第534話 VS一つ目巨人

あらすじ:白銀にゃんこの店舗が燃え、アトリエは爆砕、馬は食べられてしまった。


 俺は馬に苦手意識はあるが、嫌いな訳ではない。街中を皆で移動する時には馬車にお世話になる事も多いし、フォルコ君やベルンヴァルトが馬の世話をしているのを少し羨ましく思う事もあった。こまめにブラッシングをして可愛がっていたからなぁ(対抗してレスミアやスティラちゃんを撫でたけど)


 ……一応は家族だったんだ! 仇は打つ!

 バイクを加速させながら位置を測り、胸壁に対して斜めに進路を取った。敵のサイクロプス(仮称)へ直線で飛んで行ける軌道を取り、胸壁にぶつかる手前でバイクをストレージへと格納する。慣性で前に進みながら、走り幅跳びの要領で思いっきり地面を蹴って跳び上がった。


 胸壁を飛び越えて、家の敷地内へと入る。眼下には4mサイズの巨人がおり、馬の脚をバリバリと咀嚼していた。コイツの皮膚が赤いのだが、口元は血の色でより真っ赤に濡れている。その様子を見て、更に殺意が増した。

 納刀していた聖剣クラウソラスを抜刀、下向きに構える。鞘鳴りの音で気付かれたが、もう遅い。少し上を向いた頭……額に突き刺さり、聖剣の持前である切れ味から、豆腐に突き立てたように根元まで刺さる。


「ゴガアァァァ……」


 サイクロプスが声を上げるが、脳味噌を破壊されたせいか、直ぐに鳴き声は止まった。聖剣の切れ味が良すぎるので、頭に突き立てていても、俺の落下速度は遅くならない。額から巨大な単眼、口、顎まで一直線に切り裂いていく。そして、聖剣を振り抜く反動で、蹴りを入れる。巨体を蹴って向こう側へと倒しつつ、俺も倒れ込みに巻き込まれない様に反対に飛んだのだ。


 着地の衝撃を〈着地爆破演出〉で消し、背後を爆破する。既に庭はボロボロなので、多少爆破した所で問題ない。多分、レスミアの猫耳なら、戦闘に入ったと気が付いてくれる事だろう。

 ただ、驚くべき事として、サイクロプスの野郎の〈敵影感知〉の反応が消えていないのだ。〈敵影表示〉の赤点も同じく。巨人なだけにタフなのは推測できるが、頭を半分に切り裂いたので動く気配はない。

 殺意による興奮は、ひと太刀入れて少し頭が冷えた。先ずは現状把握して、優先順位を……


「〈ウォーターフォール〉!

 ………………〈ウォーターフォール〉!」


 今だ燃え続けている白銀にゃんこの店舗(残骸)と、厩舎(+馬車)の消火を優先し、母屋への延焼を防ぐことにした。これで良し。破壊したの事を考えると怒りが湧き上がるが、今は冷静に行動しないと……

 そして、生垣を薙ぎ倒して倒れたサイクロプスに止めを刺すべく、少し移動。聖剣に〈魔剣術〉を施し、更に〈アクアジャベリン〉の魔法陣を急速充填する。本来、〈無充填無詠唱〉が付けっぱなしなので、必要ないのだが……


 〈敵影表示〉に映る小さな赤点に、態と背中を見せて、自然な感じでサイクロプスに魔法陣を向ける。狙いは心臓だが、それはどうでも良い。後ろからの反応を逃さない様に注意しながら、魔法を撃ち放った。


「〈アクアジャベリン〉!」

「(〈魔弓術・火龍コウ〉)」


 魔法を撃つと同時に、背後からの攻撃を察知した。剣客の〈心眼入門〉の効果である。サイドステップで避けながら、180度回転。フィオーレの様に華麗とは行かないが……炎の龍が俺の横合いを飛んで行き、無事回避。更に、その炎の龍を飛ばしてきた方向……生垣の合間に見えた人影に向かって、風のジャベリンをカウンターで撃ち返す。


「〈ウインドジャベリン〉!」


 風属性魔法は弾速が早い。隠れている奴が逃げ出す前に串刺しに出来るかと思ったが、敵の動きも早く、転がって回避して見せた。


 そう、〈敵影表示〉の小さな赤点は、〈潜伏迷彩〉か何かで姿を隠した敵である。剣客の〈第六感の冴え〉のお陰で大体の位置は分かるのだが、姿を消したままでは肉眼では分からない。その為、一芝居打って、隙を晒して見せたのだ。〈潜伏迷彩〉なら攻撃動作を取れば、解除されるからな。


 ……ん? 範囲魔法で薙ぎ払えば良いじゃんって?

