第549話 騎馬隊の突撃

 今回は時間を少し戻し、3人称視点で外壁上や外の戦闘状況をお届けします。

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 外壁の外側に広がる平原には、魔物の大軍勢が押し寄せていた。先行して襲撃した空を飛ぶ魔物から、かなり遅れて到着した陸上部隊である。その多くは、動物型の魔物や2足歩行の亜人型……大角餓鬼等であり、中には植物型の魔物が他の魔物に巻き付いて移動するものまで居た。

 そんな彼らは、ダンジョンから外に出たことで魔物パーティーが解散されたのにも関わらず、一路ヴィントシャフトの街へ向けて移動している。統率された軍隊ではないので、規律の有る行進ではないが、バラバラながらに街へ目指す理由があった。

 各々の眼には、怒りの炎が灯っている。とあるダンジョンを支配した侵略型レア種が、己の人間への怒りを魔物達に伝播させたのだ。更に、『従わぬ者は喰ってしまうぞ』とも。その為、ダンジョンから出た魔物達は、後ろから追ってくる侵略型レア種からも逃げているのだった。


 侵略型レア種が出現した事により、ダンジョン自体もスタンピードモードへと切り替わる。採取地等の生産活動を停止し、10層ごとの各ボスフロアにて、魔物を量産し始めた。九十九折の道の下にある沢山の小部屋は、魔物の生産工場でもある。ダンジョンへ流れ込む余剰マナを全て生産に回し、ボス部屋ではフロアボスも量産するのだ。

 大量に生産された魔物は、最奥に居る侵略型レア種が移動を始めると、心太ところてんのように押し出されて行った。

 現在、地上を侵攻している魔物の軍勢の数が多い理由である。




 しかし、防衛する人類側も負けてはいない。

 飛行型の魔物が襲来した時は常駐する騎士団のみであった為、広範囲魔法で迎撃するも、街中への侵入を許してしまった。その後、全騎士団が動員され、更に探索者や、まだ戦闘が出来る元探索者が多数集まっている。全長数㎞もある外壁上に均等に割り振られた魔導士達が、受け持ちと決められた範囲に魔物が侵入してくると、ランク7魔法で迎撃するのだ。


 外壁上に集まったジョブは多い順に、攻撃役の魔導士、〈敵影表示〉による索敵と空中の魔物を弓で迎撃するDダイバー、直衛の重装歩兵、回復役と強化の奇跡を掛ける司教である。そして、壁魔法で陣地構築したり、マナポーションを配ったりしている錬金導師と錬金術師。知力値アップの付与術を掛けて回る付与導師などは、数は少ない。元より戦闘向きではないので、前線に立てる気概がある者も少ないからだ。

 そんな外壁上では、即席パーティーを組んだ者達が奮戦している。


「〈トルネード〉充填完了! 次の標的は?!」

「正面少し右、デカい熊だ! 周囲の取り巻きは風が耐属性だが、ボスっぽいのを優先して倒せ!」

「それなら、俺の木魔法と連携させるぞ!

 ……合わせろ! 3、2、1、〈ギフティグブルーメ〉!」「〈トルネード〉!」


 2人の魔導士がカウントに合わせて魔法を発動させた。すると、彼らの正面、300m先に居た熊型魔物(30層ボス)の足元から植物が芽を出し、急成長し始める。蔦が絡み付き手足を拘束すると、各部に色とりどり花を咲かせた。木属性魔法ランク3〈ギフティグブルーメ〉は、範囲内に居る標的を拘束し、毒花粉による状態異常(ランダム)を付与する魔法である。

 そして、風属性魔法ランク7〈トルネード〉と連携した場合は、広範囲魔法の範囲が適用される。つまり、熊型魔物を中心に現れた巨大竜巻の内側は、風の刃だけでなく毒花粉も吹き荒れるのだ。こうなれば、風属性に耐性があり〈トルネード〉に耐えようが、HPの高さから耐えようが、範囲内に入った魔物は状態異常に掛かり足止めされる。出血毒に掛かり、風の刃で切られた傷口から血が溢れて止まらない者、麻痺して動けなくなる者、盲目に掛かって転んでしまう者等々。

 ただ、連携魔法にランク3を混ぜると、敵味方識別が無くなってしまう事が多い。その為、ダンジョン攻略では使われる事は少ないのであるが、今回のような魔物の襲撃ならば気兼ねなく使用できるのだった。

 〈トルネード〉の効果が終了すると、その中から現れるのは行動不能になった魔物達。そこに、追撃のランク7魔法が撃ち込まれ、掃討された。


 木属性魔法で活躍しているのは、これだけではない。魔法の狙いを付けるため、胸壁(壁際の凸凹)近くで隊列を組んでいるのだが、その後方には木が生えていた。MPを大量に消費した魔導士達は、マナポーションを片手に、この木陰で休憩している。

