第580話 火山への準備と冷房の魔道具の使い道
あらすじ:レスミアの事をHな目で見ていた事は、女性陣にバレバレだった。
話を逸らす事も含めて、ストレージからタリスマンを取り出した。直径10㎝程の丸く大きなペンダントトップが付いた、ペンダントの一種である。
【アクセサリー】【名称:火属性無効のタリスマン】【レア度:B】
・ルビーが施されたミスリル製のタリスマン。火の精霊をイメージした意匠が施されており、火属性ダメージを全て無効化すると共に、熱さも感じなくなる。
・付与スキル〈火属性無効〉
燃えるような髪をした女性がルビーを掲げるような意匠をしている……炎の精霊ってライオン人間だったような気もするが、あくまでイメージなんだろうな。大多数は姿が見えないし。
そんなアクセサリーを女性陣に見せて説明する。
「昨日の戦利品交渉で、火属性無効のタリスマンを手に入れたんだ。装備すれば熱さも感じなくなるから、火山フィールドでは最適なんだが、1つしかない。
俺はブラストナックルがあるし、ヴァルトも暑さには強いからって辞退してくれた。だから、女性陣の誰が使うのか、意見が欲しい」
すると、女性陣は顔を見合わせてから、息の合った様子で全員頷いた。
「体力の少ないソフィが身に着けるべきね。今日の雪山歩きでも付いてくるのが精一杯だったから、暑さで体力を奪われるわけにはいかないでしょう?」
「いいえ、前衛で盾役をするルティの方が優先でしょう。ここの階層は火属性魔法を使う魔物が居るのですもの。〈カバーシールド〉で守って頂戴」
「はいはい! 戦闘中も踊って疲れるアタシが装備するべきだよね!」
「フィオの呪いの踊りは半自動で踊るから、そこまで疲れないって言ってなかった?
ええと、交代で付けるとかどうですか?」
見事にバラバラだった。パーティーを組んで日が浅いし、〈青き宝珠の団結〉が無ければこんなものだろう。
俺にも意見を求められたので、取り敢えず試しに付けてみて、効果を実感してみてはどうかと提案した。元より、火山装備が使えるか調整の為に来ているのだ。30分程、魔物の来ない入口付近に滞在する事になった。
周囲を歩き回ったり、軽く模擬戦をしたりしてみたところ、ルティルトさんでも長時間戦闘はキツイらしい。歩き回るくらいなら、凍える北風の冷風で問題ないが、戦闘をすると冷風が隙間から逃げてしまうからな。かと言って、凍える北風の風量を多くすると、身体が冷え過ぎて駄目だそうだ。
女性は温度変化にデリケートだからな。冷風全開でもケロッとしている鬼人族と比べてはいけない。
そんな検証をしていると、意外にもソフィアリーセの方が暑さに強かった。女性陣の中でもレスミアとソフィアリーセが着ている『氷華花咲くロングテールドレス』は、〈火属性耐性 大〉の付与スキルを持っているので、ルティルトさんよりも暑さに強いという結果になったようだ。
その為、火属性無効のタリスマンはルティルトさんかフィオーレに使ってもらう事にしようとしたのだが、待ったが掛かる。
「いや、私も実家を探せば火属性耐性付きの装備くらいはある。明後日の攻略までには準備しておくので、無効のアクセサリーは皆で順番に使おうじゃないか」
護衛騎士であるルティルトさん的には、主を差し置いて無効アクセサリーを使う気には成れなかったらしい。
そんな訳で、結局レスミアが提案した、皆で使うが採用されたのだった。
因みに、フィオーレだけ火耐性装備が無いので、手持ちを耐火の刀(〈火属性耐性 小〉)を貸そうか聞いてみたところ、「持てなくはないけど、これ持って踊れないって」と突っ返された。
仕方がないので、フィオーレの手持ちアクセサリーのペンギンチャームに〈スキルエンチャント初級〉を使用した。
【スキル】【名称:スキルエンチャント初級】【アクティブ】
・付与の輝石を一つ消費することで、自身が覚えている付加術を武具に永続付与する。
