第536話 ヴァルキュリア姉妹
宝石の名前を冠したヴァルキュリア3姉妹に、攻撃指示を出した。
彼女達は、胸の前で抱えるように武器を持つと、翼をはためかせ宙を舞う。そして、武器の先端から円錐型の結界を纏うと……騎士系が使う突撃スキルっぽい……急加速して飛んで行った。
ただ、家の庭は広いと言っても、飛び回るには狭い。急加速したヴァルキュリア達は1秒もしない内に標的を貫通し…………速度の速い槍持ち2名は、勢い余って貴族街と平民街を隔てる外壁に衝突……貫通して行った。いや、剣装備の光属性のヴァルキュリアも、バルギッシュごと地面を抉って行き、壁の手前で急上昇する。
壁の向こう側に抜けた2名も、方向転換したのか、空へと舞い上がる。3条の光が尾を引いて登って行く。そして、かなり上空に上がったところで、Uターン。円錐型結界を下に向けて、パワーダイブ(重力加速+動力加速)を敢行したのが見えた。
俺はヴァルキュリア達の行方が気になり上を見ていたが、レスミアは目の前で起きた惨状の方が気になったのか、震える声を上げた。
「ええ?! か、壁壊しちゃってますけど、大丈夫なんですか?!」
「……いや、このままだと不味いな。〈ストーンウォール〉!
レスミア、念の為、陰に隠れるぞ!」
魔物達と家の間に〈ストーンウォール〉の石壁を立てた。折角無傷で守った家なのに、自分のスキルで壊したとあっては、泣くに泣けん。(壁に空いた大穴2つからは目を逸らす)
俺達の居る場所にも余波が来る可能性もあるので、レスミアの手を引いて石壁の後ろへと避難した。
その数秒後、爆音が轟き、地面が揺れた。3人のヴァルキュリアが地面に突撃した結果だろう。風も吹き荒れ、石壁や家の壁に小石などが当たる音がする。
地震は直ぐに収まったので風も落ち着いてから、石壁から顔を出して様子を見てみると……キュクロプスが居た辺りには浅めのクレーターが出来ていた。標的だったキュクロプスは両腕と首しか残っておらず、バルギッシュに至っては吹き飛んだのか、消滅したのか遺体すら残っていない。当然、〈敵影感知〉にも反応無し。一方的な殺戮で終わったようだ。
以前、試し打ちをした時(471話)は幽魂桜を薙ぎ倒していたので、威力は高いと思っていたが、ここまでとはな……
クレーターの少し上にはヴァルキュリア達が滞空しており、「お疲れ様です!」と声を掛けると、反応を返してくれた。
黄色のヴァルキュリアは両手でガッツポーズを決め、青色のヴァルキュリアはお嬢様の様に優雅に手を振り、白色のヴァルキュリアは腕組をしてそっぽ向いてしまう。
……髪と装備品の色以外、3つ子の様にそっくりなのに、性格はバラバラのようだ。
取り敢えず、効果時間が切れるまでは、護衛をお願いしておいた。
そんな訳で、状況確認っと。庭は〈ウォーターフォール〉の連打と、キュクロプスの出血でグロい泥濘が出来、一部クレーター。キュクロプスが倒れた側の生垣も薙ぎ倒され、圧し折れている。勝手口側の道路から入りたい放題だ。そして、白銀にゃんこや厩舎、アトリエは全損。ついでに貴族街側の壁には、直径1mくらいの大穴が二つ。目を背けたくなる程の惨状だ。
すると、クレーターの近くから、物が落ちる音が聞こえて来た。何かと思い目を向けると、バルギッシュが居た辺りに黒窓……アイテムボックスが開いており、中身をドバドバと吐き出している。
ああ、確かアイテムボックス持ちが亡くなった場合、自動で吐き出すんだっけか。
それで、思い出した。バルギッシュが持っていた宝石を回収しないと。斬り飛ばした腕も回収し、その手に握られていたルビーのようなペンダントも回収する。
すると、レスミアの困惑する声が聞こえて来た。
「ええと、ヴァルキュリア様? くすぐったいのですけど、なんで頭を撫でるのでしょうか?