 石畳から木が生える状況は、知らない人が見ると驚くだろうが、これが木属性魔法ランク6〈ヒーリングツリー〉だ。回復効果を持った木を生やす魔法であり、その木陰に居るとHPとMP自然回復量がアップする。

 本来なら石畳を傷付けるので、街中では使われない魔法であるが、長丁場になると判断した領主代行の指示で回復場所として使われていた。こうして、継戦能力を維持しつつ、戦闘は続けられる。




 順調に魔物の軍勢を殲滅していったのだが、熊型魔物のようなタフな魔物は魔法の弾幕を抜けていく事が増え始めて来ていた。ただ、一部が突破されたとしても、その先にあるトラップ&壁魔法ゾーンで侵攻を喰い止めている。


 外壁の200m先、魔法で構築された防御陣地である。壁がそのまま残る〈ストーンウォール〉を並べ、その前や隙間に〈ファイアマイン〉の地雷や〈ベリィ・ピット〉の落とし穴を設置してあるのだ。それらのトラップに、まんまと嵌まった熊型魔物は地雷で吹き飛び、落とし穴に落ちたところを追撃の魔法を撃たれて討伐されていく。



 しかし、魔物の軍勢の波がレベル40を超え始めると、広範囲魔法に耐える魔物が増え始めて来た。ボス格だけでなく、普通の雑魚魔物まで防御陣地に押し寄せては、防ぎきれない。〈ファイアマイン〉は一度爆破したら消えてしまう。〈ベリィ・ピット〉の落とし穴も魔物が何体か落ちて埋まってしまえば、そいつらを足場にして乗り越えられる。そして、〈ストーンウォール〉も力自慢の魔物や、風魔法を使う魔物ならば破壊出来るのだ。


 それに対し、外壁上の魔導士や錬金導師が対処をする。追加で壁魔法や落とし穴魔法を設置して時間を稼ぎ、別の魔導士が広範囲魔法や連携魔法を打ち込んでまとめて討伐した。そうして、出来た空白地帯に新しい壁魔法等が設置される。


 そんな、一進一退の攻防が続いたのだが、横に長い戦場なので魔物の侵攻密度にも差が出来ている。特に、真ん中付近……南門の正面は激戦区であり、衝角のような角を生やした大型のバッファロー型魔物が突撃を繰り返していた。雷を纏った角で石壁を穿ち、3体が続けざまに体当たりをすることで、石壁を押し倒す。


「〈アイヴィウォール〉!……駄目! 魔物の勢いが止まりません! 突破されます!?」

「チッ! あの牛魔物の一団は仕方がない、騎馬隊に任せる!

 我々は、通した後の穴を塞ぐぞ! 〈アイスウォール〉!」


 外壁上の南門直上は、領主の館がある。その周辺に配置された魔導士パーティーのリーダーは、下の戦況を見つつ指示を出した。仲間達が壁魔法で足止めし、範囲魔法を叩き込む中、伝令の天狗族が空を舞い外壁から飛び降りていく。


 中央正面の防御陣地を抜け出たのは、20体程のバッファロー型魔物である。彼らは一路真っすぐに南門へと突撃して行く。

 魔物が理解しているかは定かではないが、分厚い石の外壁よりも金属製の南門は(比較的)薄目であり、突破を計るには丁度良い目標である。そして、防御陣地の内側には遮る壁魔法も立てられていない。バッファロー型魔物の突撃速度ならば、駆け抜けるのに左程時間は掛からない……筈だった。


 その行く手を阻むように、南門の前には騎馬隊の一団がV字型の鶴翼の陣で待ち構えていた。その最奥に居る、前領主ケイロトスはV字の真ん中にバッファロー型魔物が侵入してくるのを見計らい号令を発した。


「第3と第2騎馬隊は順次突撃せよ! ブリッツホルンの柔らかい横腹を喰い破るのだ!」

「「「「「おおっ!!」」」」」


 ケイロトスから見てV字の最前列、斜め右前と左前に配置されていた騎馬隊が声を上げて動き始める。バッファロー型魔物=ブリッツホルンは、ジゲングラーブ砦周辺に生息する魔物でもあり、角に雷を纏わせて突撃する戦法の対処法は騎士団員達も心得ていた。真ん中を走り抜けようとするブリッツホルンに対し、第3騎馬隊が〈スパイラルウインド・チャージ〉を展開し側面から突撃したのだ。


 〈スパイラルウインド・チャージ〉は風属性の螺旋型結界を纏い突撃するスキルなのだが、同スキルを3つ以上使用し楔形陣形を組んだ場合に追加効果が発動する。それは、先頭の者を起点として複数の〈スパイラルウインド・チャージ〉を束ねて、パーティー全体が入るような大型の螺旋型結界を生成するのである。勿論、攻撃力も大幅にアップし、防御貫通大の効果も得る。


