第533話 中央門の迎撃戦、そして爆発現場
「次は南西から3羽来ます!」
レスミアの〈猫耳探知術〉で索敵をして、飛来してくる魔物の優先順位を教えてもらう。自前の〈敵影表示〉でも見えるのだが、2次元表示なので急降下攻撃をしに来ているのか、上空を通り過ぎようとしているのか判断が付き難い。その点、猫耳は音の変化で分かるらしく、攻撃対象の選別を頼んでいたのだ。
指示された方を見ると、3羽の鷹型魔物スパイラルイーグルが、螺旋の結界を纏い急降下をして来ていた。その突入コースと、味方の位置を把握して、落とす場所を即座に決める。
「……よし! 宿屋の人形の前に落とすぞ! そこのパーティー、任せた!……〈ダウンバースト〉!」
「おお! 任せとけ!」
俺の声に応えたのは装備を取りに行って、戻って来た探索者パーティーである。彼等には魔法使い系のメンバーが居ないらしく、空中の敵に対する攻撃手段が少ない。その為、俺達と連携するようにお願いしてある。
〈ダウンバースト〉の効果で2羽のスパイラルイーグルが螺旋結界を纏ったまま墜落する。地面に叩きつけられては結界の維持が出来ないらしく、無防備な姿をさらした。そこに、駆け寄って来た探索者達が襲い掛かり、止めを刺す。彼等はレベル20代らしいので、レベル37のスパイラルイーグルは美味しいレベリング対象だろう……と、説得して参戦させている。
ただ、敵の飛行速度が速く、先頭の一匹を〈ダウンバースト〉の効果範囲から取り逃してしまった。それに対し、レスミアが警告の声を上げた。
「ザックス様! 正面!」
「分かっている! 〈城壁の護り〉!」
俺はカイトシールドを構え、螺旋結界を正面から受け止めた。この敵の結界、サードクラスの騎士が使う〈スパイラルウインド・チャージ〉に似ているが、その効果もそっくりなのだ。それは、『結界に触れた者をノックバックで吹き飛ばす』という、厄介極まりないものである。ただし、対策を取っていれば、その限りでもない。
【スキル】【名称:城壁の守り】【アクティブ】
・一定時間の間、耐久値を2段階上げて、盾の強度をアップさせる。盾を構えている限り、ノックバック効果を無効化する。
城壁の如き堅牢さを得るが、代償として敏捷値が1段階下がる。
この効果で、螺旋結界を受け止めた。スキルとスキルの効果がぶつかり合い相殺するが、元々の運動エネルギーは盾に重く衝撃として伝わる。ただそれも、耐久値が上がったお陰で難なく耐えられた。そして、盾の前で停止したスパイラルイーグルに対し、レスミアがスキルを発動させる。
「〈
俺の後ろから円を描いて高速移動し、スパイラルイーグルの背後へと移動する。螺旋結界は嘴の先端から円錐状に広がっているので、後ろは無防備である。そこに剣を突き入れれば、あっさりと倒せるのだった。
現在、避難が開始してから30分程が経過している。大通りに居た住民の避難は終了し、今は街外れに居た人や、街の外(レース観戦)をしていた人達が、列をなしてギルドを目指していた。彼らは魔物の標的にならぬよう建物の近くを目立たぬように移動し、更に装備を取って帰って来た探索者達が護衛に付く。
こうして、徐々に時間が経つにつれ、戦力が増えて来た。
俺も最初は〈プリズムソード〉で戦っていたのだが、効果時間を過ぎて消えてしまってからは、追加召喚はしていない。いや、MP負担が重いし、俺ばっかり戦うのも目立ち過ぎるからな。襲撃の切れ間に中央門の騎士と相談し、魔法使い系が〈ダウンバースト〉で落とし、他の者が止めを刺す戦術でいく事になった。
他のパーティーが指示を聞いてくれるかは少し心配だったが、避難前の俺の名乗りを聞いた人や、白銀にゃんこのお客さんも多く、「ザックスさんが、言うならしょうがねぇな。その作戦に乗るぜ」と、妙に納得してくれた。そんなに名乗りの効果があったのだろうか?
