第551話 王都からの増援

 今回よりザックス視点に戻ります


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 テオ達がギルドへ避難していくのを見届けた後、前の広場で待っていたゴーレム馬車に乗り込んだ。4台あったので劇団員だけでなく、俺達のパーティーが乗る余裕もあったのは助かる。唯一騎乗していたルティルトさんは、そのまま護衛と先導をしてくれるようだ。


 そして、立体駐車場のスロープへと向かったのだが……大通りをかなりの速度で走って来た馬車の一団と入口付近でかち合ってしまった。

 ……横入りというか、多分身分的には譲った方が良いと思う。

 何故なら、向こうの馬車に付いている騎馬の護衛が、黒い鎧を身に着けていたからである。恐らく、王都から救援に来た第0騎士団だろう。大通りから中央門の方角に向けて、無数の車列がズラリと連なっている。

 互いに馬車を止めて、護衛騎士同士が話を付けている……と思ったら、ルティルトさんは直ぐにこちらへ戻って来るや否や、馬から降りて俺達の馬車の扉を開けた。


「ソフィ、あちらはエディング伯爵が連れて来た援軍らしいわ」

「えっ! お父様が帰っていらしたの?!」

「ええ、第0騎士団を増援に引き連れてね。こちらの現状を聞きたいから、馬車を移るよう指示されたわ……ザックスもよ」

「ん? 俺もですか? 了解です」


 俺は街中でしか戦っていないので、大した情報は持っていない。ただ、妖人族とレア種を討伐した事や、壁に穴を空けた事や、被害者が多い事などを先に報告しておいた方が良いかな?

 そう考えて、俺とソフィアリーセは馬車を降りた。ただし、優雅にエスコートする場合ではないので、馬車から降りる時だけ手を貸して、その後は小走りで移動、指定された馬車へと乗り換える。

 黒騎士の騎馬だけでなく、緑色の騎士……ヴィントシャフト騎士団の騎馬も居るので、かなり厳重に守られた馬車だ。


 すると、先に乗り込んだソフィアリーセが入口で止まってしまう。何事かと思いきや、ソフィアリーセがその場で膝を突いた事により、中の乗客の顔が見えた。それは、エディング伯爵だけでなく、レグルス殿下とその第3夫人であるフェリスティ様だった。2人共鎧を着込んでおり、物見遊山や後方指揮ではなく、戦闘に参加する気がありありと見て取れる。王子だてらにダンジョンや魔物の領域で活動しているとは聞いていたが、本当だったようだ。

 俺が感心していると、少し苛立ち交じりにレグルス殿下が手を振る。


「何をしている。急いでいるのだから、挨拶など不要。早く乗れ!」


 最上位にいるレグルス殿下の指示が出たので、ソフィアリーセの背を押して乗り込んだ。

 一度会った事があるので気心は知れていると思いきや、今日は王族オーラが分厚いと言うか、機嫌が悪そうに見える。俺とソフィアリーセは、互いにフォローしつつ現状を説明した。




「はっはっはっ! 今日だけで現神族を4人も倒すとは、よくやった! 褒めて遣わす」


 ギルドマスターも最低1人は倒しているので、計5人。以前見たビガイルの一党は、1パーティー6人だったので、潜入している最低人数が6人だと思う。そんな推測も付けて話したところ、レグルス殿下の機嫌が直った。愉快そうに自分の膝を叩く程である。

 確かに良い報告内容だと思うが、そこまでか?と訝しんでいると、他の2人が補足してくれた。


「ああ、お主が用意してくれた〈詳細鑑定〉のブラックカードが役に立ったのだよ。マークリュグナー公爵とその側近達を洗ってみたところ、2人がネクロドッペルミラーで成り代わっていた現神族だったのだ」

「新年会議で、公爵を庇う答弁の最中に正体を暴いたのよ。その場で取り押さえて、鏡を没収したら別人になるのだもの。現神族との癒着を示す、これ以上ない証拠になって、公爵を退陣させる事が出来たのよ」

「まぁ、その直後にヴィントシャフト領が魔物の襲撃にあったと報が届き、会議どころではなくなってしまったがな。

 初報から3時間で部隊を招集し、駆けつけたのだ。ありがたく思うが良い。後は我が精兵たる第0騎士団が、魔物の軍勢など蹴散らしてくれよう」


 第0騎士団は元より、魔物の襲撃に対応するための即応部隊と聞いている。王都で招集できる団員を集めて、派遣するのに3時間、災害救助の派遣と考えれば、かなり早いと思う。

 一緒に連れて来た部隊は千人規模。中央門横の転移ゲートを出た後、三分の二(騎馬多め)は北門から街を出て大回りに南門側の救援に差し向けたそうだ。残る三分の一は、レグルス殿下を先頭としたゴーレム馬車の車列であり、外壁上の援軍である。

 全員レベル60以上だと言うのだから、これ以上ない援軍だろう。


 外の状況は分からないが、これで終わりは見えたな。ふと、戦後の事を考えたら、エディング伯爵に相談しておく事を思い出した。伯爵として、指示を出して欲しい事があるのだ。


