第571話 報告会、その他の議事録

 報告会は無事に終了したが、俺に関連する事もあったので、追記しておこう。


 先ず、王都の新年会議の話。マークリュグナー公爵が妖人族との癒着を取り沙汰され、当主の座から落とされた事はレグルス殿下から聞いていたが、その続報である。

 比較的マシな長男へと公爵の爵位が引き継がれ、国王陛下への忠誠が誓われた。

 これで、めでたしめでたしと思いきや、重要参考人として連れて来られていたフオルペルク(末っ子のアホボン)が獄中で暗殺されているのが発見された。ヴィントシャフトへの援軍派遣で、場内が慌ただしかった中での犯行である。

 この凶報を聞いた前マークリュグナー公爵は、『お前らが口封じしたのだろう!!』と激昂して、王族を痛烈に批判した。しかし、犯行現場の調査も終わらぬ内なので、只の誹謗中傷である。長男である現マークリュグナー公爵の最初の仕事は、『家族を亡くして錯乱してしまった』として、前当主の軟禁指示(王都の邸宅)になってしまった。

 ただ、これで大人しくしていると思いきや、軟禁された夜には行方を暗ましてしまったらしい。それも、側近の一人も連れず、前公爵のみ忽然と姿を消してしまった為、行方不明として捜索が行われているそうな。

 既に数日が経っているが、領地にも戻っていない。更に、前公爵の側近に化けていた妖人族も、獄中で殺されていた事から、他に潜んでいた妖人族の口封じ(&誘拐か亡命)である可能性が高いと見られている。



 新年会議では、各種ジョブの解放条件の公開と、複合ジョブのデモンストレーション(武僧とニンジャ、剣客、目玉の聖騎士)が行われたそうだ。これには全領主が歓迎し、春から貴族学園のカリキュラムに組み込む事が伝えられたところ、『ウチの騎士団でも、複合ジョブを取り入れたい』と要望が殺到した。

 この議題は紛糾し、新年会議が長引いた一因でもある(もう一つはマークリュグナー公爵の審議)。

 結局、解放条件の検証で功の有ったアドラシャフト領とヴィントシャフト領のみ、1年先行して魔法戦士の使用許可がでた。他の複合ジョブに関しては、解放条件の1年の先行公開権を高額で販売する事にしたのだが、全領地が購入すると表明した為、公表したと変わらない事になる。

 その売上金に関しては、魔物のスタンピードで被害を受けたヴィントシャフト領と、昨年町が一つ滅んだとある領に対し義援金として贈られる事になったそうだ。


 一応、俺も情報提供者として売上金の一部を受け取る権利はあったが、ヴィントシャフト領への義援金の足しにしてもらった。新年会議での交渉も大変だったらしいからな。これくらいは、色々お世話になっている恩返しだろう(ヴァルキュリアの突撃で空けた、外壁の穴の件もあるし)。

 俺としては、お金よりも教科書に名前が載る事の方が嬉しい。何故なら、街の英雄の解放条件からして、次の『領地 or 国の英雄(仮)』も知名度は必須だろう。街でも苦労したのだから、それ以上の規模になると、どう宣伝すればいいのやら。

 教科書で名前を売るのは、渡りに船だったのである。




 復興作業の一環として、溶岩の撤去を手伝ったのだが、その時に出て来たレア鉱石『アダマンタイト』。これらの殆どは王族に売却された(自分用に少しだけ確保)。ヴィントシャフト家の専属鍛冶工房でも、アダマンタイトを溶かせる炉が無かった為である。ドラゴン素材と同じだな。研究開発は王都で行われるので、春までに完成していれば別途相談。出来栄えと、出来た武器の数によっては、購入する権利くらいは貰えるかも知れない。




 そして、最後は各種戦利品の話。

 主に俺が倒した妖人族のアイテムボックスに入っていた物や、身に着けていた装備品だな。魔物を封印する『魔結晶の封結界石』や、薬品関係(毒も含む)、雑多な魔道具はヴィントシャフト騎士団と第0騎士団に買い取ってもらった。街では流通していない独自の魔道具もあったので、学園や錬金術師協会といった研究機関で調査解析をするらしい。


 重装歩兵だったバグラーダが着ていたミスリル製のフルプレートメイルとタワーシールド、ロングソード。それと、ビガイル(+道中で倒した1名)が来ていたミスリル製の軽鎧一式。これらも、騎士団の調査が終わって俺の物になったのだが、微妙にサイズが合わないのだよな。バグラーダのフルプレートメイルは、鬼人族のベルンヴァルトには小さすぎる。それと、気分の問題であるが、妖人族の物をそのまま使って良いのか疑問が残る。特に鎧の見た目がトゲトゲしくて、悪役っぽいんだよな。呪われそう。

 調査した騎士団からは『装飾が独特であるが、問題ない』と報告を受けたし、〈詳細鑑定〉でもステータスアップが付与されただけの鎧である。それでも俺が処遇に悩んでいると、メディウス子爵(ツヴェルグ工房のオーナー)が助け舟を出してくれた。


「現神族の作った武具は、初めて見たからな。研究用にウチの工房で引き取らせて貰えないかな?

