第573話 雪山鉱山の簡単攻略法
翌日、ソフィアリーセと約束した通り、朝一で第1ダンジョンへと向う。42層の雪山フィールドの必勝法があるらしいので、「どんな方法だろうな」なんてレスミアと話しながら、バイク2台に乗り合わせて移動した。
ダンジョンギルド第1支部の受付の手前にある待合椅子に人集りが出来ていた。その中心では、ドレスを着たサファイア髪の貴婦人と、白鎧に身を包んだ金髪女騎士が居る。以前も見かけたような展開であるが、少し違うのは囲んでいるのが、筋骨隆々な男性ばかりなのだ。身なりも貴族出身のキラキラ装備の探索者ではなく、年配の方が多くて熟練といった感じの装備をしている。
ナンパをされている訳ではなさそうだが……2人に声を掛けて近付くと、囲みが解かれて、何故か俺達の方を取り囲みに来た。何事かと、レスミアを背中に庇って警戒する。
すると、正面に来た一際体格の良いオジさんが、俺の手を握ってブンブンと振ったのだった。
「はっはっはっ! ヴィントシャフトの英雄、ザックス殿を手伝えるとは光栄ですな。
商業ギルドからは、恩返しがしたいと多くの者が志願し、4パーティー分に選別しました。42層ならば、1日で終わらせられるでしょう」
「ギルドの前に飾ってあったドラゴンも、君が倒したんだろ? あんなデカいドラゴンが街を破壊していたら、商売どころじゃなかったからな。改めて礼を言わせてくれ」
周囲を囲んだ人達からも口々に礼を言われ、握手を求められた。それに応えながら、状況を把握して、ようやく合点がいった。囲みを割って入って来たソフィアリーセに、答え合わせをすると、笑顔を返される。
「彼らに42層の採掘を手伝って貰える、という事で良いんですよね?」
「ええ、ペンギンの石像に捧げる鉱石は、その階層で採取した物に限るけど、誰が採ったとかは関係ないのよ。
本当はお金で雇うつもりで商業ギルドに相談したのだけれど、『街を救ってくれたお礼に』って、今回は無料で手伝ってくれる事になったの」
「ハハハッ! サードクラスの発破職人も居るから、雇うと高いんだぜ! 今回だけだが、任せとけよ!」
見返りを求めて戦った訳では無いが、こうしてお礼を返してもらえると嬉しいものだ。
……ただ、この展開にはデジャヴを感じる……図書室で読んだ本か?
ついでに『発破職人』についての情報も聞けた。採掘師のサードクラスのようで、土山から採掘する面倒な作業をせずに、土山自体を爆破して鉱石を取り出すジョブらしい。植物採取師の〈自動収穫〉程ではないが、採取効率が良くなるスキルを覚えるのだろう。
そんな訳で、俺達を含めて5パーティー、30人の大所帯となった。ギルドの待合席付近を占拠してしまっているが、行き先が雪山フィールドなので、寒さと風の強さで打ち合わせをするには不向き。先に、受付嬢に一言話して許可をもらい、ここで打ち合わせをした。
特に2つの採取パーティーは、長年雪山で採掘をしているベテランらしい。採取地も何処に発生しやすいか把握しており、山頂付近を担当してくれることになった。
「やはり効率を考えたら、山頂火口内の採取地は外せませんな。普通の登山道を使うと山をぐるりと2周して、最後に崖を登らないと辿り着く事は出来ませんが、我々なら直線で登れます。お任せあれ」
頭に巻き角を生やした採取リーダーのオジさんが、42層の地図を指し示して解説してくれた。それによると、雪山の頂上がカルデラ盆地になっており、そこに大きな採取地が広がっているそうだ。ただし、途中で崖を登らないといけない&登っている間に鳥型魔物に襲われる為、あまり広く情報は公開していない。ギルドの図書室に情報が無かったのは、俺の調査不足でもなかったようだ。
そんな危険なルートであるが、援護するパーティーが魔物の相手をすれば、危険度は下がる。俺達には、その援護をするように頼まれた。
「ソフィアリーセお嬢様とザックス殿のパーティーは、上空を飛び回る鳥型魔物を誘き寄せ、討伐をお願い致します。
最初の1戦は魔物の数が多いと思いますが、〈エクスプロージョン〉を2発撃てば大方撃ち落とせるでしょう」