【スキル】【名称:付与術・初級属性耐性】【アクティブ】
・短時間の間、対象の属性耐性を一段階上げる。ただし、使用できる属性は術者の資質による。
使用する際は、〈付与術・火属性耐性〉のように、付与したい属性に言い換える事。
【アクセサリー】【名称:ペンギンチャーム】【レア度:C】
・グライピングの力を宿したアクセサリー。身に付ければ、寒さ全般に強くなり、凍結の状態異常を予防する。ペンダントトップのみなので、他のアクセサリーと組み合わせよう。
・付与スキル〈凍結耐性 中〉〈火属性耐性 小〉
・〈凍結耐性 中〉:状態異常の凍結になる確率を下げる。また、温度変化(低温)による影響も軽減する。
・〈火属性耐性 小〉:火属性ダメージを少し軽減する。また、温度変化(高温)による影響も少し軽減する。
〈付与術・初級属性耐性〉を使用して、〈火属性耐性 小〉を永続付与したのである。祭りの屋台で買った付与の輝石を使ってしまったが、一人だけ耐性無しは可哀そうなのでしょうがない。
それに、テンツァーバゼラードはミスリル製を作成中であるし、花乙女のフェアリーチュチュもぼちぼち上位装備に変えてあげたいので、他に選択肢が無かったとも言う。アクセサリーなら付け替えが簡単なので、レベルが上がっても腐らないからな。
火山フィールドでの検証を終えて帰宅すると、アドラシャフトへ定期報告に行っていたフォルコ君が帰って来ていた。頼んであったランハートの工房の報告を受ける。
「『試作魔道車は、もう1週間待っとれ』だそうです。丁度、欠陥箇所を改善した新型を作成しているところでした。年始にザックス様が送り届けた車のデザインを元に車体から作り直しているので、時間が掛かるそうです」
そう言えば、お正月に炬燵でゴロゴロしながら、車のラフ画を描いて送っておいたのだった。多分、初期型は馬車の車部分を改良している筈なので、その先を見越して描いたのである。いや、馬車の御者席って、むき出しのオープンカー状態だからね。バイクくらいに速度が出るとなると、風防となるフロントガラスは欲しいし、雨除けに天井も欲しい。そうなると、日本的な自動車の形状が無難と考えた為だ。こっちだとガラスが錬金調合製なので、車に合う物を作るのは大変だろうけど。まぁ、形が決まって、レシピ登録すれば量産は楽になる。
……いくつかデザインをしておいたが、ランハートがどんな形の車を作ってくるのか楽しみだな。
本日のレベル変動は以下の通り。
・基礎レベル50 ・アビリティポイント54
・剣客レベル41→43 ・魔道士レベル40→42
・街の英雄レベル40→42
翌日は雪山での疲れを癒す為、お休みである。明日からは二日間火山フィールドに入る予定なので、休養は重要なのだ。ベルンヴァルトは朝から酒を飲みながら、武器の手入れをしているし、フィオーレもキッチンに摘まみ食いに来て、催促のギターを鳴らしている。まぁ、BGMと思えば問題ない。ラジオ等の音楽再生機器が、まだ無い世界なので寧ろ贅沢なのかもな。
レスミアは勿論料理なので、俺もその手伝いだ。昨日頼んだ、スポーツドリンクの作成である。
身体を冷やすだけなら、半分アイスな氷結樹の実を牛乳とミキサーするだけのスムージーでも良いが、フリッシュドリンクも飲んで凍える北風も使う状況なので、身体が冷えすぎる可能性もある。
水分補給がメインとなるスポーツドリンクも準備するのだった。
作り方は簡単。鍋に氷結樹の実と水、少しのデリンジャーレモンの絞り汁(要は只のレモン汁)を入れて煮込み、水に色が移って柔らかくなったら、布で濾すだけである。後は水で割り、お好みで砂糖や蜜リンゴの蜜で甘みを足したり、ブルーロックソルトを少し削り入れて塩分を足したりして、飲みやすい様に調整するだけである。
【食品】【名称:氷結樹の実と蜜リンゴのジュース】【レア度:C】
