第564話 第二章の閉幕

 バイクで街中を徐行すると、復興作業がそこかしこで行われているのが見えた。

 石畳を治しているのは戦闘で破損したところであり、屋根の上からトンカン音が聞こえるのは、魔物が墜落したせいだろう。


 大通りに出ると、平民街の主戦場だったためか、復興作業に勤しむ人が増えた。石畳を治す人だけでなく、血糊をモップで消している人や、散らばった羽根や石畳の破片を片付けている人も居る。


 因みに、ダンジョンではないのでドロップ品は無く、倒した魔物の死体はそのまま残る。この場合、倒したパーティーが丸々手に入れる権利があるそうだ。この辺で出たクレストランスビーやスパイラルイーグルは、戦況が落ち着いた後にダンジョンギルドか商業ギルドで買い取られたそうだ。

 噂だと、昨日の宴会で鷲肉の串焼きを出していた屋台があったとか。侵略して来た魔物を取って食うとか、実に弱肉強食。ただし、美味しいのかは知らん。南門近くの広場では、バッファロー型の魔物が丸焼きにされていたので、俺達はそっちに行ったからな。赤みが多くて嚙み応えのある肉だったが、味はかなり美味しかった。俺は遭遇していない魔物なのが残念だ。バッファロー……牛科なら美味しいよなぁ。南門の外の戦場では死体が落ちていた覚えがあるので、拾っておけば良かったか? 多分、今頃は溶岩の海で炭になっていると思うが。


 俺が回収したのは、レッサーキュクロプスの手足、妖人族の遺体と遺品、カメレオントールの死体くらいなものである。状況に対応するのでいっぱいで、雑魚敵の死体回収とか考えが及ばなかったよ。ヴァルキュリア達が倒してくれた、燃える毛皮の狼とか、たてがみと尻尾が燃えている2本角の馬とか、そのまま放置してきた。まぁ、近所の人とか、見回りで発見した探索者や騎士団が片付けてくれるだろう。



 中央門の検問が復活していたので、セカンド証を見せて……と、思ったら、顔パスで通してくれる。それどころか、担当の騎士が群がってきて握手を求められた。


「巨人に殺された兄を蘇生して頂き、ありがとうございます!」

「貴方がここの門で戦っていた時、俺も近くで戦っていたんですよ。家族に自慢しました!」

「今日は、あの羽の生えた精霊様を連れていないのですか?」


 街の英雄の解放条件からして有名になったと知っていたが、群がられる程とは……昨晩の宴会じゃ、ヴィントシャフト家の親族の皆さんとか第0騎士団に祝いの挨拶を受けたりしていて、平民街寄りの屋台とか見に行けなかったからな。

 ただ、俺としては素直に喜べない部分もある。特に蘇生は、精霊の手助けがあったから何百人と助けられたのだ。当初の予定通り、俺一人で蘇生スキルを使っていたら、全員は厳しかっただろう。

 騒ぎを聞きつけて人が集まり始めたので、お礼や質問に答えるのは程々にして、「復興作業があるから」とその場から移動した。





 南門は復興作業の為か、今日は開放されている。

 ただ、その横合いにあるダンジョンギルド前の広場に人集りが出来ていた。それもその筈、その中心には馬鹿デカいトカゲの脚が展示してあるからだ。昨日の宴会の途中で設置された物であるが、明るくなってから見物客が増えたのだろう。

 真っ赤な竜鱗に鋭い爪。そして、なにより全長10m弱はあろうかという巨大さ故に、見世物としては破格の代物である。貴重な物なので警備の騎士団員も多く、見物客が触らないように目を光らせていた。



【素材】【名称:ディゾルバードラゴンの左前脚】【レア度:A】

・幻獣の中でも一際強いドラゴン種の、切り落とされた前脚。ミスリル製の武具でも易々と切り裂く爪は、死してなお健在。そして、強い火属性を帯びた竜鱗は堅牢なだけでなく、あらゆる炎を遮断するだろう。

