第541話 貴族街の魔物退治

 今回はザックス視点にて、援軍に行く前の状況を送り致します。


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 ダンジョン用のドレス装備に着替えたレスミアを後ろに乗せて、バイクで移動を開始した。もちろん、上にはヴァルキュリア3姉妹が飛んで付いてきている。同じく空を飛んでくる魔物、スパイラルイーグルに発見されたとしても、自動で迎撃してくれるので頼もしい。突撃結界同士でぶつかって、圧殺するのはやりすぎな気もしたが、まぁ良し。


 貴族街への勝手口から外壁沿いに、南下した。道中にも、街を破壊している魔物を発見しては、ヴァルキュリアに指示を出して殲滅する。あ、建物を破壊しそうな状況では、パワーダイブや突撃は禁止して普通に戦ってもらった。空中から武器で攻撃したり、ジャベリン魔法を充填無しで撃ったりするだけでも、十分強い。


 対する魔物は、燃える毛皮の狼とか、たてがみと尻尾が燃えている2本角の馬(多分、フレイムバイコーン)等々。火属性の魔物が多いのは、火事を起こして混乱を誘うためだろうか?

 家だけでなく、避難の際に置いていかれた屋台等も燃やされていた。


 大きな貴族のお屋敷ならば、警備員というか家を守る私兵が魔物を迎撃している。通り沿いで〈敵影表示〉に赤点が表示されて入れば確認に寄り、苦戦しているようであればヴァルキュリアに迎撃を頼んだ。

 避難して誰も居ない屋敷が燃やされている時には、魔物退治だけでなく消火活動もする。


 やけに通り沿いに魔物が出没していると思いきや、南端(貴族街の南東の角)に着いたところで原因が判明した。

 大き目の魔道具店がフレイム・レッサーキュクロプスに襲われており、騎士団と戦闘をしていたのだ。更に、騎士団の隊服同士で争っているのも見える。

 仲間割れかと思ったが、直ぐにピンッと来た。銀カードの〈詳細鑑定〉を掛けたところ(アビリティポイントに余裕がない為)、1人が妖人族で確定。バルギッシュの仲間が魔物をバラ撒いてかく乱していたに違いない。


「目標、キュクロプスと妖人族! なるべく周囲に被害が出ないようにお願いします!」


 バイクの速度を落としながら、ロックオンカーソルで狙いを付けた。妖人族の頭と、キュクロプスの心臓と股間である。

 すると、ヴァルキュリア達が武器を抱え、円錐型の結界を纏って加速する。ただ、残像を残すほどの速さではない。お願いした通りに加減してくれたようで、目で追える程度の速さで突撃し、目標を貫通して討伐してくれた。もちろん、建物や戦っている他の人達は避けてくれている。



 少し遅れて現場に到着したのだが、予想外の状況に驚いてしまう。何故なら、先程まで戦闘に参加していた騎士団や探索者達が、空中で待機しているヴァルキュリアに対して跪いて拝んでいたからだ。


「危ないところを、ありがとうございました!」

「おお……なんと神々しいお姿だ。天使様、ご助力感謝致します」

「天狗族に天使みたいな娘が居るって、一時期噂になってたけどよ。やっぱ本物は別格に綺麗だぜ」


 なんて会話が聞こえてきた。どうやら、ギルドマスターの時と同じように天使と間違われているようだ。このままでは誤解されてしまうので、向こうのリーダーに説明することにした。




「ううむ……鑑定では、使い魔になっているのを確認した。仲間達にも徹底させておこう」

「ええ、あくまでスキルで召喚しただけですから」


 天使を騙ると教会が煩いと、スカイループルーフの時に聞いた話である。噂になる前に説明して誤解を解いておいた方がいい。騎士団パーティーのリーダーが〈詳細鑑定〉のブラックカードを支給されていたのも幸いした。


「では、改めて礼を言おう。ザックス殿、救援に感謝する。領主様お気に入りの秘蔵っ子だと噂には聞いていたが、その豪華な盾と剣を見れば頷けると言うものだ。

 あの巨人は固くてな。ウーツ鋼の武器では碌に切れず、ミスリル製の武器を持っている者しか戦力にならなかった。それに、救援に来た振りをして奇襲を掛けてきたコイツのせいで、1人犠牲者が出てしまっている。

 くそっ! 知った顔だからと油断した!」


 リーダーさんは、苛立たしさを隠すことなく、妖人族の首無し死体を蹴り飛ばした。

 ……知り合いの顔って事は、その人も犠牲になっているよな。


 転がった死体の首元から、ペンダントの鎖が見えたので、近寄って引き抜いてみる。すると、予想通りの手鏡が付いたペンダント……ネクロドッペルミラーだった。気は重いが、リーダーさんに事情を説明する。ブラックカードで〈詳細鑑定〉してもらえば、内容を信じてもらうのは容易かった。


