第545話 剣舞王子と宮廷楽師の開幕スキル
劇団員とフィオーレが合流し、簡単に挨拶をしてから、各々のパーティーリーダーを交えて作戦を練り始めた。カメレオントールはお食事中なので、それが終わる前に戦術に仕立てないといけない。細かいところは後回し。先にカメレオントールの鑑定情報と、バフで強化されていることを話し、本題に入る。
剣舞王子リーダーに聞いたのは、バフを解除する呪いの踊りがあるか?である。
「有るには有るのですが……〈翻弄するフォルトゥナの舞〉、その効果は『敵に掛けられているバフを1種類解除する』……ただ、効果が発動するのは、踊り始めてから1分経過後なのですよ。それだけバフが多いと、狙ったバフだけ消せるかは運によりますね。ああ、踊り続ければ2分置きに効果が再発動するので、全部消すまで踊り続けるのも手です……リーダーの私は戦闘の経験はありますが、他のメンバーは不安ですね。前衛の騎士様に守って頂きたい」
ジョブの通り、王子様風な顔立ちのイケメンリーダー……レグルス殿下と比べると、イケメン度は一段下がる……は、後衛で援護するだけだと主張した。俺としても、戦闘に不慣れな人を前に出しても他と連携出来ないので、下がっていてもらった方が良い。了承して返しておく。フィオーレみたいに踊りながら戦う場合、一緒に戦うのも慣れがいるからな。
さて、それは兎も角、またギャンブルになりそうだ。剣舞王子と姫の6人が〈翻弄するフォルトゥナの舞〉で1個ずつバフを消すとしても、現在カメレオントールに掛かっているバフは17個(ステータス系8種、耐性アップ系9種類)もある。俺が考えている戦術として、火属性耐性を消そうとするのならば、6/17で約35%。微妙な数字である。外れた場合は、2分踊って追加発動を待つしかない。すると、6/11で約55%。
……最長で5分耐えれば100%だけど、戦闘の5分って結構長いからなぁ。
時間稼ぎに徹すれば何とか行けるか?
ただ、俺の現在のMPは50%程(マナポーションで回復中)なので、他の魔法やスキルに回す分を考慮するとヴァルキュリアは1体しか呼べず、確実性に欠ける。聖剣以外で硬い敵に対処する方法……
……いや、硬い敵に対する定番の戦法があるじゃないか!
理科の教科書とか、小説の話ではあるが、科学的根拠がある話なので信頼性はある。宝石鱗に通じるかは実験だな。
聖剣と聖楯は〈緊急換装〉に登録しておいて、作戦が失敗した時の保険にしておこう。リスクを負って自分一人で片付けるより、これだけの仲間が居るのだから頼った方が良い。
方針がまとまり、頭の中で戦術を組み立ててから、皆に話す。
「では、剣舞王子パーティーがバフを12個解除するまで、3分間は確実に俺のパーティーで守りましょう。
火属性耐性のバフを消したのを確認してから、魔法戦士のスキルで火属性耐性を1段下げて、弱点にします。その後は、ソフィアリーセと俺の火属性魔法で弱点を突き、更にこの火属性の武器、紅蓮剣でたたっ斬ります。ヴァルト、使ってくれ」
「盾がこんなに小さくなっては、盾役も出来んからな。このクソ重い大剣で攻撃役に回るぜ」
特殊アビリティ設定を変更し、紅蓮剣を取り出す。その重さから切っ先が石畳に突き刺さってしまうが、インパクトは十分である。劇団員さん達が驚きの声を上げる中、ベルンヴァルトが引き抜いて肩に担いだ。