 ただし、加工難易度も相応に高い。



 そう、俺が切り落としたディゾルバードラゴンの前脚である。小さくなった本体は、天之尾羽張の〈MPドレイン〉の効果『敵のマナ総量を超えた状態で攻撃すると、存在そのもの(ドロップ品や経験値も)をマナに変換し吸収する』で、残っていない。が、しかし、敵のマナ総量を超える前の状態の天之尾羽張で切り落とした部分は、そのまま残ったのである。

 その為、頭の角1本、左脚3本、翼2本、多数の竜鱗の欠片(胴体を切った時に落ちた物)、尻尾(3分の1)がドロップ品代わりの戦利品となったのだった。ディゾルバードラゴン丸々とは行かなかったが、元々のサイズが大きいので十分だろう。


 ケイロトスお爺様と第0騎士団が拾ってきてくれたのだが、その取り分についてはかなり揉めた。宴会でお酒が入っていた事もあるが、レベル70のレア種のドラゴン素材なんて、レグルス殿下でも欲しがるものだったからである。

 一応、討伐した者や切り落とした者が権利を主張できるので、殆どが俺の物。尻尾はヴィントシャフト騎士団と第0騎士団の半々となる。ただし、俺も魔法でMPを吸収させてもらったり、劇団のバフを貰ったりしていたので、その貢献分は分ける必要がある。(劇団はヴィントシャフトが雇ったので、ヴィントシャフト側)


 その為、宴会の後半は接待を受ける羽目になってしまった。貴族特有の回りくどい言い回しや駆け引きで接待されつつ口説かれたのだが、お酒が入っていたせいもあり途中で面倒臭くなってしまい、譲歩する形で終わらせたのである。


 ・俺の取り分:左脚1本、角半分、翼1本。

 ・ヴィントシャフトの取り分:左脚1本、角半分、竜鱗の欠片、尻尾半分。

 ・レグルス殿下の取り分:左脚1本、翼1本、尻尾半分。


 ただ、俺の取り分としてもらっても、加工する当てがない。

 ツヴェルグ工房のメディウス子爵(リプレリーアの父)も欲しがったのだが、これほどまでの素材は扱った事が無い(レッサーワイバーンまでの)為、研究からしないといけない。

 王族の専属工房ならば、レベル65前後のドラゴン素材を扱った事はあるらしいので、レグルス殿下に投げる事にした。俺の取り分を全て預け、研究と武具への加工をしてもらう。俺達パーティー分の武具を作成し、余った素材は加工代として差し上げる予定だ。これで春に王都に行った際、竜角の槍や竜爪の剣、竜鱗の鎧、竜鱗の盾、竜革のドレス(翼膜)などが(多分)手に入るだろう。



 今、広場に飾られているのは、ヴィントシャフトの取り分だな。

 他の部位は王都へ持ち込まれている筈である。何故なら、今日は新年会議の最終日である為、レグルス殿下とエディング伯爵は、それぞれの側近を連れて朝一で王都に戻った。その際、魔物の襲撃を喰い止めたという、凱旋の証として使われるだろう。




 混雑する広場を抜けて、南門を潜る。すると、門の横合いに受付と、魔物の解体場が出来ていた。その中に知り合い……ヴィントシャフト一族の伯父さんが居たので挨拶をしておく。どうやら、現場監督として来ているらしい。


「すまないな、街を救った英雄殿に土木作業を手伝わせてしまうとは。数日くらい休んでも良いのだぞ?」

「いえ、土の精霊様との約束で、溶岩を撤去する必要がありますからね。微力ながらお手伝いします」

「溶岩は固くてな、騎士団も手こずっているようだ。アイテムボックスにある程度回収したら、向こうの資材置場へ持って行ってくれ。ギルド職員が、使える物と廃棄品に分別をする。溶岩の中には偶に金属や宝石が入っている事もあるから、鍛冶師に確認させるのだ」