俺も空気を読んで、「他の皆もレベル上げの良い機会だぞ! 祭りの邪魔をした魔物をぶっ倒して、経験値に変えてやろう!」と、発破を掛けると、その場に居た探索者達は乗り気になってくれた。
この場に居るのはセカンドクラス……特にアラサーが多いようなので、レベル37のスパイラルイーグルは丁度良い相手である。
【魔物】【名称:スパイラルイーグル】【Lv37】
・螺旋状の風の結界を纏い、突撃する鷲型魔物。結界に触れた者をノックバック効果で吹き飛ばし、倒れたところを鋭い爪で強襲する。また、風魔法亜種〈ジェットゲイル〉を足から出す事により突風を巻き起こし、上空に舞い上がる事が出来るので、一撃離脱を得意とする。
・属性:風
・耐属性:土
・弱点属性:火
【ドロップ:無し】【レアドロップ:無し】
雪山フィールドで出て来た雉型魔物ヴィルファザーンの親戚みたいな敵である。違いはジャベリン魔法を撃って来るのではなく、騎士のような突撃をしてくるところか。この螺旋結界が厄介で、弱点の筈の〈ファイアジャベリン〉を受け流したり、〈フレイムスロワー〉を受けても突破したりしてくるのだ。
蜂型魔物が出てこなくなり、代わりにスパイラルイーグルが襲撃し始めた頃、この螺旋結界のせいで怪我人も出たからな。まぁ、ノックバックで吹き飛ばされただけであり、周囲の援護もあって大事には至らなかった。
俺が作戦を提案した切掛けでもあるな。
そんな調子で戦い続けていた。スパイラルイーグルの襲撃数は増えているが、同時に探索者パーティーも増えているので、多少の息を付く事も出来る。
大通りに散った魔道士達もトレジャーハンターを側に引き連れ〈敵影表示〉で索敵、且つ周囲に「あいつを落とすぞ!」的な声掛けをすることで、〈ダウンバースト〉の被りも防いでいた。それも上手く回り始めれば、バンバン墜落させているので、多少の手が空くって訳だ。落ちた魔物は、止め役のパーティーが取り合いをしているからな。
俺もそんな合間に、マナグミキルシュ(12%回復)を食べてMPを回復する。いや、風邪シロップみたいな味のマナポーション(30%回復)は既に3本飲んでいるので、緊急でもなければ暫く飲みたくない。1本くらいなら味も気にならないが、量を飲むとやっぱり味が気になるものだ。その点、マナグミキルシュは美味しくて良い。
一人でオヤツを取るのも悪いので、レスミアにもマナグミキルシュを分けて小休止。
「そういや、テオ達が戻ってないよな?」
「……みたいですね。装備品を取りに行った筈ですから、帰り道に避難の手伝いをしているとかじゃないですか?
プリメルが居るから、あの鳥が相手でも大丈夫ですよ」
パーティーメンバーなら〈敵影表示〉に青色の光点で表示されるのだが、他パーティーのテオ達は緑色なので、視界内にでも居ない限り分からない。レスミアなら猫耳で声による判別も可能だが、それも外れのようだ。
まぁ、あっちもレベル35を超えた中堅探索者パーティーなのだから、心配は要らないな。
そんな雑談をし、そろそろ戦闘に戻ろうかと話していた時である、遠くの方で爆音がした。それも複数。
周辺を見回しても特に変化なし。レスミアに目を向けると、猫耳をピコピコ動かし〈猫耳探知術〉で探っていた。
「貴族街の方が爆発音は多かったですけど、防壁のせいで位置までは分かりません。こっち側だと、真東と真西の2箇所……って、あっちは家の方じゃないですか! 何かが燃える音も聞こえます!」
レスミアが指差す方向は、ダンジョンギルド横の側道……俺達の家や貴族街への勝手口がある方だった。そして、レスミアの猫耳が確かなように、遠くで煙が上がっているのが見えた。
……嫌な予感がする!
言葉に表せない焦燥感に押され、近くの中央門の元へと走る。そして、門の警備を統括する年配の騎士に、事情を話した。
「……そんな訳で、様子を見に行かせて下さい! 何が起きたのかの調査と、消火活動は必要な筈です!」
「……相分かった。持ち場を離れて、自由に行動する許可を出す。
私の孫も、白銀にゃんこのケーキが好きでな。無くなると困るんだわ。頼んだぞ」
「ありがとうございます!
