第561話 聖騎士と光の子猫
聖騎士のジョブと紹介されたアンスブラントさん……レグルス殿下の従弟らしい……は、馬から降りると、兜を取って一礼した。確かにレグルス殿下に似た顔立ちのイケメンであり、輝くような金髪の青年である。
「ザックス殿、先程のドラゴンとの見事な戦いぶり、感服致しました。最後に少しだけお手伝いできた事こそ、私の誇りとして語り伝えたいと思います」
「ああ、やはりディゾルバードラゴンを指揮所から叩き出した方でしたか。こちらこそ、ありがとうございます。あれだけ追い込んだにも拘わらず、逃げられて指揮所への襲撃を許してしまった時は肝が冷えましたから……
馬の方も元気そうで何よりです。〈騎士の護り〉って、騎乗している馬にも効果があるんですね」
「いえ、〈騎士の護り〉では無理です。実際、地面に落ちた愛馬は脚を折ってしまいました。今、元気にしているのは聖騎士のスキルのお陰なのですよ」
そう言って指を差した愛馬……白い馬鎧を纏った大きな馬は元気そうだ。
そこにアンスブラントさんが歩み寄り、馬を軽く撫でてから両手で馬の目を覆い隠した。すると次の瞬間、馬が霧散して消えて行き、マナの煙が凝縮される。そして、凝縮が完了すると、手のひらサイズのメダルへと変化するのだった。
アンスブラントさんは、馬の模様が刻印されたメダルを見せてくれて、簡単に解説してくれた。
「スキル〈聖馬召喚〉の効果で、私の愛馬を使い魔にしたのです。こうしてメダル状態で持ち運ぶ事が出来ますし、メダル状態で魔力を注げば怪我も治ります。更に飲み水や飼い葉も不要になるので、どこでも騎馬突撃を掛けられる革命的なスキルですよ!」
……凄い。携帯出来る馬って事か……バイクの利点が奪われた!
思わぬ伏兵に驚いていると、アンスブラントさんはメダルを掲げて「〈聖馬召喚〉!」と実演してくれた。先程とは逆で、メダルが霧散して行き、代わりに白い馬鎧を纏った大きな馬が姿を現した。どうやら馬だけでなく、身に着けている鞍や鐙、馬鎧までメダル化しているようだ。便利過ぎ!
俺が新ジョブだけでなく、〈聖馬召喚〉にも恐れおののいていると、レグルス殿下が邪魔をしに来た。アンスブラントさんの肩を叩くと、火の精霊の方へ行くよう促した。
「二人共それくらいにしておけ、精霊の皆さまがお待ちだ。
……ザックスには、情報を展開しておこう。解放条件を色々試した結果、アンスブラントの考えが当たり、年末ギリギリに習得したのだ。新年会議が有った為、レベル上げが中途半端であるが、光属性魔法が使えると大いに話題になったぞ」
どうやら、他の複合ジョブと一緒に、新年会議(=各地の領主)で情報を開示したらしい。
俺にもその時の資料を1枚見せてくれた。スキルの詳細は掛かれていないが、スキル名だけでもワクワクするな。
【複合ジョブ】【名称:聖騎士】【ランク:3rd】解放条件:騎士Lv50以上、司祭Lv50以上、騎乗突撃で魔物を100体以上倒す、浄化系スキルでアンデッドを100体以上倒す。
・騎士として研鑽を積むだけでなく、司祭としても修行を積んだ類稀なる騎士。光の女神様への信仰を持ち、光属性魔法を多く習得する事で、アンデッド系には無類の強さを発揮する。また、騎士系の攻撃スキルや司祭系の回復の奇跡を同時に習得し、〈聖馬召喚〉でどこでも使い魔の馬を召喚して突撃を掛けることが出来る。
指揮スキルも覚えるので、軍団規模で行動する場合は、指揮官に据えよう。
・ステータスアップ:HP大↑、MP大↑、筋力値大↑、耐久値大↑、知力値中↑、精神力大↑、敏捷値中↑、器用値小↑
・初期スキル:騎士スキル、司祭スキル、光属性ランク0魔法、シャインストライク、聖騎士団の行軍
・習得スキル
Lv 10:全状態異常耐性小↑、人馬一体
Lv 20:HP自然回復量中↑、騎士の護り
Lv 25:光属性ランク1魔法、シールドラッシュ
