第557話 竜攘不死搏の戦い

 四つん這いになった(正確には脚6本なので、六つん這いか?)ディゾルバードラゴンとの正面戦闘を開始した。

2本脚で立っていた時よりも攻撃が激化している。長い首を伸ばして噛み付き攻撃、溶岩弾小による中距離攻撃。そして、後ろの4本脚で支えている為か、前脚による連続爪攻撃が増えたのである。

 それらの攻撃をバフで強化されたステータスを活かし、〈フェザーステップ〉も多用して回避した。こちらも回避してばかりではジリ貧なので、〈カウンター〉スキルで避けつつ反撃したり、小さい隙を見つけては〈ダーツスロー〉で動きを止め〈二段斬り〉を連打したりしている。


 今は〈空蝉の術〉で頭の上に乗り、傷の入った角に追撃をしているところである。出来れば目に攻撃して視界を封じたいところではあるが、長すぎる天之尾羽張では無理なのだ。柄で叩くくらいは出来るけど、エネルギーブレード部分でなければ効きはしないだろう。

 〈二段斬り〉を1回だけ使い、角の傷を抉っておく。何度も攻撃を繰り返したせいか、銀色だったエネルギーブレード部分が赤みを帯びて来た。心なしか切れ味も上がっているようであるが、攻撃は程々にして離脱を計る。ディゾルバードラゴンが、気が付くのが早くなってきているからだ。

 バックステップで頭から飛び降りると同時にディゾルバードラゴンが頭を振る。ギリギリセーフ……と思いきや、俺と視線の合ったドラゴンは、直ぐさま大口を広げた。鋭い牙が、俺を嚙み砕こうと迫る。流石に齧られたり、丸呑みにされたりしては〈リアクション芸人〉がどう反応するのか分からない。ダメージを無効化しても腹の中では笑うに笑えないからな。

 天之尾羽張で横っ面を殴るようにして受け流した。正確には質量が違い過ぎるので、剣で叩いた所を支点にして、自分の身体を外に流したのだ。


 しかし、華麗に着地を決めたのだが、向こうも2段構えの攻撃だったようだ。俺の身長の倍はある太い前脚が、俺の着地した周辺諸共薙ぎ払いに来たのである。こうなると、全力で逃げたとしても範囲が広すぎて無駄だ。仕方がないので、保険を使う事を前提に、俺も攻撃をする。腹いせにディゾルバードラゴンの頭を切り付け、竜鱗に傷を付けた。


 そして、前脚の薙ぎ払いに巻き込まれ、〈リアクション芸人〉の効果でダメージ無効化して吹き飛ばされる。今回の戦術の要である天之尾羽張だけは絶対に手放さないように、身体ごと抱え込んで転がった。

 転がる速度が落ちたところで、地面を叩いて起き上がる……と、ソフィアリーセの声が響いて来た。


『溶岩弾を撃ちそうよ! 右に避けなさい!』

「GAAAA!!」


 保険が無い状態で、溶岩弾を喰らうとか考えたくもない。拡声器の魔道具から聞こえた声に従い、バフで強化された〈フェザーステップ〉で大きく飛び離れる。すると、先程まで居たところに溶岩弾が着弾した。


 後ろの外壁上からは、ソフィアリーセとレスミアが戦場の状態を見てアドバイスや声援を送ってくれている。

 他にも、防衛戦に参加している人達が、大声で叫んで声援をくれた。距離的に聞こえる声は小さいが、応援されていることは俺の支えになっていた。

 そんな彼らに答えるように、俺も健在だと剣を振ってアピールし声を上げた。


「〈運命神への奉納〉! ……〈運命神への奉納〉! まだまだ行けるぞ!!」


 こうして、ゾンビ戦法でゴリ押ししつつ、戦闘を繰り返した。




 ただし、戦闘を繰り返す中で、問題が3つ生じていた。1つは〈ダーツスロー〉、最初の1度目以降ディゾルバードラゴンの警戒が強くなっているのだ。距離がある時に使用すると翼による突風や、口から吐く溶岩弾小で邪魔をされてしまう。そのせいで何度も保険のお世話になった。前脚の攻撃を避けつつカウンターで打ち込めば避けられる心配は減るが、至近距離だと長い天之尾羽張で攻撃し難いのだ。