あ、猫耳は優しくお願いします」
声のした方を見ると、何故か白のヴァルキュリアがレスミアの頭を撫でていた。近寄って見ると、少し宙に浮いた白ヴァルキュリアさんは、無表情のまま猫耳を一心不乱に撫でている。ちゃんとガントレットを外している辺り、気遣いはしているようだ。
「あー、レスミアと髪色が似ているから気に入られたとか? 只の可愛い物好きとか、猫好きかも知れないけど。
……と、言うか触っても大丈夫なんだな? 元、光剣だし」
「あ! さらりと怖い事言わないで下さいよ! ……まぁ、普通の女性みたいですよ。ほら、手を握っても温かい」
猫耳を弄られ過ぎて嫌になったのか、手を握って止めていた。しかし、白のヴァルキュリアは反対の手のガントレットをパッと消すと、再び猫耳に手を伸ばす。レスミアがちょっとうんざりした顔になって来たので、助け舟を出した。
「レスミア、今のうちにドレス装備に着替えて来てくれ。まだまだ、魔物の襲撃が続きそうだからな。メイド服じゃ心配だ」
「あ、そうですね。直ぐに着替えてきます。ヴァルキュリア様、そう言う訳ですので、撫でるのはここまでにして下さいね」
レスミアは白のヴァルキュリアの手を引き剥がすと、走って家の中に逃げて行った。おいて行かれた方は、無表情ではあるが、ちょっと悲しそうな雰囲気を出している。そのまま、ふよふよと飛んで3階へ向かっていった。
……覗きか? まぁ、女性同士で気にする事ではないと思うが、なんであんなに好かれているんだか?
残る2人、黄色と青のヴァルキュリアは俺の少し上に待機している。青は上品に口元を隠して笑っているし、黄色は白色を指差して笑っている。声は聞こえないけど…………代わりに、見上げたのでスカートの隙間から下着が見えた。属性の色と同じか。
慌てて目を逸らす。危ない危ない。俺が覗きになるところだった。
気を取り直して、戦利品のルビーのペンダントに〈詳細鑑定〉を掛ける。
【魔道具】【名称:魔結晶の封結界石】【レア度:B】
・〈封結界〉が施された魔結晶、内部に魔物を1体封印する。強度が宝石ほど高くない為、高レベルの魔物を封印する事は出来ないものの、少ない魔力で使用することが出来る。
現在、フレイムバイコーンを封印中。
恐らくだが、キュクロプスもこれに入れて持ち運ばれたに違いない。レベル55が『高レベル』じゃないとすれば、だけど。まぁ、以前〈ダイスに祈りを〉で当てた水属性の精霊入り封結界石はエメラルドだったので、それに類するルビーの封結界石の可能性もあるか。その辺を聞き出せる状況じゃなかったし、牢屋で尋問を受けても大して情報を吐かなかったとも聞く。戦利品が手に入っただけ良しとしよう。
封印されているフレイムバイコーンも気になるけど……確かバイコーンは2本角の邪悪な馬だったか? 一角獣のユニコーンと対比されていた覚えがある。多分、封結界石を破壊するか、魔力を込めれば出てくると思うが、貴重な証拠品なのでストレージに保管しておこう。
そして、バルギッシュの右腕に嵌まったままのブレスレットも調べておいた。逆巻く炎を模したような形状をしており、赤いメタリックな金属は初めて見る。
【アクセサリー】【名称:火炎放射のルビーブレスレット】【レア度:B】
・ルビーと紅蓮鉱石の合金から作られたブレスレット。火属性魔法との相性が良く、属性ダメージの威力を上げるほか、付与された魔法を使用可能になる。また、紅蓮鉱石が使われている為、魔力を込めると暖かくなる。火傷する程の温度は出ないので、懐炉代わりにはなる。
・付与スキル〈フレイムスロワー〉、〈巧み〉
・〈フレイムスロワー〉:指定した範囲を火属性魔法攻撃する。敵味方の区別なく、範囲内にいる者にダメージを与えるため、巻き込み注意。
・〈巧み〉:器用値大アップ。
……回数制限が書かれていない! つまり、永続使用可能な魔道具だ!
先程の戦闘でも見た限り、威力も劣化しないので、〈フレイムスロワー〉の銀カードの上位互換だな。ランク3以上の魔法が付与された魔道具は5千万円以上、オークションだと1億を超える値が付くなんて話を聞いた覚えがある。〈相場チェック〉で見ても、取引データ無し。この街では同一商品が出回っていないようだ。
ううむ、流石は魔道具作成が得意な
思わぬ戦利品に喜んでいると、上に居た黄色のヴァルキュリアが音もなく降りて来て、俺の肩を叩く。何事かと思いきや、空を指差して「あっち、あっち!」とジェスチャーしているので、それに倣う。すると、貴族街方向から猛スピードで飛んで来る者を発見した。敵かと思いきや、ヴァルキュリア達は警戒をしていないし、〈敵影表示〉の範囲内に入ったのは緑の光点である。つまり、味方の天狗族だろう。
俺達の上空で、翼を広げて急制動を掛ける。旋回するように速度を落としたことで、漸く誰か判明した。烏のように真っ黒な翼に、プロレスラーのような筋骨隆々の肉体。およそ飛ぶのは無理だろとツッコみたくなるその人は、ギルドマスターグントラムである。
彼に向って手を振ると、周囲を見回しながら降りて来た。
「おお、ザックスか! この辺で流星が落ちたようなのだが、このクレーターに落ちたのか?
