第546話 VS紫水晶獣カメレオントールと時間稼ぎ
〈ダーツスロー〉を使用すると、手の中に魔力製のダーツが出現する。自動では投げてくれないスキルなので、〈投擲術〉のサポートも借りて、投擲する。飛んでいくダーツが〈ワンスロー〉の効果で、3本に分裂……そのタイミングで、カメレオントールが飛び掛かってきた。透明状態の時とは打って変わった高速移動に、咄嗟にカイトシールドを構えるしか出来ない……が、途中で3本のダーツがカメレオントールの胴体に命中した。いや、自分から当たりに行った形になっただけである。これで6秒の時間が稼げる。
飛び掛かりの途中で停止したので、そのまま地面へと落ちた。その隙に、俺は側面へと回り込み、入れ替わりにルティルトさんが踏み込み攻撃を仕掛ける。その手にした武器は、自慢のウーツ鋼製の短槍だ。首を狙って放たれた鋭い突きは、アメジストの鱗に当たると甲高い音を立てて弾かれた。
「チッ! 硬すぎる!」
精霊入りのレア種であるカメレオントールは、宝石鱗で強化されたうえ、ルーレットのバフで耐久値も強化されているので、ウーツ鋼製武器では歯が立たないようだ。
ルティルトさんは、弾かれた槍を引き戻し、再度突き入れる。次の狙いは、鱗の無い目だ。
しかし、当たる直前に〈ダーツスロー〉の効果が切れたのか、瞼を閉じられ、槍は弾かれた。すると、顔を攻撃されて怒ったのか、カメレオントールが右腕を振り上げ、5指の爪の斬撃を放った。
「〈城壁の護り〉! 〈シールドバッシュ〉!」
それに対し、ルティルトさんは真っ向から打ち返した。〈城壁の護り〉で自身の耐久値を上げ、カイトシールドの強度も上げたうえで〈シールドバッシュ〉で爪撃を殴り返したのだった。
耳を
「オラァ! 〈フルスイング〉!
……本当にかってーな!」
横殴りの一撃がカメレオントールの背中に直撃した。背骨に沿って一列に沢山の角が生えているのだが、それを2本へし折り、宝石鱗にヒビを入れて打ち返す。〈フルスイング〉にもノックバック効果があるので、今度は前に吹き飛ばしたのだ。前に後ろにと吹き飛ばされたカメレオントールは、四つん這いになって倒れる。いや、爬虫類なのだから、これが正常か?
ともあれ、その隙に投擲用の短剣を腰から引き抜き、魔力を込めて投擲した。
「〈影縫い〉!」
時間稼ぎスキルその2である。敵の影を貫くと、魔力による縛りで拘束するのだ。
これで暫く大丈夫……と思いきや、数秒も経たぬ内に、石畳に突き刺さった短剣が独りでに抜けてしまった。流石は精霊入りのレア種、魔力量も段違いに多いようだ。
自由を取り戻したカメレオントールは、石畳に爪を突き立て飛び掛かってくる。狙いは勿論〈挑発〉した俺である。
初めの飛び掛かりは予想外の速度に驚いたが、2度目なので想定内だ。カメレオントールの攻撃を引き付けて、カイトシールドを構えたまま、新スキルを発動させた。
「〈イミネントストライク〉!」
爪撃を盾で受けると同時に、跳ね返すよう上へと打ち払う。飛び掛かりの勢いすら打ち返したので、両手を万歳して無防備な腹を晒すカメレオントール……そこにミスリルソードでカウンターの斬撃を叩き込んだ。
騎士レベル45で覚えたカウンター系の新スキルである。
【スキル】【名称:イミネントストライク】【アクティブ】
・攻防一体のカウンタースキル。敵の攻撃を盾で受ける直前にのみ使用可能になる。そして、盾で受けた威力と同程度の力で相手の武器(魔物の攻撃部位を含む)を弾き、体勢が崩れたところに手持ち武器で反撃する。
普通の〈カウンター〉とは違い、跳ね返す事で隙を作る。更に、武器でカウンターするところまでオートなので、盾術剣術に自信がなくても安心して使えるのが強みだな。身体が自動で動くアクティブスキルなので、スキル終了後の硬直があるのが難点と言えば難点。ただ、2秒程度であるし、敵にも一撃入れているので再反撃を喰らう可能性は低い。
ただし、今回に関しては、判断をミスった。ミスリルソードの一撃は、宝石鱗に線傷を残した程度で、殆どダメージになっていない。そして、万歳をした状態のカメレオントールが、その両手を振り下ろす。
「っ! 〈シールドバッシュ〉!