「…………と、聖盾のスキルを使用したいと思います。つきましては、エディング伯爵から騎士団に指示を出して頂けませんか? 助ける順番はお任せしますけど、出来るだけ沢山の人を救いたいです。

 あと、どれだけMPが必要になるのか分からないので、マナポーションの上位版、ハイマナポーションもあれば支給して下さい。今日は既に20本マナポーションを飲んでいますけど、30%回復じゃ足りないのです」


 ヴァルキュリアがMPを馬鹿食いするからな。試験管サイズの薬瓶とは言え、5分おきに飲むのもキツイ。まぁ、胃の中でマナとして身体が吸収しているのか、トイレが近くなる訳ではないのは助かるけど……夏場なら兎も角、冬場にがぽがぽ飲めるもんでもないのだ。

 俺の提案に、ソフィアリーセも後押ししてエディング伯爵にお願いしてくれた。


「お父様、非戦闘員は避難させましたが、迎撃に出た騎士団や探索者には少なからず被害が出ています。ザックスの神授の武具に掛けてみませんか?」

「ううむ……報告書のあの部分だけは、公開禁止にしていたのだがな。この状況では致し方あるまい。

 私だけでなく、レグルス殿下の声明も頂ければ、教会の横槍も抑えられるでしょうな」

「……まぁ、良いだろう。その聖盾とやらのスキルが本当であれば、神の偉業であるからな。教会が騒ぐのも無理はない。王族として、ザックスの身分を保証してやろう」


 そんな話をしていると、馬車の外から悲鳴が聞こえて来た。丁度、スロープの坂の折り返す踊り場であり、皆で窓の外を見ると……人影が上から下に落ちていくところだった。咄嗟に〈敵影表示〉に目を向けると、外に落ちて行った辺りの緑点……高低差は表示されないので分からないが、程なくして緑点が消えた。

 そして、同時に赤い光点が、俺達の居る部分を通り過ぎて行く。スロープの中に魔物など居ない。旋回する軌道から上だと判断して踊り場の柱の間から空を見る。すると、大型の鳥……巨乳な天狗族? いや、シルエットが鳥より……が空を飛んでいた。

 思わず2度見したくなるような部分もあったが、非常に怪しい。〈敵影表示〉は赤点なので、魔物と断定する。馬車の扉を開けて飛び降りると、空が見える位置に移動して銀カードを使用した。



【魔物】【名称:パウンスハルピュイア】【Lv55】

・半人半鳥の亜人型魔物。高空から急降下し、獲物を空中へ攫う行動を好んでいる。そして、高空に舞い戻った後、獲物を放り投げて地面に落とし獲物に止めを刺す。

 顔と胴体が人間の女性に似通っているのは油断を誘う為である。性格は残忍で、小柄な子供や女性を標的にして空へと攫う。また、急降下で獲物を掴むと同時に風魔法亜種〈バウンスゲイル〉を使用、周囲を〈ダウンバースト〉と同じ効果で抑えつつ、自身のみ反発して舞い上がる事が可能である。

 弱点は重すぎる男性。誤って掴むと半狂乱になり、執拗に爪攻撃で男を排除しようとする。

・属性:風

・耐属性:土

・弱点属性:火

【ドロップ:無し】【レアドロップ:無し】



 ……ハルピュイアって、確かゲームとかでも有名なハーピーか!

 既にレベル55の魔物が登場している事にも驚くが、上空から奇襲して来るのが厄介だ。空中の敵を迎撃する手段は限られているからだ。

 取り敢えず、坂道を駆け上って、先に進んでいた馬車に戻る。そして、飛び乗ってから、鑑定結果を皆に話した。


「……上は空中からの魔物と戦闘状態のようです。火属性が弱点なので、準備して参戦しましょう」

「うむ、私は〈エクスプロージョン〉を上空に撃った後は、館の指揮所に向かう。増援が来たことを知らせて、息子から指揮権を引き継がなければならないのでな」

「お父様、わたくしも〈エクスプロージョン〉で援護いたします」


 親子二人とも魔法陣を出現させて充填を始めた。そして、対面に座るレグルス殿下は、窓を開けて外の騎乗した護衛騎士に声を掛ける。


「上はレベル55の鳥型魔物が暴れている。弱点である火属性の〈エレメンタル・ソード〉で撃墜せよ!」

「「「ハッ」」」


 外の黒騎士さん達が返事をすると、抜刀して剣の先に魔法陣を灯す。確か、魔法戦士のサードクラス、魔導剣士の魔剣術だ。以前、レグルス殿下がデモンストレーションして見せてくれた〈プリズムソード〉の亜種で、魔剣術と同じ属性の光剣を3本召喚するスキルである。