 2つ目、溶岩弾が連射される事で、地面に溶岩がぶちまけられ移動可能範囲が狭くなっていくのである。後方の外壁上からの援護の一つとして〈ウォーターフォール〉が撃ち込まれ、強制冷却されているが、俺の周辺だと天之尾羽張の〈魔法切り払い〉の効果で魔法を吸収してしまうからな。適度に動いて戦域を替えないと溶岩の袋小路に追い込まれてしまうのである。あと、周辺が熱気で蒸し暑くなってしまい、集中力を削ってくるのが地味に辛い。


 そして3つ目、〈空蝉の術〉を繰り返した事により、俺が攻撃を受けて姿を消す=上空に現れるとバレた。トカゲのくせに頭が良い。転移したら、直ぐ下に口を開けて待っているとか、卑怯過ぎる!


「こなくそ! 俺を喰っても腹の足しにもならんだろうが!」


 無我夢中で天之尾羽張を斜め下に突き出し、ディゾルバードラゴンの背中を突いて、棒高跳びの要領で身体の位置をずらした。それにより、間一髪噛み付きから逃れる事に成功する。牙が咬み合わさった音を間近で聞くのは心臓に悪い。

 閉じた口を蹴り飛ばし、距離を取るついでにカウンターを叩き込んだ。剣を振り回し、長いエネルギーブレードがディゾルバードラゴンの頭の角にヒットする。

 その一撃は偶然にも、今まで削り取って来た傷跡に当たり、そのまま切り飛ばした。


 宙をクルクルと舞った角は、俺とディゾルバードラゴンの中間くらいの地面へ落ちて突き刺さる。俺も切れるとは思っていなかったし、相対するディゾルバードラゴンも目を丸くして驚いている様子だった。

 しかし、次の瞬間、大口を開けて咆哮をあげる


「GAAGWAAAAA!!」


 半狂乱化したディゾルバードラゴンは、左右の前脚を連続で叩きつけて来た。広範囲を薙ぎ払うのではなく、憎い相手を爪で刺し殺すといった様子なのである。

 こちらとしては、避けられない広範囲を攻撃されるよりは、よっぽど良い。向こうのてのひらも大きいが、バフ強化〈フェザーステップ〉1回で避けられるからな。

 連続叩きつけを回避しては、〈カウンター〉を入れていく。その合間に、確率発動する〈ミラージュフェイント〉の幻影が囮となり、爪攻撃を1回引き受けてくれた。その隙に俺も反撃回数を増やし、2度3度と斬撃をお見舞いする。

 すると、最後の一撃で手応えが変わった。ついに竜鱗を一撃で切り裂いたのである。赤い竜鱗に守られた前脚には、一直線に斬られた跡が残り、血が溢れだしていた。今までも竜鱗に傷を付けていたし、同じ個所に攻撃を重ねれば破壊出来ていたが、これほどまでに傷を与えたのは初めてである。


 しかし、即死する様子は無い。まだ天之尾羽張に貯め込んだマナが足りないのだろう。それでも、ディゾルバードラゴンにダメージを与えられるぐらいには成長したのである。

 ……攻め時だな!

 終わりが見えた気がした。ディゾルバードラゴンの連続攻撃は続いているが、可能な限りカウンターを叩き込んでいく。

 時には〈ダーツスロー〉で動きを止めて、竜鱗を剥ぐように切り裂いてやると、出血がどっと増える。そうして、爪の叩きおろしにカウンターを入れると、今度は小指の爪を真ん中から斬り飛ばした。


「GWAAAAA!!」


 半狂乱だったディゾルバードラゴンが動きを止める。そして、無くなった爪先を見ると、再度咆哮を発して腕を振り回し始めた。広範囲薙ぎ払いである。逃げようと思えば、動きを止めていた間に後方に逃げられたが、攻撃に専念していたので逃げようがない。

 ……保険はまだ一つ残っているので良いか!