ベルンヴァルトの持っていた大盾は、先の妖人族との戦いで細切れにされてしまい、スモールシールドよりも小さくなってしまっていたのだ。最早、持ち手周辺しか残っていないので、〈シールドバッシュ〉が発動するかも微妙なところである。ただ、集魂玉が無い状態で鬼徒士に変えても仕方がないので、〈装備重量軽減〉を持つ騎士で紅蓮剣を使ってもらう訳だな。
火属性で攻めると言う方針を話したところ、次は宮廷楽師のリーダーさんが提案をしてくる。黒いシックなドレス姿なので、そのままオーケストラに参加出来そうな妙齢の女性だ。
「それなら私達は、祝福の楽曲〈火劇のファンタジア〉で武器に火属性を付与しましょう。それと、魔物が雷属性魔法を使うのなら〈雷精霊のオーヴァチュア〉で耐性を上げる事も必要ですよね?」
「ええ、それでお願いします。残りの4つに関しては、お任せしても良いですか? サードクラスのスキルまでは把握していませんので……有用な物があればそれで、なければステータスアップ、特に知力値と敏捷値をお願いします」
「そうね……スタミナ回復の〈活力のバディヌリー〉、武器に毒を付与する〈毒蜂のマズルカ〉、知力値を上げる〈魔道士のラプソディ〉、敏捷値を上げる〈狩人のフーガ〉でいかがかしら?」
継戦能力的に、スタミナ回復があるのはありがたい。毒の付与もレア種に通じるかは分からないが、試す価値はあるスキルだと思う。サードクラスのスキルも楽しみであるな。
ふと、フィオーレに目を向けると、元気に手を上げた。
「はいはいっ! アタシは被らないように〈守護騎士のバラード〉を弾くから、ジョブを楽師に変えて」
「ん? あー、フィオーレには魔法の充填を邪魔する〈語らいのブルーバード〉を頼もうと思ったんだけど……」
「いえ、ソードダンサーの〈語らいのブルーバード〉では、格上の敵には効きませんよ。
我々もレベルでは負けていますが、パッシブスキル〈ソウルダンス〉の効果で格上の敵にも通じます。魔物が魔法を充填始めたら、私達の1人の踊りを〈語らいのブルーバード〉へ切り替えた方が良いでしょう」
剣舞王子リーダーさんが補足し、別案を提案してくれた。その案を採用し、フィオーレのジョブを変更。更に、〈翻弄するフォルトゥナの舞〉でバフをある程度消してから、別の呪いの踊りに切り替える話をする。
敏捷値低下+HPを削る〈衰弱の白鳥〉、闘争本能を削って戦う意欲を消す〈嘆きの泉〉、眠りに誘う〈眠りの森のオーロラ姫〉等々、呪いの踊りも面白いスキルでいっぱいだ。
そんな戦略を立てている途中で、敵の監視を頼んでおいたレスミアが声を上げた。
「魔物が姿を消して動き始めました! ゆっくり、こっちに向かって来ています!」
皆が一斉に魔物が居た方へと振り返る。すると、食事をしていた筈のカメレオントールが姿を消していた。アメジストな紫色なので、見逃す筈もない。恐らく、鑑定文にあった『カメレオン由来の擬態化能力』に違いないな。ビガイルの時と同じように、解除してやればいい。
既に作戦会議中に聖剣をポイントに戻し、特殊アビリティ設定は変更済み。ジョブを5つ(適宜切り替え)で20p、〈無充填無詠唱〉10p、ベルンヴァルトに紅蓮剣10p、自分にミスリルソード5p、ストレージ5p、〈緊急換装〉1枠2pで計52p。
因みに、お爺様から頂いた『氷柱のミスリルバスタードソード』があるのに、態々アビリティポイントを使ってまでミスリルソードを取り出したのは訳がある。『氷柱の』と名前にあるように、氷属性なのでカメレオントールには効かないからだ。
取り敢えず、作戦会議はここまでだ。
「それじゃ、各自配置に付いて! 細かいところは各リーダーに任せるから、良い感じにお願いします!