……〈ブラックダイス・ブラスト〉!」
身体は硬直していたが、アクティブスキルを使うことで無理やり動かした。ニンジャの〈波状の責め立て〉の効果である。後で硬直が倍になる効果があるが、それも〈勝ち逃げからの踏み倒し〉で帳消しにする。
やっぱりジョブ5つあると、不慮の事態に対応出来るので、安定感があるな。
〈シールドバッシュ〉で少し後退させたところを、〈ブラックダイス・ブラスト〉の爆発で追撃した。微動だにしていないので、あんまりダメージにはなっていないが。
驚嘆に値する程の防御力である。ミスリルソードでも対して傷を付けられないのだからな。
ただそれも、レベル62という強さと、ベルンヴァルトから聞いたサードクラスパーティーでも歯が立たなかったと言う情報から、予想はしていた。やはり、バフを解除しないと話にならない。
「ザックス! ウーツ鋼の盾じゃ、何度も耐えられないわ! 〈城壁の護り〉を使うか、受け流しなさい!」
「了解!」
ルティルトさんが、俺のカイトシールドを見て忠告してくれた。俺のカイトシールドの上部は、爪撃を受けた部分が5㎝程切り裂かれ凸凹になってしまっていたからだ。対して、ルティルトさんのカイトシールドは、同じように爪撃を〈シールドバッシュ〉したのに、線傷が付いている程度。これは、〈城壁の護り〉の効果で盾の強度をアップしていたからだろう。
新スキルを使うからといって、油断したな。
少し反省をしていると、カメレオントールの足元に光る紋章が出現した。剣舞王子リーダーから聞いた話によると、〈翻弄するフォルトゥナの舞〉の効果が発動した証らしい。カメレオントールの脚が邪魔で見えない部分もあるが、車輪を持った女性の意匠である。その紋章からシャボン玉のような大きな泡が出現し、カメレオントールを飲み込む。そして、そのまま泡だけが浮かんでいく。その泡はカメレオントールの身体から離れる際、光の玉を抜き取って行くと、ふわふわと上空へと飛んでいき、中の光の玉ごと霧散して消えて行った。
そんな泡が都合6個。光の玉=バフ1種類らしいので、これでバフが消えた事になる。
後方へと振り向き、ソフィアリーセ達を覆い隠す
「火属性は消えていません!
消えたのは、光と闇、氷属性! ステータスの方はMPと筋力値、敏捷値です!」
「外れだけど、次に当たれば良い! 予定通り、もう2分時間を稼ぐぞ!
〈ダーツスロー〉!」
どの道、沢山あるバフを解除しない事には、硬過ぎてダメージにもならない。沢山掛けた補助の奇跡や、祝福の楽曲で何とか格上の敵と戦えているだけなのだ。宮廷楽師リーダーの熱唱は聞こえている。色々と掛けてもらっているが、スタミナ回復の〈活力のバディヌリー〉は良いな。格上の敵と戦うのは短時間でも疲れるものであるが、今のところ微塵も疲れを感じない。逆に、ダメージを与えられないので、武器に毒を付与する〈毒蜂のマズルカ〉は意味がなかったかも? まぁ、宝石鱗を貫通できるようになれば、意味があると思いたい。
側面から投擲した3本のダーツだったが、カメレオントールの突き出た目がぎょろりと動くと、爪で切り払われてしまった。運良く1本だけ命中したのか2秒だけ停止する。
……危なかった。外したら、こっちが10秒停止だからな。
カメレオンだけあって視界が広いうえ、目が良いようだ。下手に連打しても、逆効果になりかねない。使いどころは避けられないタイミングにしないと。
敏捷値のバフが切れ、動きが鈍くなったカメレオントールは、その頭の角に魔法陣を出現させる。どうやら、攻撃が当たらなくなったので、魔法攻撃に切り替えたようだ。紫の魔法陣、そして大きさからランク3の範囲魔法と推測する。
俺もジョブを入れ替えて、対応しようとしていると、先に青い小鳥が飛んできた。流石は剣舞王子リーダー、頼りになる。〈語らいのブルーバード〉の効果で生み出された青い小鳥は、カメレオントールの頭周辺を飛び回ると、ピィピィ鳴き始めた。あの鳴き声は、敵にとって不愉快な音に聞こえ、充填を邪魔するのである。
カメレオントールが小鳥を追い払おうと、頭上に爪を振る。その隙にルティルトさんが踏み込んで、カイトシールドで殴り付けた。
「〈シールドバッシュ〉!」
「追撃するぞ! 〈フルスイング〉!」
後ろにノックバックした後、ベルンヴァルトが前に吹き飛ばす。その隙に〈ボンナバン〉で接近した俺は、四つん這いになったカメレオントールの頭を目指した。剣を納刀し、右拳を振り上げる。狙うは頭の角の先にある魔法陣だ。〈無充填無詠唱〉で瞬時に完成済みの魔法陣を右手に出し、魔法陣同士をぶつけるようにして、殴り付けた。
充填が不十分だった紫色の魔法陣が砕け散り、カメレオントールが動きを止めた。これぞ、武僧のスキル〈魔光相殺〉である。
【スキル】【名称:魔光相殺】【パッシブ】
・拳の先に魔法陣を出し、そのまま格闘攻撃する場合、充填された魔力の分だけ攻撃力を上げる。
また、その状態で敵の魔法陣を攻撃すると、MPの分だけ相殺し発動を遅らせる。こちらが上回った場合は、敵の魔法陣を破壊して、短時間スタンさせる。
敵の魔法を潰しつつ、時間稼ぎにも使える便利なスキルだな。素手で殴らないといけないので、使える機会は限られるが、仲間に援護してもらえばこの通りである。
スタンしたついでに、角に対して抜刀斬りをお見舞いしておく。しかし、ミスリルソードであっても硬い角に線傷を付けただけである。ここは無理をせず、距離を取り直して時間稼ぎに徹する事にした。
3人の前衛で、お手玉感覚でノックバックし、時折〈ダーツスロー〉で動きを止める。魔法を充填始めたら、先程と同じように青い小鳥で邪魔をしつつ、〈魔光相殺〉でスタンさせる。
こんな感じで、完全にハメパターンに入った。敏捷値のバフが消えて動きは鈍くなり、無理に攻撃を仕掛けなければ、時間稼ぎくらいは問題ない。
そんな調子で戦い続ける事2分、待望の〈翻弄するフォルトゥナの舞〉の効果が再発動する。カメレオントールの足元が光り、泡が出てきた。その泡はバフを吸収して、空へと消えて行く。
すると、後ろからレスミアの弾んだ声が聞こえた。
「火属性耐性が消えましたよ!