Lv 30:筋力値大↑、光属性ランク2魔法
Lv 35:聖馬召喚、ヘイトアタック
Lv 40:敏捷値中↑、聖騎士の号令
……解放条件は、司祭のレベル以外は満たしていたな、惜しい! これを知っていたら、カメレオントールとかバウンスハルピュイア戦で司祭をセットしておいたのに。
因みに、騎馬突撃と浄化スキルで魔物を倒すのは、墓地フィールドでサクランボ狩りをしたので満たしている筈である。恐らくベルンヴァルトもだろう。仲間になるのが遅かったルティルトさんは微妙であるが、〈ホーリーウェポン〉を掛けてからバイクで〈ランスチャージ〉を繰り返すだけで、楽に達成は可能だ。
他にも色々と気になるスキルがあるので、詳細を聞きたいところであるが、アンスブラントさんの方も気になるので自重した。
ヴァルキュリア6姉妹に囲まれたアンスブラントさんだったが、予想以上に好機の目で見られていた。それと言うのも……
「人の子としては、珍しいな。お主、光の祝福を持っておるぞ」
「その金髪からして、生まれ持った祝福かしら?」
「うむ、こ奴が光属性魔法を使えば、良い縁になるやもしれぬ。
ほれ、魔法を使って見せよ」
「え?ええっ?! 私にも精霊の祝福が!?
……あっ、今直ぐ充填します。ランク2までしかありませんが」
なんと、アンスブラントさんも祝福持ち……輝くような金髪は、宝石髪の一種?だったようだ。恐らく、男性の祝福髪としても初めてかも知れない。周囲の側近達も驚きの声を上げる中、充填中の合間を縫ってレグルス殿下が精霊達に質問をした。
「精霊様、私も祝福持ちなのか見て頂けないでしょうか?
アンスブラントと同じ金髪なので、光の祝福を持っていたりは……」
「無いな。
「貴方よりこっちの子の方が、髪色が綺麗な気がするわ」
「いや、男は髪色に出ん。創造神様が人族を作られる際、男は闇の神様を参考に、女は光の女神様を参考に作られたと聞く。生まれながらに祝福持ちの女の髪が輝きを増すのは、そのせいであるな」
……なるほど? 確かに男で髪色が明るいのは、あまり見ない。属性の適性が髪色に出るとは聞いた覚えがあるが、明るさに男女差があるとはな。宝石髪が女性限定な訳だ。
そして、精霊から直に創世神話を聞けるとは……エヴァルトさんやリプレリーアが居たら、どれだけ喜んだ事か。まぁ、従軍していないのが悪い。次に手紙を送る時に、自慢して書いてやろう。
レグルス殿下はその後もアレコレと質問をしていたようであるが、アンスブラントさんの魔法陣が完成したところで打ち切られた。
「では、行きます! 〈サン・デルタシールド〉!」
ランク2のシールド系魔法の様だ。魔法陣が光を放って消えると、術者を中心に3枚の光の盾が召喚された。それは1mくらいの正三角形をしており、クルクルと回る。形も三角形だが、配置も術者を中心にした三角形っぽい。シールド魔法って、掛けた対象の正面しか守ってくれないのに、光属性は全周囲を3枚で守ってくれるようだ。流石は高レベルで覚えるスキルだ(魔法使い系フォースクラスだと、レベル80以上)。
そんな魔法に対し、火の精霊は光の盾の1枚を手で押さえると、今までと同じように手を赤く光らせた。土の精霊の時よりも時間を掛けた後、光の盾の中から何かが引っ張り出される。それは、今までのような光の玉……ではなく、手のひらサイズな黄色の子猫である。
子猫は火の精霊の手を蹴って逃げると、空中を駆け回りアンスブラントさんの頭へ降り立った。それに驚いたアンスブラントさんが手を伸ばすが、光を纏った猫パンチで迎撃され、頭をポンポンと叩かれてしまう。
『(動くんじゃにゃい。アタシの椅子にしてあげるのだから光栄に思いなさい)』
「ええと、今の声……猫が光の精霊なのか? なんか、頭をふみふみされているんだが……」
他の属性とは違い、光の玉でなく物理的に存在しているのだろうか?