 いや、あの紅緑なストライプの生垣、俺達が植えたんだぞ。白銀にゃんこの目印にもなっているのだから、出来れば壊したくなかったんだ。



 それはさておき、転がり出て来た人影が立ち上がる。それは知っている顔であり、ここに居る筈の無い、二度と見たくはなかった顔だった。


「お前はバルギッシュ! 脱獄して来たのか?! いや、そんな事より、この騒ぎはお前ら妖人族の仕業か!」

「(チッ、完全な不意打ちを避けやがった!)

 赤毛のザックスだったな。貴様に受けた屈辱、ここで返させて貰う……しかしだ。上位種たる我らは寛容である。私から盗んだ鏡を返せば、苦しまずに殺すだけにしてやろう。貴様か、前領主が持っているのだろう?」


 ……おっと、そう来たか。ネクロドッペルミラーは余程貴重な物らしい。即、殺し合いでなく、交渉してくるとは……いや、内容的に交渉じゃなく強盗だけど。

 ただ、肝心のネクロドッペルミラーは破壊済みなんだよなぁ。一瞬だけ返答に迷ったが、覚悟を決めた。

 ここで取り逃がすと、ケイロトスお爺様の元へ向かってしまうかも知れない。お爺様自身の強さは身に染みているし、護衛騎士もいるから大丈夫だと思うが、魔物の襲撃中に〈潜伏迷彩〉からの奇襲は非常に危険だ。この場で、俺が対処……既に尋問していた筈なので、生け捕りにする必要も無い。外道には報いを与えるべきだ。

 聖剣の切っ先をバルギッシュへと向け、宣言する。


「死者の姿を写し取る邪悪な鏡など、既に破壊済みだ!

 死者を冒涜した罪! 闇の神に代わって天誅を下す!」


 ニンジャの〈目立ちたがり屋〉が悪さをしたのか、時代劇のようなセリフになってしまった。まぁ、近くで聞いている人はいないのでセーフだろう。〈敵影表示〉に映る緑点……壁の向こうから天狗族が空輸している逃げ遅れた住民は、ナールング商会側から避難しているようだからだ。


 そして、俺の決め台詞を聞いたバルギッシュは、歯ぎしりが聞こえる程に怒気を露にすると、弓を構えた。


「物の価値も分からぬ、劣等種族が! 

 ふざけた名前の店の様に、手足を粉々にし、嬲り殺しにしてやる!

 〈魔弓術・火龍咬〉!!」


 ……それを見るのは3度目だ!

 魔力矢を蛇のような火龍に変化させ、撃つ弓スキルである。着弾すると、巻き付いて来たうえに噛み付き自爆する厄介な性質を持っているのは確認済み。対処法は大きく避けるか、撃ち落とすか。


 構えていた聖剣をその場で振るい、魔剣術の〈エレメント・スラスト〉で水属性の剣閃を飛ばした。魔弓術はサードクラスのスキルであるが、属性的には水属性>火属性なのでこちらが上。直線で向かってくる火龍に、青色の剣閃が直撃し、爆発を起こした。


 これで良し。後は対弓兵のセオリー通りに〈ボンナバン〉で距離を詰めてしまえば……


 爆炎が消えていきバルギッシュが姿を現す。そこへ跳ぼうとした瞬間、予想外の物が見えて躊躇してしまった。その手には赤い魔法陣が展開、充填開始されていたからだ。

 俺が躊躇したのが見て取れたのか、バルギッシュが口元を歪ませて笑みを浮かべる。


 その時、背後から凄まじい寒気を感じた。いや、これは〈心眼入門〉の攻撃察知!?

 慌てて顔だけ振り向くと、そこには上半身だけ起き上がったサイクロプスが、右拳を振り下ろすところだった。

 咄嗟に聖剣で頭上を薙ぎ払い、敵の拳を受け流そうと試みるが……聖剣の切れ味が良すぎて、そのまま拳を切り裂き、親指以外の指を切り落とす。受け流しは失敗し、巨大な拳の勢いは止まらず俺に直撃した。




 その直後、上空へと転移した。持ってて良かった〈空蝉の術〉!

 今のは冗談抜きで危なかった。よもや、脳味噌ごと頭を縦に切り裂いた敵が、復活して攻撃してくるとは……いや、確かに死んではいなかったが……今、眼下の敵を見ると、切った筈の傷も無く、一つ目も治っているように見えた。

 バルギッシュが〈ヒール〉でも掛けたようには見えなかったが……空中を落下しながら、〈詳細鑑定〉を仕掛けた。



【魔物】【名称:フレイム・レッサーキュクロプス】【Lv55】

・レッサーキュクロプスの希少種であり、火属性の力を手に入れた個体。一つ目巨人にしては小柄であるが、人族の倍以上の巨漢から繰り出される攻撃は、適当に暴れ回るだけでも脅威である。筋力値と耐久値、HP自然回復量に秀でており、力任せに破壊するのを得意とする。

