第535話 VSバルギッシュ
バルギッシュが弓を引き、魔力矢を生成する。狙いは俺……と思いきや、横にスッとズレて、火龍の矢が撃ち放たれた。キュクロプスへの回復だろう。顔が動かせないので見えないが、斜め後ろからキュクロプスが動く気配がする。あれほどダメージを与えておいたのに、元の木阿弥か。
そして、今度こそ俺に向かって弓が向けられる。
「隊長より賜りし、至高の魔物の特性を見破るとは、貴様は何者だ?
いや、そもそも軽戦士のスキルに、魔法、魔剣術、良く分からん空中に逃げるスキル……魔道具使いか?」
「そっちこそ、今の〈フレイムスロワー〉は魔道具か? このフレイム・レッサーキュクロプスを持ち込んだのも妖人族の魔道具の力なんだろう?」
質問に質問を返し、睨み合う。ただ、向こうは顔を赤くして怒気を強めている辺り、図星っぽい。それに合わせて、俺も悔しそうに口元を歪ませて見せる。
「魔法を込めた魔道具を量産するなど、貴様ら劣等種族が手にして良い力ではない!
それは現在の神の種族である我ら、現神族が独占するものである!
故に、この街は滅ぶのだよ! 神の怒りによる天罰だ!」
思いもよらなかった言葉に混乱してしまう。
……銀カードを量産して売ったせいで、街が標的にされた? 魔物の襲撃は俺のせい?!
しかし、よく考えなくても理不尽過ぎる言動に、怒りが沸々と湧き上がる。
「……そんな事で、魔物をけしかけたのか!?
みんなが楽しんでいた祭りを邪魔して……怪我人も沢山出たんだぞ!」
「はっはっはっ! 先ずは錬金窯を爆破して、量産出来なくしただけだ。本当の絶望はこれからだ!
先ずは、貴様から死んで行け! 〈魔弓術・火龍咬〉!」
「〈プリズムソード〉!」
聖剣のスキルである〈プリズムソード〉は使用方法が特殊である。本来なら、手に魔力を集めてからスキルを発動するのだが、〈プリズムソード〉は勝手に魔力を引き出してしまうからだ。これにより、瞬間的に魔力が流れ、〈影縫い〉の魔力拘束を引き千切る。
即座に聖剣を振るい、〈エレメント・スラスト〉の剣閃で迎撃。召喚した水属性の青い光剣は、背後のキュクロプスへと攻撃指示を出して射出した。挟み撃ちな状況に変わりはないが、後ろを
これでバルギッシュに集中出来る……と、思いきや、相手が何か丸い物を投擲するのが見えた。考える前に、〈無充填無詠唱〉の力で、即座に〈ウォーターフォール〉で迎撃を試みる。
中間辺りで地面にぶつかり破裂するボール。それは破裂音と共に煙を吹き出すが…流れ落ちる滝が、煙が広がる前に押し流した。
……状態異常の魔道具を使うのも、屋上で見たからな!
ただ、魔法効果で滝が流れ落ちる間は、こっちからも近付けない。ジャベリン魔法で追撃しようかと考えていると、先に向こうが動いた。
「いつの間に充填していたのだ! 目障りな!〈ガトリング・アロー〉!」
滝を突き破って、鏃サイズの魔力矢が飛来する。サイドステップで避けるが、避けた先にも鏃が飛んで来た。聖剣を縦に構えて盾代わりにしつつ、避け切れない物は左手ガントレットで叩き落す。ウーツ鋼の増加装甲を買っておいて良かった!