新手の魔物だと思って、討伐しに来たのだぞ!」
「あー、ここに現れた魔物は既に倒しました。それと、流星はこの子達です。聖剣のスキルで呼び出した使い魔で……」
「お前は何を言ってんだ。どう見ても人間……いや、こんなに綺麗な純白の翼は初めてみるな。これほど美人な天狗族など、街に居たか?」
顔とかスタイルでなく、翼をみて美人と判断するとは……種族的にだろうか?
取り敢えず、手短に情報交換をして、ヴァルキュリア達に関しては〈詳細鑑定〉のブラックカードで見てもらう事で証明とした。壁に穴を空けた事には、大笑いされたが。
「ガハハハッ! この分厚い壁に穴を空けるとは、人間業ではないな! むしろ、見た目と相まって天使様と言った方が良いだろう!」
そんな評価に黄色のヴァルキュリアが、ブンブンと首を横に振る。どうやら、天使ではないらしい。鑑定文には『天使には遠く及ばないものの、英雄クラスの力を秘めている』なんて書かれているくらいだから、天使はもっと強いのだろう。本当に存在するのなら、魔物の軍勢なんて一掃してもらいたいのにな。
そして、穴に関してどうしたものかと相談してみると、軽く返された。
「魔物との戦いの余波では仕方あるまい。それに、脱獄した賊を倒したのだ。騎士団の失態を穴埋めとしたとも言える。物理的に穴を埋めるのは、領主様や騎士団に任せておけば良いだろ。
ああ、先に〈ストーンウォール〉で目隠し……応急処置だけしておけよ」
なる程、直ぐに治せなくとも、石壁を生やして隠しておけば当座の処置になるか。単純な事なのに、思い浮かばなかった。アドバイスに従い〈ストーンウォール〉で隠蔽……いや、後で報告するぞ……していると、ギルドマスターは自身のアイテムボックスから何かを取り出し、俺に投げて寄こす。
それを受け取って見ると……それは、欺きのネックレスだった。
「俺も1人、賊を討伐したんだが、その戦利品だ。街中で暴れていた魔物と戦っている時に、横槍を入れて来た奴でな。怪しいから〈詳細鑑定〉を掛けたら、赤字ネームだったって訳だ。
領主様の指示で、欺きのネックレスはお前に渡せってなっているからな。処分出来るんだろ?」
「ええ、こんな物、存在していてはいけませんから」
〈詳細鑑定〉を掛けて本物と確認する。そして、欺きのネックレスを宙に放り投げ、聖剣で両断した。
すると、ネックレスの残骸が崩れて霧散して行き、黒い煙を吹き出す。それに対し、ヴァルキュリア達が警戒の姿勢を見せ武器を構えた。黒い煙……歪みとやらが集まったところで、再度聖剣で一刀両断。浄化に成功し、魂魄結晶の粒へと変ずるのであった。
ネクロドッペルミラーから手に入った物よりも、更に小さい。最早砂粒程度の大きさであるが、貴重品なのは変わらない。
念の為、ヴァルキュリア達に欲しいか聞いてみたところ、首を振られた。あわよくば、これで効果時間延長出来ないかと考えたのだが、甘かったようだ。
それらを見届けたギルドマスターは、翼を広げて浮き上がる。こことは反対側、西の方でも魔物が暴れているらしいので、援軍に行くそうだ。
「ザックス、お前も南門へ向かえ! サードクラスではなくとも、同等以上の戦力を遊ばせておくには惜しい!
ああ、貴族街でも魔物が暴れておる。道中見かけたら、倒しておくのだぞ!」
そう言うと、西の方角へ飛んで行ってしまった。
その後、レスミアが着替えて戻ってきてから、移動する。バイクに二人乗りをして、貴族街への勝手口を通り南へ向かうのだ。俺達の上にはヴァルキュリア達が飛んで付いて来てくれている。効果時間がどれくらい残っているか分からないが、頼りにさせてもらおう。
今回の戦闘で高レベルの敵を2体倒し(バルギッシュ60、フレイム・レッサーキュクロプス55)、レベルが上昇した。
結構な強敵だったのにレベル3~4しか上がっていないのは、レベル差が有り過ぎて獲得経験値が減らされたのだろう。(レベリング防止)
ついでに、聖剣と聖楯でアビリティポイントを使ってしまった為、経験値増の特殊スキルも設定出来なかったからな。
・基礎レベル41→44 ・アビリティポイント50→51
・騎士レベル40→44 ・魔法戦士レベル40→44
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