あ、呪いの踊りは、敵が見えなくても効果はありますか?」
「いえ、認識していないと無理です! 姿を現し次第、踊り始めます!」
剣舞王子リーダーは、そう言い返すと仲間の元へ戻って行った。もちろん、宮廷楽師リーダーも同じで、仲間の元へ帰って楽器の準備を始める。
さて、前衛は俺達の仕事だな。自分に補助の奇跡を掛け、抗麻痺剤を飲み、準備をしながら、簡単に作戦を話しておいた。すると、仲間の皆も、準備出来ていると口々に話してくれる。
「ええ、銀カードで付与術も強化の奇跡も、全部掛けておいたわ」
「俺はバフ料理の唐揚げ棒も喰っといたぞ。ああ、抗麻痺剤もな」
「ヴァルトとルティだけ、オヤツ食べるとかズルいな~」
「はいはい、フィオーレは後であげるから、戦闘に集中してくれ」
「火属性で畳みかけるのよね? わたくしに任せておきなさい! とびっきりの〈エクスプロージョン〉をお見舞いしてあげるわ!」
おのおの、そんな言葉を交わして配置に付く。そして、残ったレスミア……デバフを喰らったままなので前衛に出すには危険……には、数枚の銀カードと、バルギッシュからの戦利品『火炎放射のルビーブレスレット』を渡しておく。
「〈宵闇の帳〉で隠れつつ、〈詳細鑑定〉でバフを消せたか確認を頼む。レスミアの合図で攻勢を掛けるからね。
こっちのブレスレットで〈フレイムスロワー〉が使えるから、攻撃にも参加出来るよ」
「はいっ! ソフィとフィオーレの護衛も任せて下さいね」
そんな訳で、配置が完了した。宮廷楽師パーティー、剣舞王子と姫のパーティー、ソフィアリーセとレスミアとフィオーレの後衛は、別々に離れた位置である。時計で言うと、4時、6時、8時の方向だ。万が一、あの雷属性魔法を撃たれても、全滅しないようにパーティー単位でバラけさせた。
そして、前衛は盾持ちの俺とルティルトさんである。ベルンヴァルトはアタッカーとして背後に回ってもらう。
対して、カメレオントールの赤く小さい光点は、ゆっくりと近付いて来ている。ルーレットのバフで強化されているのに、足が遅いのかね? それとも、抜き足差し足で不意打ちを狙っているのか……カメレオントールの透明化は、ビガイルの使っていた(多分)光属性魔法〈インビジブル〉よりも精度が悪いようだ。歩いていると、少しだけモザイク調に空間が歪んでいるように見えた。
「よし! 戦闘開始だ! 先ずは祝福の楽曲から!」
「どんな場所でも! 私達が曲を奏で、歌えばステージになる! 「「「「「〈ステージ開幕〉!!」」」」」」
「〈火劇のファンタジア〉!」
宮廷楽師リーダーが威勢よく宣言すると、タイミングを合わせて6人がスキルを唱和した。特に変化はないと思いきや、演奏が始まると、その音が大きく響く。屋外だというのに、スピーカーでも通したように変化したのである。
リーダーがハープのような楽器を弾きながら歌い始めると、その情熱をはらんだ声も拡声された。
宮廷楽師のスキル〈ステージ開幕〉の効果らしい。本来、祝福の楽曲は他のパーティーにも効果が有るのだが、その効果は半減してしまう。そんな時、〈ステージ開幕〉を使えば、効果を100%適用出来るのだ。しかも、パーティーメンバーに宮廷楽師のジョブが多いほど、演奏する人が多いほど効果範囲が広くなる。更に、全員が同じ曲を弾いた場合、メイン奏者以外は別の曲の効果に差し替える事が出来るそうだ。
その歌声により、皆の武器が赤い光を纏う。火属性付与の効果が発揮されたようだ。それを合図として、俺もスキルを発動させた。
「〈遠隔設置〉!〈レイディスペル〉!」
虚空からカメレオントールが姿を現した。紫色のアメジストを纏ったトカゲ……工芸品やフィギュアにでもありそうな造形である。ただし、2mもある大きさのカメレオンからは、威圧感しかない。特に左右の手から伸びる単刀のような5本の爪は脅威である。
その姿を見たのか、剣舞王子リーダーの声が響いた。
「我々の踊りで、魔物も骨抜きにしてやる! 行くぞ! 「「「「「〈舞踊劇開幕〉!!」」」」」」
「〈翻弄するフォルトゥナの舞〉!」
リーダーのタイミングに合わせて、剣舞王子と姫の5人が唱和した。
剣舞王子のスキル〈舞踊劇開幕〉も、宮廷楽師の〈ステージ開幕〉と似た効果がある。全員で同じ踊りを踊っても、主演以外の呪いの踊りの効果を差し替える事が出来る……最初は全員〈翻弄するフォルトゥナの舞〉だけどな。骨抜きと言うか、バフ抜きな気もする。
チラリと様子見ると、6人どころか20人くらいの群舞を踊り始めていた。多分、〈幻影舞踏〉の効果で生み出した囮の幻影かな?
確かに目立つ。カメレオントールも突き出した目をぎょろりとダンサー達に向けると、そちらへ向かおうと方向転換をする。それを阻止するべく、俺は〈挑発〉して足止めを謀った。
「そんな宝石の鱗を纏ってもドラゴンには成れないぜ! 所詮はトカゲ、バックの材料にしてやる!
〈ダーツスロー〉!」
先ずは定番の足止めスキル〈ダーツスロー〉で、6秒の時間を稼ぐのだった。
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