 そう考え、攻撃を続行する。迫りくる前脚の先端、指に攻撃を集中させ2本切り落とす事に成功すると、前脚に轢かれて跳ね飛ばされた。


 〈リアクション芸人〉は機能しているのでダメージは無い。しかし、その効果で派手に転がってしまう。その時、上から声が響いた。


『ザックス様! 直ぐに運命神のバングルを使って!!』


 愛しいレスミアの声に反射的に従い、腰のポーチへ手を伸ばした。しかし、転がっている最中に上手くいく筈もなく、取り出した大金貨2枚を取り落としてしまう。

 ……しまった! 2千万円が!?

 後から考えたら、ここで新しくポーチから別の大金貨を取り出せば良かったのだ。しかし、この時は大金貨の金額故に、勿体ないと拾う行動へ移してしまった。

 地面に手を突き、回転を止める。転がった大金貨を探そうと顔を上げると、大量の溶岩が降り注ぐところであった。


 いつの間にか2本足で立つ形態に戻っていたディゾルバードラゴンが腹の口を大きく開き、そこから溶岩を吐き出したのである。上の口が撃っていた溶岩弾とは違い、腹の口から出すのは液体に近い……出初式でぞめしきで放水訓練をする消防車の様である。ただし、吹き出すのは水でなく燃え盛る溶岩だ。


 保険が切れた状態で、溶岩を浴びたらどうなるか……大量に降り注いだ溶岩は、俺の居た周辺を溶岩で埋め尽くした。






 ……砂浜に埋められる、いやコンクリ詰めにされている気分だ。

 溶岩なので文字通り高温で溶けた岩や土だからな。重いに決まっている。ぎりぎりのところで〈緊急換装〉が間に合い、ブラストナックルを装着して難を逃れたのだった。まぁ、火竜相手で溶岩を吐くなんて情報があれば、〈熱無効〉の付与スキルを持つコレを使わない手は無いからな。

 最初から使えよと言われるかもしれないが、アビリティポイントがカツカツなので、温存していたのである。


 〈緊急換装〉の中身は以下の通り。

 天之尾羽張25p、ストレージ5p、2次職(村の英雄、賭博師)5p、緊急換装2枠3p、追加スキル1枠(空蝉の術)1p、ブラストナックル15pで、計54p。

 そう、ジョブが貧弱過ぎるのだ。追加スキル枠を使って保険2種は確保しているものの、攻守の要であったニンジャ(+内包する軽戦士)が無いので〈フェザーステップ〉や〈カウンター〉、〈2段斬り〉、〈波状の責め立て〉が使用できないのである。


 それは兎も角、息が苦しくなってきた。背中に感じる重みも増えていないので、溶岩の放水が終わったと判断。背中に積もった溶岩を払いのけるように、立ち上がった。



 泥の中から立ち上がったようなものなので、身体が溶岩まみれである。取り敢えず、ブラストナックルの手で顔を拭き取り視界を確保。すると、周囲が静寂に包まれている事に気が付いた。

 ……あっ! 俺がやられたと思われているのか?

 健在であることをアピールする為、赤みが増した天之尾羽張を空に向けて振り回して見せ、天に向かって吠えた。


「この俺を! 溶岩程度で殺せると思うなよ!!

 ディゾルバードラゴン! そろそろ決着を付けようじゃないか!」


 すると、後ろから歓声が上がり、レスミアとソフィアリーセの声だけでなく、他の騎士団の皆さんの応援する声も俺の耳にも届いた。


 そして、それとは反対に、ディゾルバードラゴンは1歩後ろに下がった。先程の宣言から睨み合っているのだが、ドラゴンの目に怯えが混じっているように見受けられる。

 ……まぁ、どれだけ叩いても復活するし、溶岩に埋めても平気で出てくるとか、相手からしたらゾンビ以上の化け物だよな。





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小ネタ

 タイトルは四文字熟語の『竜攘虎搏りゅうじょうこはく』のもじりです。

 元々は、竜と虎がともに激しく戦う様であり、転じて、強い者同士が激しい争いを繰り広げることでもあります。

 ザックスを例えるので、虎よりも英雄かな?

 竜攘英搏……分かり難い。もじりだと分かりやすく、ゾンビ戦法を現す不死にしてやろ!→竜攘不死搏となりましたw

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