あ、反対側、西の方も火災が発生しているので、魔道士を派遣した方が良いと思います」
「ああ、そちらには部下の騎士を派遣する」
話が分かる人で良かった。この場は騎士団と探索者に任せて、移動する事にする。バイクを取り出して跨り、レスミアに後ろに乗る様に声を掛けるのだが、首を振られた。
「駄目です。家までの道が、避難する人でいっぱいです。火事の方向から、何かを破壊する音、悲鳴が聞こえます。多分、魔物か何かから逃げ出しているみたい……」
俺も〈モノキュラーハンド〉で道の奥を見て見ると、確かに走って逃げてくる人達が見えた。ただ、魔物の姿は見えないので、追いかけられているようでは無さそう。このままバイクで走って行くと、返って危険だな。
少し考えて、バイクをストレージに戻す。そして、レスミアの手を引いて走り出した。
「そっちの道が使えないなら、上の道を使うぞ!」
「ええ?! 怒られませんか?」
「緊急事態って言っとけば、大丈夫だって!」
向かった先は南門の横、外壁である。俺にはニンジャの〈
2人で壁を蹴って駆け上がる。4階建てくらいの高さではあるが、平面として走るなら、あっという間だ。最後に飛び上がり、胸壁の上へと着地……するところを、上に居た数名の騎士に見られていた。呆気にとられた表情をしているが、どうやら彼らの中に壁走りをして来ると言う常識が無かったようだ。勉強不足だな!
取り敢えず、軽く挨拶だけして、バイクを取りした。
「すみません! 爆破現場の消火作業に行くため、上を走らせてもらいます!」
「おお?! お前らどっから……」
「急ぎますから、後で! そっちも魔物が来ていますよ! 〈ダウンバースト〉!」
俺達が乱入したせいで、空の警戒が疎かになったようだ。レスミアを後ろに乗せつつ、貴族街方向から飛んで来ているスパイラルイーグルに魔法を掛けて撃墜した。落ちて行ったけど、下の騎士が止めを刺してくれるだろう。
その隙に、バイクに魔力を流し、加速した。
距離的にバイクで飛ばせば数分で付く。しかし、外壁の上という高い所を走っている為か、直ぐに敵に発見されたようだ。右前から赤い光点が迫っていた。
……相対速度的に、無視出来るな。直線を飛ばして、交差する前に引き離す!
そう考えてバイクを走らせたのだが、後ろに座るレスミアがぎゅっと抱き着く力を強め叫んだ。
「駄目です! さっきの2羽、後ろに付いて来てます!」
俺も〈敵影表示〉でしか見ていなかったが、急旋回して後ろに付くとは……鷹って、戦闘機みたいなドッグファイトも出来るのか?!
後ろをチラリと見ると、螺旋結界を纏って猛追する敵の姿が見えた。いかん、追いつかれる。
しかし、〈無充填無詠唱〉がある限り、対処は簡単だ。後ろ手に〈ダウンバースト〉を使って、外壁の地面へと叩き落した。
それと同時に、俺の腹に回っていたレスミアの手がするりと抜ける。何事かと思ったら、レスミアがバイクから飛び降りたのだった。
「止めを刺しておきます! 直ぐに追いつきますからぁぁぁぁぁ」
〈猫着地術〉の効果だろうか? 結構な速度を出していた筈なのに、レスミアは猫のような軽やかさで着地を決めていた。あれなら任せておいて大丈夫だ。確かに追撃されると面倒ではあるからな。
2人で時間を取られるよりはと、俺だけでも先に様子を見に行かせる判断をしたのだろう。それに感謝して、バイクを走らせた。
2分ほどで家の様子が見える所までやって来た。
片手で運転しつつ、左手で〈モノキュラーハンド〉を使って様子を伺うと……そこには
白銀にゃんこの店舗は崩れ落ち、火災が発生している。俺のアトリエは爆破されたように粉々だ。石造りなので燃えてはいないが……そして、厩舎も燃え上がっている。
家の方、母屋が無事っぽいのは、不幸中の幸いか。
何故なら、それらの惨劇を起こしたであろう犯人が、厩舎の前で食事中だったからだ。それは、家の2階の高さがある赤い巨人……一つ目に禿げ頭な姿はファンタジーでは偶に見かける……赤いサイクロプスは、まるでバナナでも食べるかのように、右手に持っていた馬を咀嚼していた。
「ウチの馬達じゃないか! あの野郎!!」
怒りに任せてバイクに魔力を叩きつけ、更に加速した。
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