 第3騎馬隊30名5パーティーは、5つの大型の螺旋型結界となり、ブリッツホルンの群れの側面から喰い破った。螺旋型結界を纏った槍の突撃は凄まじく、何百㎏もありそうな大きい牛体を貫通し吹き飛ばす。それぞれ2体は貫通したので、20体居たブリッツホルンの後ろ半分が討伐されるのだった。


 1回の突撃で半分削れば十分である。騎馬隊は随所に配置されており、反対側に居た第2騎馬隊が同じように〈スパイラルウインド・チャージ〉を纏って突撃した。

 左右からの挟撃を受けたブリッツホルン達は瞬く間に数を減らし、残ったのは先頭の1頭のみ。そいつは、後ろの仲間が倒されたのを知ってか知らずか、一心不乱に前へと走り続けていた。侵略型レア種が植え込んだ怒り(もしくは恐怖)は、それほどまでに強い。


 そして、南門の前に陣取っていたケイロトスの部隊が迎撃に動き始める。


「あの1頭は、祝勝会のディナーにしてやろう。頭を狙え!」

「あの魔物の肉は極上ですからな。心得ました! 〈魔弓術・風花一華カザハナイチゲ〉!」

「ハハッ! 丸焼きにして住民へ振舞っても良いかもしれませんな。〈クインティーアロー〉!」


 ケイロトスが槍を構えると同時に、軽口を叩いた部下の軽騎兵2名が弓を構えた。〈魔弓術・風花一華〉で放たれた緑色の魔力矢はブリッツホルンの前脚に刺さると、まるで花咲くように風の刃が広がり脚を切断する。花一華の名の通り、アネモネの花の形をした風の刃で攻撃するスキルだ。


 前脚の片方を切断されたブリッツホルンが倒れ込んで地面に転がる。その頭に、5本の魔力矢が殺到した。〈クインティーアロー〉は本体の魔力矢が命中したところに、四方から迂回するホーミングアローが追撃する、一人時間差5連射撃スキルである。ブリッツホルンの耐久値が高くとも、連続射撃により頭蓋に命中した魔力矢の1本が脳髄にまで達し、止めとなった。




 町の外に配置されたサードクラスの者達は、東と西のレース場を拠点として再編された。〈スパイラルウインド・チャージ〉を主力とする守護騎士/近衛騎士を中心に、同じく騎乗し弓の援護が出来る軽騎兵。他のジョブでも、訓練を受けて馬に乗れる人でパーティーを編成された。(弓と索敵が出来るDダイバー、回復とバフの司教、魔法が使える魔導士辺りで、馬に乗れない者は拠点防衛と、街を迂回する魔物達の迎撃である)


 そうして5パーティーを騎馬隊の1部隊として、外壁前の各所に配置したのである。

 外壁の上からでは、直下に攻め込んできた魔物は狙い難い。胸壁に乗り出さないと狙いが付けられないからである。その為、防御陣地を200m先に設置し、そこまでは上からの魔法攻撃で迎撃。それより内側に入り込んだ魔物は、騎馬隊による突撃で対処するのである。

 外壁前を無防備に開けているのではなく、騎馬隊の狩場として利用する為の布陣なのだ。


 押し寄せる魔物のレベルが40を超えて、防御陣地を突破される個所が随所に見受けられたが、そのどれもが騎馬隊の突撃で潰されるのだった。




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小ネタ、図解

 騎馬隊の配置が分かり難いと言う意見を頂いたので、簡単に解説します。文章だけで表現できずに申し訳ございません。

 下の図で\と/が騎馬隊(30人部隊)です。敵が密集する南門前だけがV字。後は横に長い戦場なので、距離を取って布陣しています。魔物が突破した際、横腹を攻撃できる部隊が突撃する感じ。


魔物↓  魔物↓ (防御陣地)  魔物↓ 魔物↓ 魔物↓ 

―――――――― 魔物 ―――――――――――――――

         魔物↓

\    \→  魔物↓  ←/騎馬隊     /

 \    \       /        / 

  \    \     /        / 

          南門

―――――――――――――――――――――――――――

          外壁



更に、次回の部分の話ですが、突破する魔物の数が増えてきたら、流れるプールのように全体が動きます。横の最外部まで走ったら、交代の部隊と代わり休憩です。


魔物↓  魔物↓ (防御陣地)  魔物↓   魔物↓ 

―――――― 魔物 ――――――魔物――――魔物―――――

        魔物↓     魔物↓   魔物↓

\→  \→  魔物↓   /→魔物↓ /→魔物↓   /→→休憩

←\  ←\  魔物↓ ←/  魔物↓←/ 魔物↓ ←/←←交代の部隊

  \→  \→魔物↓ /→  魔物↓ /→魔物↓ / →→休憩

        南門

―――――――――――――――――――――――――――――

        外壁


※PC画面では読める事は確認していますが、横に狭いスマホとかだと変に改行が入って図が崩れるかもしれません。スマホを横にすれば見えるかも?

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