第531話 南より押し寄せる魔物の群れ(飛行部隊)

 今回と次回は三人称視点にて、南の外壁上(領主の館)の様子をお送り致します。

 領都防衛戦では何度か視点移動があるので、ご注意ください。

 ※※※を視点変更と覚えて貰えれば結構です。

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※※※



 南の空からは、多数の飛行型魔物が押し寄せて来ていた。空を覆い尽くさんとする程の数であり、一見すると暗雲が空を覆い隠しているかのようである。


 しかし、それに対する騎士団の迎撃も行われていた。南の外壁上の広場には、一列に並んだ魔法陣が掲げられ、順次光を放つ。すると、〈エクスプロージョン〉の爆発が広範囲を吹き飛ばす。更に、その効果範囲の横では別の〈エクスプロージョン〉が爆発し、更に隣でも別の爆発で魔物の群れを一掃した。騎士団の指揮の元、なるべく効果範囲が重ならぬように魔法が使われた結果である。


 ただ、それでも全滅させるには至らない。効果範囲の隙間を潜り抜けたり、高空や低空から飛来したり、左右に大きく迂回したり、魔法に耐えて抜けて行く魔物もいた。


 外壁上の騎士達も迎撃を試み、魔法を撃ったり、弓術スキルを撃ったり〈ヘイトリアクション〉で注意を引き付けてはいるが、全てを倒すには至らない。

 それらの迎撃を突破した魔物の行動は2種類である。そのまま素通りするか、外壁上の魔導士達へ報復に襲い掛かるのだった。


 その時、彼らの前に重装の騎士達が躍り出て、盾を掲げた。急降下して来た蜂型魔物……クレストランスビーの針の一撃を受け止めて、そのまま反撃の剣を振るい両断する。しかし、突撃せずに上空で魔法陣を充填している魔物も居る。そいつらを見上げて、騎士団のパーティーリーダーは周囲に檄を飛ばした。


「これだけの数だ! 届かぬ魔物は無視し、魔導士隊の守りを優先しろ!〈炎龍破〉!」


 と、言いながらも、自身は守護騎士唯一の遠距離攻撃スキルで、魔法陣を充填していた蜂型魔物を撃墜した。

 その檄を聞いた、周囲の部下たちも反撃に出る。


「了解! でも、可能な限り敵を減らせって事でしょう?

 届かない奴は俺に任せろ! 〈ガトリングアロー〉!」

「チッ、重戦士じゃ守るしかねーな……〈カバーシールド〉! からの〈イミネントストライク〉!」


 次弾の魔法陣を充填する魔導士を守り、騎士団は奮戦する。しかし、全長数kmもある外壁の全域を守るには、人手が足りない。元々、祭りのレースや剣闘大会、見廻り等に人員を配置していたので、騎士団の戦力も分散していたからである。

 その為、移動速度の速い蜂型魔物の侵入を許してしまうのだった。



 そんな時、スロープを登ってきた一団が居た。その中心には、白馬に乗った金髪の女騎士と、それに同乗する宝石髪の乙女がいる。ルティルトとソフィアリーセである。

 彼女は、色とりどりの宝石が付いた扇子を振るい、周囲の者に指示を出す。


「先ずは、街に侵入しそうな魔物を迎撃しなさい!

 パーティー編成は、一段落してからで結構! 試合の邪魔をされた鬱憤をぶつけるのです!

 各自、散開!」

「おお! お任せあれ! お嬢様に良いところ見せっぞ!」

「魔物共が! 祭りの邪魔をしやがって!」


 彼らは、南門の外で行なわれていた剣闘大会の参加者と、運営側の騎士団の面々である。

 魔物が接近しているとの一報が入り、街中へ避難をしたのだが(南門は開いていたので、避難は容易)、不完全燃焼な選手も多かった。

 そんな彼らを増援としてまとめたのは、表彰式担当としてゲスト席に居たソフィアリーセである。戦えない観客は避難させ、試合用に装備品を身に着けている即戦力な選手を連れて、外壁上の援軍にしたのだ。


 彼らは左右に展開すると、鬱憤を晴らすようにスキルを使って迎撃を始める。各大会で上位に残っている猛者達ばかりであり、全員サードクラス。この攻勢により、街に侵入する魔物の数が減った。