 勿論、引き取った武具の重量と同じだけのミスリルを使って、君の武具の発注も受けよう。ああ、街を救った英雄に武具を作るのだ。順番待ちなど気にせず、最優先で作ろうじゃないか」

「本当ですか?! 是非お願いします!

 ……修復を依頼しようとしていた鎧があるので、ミスリルを使って治して貰えると助かるのですが」


 それは、ベルンヴァルトが装備していた『血魂桜ノ赤揃え』である。バグラーダとの戦闘で破壊されたらしく、武者鎧の金属板部分は切り裂かれ、バラバラになっている。繋ぎ合わせている絹糸(パイロシルク)で、何とか鎧のたいを成しているだけだ。ガントレットも割れて中の手が露出している程に壊れていた。これでよくカメレオントールと戦えたなと思ったら、ガントレットを固定する紐を解いてグルグル巻きにして使っていたそうな。


 ともあれ、血魂桜ノ赤揃えの修復と、新規のミスリル武器としてツヴァイハンダー、レスミア用のショートソード、フィオーレ用のバゼラードを発注した。俺にはケイロトスお爺様から頂いたバスタードソードがあるし、防具類はミスリル鉱石が採取出来るようになってから、改めて依頼しよう。

 そうそう、溶岩から採取したビー玉サイズ以下のミスリル鉱石も素材として渡しておいた。少しは足しになるだろう。




 戦利品の中でも、魔法が付与された物は人気があった。〈アイテムボックス小〉が付与されたアイテムカバンとか、バルギッシュから巻き上げた〈フレイムスロワー〉の回数制限が無い『火炎放射のルビーブレスレット』とかだな。これらは魔法使い系でも、属性適性が足りない人が欲しがる(水風土適性があって、火が足りないとか)。同様の属性違いの物が、ビガイルの持ち物に2個、ギルドマスターが倒した奴から3個、計6個も手に入っている。

 これらは、熱烈に欲しがっていた騎士団や貴族と交渉の末、売却した。

 ウチのパーティーとしては、俺とソフィアリーセで魔道士が2人いるので、火力は十分と考えたからである。低ランクの魔法が使えるようになっても、知力値のステータスが低ければダメージソースにはならないからな。それに、魔法使いジョブを持っているフィオーレは『火』にしか適性が無いし、ルティルトさんは『水、土』しか適性が無い。魔法使いとして運用するのはちょっと厳しいのだ。


 更に、魔道具の中でも目玉だったのが、バグラーダが身に着けていた『雷属性無効のタリスマン』である。ベルンヴァルトから聞いた話によると、カメレオントールの魔法……〈トールハンマー〉を受けても平然としていたとか。これは、51層以降で役に立つ魔道具に違いないと判断し、自分達で使うつもりであった……のだが、ギルドマスターの交渉に応じて、交換する事になった。代わり手に入ったのが、これ。



【アクセサリー】【名称:火属性無効のタリスマン】【レア度:B】

・ルビーが施されたミスリル製のタリスマン。火の精霊をイメージした意匠が施されており、火属性ダメージを全て無効化すると共に、熱さも感じなくなる。

・付与スキル〈火属性無効〉


・〈火属性無効〉:火属性ダメージを全て無効化する。また、温度変化(高温)による影響も、全て無効化する。



 この火属性無効のタリスマンは、ギルドマスターが倒した妖人族から手に入ったらしい。「火山フィールドに挑戦するなら、こいつがあった方が良いんじゃないか?」なんて交渉されたら、断りようが無かった。

 火山フィールドは溶岩の流れる山を登る為、第1ダンジョンの中でも最難関と聞いているからな。魔物よりも環境が酷く、死者の出る割合が多い場所なのだ。

 俺はブラストナックルを装備すれば溶岩に落ちても平気だが、他の皆はそうもいかない。特に、体力の少ないソフィアリーセが心配だ。『涼やかな北風』みたいな冷風が吹き出す魔道具があっても暑いらしく、その状態で山歩きになる。

 火属性無効のタリスマンが手に入ったのは渡りに船だろう。中級属性の雷と、初級属性の火を交換するのはちょっと不公平感があるが、ギルドマスターにはネクロドッペルミラーを2つ貰っている事を考慮したらしょうがないか。





 報告会が終わり帰ろうとすると、ソフィアリーセとルティルトさんが玄関まで見送りをしてくれた。自分の管理ダンジョンへの挑戦権が得られるとあって、やる気十分。胸の前で小さくガッツポーズをしてみせた。


「明日1日で、42層の雪山を終わらせますからね。ミーアと他の皆にも伝えておいて頂戴。

 あのペンギンの石像の攻略法は、調べて知っていますから……ね?ルティ?」

「ええ、商業ギルド役員の秘書に、話は通しておいたわ。

 私とソフィの分の雪山装備は準備してあるから大丈夫よ。明日は朝8時に第1ギルドで待ち合わせしましょう」


 確か42層のペンギンの石像は、鉱石を採取して賽銭箱に捧げないと下の階層に行けないギミックだった筈。俺もある程度の情報は集めているが、1日で終わる必勝法なんてあったか?

 詳しく聞いてみたが「明日まで秘密」と、はぐらかされてしまった。まぁ、明日分かるのなら、急ぐ必要もないか。

 2人に見送られて、帰路に付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る