第574話 陽動作戦とランク8

 3編隊+2羽、計17羽のヴィルファザーンが横に広がり、山の上空から編隊ごとに急降下を開始した。その半数は緑色の魔法陣を展開している。この状態のヴィルファザーンの攻撃パターンは2種類。そのまま急降下して爪撃をしてくるか、獲物の上を飛んで〈ウインドジャベリン〉を撃ち下ろしてくるか。


 弓使いの迎撃リーダーさんは、この状況に慣れているようで、ヴィルファザーンの群れが迫ってくるにも拘わらず、魔道士2人に待機指示を出したままだった。

 充填完了済み、〈魔攻の増印〉付きの魔法陣を掲げたソフィアリーセがやきもきし始め、迎撃リーダーへチラチラと目線を向け始めた頃、ようやく号令が出た。


「今だ! 魔法を撃てぇ!」

「〈エクスプロージョン〉!」「〈エクスプロージョン〉!」


 魔法陣が光を放ち、空に2つの火球が広がった。それぞれ別の編隊を狙って放たれており、後続の編隊も避け切れずに火球へと突っ込む。ただし、高速で飛ぶヴィルファザーンに対して、初撃の属性ダメージは入っても、火球が収縮している合間に突き抜けてしまう。


 魔法陣を展開していない(=急降下攻撃をしてきた)ヴィルファザーンが姿を現し、そのまま俺達へ爪撃を仕掛けてくる。狙われたのは、勿論魔法を放った2人の魔道士だった。それぞれ3羽ずつ飛来する……それを〈サン・デルタシールド〉の三角形の光の盾が迎え撃った。

 独りでに動き出した光の盾は、ヴィルファザーンの進路上に割り込むと、その爪撃を受け止めた。属性ダメージが入ったのか「ケーン!」と情けない鳴き声を上げて跳ね返される。そこに、光の盾が丸まって〈ライトボール〉となって反撃に飛んで行った。

 その直撃を受けて倒れる奴。〈ジェットゲイル〉を発動して空へ舞い上がろうとしたが、〈囚われのメドゥーラ〉の効果で脚が動かず雪原に墜落する奴(〈ライトボール〉が追いかけて行って直撃)。運よく空に飛びあがり、〈ライトボール〉を振り切ろうとした奴も居たが、上空の〈エクスプロージョン〉の爆発に巻き込まれた。


 そうそう、〈ウインドジャベリン〉を準備していたヴィルファザーンは、この爆発に巻き込まれて全部撃墜されたようだ。〈ウインドジャベリン〉を使う奴は大体同じ高度を飛ぶので、その辺りに〈エクスプロージョン〉を置いておけば、こうして巻き込まれてくれるそうだ。弓使いの迎撃リーダーさんがタイミング計っていたのは、この高度まで降りてくるのを見極めていたのだ。


 こうして、群れの殆どを撃墜できた。残るは3羽のみだったが、俺の準備していた〈ダウンバースト〉と、弓使いの〈ガトリング・アロー〉で呆気なく終了した。




 空の脅威が無くなってから、採取パーティーが崖を登り始める。というか、採取リーダーが崖を垂直に掛け上がり、足場が確保できる所まで登ると、そこから長い縄と縄梯子を下したのだった。

 少しだけ雑談で話したが、山羊人族という山登りの得意な種族だそうだ。うん、猫人族でも〈猫体機動〉で壁を走るからな。山羊なら似たようなスキルがあるのだろう。

 他の面々は縄梯子を登り、身体能力が高い者は縄を掴んで崖を歩いて登っている。ロープクライミングという奴だろうか? 命綱も無しに良くやるもんだ。


 そんな様子を〈モノキュラーハンド〉で見ながら、俺達は小休止。後は、ヴィルファザーンがリポップしないか見張り、出現したら先程と同じ要領で討伐していくだけである。それも、1パーティー分、5羽ずつしか出現しないので、最初よりは気楽なものだな。




 採取リーダーのパーティーが山頂に登りきるまで、1時間半掛かった。見上げるような高さの山なのに、かなり早いのではないだろうか?