滝が消え失せると、バルギッシュの狙いが正確になる。それを左右に〈フェザーステップ〉を踏んで回避、背後にいるキュクロプスへ当たる様に誘導した。後ろを見る暇がないので、当たっているか分からないが、悲鳴らしき声を上げているので、多少のダメージにはなっているのだろう。
挟み撃ちの状況を上手く利用してフレンドリーファイアを引き起こし、更に合間を縫って〈ウインドジャベリン〉でカウンターする。
風の投げ槍が飛んで行くが、バルギッシュは連射を止めて回避した。そして、着地と同時に弓を持っていた右腕をこちらに向ける。それは、スキルを使いながら充填していた、完成間近な魔法陣だった。
恐らく、先程と同じ大きさの魔法陣で赤い火属性なので、〈フレイムスロワー〉で間違いない。どうやら、右手首のブレスレットが魔道具のようだ。そんな状況判断から魔法が撃たれる場所を推測し、カウンターを用意する。敵の魔法陣が赤く光るのに合わせて、俺も振り向きつつ魔法を放った。
「〈フレイムスロワー〉!」「〈ウォーターフォール〉!」
傷だらけのキュクロプスの足元から火炎放射が吹き出るが、直ぐに立ち消える。そして、一拍置いて頭上から小滝程度の水が降り注いだ。魔道士のスキル〈オフセットマジック〉の効果で〈フレイムスロワー〉を相殺し、水量の減った〈ウォーターフォール〉になったのである。ダメージは減ったけど、火属性魔法でキュクロプスが回復するのを阻止したので問題ない。
そして、次に考えられる行動は……再度振り向き、バルギッシュに向けて聖剣を振るい〈エレメント・スラスト〉の剣閃を撃ち出す。それは、撃ちだされたばかりの〈魔弓術・火龍咬〉と衝突して爆発した。
Dダイバーの攻撃スキルは大体把握したので、行動も読める。元々スカウト系は攻撃スキルが少ないからな。足止め用の〈影縫い〉、弾幕を張る〈ガトリング・アロー〉、火力のある〈魔弓術・火龍咬〉、後は雪山フィールドで見た範囲攻撃〈アローレイン〉くらいか。それと、魔道具の〈フレイムスロワー〉。
特に、魔物が復活すれば数的に有利になるので、火属性の攻撃を多用していたからな。それらを封じれば、こんなものだ。ただし、麻痺煙玉みたいな魔道具や、追加の魔物を召喚する物を他にも持っている可能性もある。それらを警戒し、ゆっくりと間合いを詰める。
それに対し、バルギッシュは怯えを含んだ顔で後退りながら〈影縫い〉を曲射して来た。しかし、それも俺の影を狙っているのだがら、迎撃は容易い。上に聖剣を振るい〈エレメント・スラスト〉で、落ちて来た魔力矢を撃墜した。
その様子を見たバルギッシュは、更に後退る。もう少しで、ストライプ柄の生垣まで下がってしまいそうだ。そうなると、奥から逃げられてしまうので厄介だ。
……いや、丁度良い場所だな。
俺は一旦足を止めて、左掌を前に出して止まる様にジェスチャーする。すると、バルギッシュは怯えが混じった目で軽く左右を見回した後、俺を睨みつけて来た。最早余裕が無いのか、口調を荒げて罵って来る。
「……何なのだお前は……隊長から授かったレア種の魔物も、魔剣術1本で無力化され、魔法陣に充填せずに魔法を使う。それに、私の考えを読んだように、攻撃を悉く無力化するなど……卑怯過ぎる! 貴様!どんなトリックを使った!? 伏兵でも隠していたのか?!」
「教える訳無いだろうが……そっちも、まだ魔物を隠し持っているんだろう?
街中で使われては面倒だ。その前に始末を付けよう」
聖剣を構え、脅すように見せつける。
すると、バルギッシュは右手を懐へと入れ、何かを引き抜いた。ぶちぶちと、ペンダントの鎖を引き千切り、取り出したのは宝石っぽい何か……それを見た瞬間に指示を出した。
「レスミア! そいつの右腕だ!」
バルギッシュの背後、ストライプの生垣の隙間に隠れていた暗幕が飛び出した。標的は後退っていたので、数歩で接敵し、すれ違いざまにバルギッシュの右腕を肘から切り飛ばした。
そう、〈敵影表示〉に青い光点で表示されていたので把握していたのだが、レスミアは家の近くに到着していたのだ。俺が戦闘中だったせいか、大きく迂回して敵の背後を取って、乱入するタイミングを計っていたもよう。
先程、左手で『待て』とジェスチャーしておいたのは、敵ではなくレスミアに対してだったのだ。
斬られた腕が宙を舞う。その瞬間に、俺も〈ボンナバン〉で前に跳んだ。
着地から更に大きく踏み込み、バルギッシュの左腕を抱え込む……そのまま背負い投げを仕掛けた。
「やああっぁぁ!」
掛け声と共に、バルギッシュを投げ飛ばした。地面に叩きつけるのではなく、途中で手を放して放り投げ、キュクロプスの方へと飛ばしたのだ。挟み撃ちな状況を解消し、まとめて止めを刺したい。
すると、飛んで行ったバルギッシュは、キュクロプスにぶつかる前に大きな手で叩き落された。地面にバウンドして、倒れ伏す……死んだかと思ったが、うめき声が聞こえたので生きているようだ。
そういや、頭が悪いから仲間でも攻撃するってあったな。
「レスミア、状況説明は後! 先に、あの赤いデカ物の弱点を見てくれ!
