第555話 ボス戦前の雑魚戦
天に向けて掲げた天之尾羽張のエネルギーブレードが、数多の魔法を吸収し成長し始めた。長く伸びた天之尾羽張は良い目印になっているようで、外壁の上から下まで数多の魔法陣が光り、充填と発動を繰り返している。少し身体が軽く感じ、気分が高揚し始めているのは、ニンジャの〈目立ちたがり屋〉の効果か?
よっぽど注目を浴びているのだろう。心なしか、魔物の群れも真ん中寄りになっているし。
【スキル】【名称:目立ちたがり屋】【パッシブ】
・注目を浴びる人数が多い程に、全ステータスに補正が入り、敵に狙われやすくなる。
ただし、強力な反面、決めポーズを取ったり、大声を上げたり、剣を振り回す等、無駄な行動を取りたくなる。
現在の特殊アビリティ設定は、天之尾羽張25p、5次職20p、緊急換装2枠3p、ストレージ5p、追加スキル1枠1pで、計54p。5つのジョブは、村の英雄レベル30E、賭博師レベル45、ニンジャレベル46、騎士レベル49、トレジャーハンターレベル48である。騎士とトレジャーハンターが1上がっているのは、ハルピュイアを沢山撃墜してくれたヴァルキュリア達のお陰である。勿論、基礎レベルも49、アビリティポイントも54pに増えている。
そして、追加スキルには念の為〈第六感の冴え〉をセット、不測の事態や伏兵が居ても気が付けるように用心する為である。〈緊急換装〉は要となる天之尾羽張は変えずに、ドラゴンの溶岩弾対策として1セット。そして、元に戻すために今と同じセットを登録した。
エネルギーブレードが10mを超える頃、防御陣地が突破され始めた。2足歩行のマッシブな牛……茶色の毛並みなのでジャージー牛のミノタウロスだろうか?……それは兎も角として、手にした両手斧で〈ストーンウォール〉を破壊して先陣を切っていた。ただ、ミノタウロスの個体数は少ないようで、その10倍くらいの数の氷人形が開いた穴から湧き出て来ている。
氷人形とは聞いていたが、実際はホワイトパールのような色をしていた。ただ、見た目が球体関節のデッサン人形の様で、顔は無くのっぺりしている……デジャヴを感じたが、村ダンジョンで1層に居たパペット君に似ているのか。大人サイズで、個体ごとに違う武器を持っているから印象は大分違うけど。
そして、更に後ろには、大型のトカゲが群れを成している。肩口から2本の首と頭を生やした異形の姿であり、左右の首が赤い鱗と緑の鱗で色違いなのが目立つ。こっちも氷人形と同じくらい数が多い。
そんな魔物達が防御陣地を超えてくると、その前に幻影の踊り子達が立ちはだかった。劇団員の剣舞王子リーダーから少し聞いているが、多分〈魅了のエスメラルダ〉による幻惑効果だろう。こちらに侵入した魔物達の半数は、幻影の踊り子達に魅了されて、フラフラと幻影の後を追いかけまわしに行った。
時を同じくして、後方から歌声も聞こえ始めた。祝福の楽曲による演奏が始まったのである。バフが掛かった事を感じていると、ケイロトスお爺様が号令を掛けた。
「正面に侵入した魔物達に対し、側面より突撃を掛ける! 良いか! 盾持ちの魔物を優先して倒すのだぞ!