「ああ、普段より30分は速いな。魔物どもを早めに撃墜できたお陰であるが、流石ヴィントシャフトの英雄だ。光の盾の魔法や〈プラズマブラスト〉を使えるのは羨ましいぞ」

「いえ、こちらも勉強させてもらいました。このルートなら、壁走り系のスキルがあれば真似出来そうですから」

「はっはっはっ! 仮に出来たとしても、壁走りが出来るジョブは少ないからな。山頂に行っても、少人数で採掘作業をするのは面倒だぞ!」


 なるほど、言われてみればそうだ。先日の陽鉱石の採取でも、地道に拾い集めるのが大変だったからな。植物系なら〈自動収穫〉が効くのに、鉱石系の採取は面倒である。レア物な宝石とかが出ると嬉しいけど。




 もう一つの迎撃パーティーとは、ここで別れる事になった。

 俺達の魔物を陽動する仕事は終了であるが、鉱石を多く確保しておいた方が良いのは言うまでもない。なにせ、これだけ手間を掛けて山頂に送っても『泊まり掛けで来ていた他のパーティーが、先に採取し尽くして何もない』、なんて事もあり得る。俺達も山裾を歩いて、鉱石採取地を探すのである。


 俺達は山に対して左回りのルートで出発した。

 〈サーチ・ストックポット〉を使って、近くにある採取地を探索し、山に近い方に向かって移動する。最初はソフィアリーセが雪歩きに慣れていないので、歩調を合わせてゆっくりと。雪国出身なフィオーレがアドバイスをすると、徐々に慣れて行った。


 最初に見つかったのは、直ぐ近く森の入った直ぐにあった氷結樹が3本である。早速、フィオーレが駆け寄ってピンク色の氷結樹の実を取り始めた。まぁ、採取中の摘まみ食いは、いつもの事なので問題ない。俺も採取袋を取り出して、〈自動収穫〉で回収した。


【素材】【名称:氷結樹の実】【レア度:C】

・氷結樹の氷のマナを凝縮したハスカップの実。果実ではあるが、氷のマナのせいで半分凍っている。ねっとりとした食感に、冷たく爽やかな甘酸っぱさは、夏場に大人気。また、マナの多い食材である為に、調合や菓子にも使われる事も多い。

【氷属性】【熟成100%】


 10粒程採取したフィオーレは、パクパクと摘まみながら皆の元へ駆け寄って行く。そして、ソフィアリーセとルティルトさんに差し出した。


「慣れない雪山歩きは疲れるもんね。はい、甘い物で疲れを取ると良いよ~」

「ありがとう……だけど、貴女寒くないの?」

「夏場に食べる氷結樹の実は私も好きだが、冬場は食べた事が無いぞ」


 フィオーレなりに気遣いだったのだろうが、お嬢様な2人は若干引いていた。まぁ、お嬢様は雪山でアイスは喰わんよな。スキー場でアイスクリームを食べたくなる気持ちは分からんでもないけど、あれってスキーで身体を動かした後とか、暖房が効いた所の話だからな。温泉後なら、なお良し。


「えー、沢山食べると身体が冷えちゃうけど、10粒くらいならへーきだよ?」

「はいはい、フィオの基準で考えちゃだめよ。食べるなら暖かい採取地とか、暖房の効いた部屋とかね。

 あ、私は炬燵に入りながら食べるのをおススメしますよ」

「あら? それなら分かりそうよ。コタツって、アドラシャフトのザックスの家にあった布団付きのテーブルよね?