・ハスカップの変異種である氷結樹の実から煮出したジュース。煮込んだことにより、身体を冷やす効果は無くなったが、さっぱりすっきりとした後味で飲みやすい。隠し味としてブルーロックソルトが入っており、運動等で汗をかいた後の水分補給に最適である。
・バフ効果:知力値小アップ、精神力小アップ
・効果時間:30分
ブルーベリージュースのような透き通った赤紫色のジュースになった。添加物の甘みと塩味がダンジョン産なので、バフ効果や効果時間が少し良くなっている。効果時間が長いから、小休止の度に飲めば魔法の威力が少し上がる状態を維持できるだろう。まぁ、最近は〈魔攻の増印〉や祝福の楽曲、装備品の宝石効果、ジョブのステータス補正に料理バフと、色々絡み合い過ぎて小アップがどれだけダメージになっているのか検証出来ていない。昔調べた時は、10%くらいだったか? ランク8魔法とか、明らかにオーバーキルな威力であるが、無いよりはマシだろう。
冷えた水で割り、大型のピッチャーで10個程作成しておいた。折角なので、その内の2個は『星泡のワイングラス』を使って炭酸ジュースにする。暑い中で、炭酸の喉越しを味わうのも格別であるからな。ワイングラスサイズに移し替えて炭酸充填するのは、ちょい面倒なので作れたのはピッチャー2個のみである。
「ザックス様も少し休憩しませんか? 余った材料でオヤツを作りましたから」
「うっま! ミーア、クラッカーのお代わり頂戴! もうなくなっちゃった!」
「はいはい、お昼前に食べ過ぎちゃ駄目だから、これで最後ね」
レスミアが布越しで残った氷結樹の実を再利用し、オヤツを作ってくれたようだ。クリームチーズと混ぜてディップし、クラッカーに付けて食べるみたいである。頂いてみたところ、氷結樹の実の酸味と上に掛けられた蜂蜜が相まって美味しい。フィオーレでなくともパクパク食べてしまうな。
そんなオヤツタイムをキッチンメンバーで楽しんでいると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
対応に出たフロヴィナちゃんが、来客であるリスレス義姉さんをキッチンまで連れて来てくれる。
「あら? 美味しそうね。私にも下さいな。
食べながら、店舗改築の相談をしましょ」
「はーい、リース姉さんの分も準備しますよ」
「おはようございます。丁度、良い魔道具が手に入ったので、待っていたんですよ」
リスレス義姉さんに見せたのは、先日手に入れた『凍える北風』の魔道具4個である。これを新店舗の天井各所に取り付け、クーラー代わりに出来ないかと相談を持ち掛けてみた。
何故ならば、先の領都防衛戦において主要な錬金術工房の錬金釜が破壊されたせいで、魔道具の生産がストップしているからである。それに、南の外壁内にある騎士団本部のインフラが溶岩弾でズタズタにされたように、復旧工事で暖房や冷房に使う魔道具の需要が増え、手に入り難くなっているのだった。
一応、錬金術師協会からは『在庫を優先的に売ってあげよう』と返答が来ているそうだ。俺が街の英雄である事と、ビガイルが盗んだ魔道具や金貨を返却した事のお礼らしい。
ただ、節約できるなら、それに越した事は無いよな。魔道具を見たリスレス義姉さんは、手を叩いて喜んだ。
「これ、高級品の魔道具じゃない! 良く手に入ったわね~。
魔結晶を入れる部分と店舗の魔導配線を繋げる改造が要るって聞いた事があるから、職人に相談してみなくっちゃ。
ザックス君のお陰で、5百万円くらいは建設費が浮くわ。他の所のグレードアップに使えるわね!」
安くあげるのではなく、調度品とかを豪華にしたいそうだ。計画では、平民街でも貴族街と同じくらいのカフェにしたいらしいからな。
そんな打ち合わせが昼まで続き、午後からは銀カード各種を作る内職をしつつ、のんびりと休日を過ごした。
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