第539話 VSカメレオントールとバグラーダ(前編)
今回も三人称視点、テオパーティー+ベルンヴァルトのボス戦続きからです。
あらすじ:紫水晶獣カメレオントールが放った雷属性魔法〈サンダーストーム〉は、妖人族の重装歩兵バグラーダへ直撃した。仲間割れ?
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ランク3の効果範囲は直径5m、バグラーダの頭上と足元に現れた紫色の魔法陣の間で雷が吹き荒れた。上から落雷が落ち、下から上にも紫電が走る。中にいる者達は、雷に打たれて悲鳴を上げた。声も出せずにいるのは、麻痺して声も出ない者か、既に事切れている者か……
雷の乱舞は10数秒で終わり、魔法陣も消えていく。残されたのは、地面に転がったままの騎士達と、何事もなかったかのように立ったままのバグラーダである。彼は笑い声をあげながら、後ろを振り向いた。
「クカカカカ! 狙った訳じゃないんだろうが、良いタイミングだったぜ。
ほらよ! ご褒美の餌だ!」
バグラーダは足元の騎士を蹴り上げて、カメレオントールの方へ飛ばす。その先に待っていたのは、アメジストで強化された爪……それは騎士を鎧ごと串刺しにした。餌を捕らえたトカゲ頭は大口を開け、騎士の頭に齧り付く。ウーツ鋼の兜をかぶっていたのも関わらず、果物の如くバリバリと咀嚼した。
首が無くなった死体の断面から血が溢れ、そのアメジストの鱗をしとどに濡らし赤く染める。それを嫌がったのかは定かではないが、カメレオントールは腕を振るって死体を捨てると、次なる獲物を探すべくぎょろぎょろと目を動かした。
その様子を見たバグラーダは、再度足元の騎士を蹴り上げて餌を与えると同時に、声を掛けた。
「ほんと、頭が好きとか気持ち悪い魔物だぜ! いいか! 次の魔法も俺を狙えよ!」
その言葉には〈挑発〉の効果が含まれていた。
いくらレア種の魔物だからと言っても、人語を解して指示できる訳ではない。その為、この魔物と組まされたバグラーダは、隊長であるビガイルから戦術を言い渡されていた。強固な宝石を纏いながらも、鈍重で雷魔法を多用する魔物……失敗作……を利用する為、〈挑発〉で自身を範囲魔法の的にするのである。無論、雷魔法対策に現神族製の高級魔道具、【雷属性無効】のアクセサリーを貸与されていた。
その戦術を含めた、一連の行動はこうだ。
錬金術師協会の爆破に合わせ、単独行動していた騎士を殺し、ネクロドッペルミラーで成り代わる。錬金術師協会の内部破壊が終わるまでの時間稼ぎのため、急行してきた騎士の一団に紛れる。そして、協会入口の門番として配置したカメレオントールとの戦闘の合間に裏切り、騎士達を攻撃。混乱する合間に、カメレオントールに挑発を掛けて、自身に向けて〈トールハンマー〉を撃たせたのだった。
これにより、集まっていた騎士団の大半が戦闘不能となったのが真相である。
現在、協会内部でビガイルが破壊工作&強奪中であるが、完了したとの合図はまだない。更にその後は、カメレオントールを外壁の上まで誘導して、騎士団本部を強襲させる予定であるが、今しばらく時間稼ぎをする必要があった。
勿論、街中の戦力を削るのも仕事の内である。
バグラーダはカメレオントールの背中に巨大な魔法陣が展開されたのを見てから、次なる標的へ向け歩き始めた。その行き先は、先程邪魔をしてきたテオパーティーである。
騎士団の残りには男しかおらず、元探索者達の中には婆しかいない。バグラーダの歪んだ性癖は、若い女へ向けられていた……それも幼い容姿のプリメル……そのモフモフなうさ耳に目を付けていた。
「クククククッ……そのうさ耳を切ったら、どんな悲鳴を上げるのか楽しみだ。ああ、切ったうさ耳は加工してアクセサリーにしてやろう。滾って来たぜ!」
「ヒィ……へ、変態だ~!」
プリメルがうさ耳を抱えて隠そうとすると、その前にピリナが立ち背中に隠した。更にその前にはテオとベルンヴァルトが盾を構えて立ちはだかる。テオはちらりと後ろの2人を見ると、決断して合図をする。
「〈ミラーシールド〉を使うサードクラスなんて、相手にしてられるか! 撤退するぞ!」
テオは腰に付けたポーチから煙幕玉を取り出して、地面に叩きつける。途端に煙幕が周囲に広がり、煙で包んだ。
この隙に後ろに下がろうと、女子2人の背中を押して後ろに走る。
しかし、煙の向こう側から、笑い声が響いた。
「クハハハッ! 劣等種族共が逃げられると思っているのか!