 スティラが丸まって入っているのが可愛かったわ」


 炬燵は猫の国ドナテッラの文化なので、ここラントフォルガー王国では一般的でない。レスミアの部屋に設置されているけど、ラグマットを敷いて使っているからな。

 さて、そのまま井戸端会議になりそうであるが、〈自動収穫〉は終わったので、そろそろ先に進むか。




 次の〈サーチ・ストックポット〉の反応を目指して進んでいると、今度はかまくらを発見した。ペンギン魔物ことグライピングが、氷風属性魔法の亜種〈イグルースニーク〉で隠れているのだろう。41層でもよく見かけたので、〈第六感の冴え〉で感知する前に見た目で気が付いてしまった。森にあると積雪で隠れるけど、雪原だと丸見えな事が多いんだよな。


 皆に戦闘準備を指示する。すると、ソフィアリーセが「任せなさい」と赤い魔法陣を出して充填を始めた。ヴィルファザーンとの陽動戦のお陰で魔法戦士レベル15に達し、〈エレメント・チャージ〉で充填速度が増している。

 ソフィアリーセに敵の居る位置を教えて、真ん中の3つのかまくらを標的にするようお願いしておいた。勿論、俺も魔法を充填しながらだ。魔法で4匹倒し、残りの1匹は他の前衛に任せよう。

 充填が完了し、ソフィアリーセが銀扇の先に出ている魔剣術(+魔法陣)をかまくらへ向けた。


「〈魔攻の増印〉! 〈アグニズ・ジーゲル〉!」

「〈ファイアジャベリン〉!」


 俺の放った〈ファイアジャベリン〉は、かまくらの1つを貫き、中のグライピングを串刺しにしたが、こっちは注目する必要もないな。


 ソフィアリーセの魔法陣が赤い閃光を発した直後、赤く半透明な立方体が3つのかまくらを包み込み、宙に浮かんだ。

 巨大な立方体の上から、更に追加で赤い立方体が覆い被さる。二重の立方体型の結界は、中と外で逆回転をしながら、中の方が炎で赤く染まっていった。かまくらなんてあっという間に溶けて消えて行き、グライピング3匹が中で炎に巻かれている。グライピングが中で暴れて結界に頭突きをしているが、破壊は無理なようだ。徐々に結界の回転が速くなり、内側の立方体が炎で中が見えなくなっていく……赤く染まったのが臨界だったのか、内側の立方体が大爆発を起こした。ただし、外に爆音は響かない。外側の結界が大きく膨れ上がり、爆発を受け止めたからである。


 そして、膨れ上がった結界が収縮すると共に消えて行く。すると中から炭化したグライピングが落下した。


 残った1匹は、無謀にも〈ジェットゲイル〉で滑って突撃を仕掛けて来たが、ルティルトさんのバックラーで受け流され、雪の上に転がった後、ベルンヴァルトの飢餓の重棍に叩き潰された。



 やはり、ランク8の魔法は強いな。

 そう、先の領都防衛戦において、ソフィアリーセが魔道士レベル45を超えた為、ランク8魔法を習得していたのだった。



【スキル】【名称:初級属性ランク8、極大威力魔法】【アクティブ】

・指定範囲に存在する敵を結界に閉じ込め、高威力の属性ダメージを与える。更に、属性ごとに以下の追加効果を加える。ただし、閉じ込めた対象とのレベル差が大きい場合や、内側から同程度の魔力攻撃を受けた場合、結界は破壊される。


 火:アグニズ・ジーゲル(二重の炎の結界に閉じ込め焼き尽くし、内側の結界ごと爆破する)

 水:メイルシュトローム(結界内を大量の水で満たし、多数の大渦で相手を包み込み各部を捩じ切る)

 風:サファケーション(結界内を真空にして、窒息させる)

 土:ゴルゴーン・ブレイク(結界内に大量の石の蛇を召喚し、噛み付き攻撃をする。咬まれた箇所から石化していく)



 メインが属性ダメージで、爆破とかが追加ダメージになるのはランク7と同じようだ。聞いた話によると、〈アグニズ・ジーゲル〉は結界内の空気も燃焼するので、爆破に耐えても窒息。〈メイルシュトローム〉も渦の圧力に耐えても、結界内部が水で満たされるので溺死するらしい。焼死(窒息)、バラバラ殺人(溺死)、窒息、石化と殺意が高い。万が一敵が使ってきた場合、結界を壊せる事を覚えておかないと、かなり危険だな。

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