 彼らの活躍を少し見届けたソフィアリーセは、騎手であるルティルトの肩を叩いて先へ促した。


「ルティ、領主代行をしているお兄様の元に急ぎましょう。魔物襲撃の情報が集まっている筈だもの」

「ええ、これだけの魔物となると、ジゲングラーブ砦が陥落したのか、どこかのダンジョンが氾濫を起こしたのか……急ぎます」



 戦闘の邪魔にならないよう白馬を走らせると、程なくして領主の館へ到着する。そして、未だ避難をしていない執事に4階へと案内される。

 そこは、ヴィントシャフトにおいて一番高い場所であり、壁一面の鎧戸を開く事で、全方位を一望出来る指揮所だった。 

 魔物が進行して来ている南側、外壁上の戦いの様子が見える西側東側、住民の避難状況や建物の被害が見渡せる北側。それぞれにDダイバーが張り付き〈モノキュラーハンド〉の望遠鏡による状況監視を行っている。


 その部屋の中央の大きなテーブルには街と周辺の地図が広げられ、領都防衛の軍議が行なわれていた。領主不在である為、長男のカーヴィスが代理として指揮を取っている。勿論、彼の側近や第2騎士団の団長シュトラーフ、第3騎士団長、古残の騎士団幹部等も参加し、若い代理領主を支えていた。


 そこにソフィアリーセとルティルトが入室すると、各々の親族が喜びの声を上げた。カーヴィスは駆け寄ると、ソフィアリーセを抱き締める。


「ソフィ! 良かった、無事だったか!

 公務とはいえ、街の外に出ていたソフィを心配しておったのだぞ!」

「お兄様の方こそ、ご無事で何よりですわ。それと、離して下さいませ。

 こちらは、護衛騎士達の迅速な対応により、剣闘大会の観客を含めて避難を完了しました」


 抱き締められたソフィアリーセは、少しうんざりした内心を隠しつつ、笑顔を周囲に向ける。すると、その意図を察した騎士(親戚)がカーヴィスの身体を掴んで引き剥がした。


「いい歳して、妹離れしろよ」

「奥さんにも注意を受けたのだろう? ソフィも婚約したのだから、自分の子供で我慢しておけ」

「無論、子供も可愛がっているが、まだ15年は一緒に暮らせるではないか。その点、ソフィは後1年か2年で嫁に行ってしまうのだぞ!」


 上層部では、彼のシスコン具合は有名なので、周囲の騎士も慣れたものである。はいはいと聞き流され、席へと連れ戻されると軍議が再開された。


 テーブル上の地図には多数の駒が置かれており、それぞれ騎士の配置や避難出来ていない住民を表している。そして、魔物の群れを示す駒も、街の外側に多数あったのだが、どんどん取り除かれていく。それらは物見の報告や、伝令に出ていた天狗族の報告から、駒の配置が入れ替えられていくからだ。


 それらの状況を見て、軍議に参加しているメンバーが指示を出す。第1波(カラス型魔物)を魔法で完封し、第2波(クレストランスビー)を9割以上抑えた事により、少し余裕が出て来た。この機に住民の避難や騎士の再配置、そして、探索者の行先である。


「おい、平民街の様子はどうなっている? 報告がないぞ」

「ハッ! ここからでは中央壁が邪魔で詳細は分かりませんが、天狗族の伝令が到着した後、大通りの住民が流れ始めました。恐らく、避難が開始されたようです。

 それと、侵入した蜂型魔物が中央門を超えて行ったようですが、その殆どが倒されています。下から光る攻撃……恐らく、魔弓術か何かで撃墜されたと思われます」


 実際は〈プリズムソード〉の光なのだが、物見担当は自身の見識から魔弓術と間違えたようだ。しかし、そんな些細な事を気にする事態ではない。まだ東と西の壁の外には取り残された住民も多いからである。そこには、商業ギルドにも協力を要請し、天狗族を多数向かわせている。