ザックス! お主は〈スパイラルウインド・チャージ〉の後ろから付いて来い! その長い聖剣で他の者を切らぬようにな!」
「了解です!」
ケイロトスお爺様はミスリルスピアを掲げると、馬を走らせ始めた。それに続き、5パーティー30人の騎馬隊が発進する。俺も遅れないようにバイクに魔力を流して走り始めた。
天之尾羽張を左手で構えている為、片手運転を強いられる。しかし、騎士ジョブのスキル〈騎乗術の心得〉で『騎乗した場合の行動全般に補正』が付くため、運転に支障はなかった。時折、魔物の死体が転がっているが、それを避けてもふらつく事もない。
騎馬隊は左から迂回し侵入した魔物達の側面を取ると、パーティー毎に〈スパイラルウインド・チャージ〉を使用し突撃を敢行した。騎士3人が矢印のように並び〈スパイラルウインド・チャージ〉を重ねて、巨大な突撃結界を作ると聞いていたが、巨大な螺旋の渦をミスリルスピアに宿し、突撃する様は凄い迫力だ。
俺もその結界の後ろの方に付き、天之尾羽張を振り回しても仲間に当たらない距離を保って追い掛ける。
ケイロトスお爺様が率いるウチのパーティーが担当するのは、勿論一番前だ。その為、左側を見ると、防御陣地を突破しようと居る魔物達の姿が見える。いや、少し突破して来ている魔物も居るか……丁度、盾を持った氷人形魔物が1匹、〈魅了のエスメラルダ〉の幻影を追いかけてフラフラしている。試し斬りには持って来いだ。
天之尾羽張を振り上げ、後ろから前へ薙ぎ払う。すると、10m先に居た氷人形は、あっさりと盾ごと胴体を両断された。
……切った手応えが無いくらいの切れ味! 流石聖剣だ!!
しかも、斬られた氷人形は空中で霧散化していくと、そのマナの光は天之尾羽張へと吸い込まれた。なるほど〈MPドレイン〉の効果『敵のマナ総量を超えた状態で攻撃すると、存在そのもの(ドロップ品や経験値も)をマナに変換し吸収する』が効いたに違いない。多分、味方の魔法を吸収するよりも、効率が良い気がした。
そうこうする内に、先頭が魔物の群れへと突っ込んだ。ケイロトスお爺様のミスリルスピアが魔物を貫通し、押し分ける。突撃結界に触れた魔物は外側へと弾き出され、更に後続の騎士が槍で突き刺して攻撃していく。なるほど、結界内から攻撃も出来るようだ。
俺も、突撃結界の外側に寄ってみる。すると、押し出された魔物や死体が弾き出され、外側で団子になっていた。
……チャンスじゃないか?
先程と同じように、天之尾羽張を振り上げ、後ろから前へ薙ぎ払う。そして、団子になっていた魔物10体くらいまとめて両断、霧散化させて吸収し尽くした。
……無双ゲームで雑兵を薙ぎ払って進む爽快感……いやいや、この強さと長さは、魔法を提供してくれたヴィントシャフトの皆さんのお陰であるのを忘れてはいけない。自分一人じゃ起動で精いっぱいだったからな。
とは言え、左腕をぐるんぐるん回して連続薙ぎ払いをしているだけで、魔物達はミキサーに巻き込まれたかのように倒されて行くのはちょっと楽しい。それらを吸収し、更に天之尾羽張が巨大化して行った。
魔物の群れの側面を貫き走り抜けると、敵が居なくなった辺りで突撃結界が解除され、速度が落ちる。ゆっくりとUターンし、停止した。次の目標を見定めるのと、〈スパイラルウインド・チャージ〉を使う人員のローテーションを行うらしい。5パーティーが隊列を組みなおす間、ケイロトスお爺様が楽しそうに笑った。
「はっはっはっ! それにしても、流石は聖剣と名の付くだけはあるな!
レベル50越えの魔物共が紙くずのように消し飛んで行ったぞ……ザックス、この騒動が終わったらジゲングラーブ砦へ来い! その長い聖剣は、ダンジョン内より魔物の領域の方が役に立つであろう」
「あっ、はい。お誘いありがとうございます。ただ、ソフィアリーセ様から『春になったら一緒に学園に通いましょう』なんて誘われていますので、ダンジョン攻略を優先させてください。
それと、この聖剣の即死効果で魔物を倒しても経験値やドロップ品は手に入らないので、レベル上げには使えませんよ?」
聖剣 天之尾羽張の欠点だな。マナの吸収効率は良いのだろうけど、戦利品が無いのは勿体なく感じてしまう。そんな愚痴を漏らしたら、パーティーメンバーの騎士達が揃って笑った。
「ハハハッ! それは、戦い甲斐がないな!」
「神授の聖剣だったか? どこで手に入れたのかは聞かないが、闇の神様からの試練と思うしかあるまい」
「いや、聖剣の色合いからして光の女神様の加護であろう。神の恩寵を無闇矢鱈にひけらかしにするな、と言う意味合いではないか?」
「お喋りはそこまでだ。これより、再度突撃を行う! 目標は正面、氷人形の密集地帯を横断する!