 そんな説明を受けてから、俺達も現場へ向かう……おっと、フィオーレは劇団員の友達を見つけたようで、門の近くで別れた。



 冷え固まった溶岩が広がっているのは中央付近、俺が戦闘を繰り広げた所である。そこ以外の左右には、未だ多くの魔物の死骸が残っており、第0騎士団やヴィントシャフト騎士団が撤去作業に追われていた。ドロップ品とは違い、死骸が丸々残されるので、使える物は解体して武具素材や錬金術の素材に回されるそうだ。

 こういった魔物のスタンピードの後には素材がたくさん取れる&それらを買い取る事により、現地の復興資金にするのだ。レグルス殿下の側近以外の第0騎士団が残って回収作業を手伝っているのは、その為らしい。


 事実として、人的被害は最小限に抑えられたものの、溶岩弾で外壁には大穴が3つも空いて、内部の騎士団本部まで無茶苦茶になってしまった。ソフィアリーセを始めとする領主一族は、そちらの修復作業に追われているらしい。


 更に、妖人族の破壊工作により、大手錬金術師工房の大型錬金釜が破壊されている。錬金釜は王都の錬金術師協会本部でしか生産できないので、買い直すにはかなりの金額が必要になる。

 そして、防衛戦に参加した者達への報奨金も出さなくてはならない。


 そんな訳で、ヴィントシャフト家は資金繰りが大変なのだった。俺がドラゴン素材を多目に分けたのは、ヴィントシャフトへの援助も兼ねていたのである。本当に厳しくなったら、レグルス殿下に売って資金に回せば良い。


 ……経費で落ちるからと、〈運命神への奉納〉で大金貨を沢山消費した負い目もあるからなぁ。

 今日いの一番にやって来た場所も、それ関連である。周囲よりも沢山の溶岩が冷え固まって盛り上がっている場所……ディゾルバードラゴンが腹の口から溶岩を放水して、俺が埋まった所である。この辺に2枚の大金貨を落としてしまっているので、回収出来たらなぁ……溶けているだろうけど、金には違いないから。



 離れた場所で溶岩を割ろうとしているヴィントシャフト騎士団も苦戦しているようだ。ハンマーで楔を打ち込み、割ろうとしているのが見える。

 俺は土木用聖剣、クラウソラスを取り出して、記憶にある辺りの溶岩をマス目状に切り取って行く。そこにベルンヴァルトがツヴァイハンダーを突き刺し、てこの原理でひっくり返す。後は土を払ってやって、底面に金が混ざっていないか確認するのだ。

 そんな作業を続けていると、10枚ほどひっくり返したところで、ベルンヴァルトが声を上げた。


「おい、あったぞ! 大分形は変だが、金だ!」


 ベルンヴァルトが土を払って見せてくれた所には、確かにグネグネと曲がった金色の板があった。恐らく、溶けて2枚分くっ付いてしまったのかな?

 ただ、鑿(採掘用)でガンガン叩くが、溶岩が硬くて金を剥がす事が出来ない。聖剣だと金も切ってしまいそうだが……と、そういえば鍛冶師が面白いスキルを持っていたな。


【スキル】【名称:リファインオーア】【アクティブ】

・効果範囲内の鉱石に含まれる金属、及び宝石を抽出する。ただし、ダンジョン産の鉱石にしか効果はない。土魔法の亜種。


 スキル改めて見直すと、『ダンジョン産の鉱石にしか効果はない』か……ダメ元で使ってみたところ、反応があった。魔物が吐き出した溶岩だから、疑似的なダンジョン産と判定されたのだろうか? それとも、火属性のマナが籠っているせいか?