「雪山で爆破しても大丈夫ですか? 雪崩が起きる可能性があると聞いた事がありますが……」
「巻き込んだ魔物が山の斜面に落ちると、雪崩になる場合ですね。ある程度離れてから魔法を使えば、問題ないでしょう」
そんな訳で、役割分担が決まった。
頂上へ向かう採取リーダーのパーティー。中腹で採取を行う2パーティー。そして、麓から援護する2パーティーである。俺達は麓担当だな。魔物を誘き寄せて戦い、山に上がる3パーティーが無事に上った後は、山裾沿いに探索する予定である。
「はぁ~、はぁ~……想像以上に寒いですわ。王都の雪も多いと思っていたけど、ここはそれ以上積もっているわね」
42層の雪山フィールドへ降りて来た。入口付近には暖かい休憩所があるが、身体を慣らす目的もあって範囲外へ出ている。この階層に入るのが初めてなソフィアリーセは、息が白くなるのを確かめてから、両手で口元を覆って暖を取った。勿論、身体を温めるヴァルムドリンクは転移前に飲んできたし、懐炉代わりの陽鉱石。雪山用のコートや〈凍結耐性 中〉を持つペンギンチャーム、新雪の上も歩けるスノーシュー等々、装備は万端だ。ソフィアリーセが極地の気温に慣れていないだけの話である。ある程度滞在すれば、慣れるものだけどな。
一方、同じく始めて来た筈のルティルトさんは、スノーシューで動けるか確かめる為に動き回っていた。いつもの白い騎士鎧に、白いフード付きの雪山コートを着込んでいるので、全身保護色である。トレードマークの金髪もフードで隠されているからな。その右手には白く塗装されたウーツ鋼製の短槍、左手に小さく丸い盾を括り付けている。所謂、バックラーと呼ばれる受け流し用の盾だな。雪山なので、重い盾よりも軽い方を選んできたそうだ。
【武具】【名称:ウーツバックラー】【レア度:C】
・ウーツ鋼製のバックラー。小型の丸い盾であり、ベルトで腕に固定する事も出来る。攻撃を受け止めるのではなく、受け流したり、打ち払ったりする事で身を守る。軽いので女性でも扱い易いだけでなく、熟練者が使えば攻撃を打ち払いカウンターを決め返す事も容易い。
「ソフィも軽く準備運動しなさいよ。身体が温まるわよ?」
「……ホラ、わたくしは体力を温存しておかないと、1日持たないかもしれないし」
「今日は魔法戦士だから、耐久値のステータスも上がっているから大丈夫よ、ほら」
ルティルトさんに手を引かれたソフィアリーセは、慣れない雪に苦戦しながらヨタヨタと歩き回るのだった。
今は、後続の採取パーティーが順次転移して来ているので、待ち時間である。今のうちに俺達も準備を進めた。
基本的には、以前の41層の雪山と同じだな。俺は〈接地維持〉が付いていて雪の上を歩けるミスリルフルプレート、〈熱無効〉のブラストナックルを装備し、〈魔喰掌握〉で耐火の黒刀を吸収合体させてある。左手の甲から刀の柄が生えている状態だ。
ジョブは、隠れているペンギンを発見する〈第六感の冴え〉と〈一閃〉の剣客レベル41、〈敵影表示〉のトレジャーハンターレベル49、魔剣術用の魔法戦士レベル48、色々と便利な街の英雄レベル40、レベルを上げておきたい魔道士レベル40である。
他の面子は、以下の通り。
スティングレイブーツで雪の上でも走り回れるレスミアは、撃墜した後に止めを刺して回るため闇猫レベル49。
盾役が他に居るからと攻撃役に回るベルンヴァルトは鬼徒士レベル41。
〈囚われのメドゥーラ〉で敵の行動を阻害するフィオーレはソードダンサーレベル41。今日のメイン盾なルティルトさんは騎士レベル46。そして、魔法戦士デビューなソフィアリーセが魔法戦士レベル1だ。
雪上歩行の練習から戻って来たソフィアリーセに、魔剣術を準備しておくよう伝えておく。ここの魔物は火属性弱点なので、火属性魔剣術を出しておいた方が良い。まだレベル1なので、充填が早くなる〈エレメント・チャージ〉等の恩恵はないが、魔剣術を使う事に慣れておく為でもある。
「……〈魔剣術・初級〉!