消えたのは、火と水属性! ステータスの方は耐久値と知力値、精神力です!」
「よしっ! 総員、魔法攻撃準備!
フィオーレ! 〈コンセントレーション〉で俺に〈魔道士のラプソディ〉だ」
「やっと出番ね!」「りょうかーい!」
仲間に指示を出しつつ、自分の準備も進める。ミスリルソードの先端に〈エクスプロージョン〉の魔法陣を完成状態で作り、それを魔剣術で剣に纏わせる。使うのは、魔法戦士レベル45で覚えた新スキルである。
「行くぞ! 〈エレメント・ガードキル〉!」
剣を振り下ろすと、魔剣術の光が剣閃となって飛んで行く。それは、カメレオントールに命中すると、ガラスが割れたような音と共に弾けた。
【スキル】【名称:エレメント・ガードキル】【アクティブ】
・魔剣術を発動中のみ発動可能。剣に込められた全魔力を消費し、同属性の剣閃を飛ばす。これに当たった敵は、剣閃と同じ属性の耐性が一段下がる。
消費する魔力量が多い程、耐性を下げる効果時間が長くなる。
つまり、火属性耐性のバフが消えて、ノーマル耐性に下がった状態で当てたので、もう一段下がって火属性弱点になった訳だ。後は火属性魔法連打で……
その時、カメレオントールに異変が起きた。
背中に並ぶ沢山の角が紫色に発光し始める。更に、胴体の中心、心臓辺りからも光が溢れ始めた。
……何事だ!?
と、驚くのも束の間、カメレオントールの背中にある一番大きな角の先に巨大な魔法陣が出現する。そこに、全身の紫色の光が集結すると、一瞬で充填が完了。止める暇もなく、閃光を放って魔法が発動した。
魔法陣から紫電が空へ駆け上る。すると、空で弾けた雷が大きく広がり、円柱状へと姿を変えた。プラネタリウムで星座を見ているかのように、雷の線で描かれた巨大な鉄槌である。それは、俺達の頭上へと落下し始めるが、その速度は速く逃げる時間は無い。
前衛陣には〈アリベイト・マジック〉を掛けてあるし、祝福の楽曲の〈雷精霊のオーヴァチュア〉を演奏してもらっている筈なので、即死はしないと思いたい。
後は〈オフセットマジック〉で相殺を試みようとしたのだが、空には目標に出来る対象が居なくて〈エクスプロージョン〉が発動出来なかった。苦し紛れに〈ファイアジャベリン〉を撃ってみたものの、雷の鉄槌の表面に当たって搔き消されてしまう。
カメレオントールを含めた俺達前衛3人を押し潰すかのように、雷の鉄槌が振り下ろされた。
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小ネタ
カメレオントールの最後に使った強制発動〈トールハンマー〉は、精霊の力を使ったバグ技ですね。ピンチになると使用します。
以前、サポーター用の近況ノート『侵略型レア種の使った魔法解説編』で解説しました、『氷花雪女アネモネ』のレベルに見合わぬ高ランク氷属性魔法や、『娘樹精花アネモネバルブ(カボチャ)』の多数魔法を同時展開みたいな力の使い方です。
この辺の詳細は、2章が終わってからサポーター用の近況ノートのネタにしようと考えております(まだ作ってない)
それと、「聖剣クラウソラスならバフ強化カメレオントールにも通じるのではないか?」なんて感想を受けました。
はい、ご指摘の通り、聖剣ならば強化された宝石鱗も切断出来ますね。
ただし、1撃で倒せない場合、上記の〈トールハンマー〉連打モードへ移行してしまいます。耐性が強化されており、弱点属性も無いので怯ませる事も出来ず、MPか命が尽きるまで〈トールハンマー〉を撃ち続ける……手順を踏んで弱体化させないといけない、RTAキラーかな?
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