心臓が2つあって、両方破壊しないと倒せないんだ!」
「え? ……ええと、胸の真ん中に一つと……お……股間に一つです!」
「ん? 股間?」
……なんでそんなとこに心臓が……ああ、男なら必要なのか? 一つ目巨人が繁殖するのか知らんけど。
取り敢えず、弱点の位置は分かった。後はどう倒すか?
股間を攻撃するのはちょっと躊躇するし、魔物と
マナポーションを1本飲みつつ、特殊アビリティ設定を変更、複数ジョブを2つに落とす。取り敢えず、騎士と魔法戦士にしておき、新たに特殊防具、
そして、聖楯の裏側に、聖剣を鞘ごと差し込んで固定する。これで、聖楯のスキル〈聖剣共鳴〉を発動する準備が整った訳だ。後は……MPの残量と相手の属性を考慮して、3本の光剣を召喚する。
「来い!〈プリズムソード〉!」
MPが急激に減って、1割にまで落ち込む。頭痛ラインである2割を切ってしまったが、目の前の光景に目を奪われる。
納刀された聖剣の鍔が光を発した。鍔の宝石の内、水属性の青、氷属性の白、光属性の黄色の宝石から飛び出た光は、前方に漂い人型へと形を変える。
それは翼の生えた女性騎士……いや、戦乙女ヴァルキュリアとして顕現した。3人それぞれの属性色の鎧を纏い、天狗族よりも神々しい真っ白な翼を持つ。そして、その手には属性色の小型の聖盾と、身長を超える長さの長槍を携えていた。光属性のヴァルキュリアだけ、剣であるが、これは精霊の祝福を得ていないからである。
因みに、聖剣をマウントした状態で〈スキル鑑定〉すると、以下のように表示される。
・〈聖剣共鳴〉:『聖剣』と名の付く武器を、聖楯の裏にマウントした場合に効果を発動する。
聖剣クラウソラスの場合、〈プリズムソード〉の数だけヴァルキュリアを召喚し戦わせる。
更に、召喚された白のヴァルキュリア(氷属性)を〈詳細鑑定〉すると、こんな感じである。
【スキル/使い魔】【名称:月長石のヴァルキュリア】【-】
・〈聖剣共鳴〉により召喚された使い魔。〈プリズムソード〉と同様に指示する事も出来るが、自身で判断して敵を打ち倒す。
天使には遠く及ばないものの、英雄クラスの力を秘めている。背中の羽で空中を自在に飛び回り、武器での突撃を得意とするが、剣術や槍術、魔法で戦っても一騎当千の強さ。弱点属性を突けば敵を消滅させるほどの強さを見せる。
発動時に込めたマナを使い切るか、ダメージを受けて身体を保てなくなるまで、現界することが可能。
月長石は氷属性の宝石、ムーンストーンの事だな。他の2人は、水属性の蒼玉(サファイア)のヴァルキュリア、光属性の日長石(サンストーン)のヴァルキュリアである。
彼女等は3人ともそっくりの美人さん……姉妹なのかも?……属性を象徴するような宝石髪だけど、それぞれ髪形や、編み込みが違ってお洒落である。
順に目を移すと、頷き返してくれた。喋れないっぽいけど、自立意識は有るみたいなんだよな。
「目標はキュクロプスと妖人族! お願いします!」
〈プリズムソード〉と同じく、ロックオンカーソルで指示も出来る。槍持ちの水属性と氷属性のヴァルキュリアを、キュクロプスの股間と心臓へロックオン。光属性のヴァルキュリアはバルギッシュへとロックオンして、攻撃指示を出す。
次の瞬間、ヴァルキュリア達は槍を抱え、残像を残す程の速さで飛んで行った。
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