「確かに奇襲を掛けてきた時は騎士団の隊服だったが、死んだ後は服が変わっているな……そうか、アイツも神の御許に行ってしまったか……」

「恐らく、一人で居る所を襲われたのでしょう。

 ……その方の遺体の回収もお願いします。ああ、亡くなった方は、直ぐにダンジョン埋葬はしないで下さい。追って領主様から指示があると思いますから」

「了解した。遺族にも話をせねばならないからな」


 慰めになるか分からないが、ネクロドッペルミラーはその場で破壊して、これ以上の犠牲が出ないようにしておいた。魂魄結晶の粒も3つ目ゲット。


 この場の後始末は彼らに任せる、なんて話を進めていると、唐突に落雷の音が遠くから響いてきた。思わず音がした方に目を向けるが、遠すぎて見えない。レスミアにも聞いてみたのだが、首を振られた。


「多分、大通りより向こう側だと思いますけど、詳しくは分かりません。雷属性魔法でしょうか?」

「味方の魔法なら良いけどな。どのみち、外壁の上に行くのだから、ついでに様子を見に行こう」


 バイクに二人乗りすると、リーダーさん達に見送られて、出発した。

 いや、隊員の皆さんはヴァルキュリア達に声援を送っていたけどな。まぁ、美人3姉妹だからしょうがない。



 大通りへ向かって走る途中、魔物が居たのでヴァルキュリア達に任せたのだが、その戦闘後に黄色のヴァルキュリアちゃんが霧散化して消えて行ってしまった。どうやら、召喚時のマナを使い切ったようだ。最後は手を振って消えて行ったので、特に悲壮感も無い。元気っ子だったので、また呼びたくなるな。


 その後、2戦すると白と青のヴァルキュリアも霧散化して消えて行った。精霊の祝福持ちの属性なので、少し長持ちしたのかもしれない。白さんはレスミアの猫耳を撫でてから消えて行くし、青さんは優雅に手を振って行った。やっぱり、性格が違うよな。


 ヴァルキュリアが頼もしいのは分かったのだが、燃費は〈プリズムソード〉よりも倍くらい悪い。何せ、1体に付き最大MPの3割も必要なのだ。ただ、フレイム・レッサーキュクロプスが2体居た事から考えると、弱点の水属性は、護衛に欲しい。現在のMP残量とも相談して、1体だけ追加召喚することにした。


 再召喚された蒼玉のヴァルキュリアさんは、先程と同じく優雅に手を振って笑顔を向けてくれた。さっきと同じ個体なのかは分からないが、護衛を頼んで先に進んだ。




 大通り前のダンジョンギルド第1支部に到着した。入り口前の広場に、人と馬車が集まっている。ついでに〈敵影表示〉には青い光点が3つ表示されており、近付けば直ぐに誰か分かった。目立つサファイアな宝石髪のソフィアリーセに、白馬を連れている金髪ポニーな姫騎士ルティルトさんである。

 向こうも周囲を警戒していたルティルトさんがバイクに気が付き、手を振ってくれた。

 近くにバイクを止めると、こちらに振り向いたソフィアリーセに声を掛けた。


「ソフィ! 良かった、無事だったんだな!」

「ザックスとミーア! ええ、貴方達も無事だと信じていたわ!」

「こっちも大変でしたよ~」


 レスミアが駆け寄る。女性陣は手を取り合って、無事を喜び合うのだった。

 先程の落雷は気になるが、ソフィアリーセ達の状況も気になる。周囲の馬車は全部ゴーレム馬車の様であるし……一先ず情報交換を行った。




 ゴーレム馬車に乗り込もうとしている人の中には、踊り子衣装の人もいる。何故かと言えば、ソフィアリーセが劇団『妖精の剣舞』を街の防衛戦力として勧誘してきたそうだ。流石は領主の娘である。

 現在、劇団員の中でもレベルが高い者を、外壁上へ輸送するところだそうだ。ヘラルダ座長が指揮を執り、パーティー単位でゴーレム馬車に乗せている。


「うふふ、ザックスとミーアの活躍も凄いわ。現神族の賊を2人も倒してくれるとはね。

 ……ところで、こちらの天狗族はどなた? 宝石髪の天狗族は初めて見るのだけど……新しい女ではありませんよね?」

「あ、違いますよ~」「そうそう、スキルで召喚した只の使い魔さんです」

「こら! 許可なくお嬢様に触れようとするな!」


 頭上をふよふよ飛ぶ青のヴァルキュリアが、ソフィアリーセの頭に手を伸ばすものの、ルティルトさんにガードされていた。取り敢えず、誤解を解くために説明と〈詳細鑑定〉を見てもらう。