ザックス、聖剣の力があれど過信するでないぞ! 突撃結界から出れば、敵に囲まれかねんのだからな!」
ケイロトスお爺様の号令で、再度突撃が開始された。
そんな突撃を繰り返し3往復したところで、ようやく盾持ちの氷人形を殲滅出来たらしい。空から戦況を調査していた天狗族が高らかに叫びながら伝令に飛んで行くと、後方の魔導士部隊(第0騎士団)から戦場全域に〈プラズマブラスト〉が掃射された。
薙ぎ払われるレーザーに飲み込まれるのは、敵味方識別があると分かっていても、少し驚いてしまった。ついでに天之尾羽張に触れたレーザーが吸収されてしまった事で2度驚く。
ともあれ、生き残っているミノタウロスや氷人形だけでなく、後続として出て来た2色頭のトカゲ達も巻き込まれた。これにより、トカゲの群れの殆どがダメージを受け、半数は麻痺してしまう。そこに、騎馬隊が突撃して蹂躙したのだった。
2色頭のトカゲもレベル50以上で強いのだろうけど、相手が悪かったな。呪いの踊りでデバフを喰らい、〈プラズマブラスト〉でダメージと麻痺、そこに〈スパイラルウインド・チャージ〉で突撃されてはひとたまりもない。2色頭のトカゲは、赤い方の頭から炎のブレス、緑色の頭から竜巻ブレスを吐くっぽいが、突撃結界で阻まれて俺達には届かない。更に、俺も長くなった天之尾羽張で薙ぎ払えば、ブレスを切り払い吸収し、本体も両断する事が出来た。
苦戦する要素もなく、ほぼ一方的に殲滅していく。トカゲの残りも少なくなってきた時、上空の天狗族が声を荒げて注意喚起した。
「ドラゴンが、また溶岩弾を撃つ体勢に入って居るぞ! どこに撃つのか分からん! 奴の頭の向いている直線状から逃げろ!」
ディゾルバードラゴンは口を大きく広げ、溶岩弾を膨らませると、首を軽く振って投擲した。それは、前回のように外壁狙いの軌道ではない。低空に飛んだ溶岩弾は、ディゾルバードラゴンの先にある防御陣地へと着弾した。そこに密集していた最後尾のトカゲ達が溶岩弾に飲まれて行き、まだ多数残っていた壁魔法も溶岩を浴びて溶けて行く。
気が付けば、かなり近づいて来たようだ。デカ過ぎて遠近感が狂うんだよな。恐らく、先程の一撃は進行方向に邪魔なものがあったので、排除したって程度だろう。次弾を撃つ様子はなく、地響きを立てながら歩みを進めている。
「残った魔物は範囲魔法で一掃する! 騎馬隊は左右から回り込め! 対ドラゴン戦へと移行する!
ザックス! 正面は任せたぞ!」
「はい! お任せあれっ! 皆の力を束ねた聖剣で、討伐して見せましょう!」
ケイロトスお爺様の騎馬隊だけでなく、他の騎馬隊も波が引くようにしてディゾルバードラゴンの正面から横に移動して行った。彼らはそのまま迂回、俺が正面で戦っている隙にディゾルバードラゴンの脚や尻尾を攻撃する手筈となっている。
俺と一緒に戦うには危険すぎるし、長くなった天之尾羽張に巻き込みかねないからな。
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