 ただし、種族的な特徴として、大きな一つ目で視力は良いものの、頭蓋の大半が目の水晶体で占められている為、頭はよろしくない。仲間の魔物を攻撃に巻き込む事もしばしばある。そして、巨漢故に心臓を二つ持ち、その両方を破壊しない限りは動き続ける。

 更に、火属性を得た事で、拳に炎を纏わせて攻撃に使用する他、火属性魔法やスキル攻撃を吸収し、自身のHPを回復させる。

・属性:火

・耐属性:風

・弱点属性:水

【ドロップ:無し】【レアドロップ:無し】


 ……あっ! 最初の〈魔弓術・火龍咬〉、華麗に避けてみせたけど、後ろのコイツに当たっていたのか!

 火属性攻撃を吸収してHP回復といっても、脳味噌切られたのを再生するのは出鱈目が過ぎる。まぁ、魔物だから普通の生物とは違うと思うしかないが……それにしても、こんなデカブツどうやって街に入り込んだのやら。空飛ぶ魔物は外壁を飛び越えて来るので、まだ分かる。この4mサイズの巨人が投石機か何かで打ち込まれた? いや、それなら妖人族が持ち込んだ可能性の方が高いだろう。確か、『魔物を捕らえて闘技場で戦わせる』と、エヴァルトさんから聞いた覚えがある。

 つまり、増援として魔物を追加召喚してくる可能性もある。その点だけ、心に留めて置き、サイクロプス……もといキュクロプスの対処に入る。問題は2つの心臓の位置が分からない事だ。レスミアが居れば話は早いのだが、〈敵影表示〉に映る青い光点は、まだ少し離れている。こちらへ向かって来ているので、キュクロプスは足止め程度にあしらい、バルギッシュから仕留めよう。


 眼下のキュクロプスは、大きな単眼を手で押さえて、座り込んでいる。光って消える〈空蝉の術〉の幻影を見て、目暗ましにあったのだろう。真上に居る俺に気が付いた様子はない。それに、このまま落ちれば、相手の背中の辺り……好都合だ。

 落下しながら聖剣を上段に構え、自力での唐竹割りを敢行した。


「てぇりゃああああ!」


 自身を鼓舞する為に声を上げる。巨大な魔物と対峙するには、体格で負けている分だけ、気迫で圧倒する必要があるからだ。裂帛の気合と共に聖剣を振り下ろし、キュクロプスの後ろ頭に切り込んだ。そのまま一直線に下へ斬り進む。頭から首、背中、腰まで……聖剣の刃渡り的に両断は無理だが、背骨くらいは断ち切った筈! 多分!

 いや、聖剣の切れ味が良すぎて、何を切っても豆腐と変わらんからしょうがない。聖剣の弱点だな。


 着地と同時に、背後で〈着地爆破演出〉が爆音を轟かせるが無視。斬り下ろした状態から聖剣を斬り返し、横一文字に薙ぎ払い、腰の上辺りを深々と切り裂いた。これで背骨も十字に断ち切られた筈。まともに動くことは出来まい。

 ただ、これだけやっても〈敵影感知〉の反応は出たままなので、しぶとい奴だ。


 心臓が有りそうな位置を、背中から刺突する。根元まで突き刺してから、再度横に薙ぎ払うと大量の血があふれ出した。しかし、第2の心臓の位置が分からない。仕方ないので適当に斬りながら、前へと回り込む。敵の頭を割ったせいか、ぐったりしているので、やりたい放題である。


 キュクロプスの右腕を肘辺りで切り落とし、更に右足にもメスを入れる。その時、正面から殺気がした。


「〈魔弓術・火龍咬〉!」

「回復させるか!」


 バルギッシュが撃ち放った炎の龍を、再度〈エレメント・スラスト〉の剣閃で迎撃する。種が分かれば、恐れる必要などない。しかし、敵は右手のをこちらに向けて、魔法を撃ち放った。


「馬鹿め! 〈フレイムスロワー〉!」


 その途端、俺の足元……いや、魔法の中心はキュクロプスの方か!

 地面から噴き出した火炎放射は、俺とキュクロプスを飲み込んだ。


 属性ダメージの痛みが身体を走るが、息を止めたままサイドステップ。肺を焼かれない内に、効果範囲外へと脱出した。


「〈影縫い〉!」


 しかし、その行動が読まれていたのか、曲射で撃たれた矢が落下して来て、着地地点の俺の影を貫いた。

 魔力による枷で、身体が動かなくなる。全力で魔力を動かし、〈影縫い〉の矢を引き抜こうとするが、前回(498話)よりも固い。簡単に抜け出せないように、相当量の魔力を込めやがったな!

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