大人しく、その耳を置いていけ!」
〈ヘイトリアクション〉の効果が込められた声は、逃げようとしていたテオパーティーの足を止めた。スキルの効果で殺意を植え付けられては、振り向かずにはいられない。
魔物相手ならば逃げられたのだろうが、〈挑発〉系スキルを持った赤字ネームが相手になるとはついていないと、ベルンヴァルトは舌打ちをして殺意を紛らわせる。そして、テオ達に小声で相談を持ち掛けた。
「(こうなったら、ヤルしかねぇ。反射出来ない魔法で使えそうなのはないか?)」
「(ええと、壁魔法とか、地雷魔法、落とし穴魔法かな?)」
「(あたしの〈ホーリーボール〉なら、反射されても大したことないわよ。直撃しても大した事ないけど……)」
「(くそっ、なんでこんな事になってんだ……)」
煙が晴れる少しの間に、相談をする。
ただ、この煙に乗じて動いた者達が居た。2つ目のグループが、半分に分かれて行動を開始したのである。バグラーダが移動した事により、最初に倒された騎士団の前衛達がフリーになったのだ。それを助けに行く半分のメンバーで、回復役の司祭や司教、それと要救助者の運搬役であるレベルが低めな者達である。
そして、残りの半分は魔導士2名とDダイバー、更に元探索者の前衛職である。特に槍を構えた年配の男性は、怒りを抑えられないと、一人〈ペネトレイト〉で突貫してしまっていた。
「息子の仇だ! 死ねぇ!!」
倒された騎士の中に血縁が居たのだろう。現役時代に使っていたウーツ鋼の短槍、その先端から風の旋風を纏って疾走する。
対するカメレオントールは、背中の魔法陣を充填しつつ、2個目のお食事タイムである。ただ、ぎょろりと突き出した目は、接近する敵の存在を捕らえているようで、煩わしそうに手を振った。すると、爪に刺さっていた首無し死体が投げ飛ばされ、〈ペネトレイト〉の風結界に接触、弾き飛ばされた。
その所業に年配の男性が怒りの声を上げる。裂帛の気合と共に突き入れられた短槍は、カメレオントールの胴体へと直撃した。
しかし、〈ペネトレイト〉の突進はそこで止められてしまう。短槍の切っ先は、宝石状の鱗を少し抉っただけで、それ以上の破壊が出来なかったのである。
アメジストの右爪が振り下ろされた。風の結界を破壊し、短槍を輪切りにする。これで効果が切れて、スキル後の硬直が訪れた。馬に乗っていれば硬直無しで済むが、徒歩の場合は長い硬直が待っている。
更に左の爪が振り上げられ……万事休すと年配の男性が覚悟を決めた時、後ろから魔法が飛んできた。
「〈アイヴィボール〉!」
蔦を丸めたようなボールが飛来し、カメレオントールの振り上げた左腕にヒットする。すると、蔦が解けて宝石の身体に絡みつき、動きを阻害したのだった。木属性魔法特有の拘束効果である。
「〈ブランチジャベリン〉!」
同じく枝を捩じったような投げ槍が飛来し、カメレオントールの胴体に直撃する。弱点属性でありながらも、鱗を少し削った程度であったが、こちらも枝が解けて身体に絡み付いていく。それで、ようやくカメレオントールの左爪の動きが止まった。その隙に、硬直が解けた年配の男性がバックステップで下がった。破壊された短槍を投げ捨て、予備の武器を仲間から渡された。
少し後方に居る魔導士が指示を出す。
「いかに固い魔物とはいえ、弱点属性ならダメージは通っているはず! 木属性魔法で拘束しつつ、一斉攻撃だ!
背中の魔法陣が完成する前に倒すぞ!」
「「「「おおっ!」」」」
動けない左側へ接近した重戦士が〈ホークインパルス〉で切りかかり、後方からDダイバーが〈トリプルアロー〉で魔力矢を連射する。それらの攻撃を受けながら、カメレオントールは無事な右爪を振り回し、拘束する蔦を切り裂き始めた。木属性は相性が悪いはずであるのに、雑草を切るかのようにスパスパ切り裂く辺り、アメジストの爪の攻撃力の高さがうかがえる。
それを分かっている元探索者達は、拘束出来ている時のみ接近戦を仕掛け、後ろから木属性魔法を連打するのだった。
一方、テオパーティーの方も戦闘を開始した。煙幕に乗じて軽い打ち合わせと魔法の充填を行い、準備が整ったところでテオとベルンヴァルトが前に出た。
しかし、時間があったのはバグラーダも同じである。ミスリルシールドの裏に隠していた魔道具を使い、充填していた魔法を撃ち放つ。
「俺はあのウサギを狩りたいだけだ。邪魔をするな、〈ストーンジャベリン〉!」
「っ! やらせねぇ!」
前に出た2人の間を抜けるようにして、後衛のプリメルが狙われた。咄嗟にテオが剣で切り払い、石の投げ槍の軌道を変えることに成功した。その代償として、〈ストーンジャベリン〉の属性ダメージを負ってしまうが、直ぐさま後ろからフォローが飛んでくる。
「テオ、ナイス! 〈ヒールサークル〉!」
ピリナが事前に準備していた回復の奇跡で傷を癒す。
その合間に駆け抜けていたベルンヴァルトが、ウーツハルバードを構えて渾身の突きを放つ。
「うおりゃあ!」
鬼人族の体重の乗った一撃は、敵のミスリルシールドを貫けないにしても、防御したバグラーダを1歩下がらせる。その勢いに乗って、連続突きを行うが、全て防御されてしまう……いや、これはテオが追いつくまでの時間稼ぎであった。
「待たせた! いくらミスリル装備だからと言っても、二人掛かりなら!」
ベルンヴァルトが敵の左手側を攻撃して盾を釘付けにし、テオが右手側に攻撃を仕掛ける。ただ、連携としてはこれだけではない。その様子を後ろから見ていたプリメルが魔法を発動させた。
「〈アクアウォール〉!」
次の瞬間、バグラーダの背中側に水の壁が生えてきた。ヌルヌルローションで出来ているので、こいつに嵌まれば出てくる事は困難である。そこに、駄目押しの2撃が放たれた。
「「〈シールドバッシュ〉!」」
正面の左右同時に、盾殴りのスキルが発動する。左右、どちらかに逃げるには厳しく、必ずどちらかにヒットするタイミングだった。これに当たればノックバック効果で後ろに吹き飛び、〈アクアウォール〉に捕らわれる訳である。そうなれば、焼くなり煮るなり好きに出来る。そう、勝利を確信したテオだったが、追い込まれたバグラーダは笑みを浮かべていた。
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