光の祝福を持つアンスブラントさんも声が聞こえたようで、それ以上動くのを止め、頭を静止させた。
金髪の上に座った子猫……光の精霊は、髪の毛をふみふみしている。その状態で火の精霊が状況説明をして、協力を願い出た。
『(位階の足りない聖剣の担い手を手伝えか……にゃあ、天に奉還された筈の聖剣が戻ってきている事は、奴から聞いているにゃ。手伝ってやらん訳でもないけど、祝福はあげないにゃ)』
「しかしだ、光の。聖剣を強化した方が龍脈への干渉がしやすくなる。ここはひとつ、祝福を授けても……」
『(アタシの祝福はそんな安く無いニャ! あんた達はそいつに世話になったかもしれないけど、アタシには関係ないの。それに、上級属性のアタシなら、強化されたあんた達と同等以上に制御できるニャ!)』
上級属性だからか、プライドの高い猫さんである。しかしながら、手伝って貰えるようなので、魂魄結晶の粒を……と、あれ? 在庫が無い?
ええと、バルギッシュから1個。ギルドマスターが狩ったのが1個。貴族街移動中に瞬殺した奴が1個。バグラーダとビガイルで2個、ディゾルバードラゴンから大きいのを1個。計6個しか持っていなかったわ。7属性分には1個足りない。
アホボンの〈欺きのネックレス〉は証拠品として献上してしまったし……っと、そうだ! ギルドマスターが街の西の方で暴れている魔物を討伐しに行っていた筈!
周囲を見回しても姿が見えないので、声を上げて呼びかけてみた。
「ギルドマスター! 居ませんか?
ネクロドッペルミラーを持っていたら、下さい!」
「おおっ! 忘れとったわ!」
上から声がしたので見上げてみると、暗闇に混じって空から見学していたようだ。彼に向かって手を振ると、ギルドマスターは無造作に鏡を放り投げた。まぁ、どの道壊す物なので、扱いがぞんざいでも構わない。
しかし、飛んできたネクロドッペルミラーをキャッチする直前、黄色い影が割り込んで来て、鏡を叩き落した。光の子猫ちゃんである。地面に落ちた鏡に猫パンチをして、鏡面を叩き割っていた。
『(穢れ塗れの鏡とか、何なのニャ?! こんなの存在しちゃいけないにゃ!)』
精霊からすると、穢れってのが見えるらしい。ただ、見た目は子猫ちゃんなので、ガラス片で怪我をしそうで怖い。そっと子猫ちゃんを持ち上げて横に置き、改めて聖剣でネクロドッペルミラーを両断した。破片が霧散化し黒い煙があふれ出たので、それも両断して浄化、魂魄結晶の粒へと作り変える。
それから、光の子猫ちゃんの様子が少し変わった。出来た魂魄結晶の粒をあげて、〈プリズムソード〉でヴァルキュリアの身体を用意すると、大人しく入ってくれたのだ。
何故か、猫耳尻尾が追加された黄色の日長石のヴァルキュリア……猫人族っぽい。言葉が通じるようになったので、簡単に妖人族が暗躍している事を説明すると、俺を見て条件を突きつけた。
「なら、さっきの鏡を出来るだけ沢山処分してきなさい。その証拠である魂魄結晶を持って、アタシの神殿に献上に来たら祝福をあげないでもないわ」
「……ご配慮頂きありがとうございます。して、光の精霊様の神殿はどちらに?」
「はあ? そんなことも知らないの?! この世界の中心にある山の上よ!
……参拝する人や猫も沢山いるのに」
どうやら有名な所らしい。思わずレグルス殿下やエディング伯爵に目配せするが、揃って首を振られた。
どうやら、人間と精霊では認知度が違うらしい。
そんな俺達を見て、火の精霊が軽く笑って仲裁してくれた。
「光の神殿は、ここよりかなり北の方であるな。猫の形をした山なので、調べれば分かるであろう。
それより、準備は整った。蘇生を始めるとしよう」
火の精霊の指示を受け、エディング伯爵が拡声器の魔道具で周囲へと呼びかけた。
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