加工し難いのが難点である。



 よくよく見ると、4個はバラバラの形をしていた。

 パズルのように組み立てるとかデアゴ〇ティーニかな? 毎亀(号)付いてくる!

 ただ、パーツの一つでも結構な重さなので、素人が組み立てるのは危ないな。武具じゃないから〈装備重量軽減〉も効かない。そんな見分をしていると、他のメンバーも集まって来た。

 ドロップ品を見たソフィアリーセは、頬に手を当てると記憶を探るように話し始める。


「確か……その亀の素材は、鍛冶師が使う炉の補修に使われるから、買い取り所で良い値が付くそうよ。重くて、アイテムボックス持ちのパーティーしか持ち帰らないので、ギルドにも常に依頼が出ている……だったかしら?」

「ああ、第1ギルドの掲示板で見た覚えがあるな。取り敢えず、売却用で持ち帰ろう。

 それと、お楽しみは、こっちのレアドロップだな」


 皆に見えるようにレアドロップの石玉を持ち上げた。おっと、既にずっしりとした重さが手に掛かる。金属の含有量で石玉の重さは変動するが、こいつは格別に重い。



【素材】【名称:ランダム鉱石玉】【レア度:C】

・何が入っているかはお楽しみ。金属球の回りを薄い石で覆っており、破壊するまで何の金属か分からない。

 基本的にレア度以下の金属球が入っているが、低確率で宝石やレア度Bの金属が入っている事もある……かも知れない。



 皆が注目する中、剣の柄で石玉を叩いてみる。すると、表面の薄い石は簡単に壊れて中から……銀色に輝く球体が現れた。うん、銀の塊のようだ。


「あー、レア度的に外れだけど、銀カードを量産する材料になるから、俺にとっては当たりかな?」

「これって、宝石が出る事もあるんですよね? このサイズの宝石とか……ちょっと亀を狩りたくなってきました」

「うふふ、ミーア、期待し過ぎよ。この間の採取パーティーが言っていたでしょ。

 『年に何度か採取依頼が来て、ペンギンに宝石を捧げて、ドロップ品の宝殊を得る』

 採取パーティーがあちらの方が早いと判断しているのよ。こちらの『ランダム鉱石玉』は、かなりの低確率なのでしょうね」

「まぁ、道中ドロップした分でワクワクするくらいは良いんじゃないか?」


 ソフィアリーセの分析に女性陣が肩を落としたので、フォローを入れておいた。こういうのは、物欲センサーがあるからな(無根拠)。

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