 ただ、その東西のレース会場の配置を見たソフィアリーセが、ある事に気が付いて兄に質問した。


「お兄様、ここの外のレース会場に集結させている騎馬隊……魔物の地上部隊が確認されたのですか?」

「いや、まだ斥候を出しているところだ。しかし、低レベルの魔物が多数押し寄せて来ている事実から考えると、ジゲングラーブ砦が陥落したとは思えぬ。あそこが突破されたならば、レベル50以上の魔物が押し寄せてくる筈だからな。

 つまり、ジゲングラーブ砦と街の間にあるダンジョンのいずれかから、魔物が溢れて来ていると推測している。

 ……心配するな。ヴィントシャフトの外壁は一度たりとも破られた事はない。それに、王都に居る父上と第0騎士団にも救援要請を出しておいた。それまでは、基本に忠実に外壁を生かして戦えば良い」


 ヴィントシャフト家だけでなく、領地を預かる貴族家には魔物の氾濫に対する兵法書が有る。13歳を超え見習いになった者は学園向けの勉強と合わせて、その兵法書も習うのだ。その為、これほどの襲撃は初めてであっても、マニュアルに従って対処が出来る。


 第2波が落ち着き、手の空いた魔導士をマナポーションで回復させていると、物見の大声が響き渡った。


「第3波! 鳥型魔物の襲来を視認!」

「魔導士は迎撃準備! 弱点属性は追って伝える!」


 南を監視していた物見がブラックカードを手に持ち、〈詳細鑑定〉を使用しようとするが、発動せず不発。距離が遠すぎるようだ。

 徐々に近付いてくる魔物にヤキモキしながら、〈詳細鑑定〉を連打する……そして、漸く成功した内容を叫んだ。


「弱点は火属性! 伝令を頼む!

 ……第3波の魔物の名称はスパイラルイーグル、レベル37です」


 前半は領主の館の下に控えている伝令役への言葉であり、後半は指揮所の面々への報告である。クレストランスビーがレベル25だったので、順当にレベルが上がっている。これにより、魔物の氾濫の可能性が高くなった。

 何故なら、ダンジョンから魔物が溢れる際、奥から押し出されて低階層の魔物から出てくる為だ。空を飛ぶ魔物ばかりなのは、移動速度の違いだろうとカーヴィス達は結論付けていた。


 ともあれ、確認できていない地上部隊よりも、進行の早い第3波の迎撃が優先である。外壁上の魔導士達が、赤い〈エクスプロージョン〉の魔法陣を充填していく。



 その時、急に紫の閃光が走った。空を真一文字に切り裂くような、旋回するビームは〈プラズマブラスト〉の輝きだ。それは外壁上から放たれた訳ではなく、第3波のスパイラルイーグルの少し前辺りから発せられていた。

 その様子を〈モノキュラーハンド〉で見た物見は再度、叫ぶ。


「斥候に出ていたギルドマスター、グントラム様が帰還されました。第3波のスパイラルイーグルに追われているもよう!」

「彼奴が引き連れて来たんじゃないだろうな?! 伝令! グントラムを広範囲魔法に巻き込んでも、敵と誤認しない様、注意せよ!」


 グントラムはレベル69という、ヴィントシャフトきっての強者である。部下を含めて3人という少数で斥候に出したのも、その強さを信頼しての事だ。

 先程の〈プラズマブラスト〉は、グントラムがブラックカードを使用したものである。ただ、直線状に強い魔法であるものの、3次元に飛ぶ鳥を全て捕らえる事は出来なかったようで、同高度に居た魔物の四分の一を撃墜したに留まっていた。


 その為、周囲のスパイラルイーグルの群れから敵と認識されたグントラム一行は、一目散に逃げかえっている。流石にレベル差があると言っても、50や100匹の魔物に襲われては堪らない。何より、筋骨隆々なグントラムで誤認してしまうが、天狗族は元より耐久値が低い種族なのだ。彼は良くても部下が持たない。


「〈バキューム・スマッシャー〉!!」


 逃げ飛びながら、背後に向かって魔法を撃ち放つ。天狗族が得意とする風属性魔法の亜種だ。横方向へと放たれた2本の竜巻は、周囲のスパイラルイーグルを吸い込むように巻き込んでいく。互いに逆回転する竜巻は周囲の魔物を吸い込み、風の刃の竜巻で切り刻んで行った。

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