 そもそも、魔法戦士系は厳しい試練(誤った解放条件)がある為、数は少ないと聞いていた。外の護衛騎士さんは、王族の傍系で、試練に打ち勝ったエリートなのだろう。


 俺も〈プリズムソード〉で参戦しようかと思ったが、火属性の1本じゃ寂しいよな。レグルス殿下にもお披露目する意味を込めて、特殊アビリティ設定を変更し聖剣クラウソラスと聖盾を装備、〈プリズムソード〉を使用して、赤いヴァルキュリアを1体召喚した。

 馬車と並走するように出現した紅玉のヴァルキュリアに、護衛騎士達が警戒をしてしまったが、慌てて外に使い魔だと説明して事なきを得る。

 赤いヴァルキュリアは、他の属性と同じ顔で、色違いの髪と鎧だ。特にウエーブが掛かった長髪はパーマでも掛けているのだろうか? 姉御って雰囲気だ。火属性の祝福は無いので剣装備であるが、既に抜刀してやる気を見せている。


「屋上に出たら、空を飛ぶ魔物を討伐して下さい! 出来るだけ急降下を邪魔する感じで、被害を減らす方を優先で!」


 ヴァルキュリアに指示を出すと、ガッツポーズで了解したと返してくれた。




 既に屋上が近かったのか、皆の魔法陣が完成すると程なくして到着した。馬車は領主の館に向けて進んでいるが、窓から見える戦場の様子は、かなり混乱しているように見える。何より、上に飛来しているパウンスハルピュイアの数が多いのだ。上空に飛び上がった魔物が急降下して、騎士団パーティーを吹き飛ばしている。爆風に翻弄されて反撃に移れないでいるようだ。


 赤のヴァルキュリアが剣を構えて飛んで行き、護衛騎士が〈エレメンタル・ソード〉を9本射出するが、絶対数が足りない。

 俺は馬車の扉を開けて、再度飛び降りた。


「予想以上に、ハルピュイアの数が多い! ヴァルキュリアを追加召喚します! 〈プリズムソード〉!」


 追加召喚したのは、中級属性である氷属性・月長石のヴァルキュリアと、雷属性・紫水晶のヴァルキュリアである。両方とも祝福有りなので長槍装備。初めて召喚した紫のヴァルキュリアは、髪の編み込みが凄く、長い髪をお団子状にしているのが見分けポイントか。


 俺がヴァルキュリアを召喚していると、少し先に行った馬車から続いて飛び降りた者達が居た。レグルス殿下とフェリスティ様である。彼は杖に施した魔剣術……丸まった魔法陣の剣を掲げて、スキルを使用した。


「私も援護しよう〈エレメンタル・ソード〉!

 エディング伯爵は、早く屋敷に入れ! 指揮権の移譲と状況把握をしてくるのだ!」

「頼みましたぞ! 護衛の半数はレグルス殿下に付け! 決して負傷させるでないぞ! 〈エクスプロージョン〉!」


 扉から顔を出したエディング伯爵が、周囲の騎馬に指示をする。すると、予め決められていたのか、馬車に付いていく護衛の騎馬と、レグルス殿下の周囲を固める騎馬に分かれた。

 そして、馬を押し退けてフェリスティ様が、前に出る。


「空の魔物、ハルピュイアは女性狙いの厄介な敵です。騎士は女性隊員の近くで警戒、〈カバーシールド〉で割って入りなさい。魔導士と魔導剣士は、空に向けて〈エクスプロージョン〉。空を炎で埋め尽くし、行動を制限しなさい。

 わたくしは殿下の直衛をします……〈念威爪甲ねんいそうこう〉!」


 フェリスティ様は周囲の護衛騎士に指示を出すと、自身もスキルを使用する。以前、家にお忍びで来た時には黒い鎧だったが、今日はルティルトさんが来ているような真っ白な鎧を着ていた。女性ながらに武器を持たず、少しゴツイくらいの爪の尖ったガントレットを身に着けているのは相変わらずであるが、スキルを使った瞬間に更にゴツくなった。虎の脚を模した巨大な白いガントレットが虚空より出現し、腕に装着されたのである。フェリスティ様の腕に連動しているらしく、拳を握れば虎爪が伸びて鉤爪状になる……それが両手両足に装着されたので、一見するとパワードスーツを着たかの様だった。


 ……虎人族専用ジョブ、白虎そうだったか? 名前の通り、爪で戦うジョブのようだ。



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小ネタ

 今回より2章終了時までザックス視点のみの予定……いや2章エピローグには1回だけ三人称視点を入れるかも?ですけど。

 領都防衛戦では、視点変更が多くて申し訳ありませんでした。大規模戦闘になると、1人称では描写しきれない部分が多いので、しょうがないと言えばしょうがないのですが……

 因みに、戦闘以外のネタもありました。白銀にゃんこメンバーの避難所での様子(炊き出し)とか、てんてこ舞いな忙しさなギルド受付嬢達とか、避難した子供達の為に即興劇を見せる劇団員(+飛び入り参加の藁人形魔物)とか。

 ただ、ここまでで22話も使っていますからねぇ。これ以上長引かせるのも、視点変更を増やすのもアレなので、お蔵入りです。

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