あら、色合いからして暖かいと思ったのに、全然熱くないのね?」
ソフィアリーセのメインウエポンである銀色の扇子、四重宝の銀扇の先端に、くるりと丸まった魔法陣がビームサーベルのようにくっ付いた。扇子も杖扱いのようだ。この状態の魔剣術は、重さが無いのでソフィアリーセ向きであるな。
そして、熱くないのは魔法陣を丸めただけであり、物理的に燃えている訳では無いからだな。ちょっとだけ残念そうな顔を見せたソフィアリーセに、レスミアが駆け寄って行くと、手を引っ張って俺の方へ連れて来た。
「暖を取るなら、ザックス様の近くが一番ですよ~
ほら、焚火みたいにじんわりと暖かいの」
「いや、ブラストナックルの効果だからな。ソフィとルティ、この状態の俺には触らないようにしてくれ。ガントレットが発熱しているから、触ると火傷するぞ」
「あはは! そう言いながらザックスは風上に立ってくれるからね。焚火代わりにして良いんだよ」
この階層に来てから、レスミアとフィオーレは俺の近くで暖を取っていたからなぁ。まぁ、俺だけ寒さを感じずにいるのは不公平なので、暖房扱いくらいは甘んじて受けよう。
採取パーティーが全員揃い、雪山装備を点検した後で作戦が開始された。採取リーダーが率いる3パーティーは先に進み、山の麓の森へ進んで行く。俺達と、もう一つの採取パーティーは魔物の陽動と迎撃を担当するので、森から少し離れた場所へ布陣した。見上げれば山の頂上まで見渡すことが出来る場所である。
確かに、山の上空では雉型魔物ヴィルファザーンが、20羽ほど旋回していた。上のほうだけでなく、切り立った崖を監視するかのように数羽が周回しているのだ。
【魔物】【名称:ヴィルファザーン】【Lv42】
・雪山の上空を飛ぶ雉型魔物。空から索敵し、獲物目掛けて(ウインドジャベリン)打ち下ろす。また、風属性魔法の亜種〈ジェットゲイル〉を足から出す事により突風を巻き起こし、上空へ舞い上がることが出来る。
しかし、MPはそう多くはなく、魔法を撃った後は息切れをして着陸する。地面では高速で走り回り、嘴による突っつきと、魔法で戦う。
また、火属性が弱点であるが、その翼で風を起こす事により火属性魔法の威力を半減させる特殊能力を持つ。
・属性:風
・耐属性:土
・弱点属性:火
【ドロップ:雉の破魔矢】【レアドロップ:火消しの雉翼扇】
それを一緒に確認していた迎撃担当のリーダーさんと、打ち合わせを始めた。初老くらいのオジさんで、大弓を携えている。見るからに飛距離が出そうな弓だ。
「今日は魔物が多いな。まぁ、2パーティーに魔道士が3人も居れば、大丈夫だろう。
ザックス殿、こちらは弓使い2人に、魔道士1人で迎撃する。そちらのお嬢様にも〈エクスプロージョン〉を準備してもらってくれ。俺の矢に爆裂玉を仕掛けて撃ち、爆音で呼び寄せるから、こっちに来た所に魔法で吹き飛ばすんだ」
「了解です。それと、先に数を減らすなら、〈プラズマブラスト〉も使いましょうか?」
ベテランさんのやり方には従うが、折角なので41層で試した戦術を提案して、組み込ませてもらった。
〈ファイアウォール〉を2個所に設置し(ヴィルファザーンが火を消す習性があるので囮)、迎撃メンバーの何人かに〈サン・デルタシールド〉を貼った。
そんな準備が整う頃、森に入って行った採取リーダーから合図が上がった。無事に崖下まで辿り着き、こちらに見える木の合間からカンテラが振られたのだ。
それを見た弓使い2人が弓を構えて、矢を番える。その矢の先端は、鏃ではなく丸い爆裂玉がくっ付いている。
【魔道具】【名称:爆裂玉【レア度:D】
・爆発物を錬金炭とピュアオイルで強化し、威力を上げた爆弾。魔力を注いでから数秒後に爆発して、小周囲に火属性ダメージを与える。ただし、初級属性ランク3魔法の代用になる程の威力は無い。
・錬金術で作成(レシピ:ピュアオイル+破裂の実+錬金炭)
「陽動を始めるぞ!」
その声と同時に矢が射られた。
大弓から射出された矢は、あっという間に山の上空へ飛んで行き、爆裂玉の爆音を轟かせた。まるでロケット花火の様である。その爆音は上空を旋回するヴィルファザーンにも届いたようで、旋回軌道を止めて5羽単位の編隊を組み始めた。
そこに、攻撃したのが俺達だと分かるように、追撃を放った。
「〈魔攻の増印〉!〈プラズマブラスト〉!」
銀カードから放った細めのレーザーは、4つの編隊の内の一つを貫いた。ちょっと、距離が遠いので狙い難い。出来るだけ同じ魔物に当たるよう微調整すると、3羽だけ撃墜する事に成功した。
これで、向こうにも俺達の位置が分かったのだろう。残りの3編隊+2羽が、向かってきた。
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