 1平方メートルサイズに切り取られた溶岩の表面が脈打つと、そこから押し出されるようにして、小さな金属が出て来た。ビー玉くらいの小さく歪な金属だが、狙って出て来た訳ではない。気を取り直して、2回目の〈リファインオーア〉を使ってみると、今度こそペラペラになった金が押し出されて来た。


「セーフ! これで懸念だった大金貨は回収出来たな」

「なぁ、リーダー? 最初に出て来た赤い奴だけどよ。アレに似てねぇか? 昨日借りた紅蓮剣によ?

 ほれ、こんな小さいのに、結構重いぜ」


 ベルンヴァルトが陽の光に当てて、しげしげと赤い金属を見ながらそう言った。

 手渡された金属の重さは、確かに見た目よりもずっと重い。光に照らして見ると……そう言われれば、そう見えるかも? 取り敢えず、〈詳細鑑定〉を掛けてみた。



【素材】【名称:アダマンタイト】【レア度:A】

・重く硬く魔力を拒絶する特殊な金属。深層の火山でしか生成されず、魔力を嫌う性質があるので非常に加工し難い。鍛冶スキルの効きも悪い為、鋳溶かした方が良いだろう。ただし、融点も高いため、加工するにはかなりの高火力が出せる炉が必要となる。

 しかしながら、魔力を拒絶する力は強く、魔法生物型の魔物を弱らせる特殊効果を持つ。



「ぶっ! 本当にアダマンタイトかよ! レア度Aってドラゴン素材と一緒じゃないか!」

「おいおい、マジかよ! 俺にも鑑定結果を見せろよ」


 ディゾルバードラゴンが吐き出した溶岩から出て来たってことは、アレが『深層の火山』と同等だったって事だろうかね?

 『魔法生物を弱らせる』ってのが、紅蓮剣にある〈魔法生物特攻〉に該当するとなると、かなり有用である。それでなくと、重い金属ってだけで破壊力に直結するので、武器に向いているのだ。

 切り取った溶岩板に対しても〈リファインオーア〉を使用してみたところ、色々な金属が出て来た。ウーツ鋼にチタンといった既知の物から、紅蓮鉱石や金、ルビーのような宝石まで出てくる。ただし、どれもこれもビー玉以下に小さく、レア度が高いほど更に小さくなる。

 結局、手に入ったアダマンタイトは2個のみ。溶岩板から4,5回は取れる(ガチャ)ので、数をこなせばインゴットにするくらいは手に入るかもしれない。


 そう考えると、只の撤去工事だったのが、金鉱山の採掘に見えて来た。ただ、俺一人で〈リファインオーア〉を使うのは手が足りないので、南門の解体現場にいる他の鍛冶師の手を借りよう。ヴィントシャフト家の伯父さんが現場監督で良かった。伝手が使えるし、何よりヴィントシャフト家の金策にもなるからである。


 そんな考えをベルンヴァルトに話しながら、周辺の溶岩の切り取りに掛かる。


「〈プリズムソード〉!」


 召喚したのは、水属性と光属性の光剣。溶岩が火属性なので、それに優位が取れる属性にしたのである。光剣のカーソルを動かし溶岩に突き立ててから、Z軸(高さ)を固定して真っすぐ線を引くように指示を出す。すると、目論見通りに、2本の光剣は溶岩を真っすぐに切り裂いたのだった。

 後は、マス目状に切り裂いてから、ベルンヴァルトと騎士団に掘り起こして貰えばいい。伯父さんに説明する分の20枚くらいはストレージに入れて戻ろうか。


 そんな調子で、復興作業に勤しむのだった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これにて、第二章『街の英雄と火竜の襲来』 ENDです。

次回は、3人称視点で短い閑話と、終了時のステータス等リザルトを掲載します。二章終了記念の近況ノートも次回に更新する予定。


それと、今更ですが宣伝用のX(Twitter)を始めました。https://x.com/202105nomuneko

更新報告ついでに、小ネタをポストする予定なので、良かったら見てやって下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る