 その結果、安全と判断されたヴァルキュリアは、ソフィアリーセの頭を撫でるのだった。

 恥ずかしがっているような、くすぐったいような微妙な表情でソフィアリーセは、ヴァルキュリアを見上げる。


「本当に、ザックスと居ると退屈とは無縁になりそうね。

 ところで……こちらのヴァルキュリアさんは、何故わたくしの頭を撫でるのでしょうか?」

「喋れないので、真意はわかりかねますけど、レスミアも氷属性の白いヴァルキュリアに猫耳を撫でられていましたからね。同じ髪色にシンパシーを感じているとか?」

「な~んだ、修羅場になるかと思ってたのに……ザックスの不思議設定が盛られただけか~」


 そう言って茶化してきたのは、馬車の影から顔だけ覗かせていたフィオーレだった。どうやら、また告げ口(聖剣使いのネタ)をするために、様子を伺っていたらしい。


 彼女は、魔物の襲撃が始まってから、劇団員と一緒にダンジョンギルドへ避難していた。曰く「パーティーならいざ知らず、私だけじゃ戦えないからね?」らしい。

 ただ、劇団と交渉しに来たソフィアリーセとルティルトさんに見つかり、引っ張ってこられたそうな。


「む~、劇団の人達はサードクラスなんだから、私が護衛に付くのは可笑しくない?」

「契約では騎士団の護衛を付けることになっているからな。ただ、騎士団も手が足りない。

 街の危機を救う為、同じパーティーメンバーのよしみとして、助け合って当然だろう?」


 なんだかんだとルティルトさんに説得され、精霊の剣舞の演奏や踊りを近くで見られるからと、フィオーレも参加する事になった。

 そんな経緯を聞いたりしていると、爆発音が響き渡った。今度の音は近い。レスミアに聞かずとも、大通りを挟んだ向こう側、錬金術師協会や劇場のある方角と分かった。

 その場にいた騎士達が警戒態勢になり、ゴーレム馬車を守り始める。俺もバイクに飛び乗り、レスミアを後ろに乗せた。


「俺達は爆発のあった現場に救援に行きます!」

「ちょっと、ザックス! わたくしも……」

「ソフィは劇団を輸送する代表者だろ? そっちを優先してくれ」


 これも本当だが、爆発が起こったというのなら、また妖人族が居る可能性は高い。ダンジョン内ならいざ知らず、街中で高レベルの魔物との戦闘になるのだ。領主一族を危険に晒すのは不味いと考え、別行動するように返事をしたのだった。


 そんな押し問答をしていると、今度は空に紫の閃光が走った。雷で出来た巨大なハンマーが落下し、落雷音を数十倍にした爆音が轟く。

 嫌な予感が的中した。落雷に驚くソフィアリーセに手を振って、バイクを走らせた。


「2人共、無茶をしてはなりませんよ!」


 そんな声に背中を押され、大通りを横切って側道へと入った。


 片手で運転しながら〈モノキュラーハンド〉で先を見ると、左程離れていない位置で戦闘が発生しているのが見えた。錬金術師協会前の道路に、うさ耳と僧侶が座り込んでいる。それに、その近くで騎士っぽいのと戦っているのはテオだ。彼が剣で吹き飛ばされ転がされ……その右腕が切断されているのを見たら、どちらが敵なのか直ぐに分かった。


 ただし、〈敵影表示〉ではどっちも緑色の光点。ネクロドッペルミラーの可能性も考慮し、誤爆しない為に銀カードで〈詳細鑑定〉を使用した。


【妖人族】【名称:バグラーダ、55歳】【基礎Lv60、重装歩兵Lv60】(赤字ネームのため攻撃可)


 敵と確認した瞬間に、ロックオンカーソルで頭に狙いを付けた。


「友達のピンチなんだ! 最速で頼む!」


 青のヴァルキュリアに指示を出すと、直ぐさま結界を纏って飛んで行く。キュクロプスの時と同じく、残像を残すほどの突撃は、瞬く間に敵へ到達し首を吹き飛ばした。頼もし過ぎる。

 〈敵影表示〉には赤点が1つあるので、ロックオンカーソルで指示を出しておく。後はオートでもいいだろう。


 この間もバイクは走らせていたので、現場へと到着する。ピリナとプリメルも怪我をしているし、テオは腕が千切れている重症だ。バイクを少し減速させ、もう1枚の銀カードで充填していた回復の奇跡を発動させながら、撤退を促しておいた。


「〈ヒールサークル〉! ピリナ、回復したら後退しろ!

 残りの敵は俺達が相手をする!」

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