第518話 貴族街の屋台と露店
綿菓子の方はデボラさんにお任せすると、残りのメンバーはめいめいに出かけて行った。俺とレスミア、それとベアトリスちゃんは3人連れたって貴族街へ向かう。お目当ての有名レストランの屋台があるからだ。
中央門でセカンド証と簡易ステータスを見せて、貴族街へと入る。お祭り期間中でも、検問に手抜かりは無い。むしろ、常駐する騎士の人数が増えているのは、賊を警戒しての事だろう。ご苦労様です。
貴族街の方も多くの人で賑わっている。平民街よりも住民の数は少ない筈なのだが、それを感じさせない賑わいだ。それと言うのも、近隣の衛星町、村から有力者が集まっているせいらしい。要は、貴族の親戚が、本家に挨拶に来るそうな。(by親族の催しからハブられたテオ談)
そんな訳で、お祭り期間中の領都は、3割増しくらいに人口が増えるそうだ。
料理人コンビは既に行く店を決めているのか、途中にあるテラス席付きの屋台には目もくれず……いや、チラ見だけして、先に進んだ。こっちの屋台は行列が少ない。テラス席がある為、長々と行列が作れないようなのだ。どこの屋台も、列整理と案内をする店員さんが居て、人数を制限している。席に座って食べる形式なので、流れは遅いからな。長々と待たせないようにしているのかも知れない。
お目当ての屋台も同様に、5人ほどの行列が出来ていた。ただし、その前に居る店員さんが、看板を掲げている。そこには『限定ランチプレート、ブリッツホルンの赤ワイン煮込みは売り切れました』と、書かれていた。それを見た料理人コンビは、がっくりと肩を落とした。その様子を見た店員さんが、すまなそうに言う。
「申し訳ございません。限定ランチプレートは、12時半には全て売り切れてしまいました。なにぶん、貴重な食材なので数が限定されるのです。コカトリス肉を使ったコカ肉のテリーヌならば、直ぐにご用意できます。宜しければ、そちらは如何でしょうか?」
「……いえ、他の店も見てきますので、一旦失礼します」
ベアトリスちゃんは、店員さんの誘いを断り、踵を返す。レスミアと回る順番を決めていたのか、次の店へ向かうようだ。
テリーヌは……鳥ハムみたいな料理だっけ? コカ肉なので材料は、この街で手に入るから、量が準備されているのだろう。ただ、ワイン煮込みにされている『ブリッツホルン』の方は知らないので、何の肉なのかレスミアに聞いてみた。
「私もチラシで見ただけですけど、南の砦で採れた牛肉らしいですよ。最高級のワインで長時間煮込んで、ほろほろ崩れるくらいに柔らかくしたお料理……食べられないのは残念でしたね」
「南の砦って、ジゲングラーブ砦か。そうなると、魔物の領域に住む牛型魔物かな?
なるほど、数を用意するのは難しそうだ」
ロブスターみたいに野生化した牛なら良いのだけど、レベル50以上の現役魔物だったら、大変だもんな。地上の魔物は倒せば死体が丸々残るので、ダンジョン内のドロップ品よりは効率が良いかも知れないけど……。
そんな雑談をしていたら、次のお目当ての店へ辿り着いた。そこは、俺も知っている高級カフェ『クロイツマイナー』の屋台である。運よく列が減ったところに滑り込む事が出来た。並びながらテラス席の方を見ると、お客さん達は全員同じチョコケーキを食べているようだ。レスミア達に話を聞いても、それがお目当てのようである。メニューを1種類に絞る事で、迷う時間を無くしているのかな?
行列の流れは速く、5分ほどで席に案内される。そして、注文するまでもなく、案内してくれたウエイトレスさんから「ケーキセット3人前で9千円となります」と、先払いを要求された。
なかなか良いお値段ではあるが、貴族街なのでこんなものだ。俺が支払いを済ませると、直ぐさまアイテムボックスからケーキとポット、ティーカップが出て来た。給仕役のアイテムボックスに商品を格納しておくことで、時短をしているようだ。
「王都から直輸入のチョコを使った小鳥のチョコケーキと、同じく王都で人気のアップル&ローズヒップティーでございます。ごゆっくりどうぞ」
出されたチョコケーキは、ザッハトルテのように、チョコでコーティングされた長方形のケーキである。その上には、チョコの枝に止まる小鳥型チョコが配置されていた。食べるのを躊躇したくなる程、可愛らしい造形をしている。
……ああ、レグルス殿下のお土産にも動物型チョコがあったけど、王都で流行っているのかな?
早速、フォークを入れて切り分け一口頂く。中身は白い生クリームのケーキであり、チョコはコーティング部分のみのようだ。ただ、チョコがかなり甘めに作られているようで、生クリームと合わさると丁度良い。そして、セットで出て来たローズヒップティーを頂くと、爽やかな酸味で甘さが洗い流された。ハーブティーとしては初めて飲むけど、口の中をリセットするに丁度良いようだ。見た目も夕陽のような鮮やかな赤なので、女性に受けそうである。
「ええ、ローズヒップティーは、お肌に良いとされていますので、女性のお茶会でも人気らしいですよ」
「あはは、ザックス様もですけど、男性は酸っぱいのが苦手ですからね。女の子だけで飲む時は、偶に飲んでいますよ。マルガネーテ様から、お土産に頂いたので」
「へ~、いつの間に。(それはそうとして、ここのチョコ、殿下のお土産と比べると、イマイチだよな?)」
「(ザックス様、それは比べるのが可哀想ですよ)」
「(ええ、以前の私達だったら、感動するくらいに美味しいです……残っているお土産は大事に食べましょう)」
ひそひそと小声で話したが、やっぱりイマイチらしい。いや、俺達の舌が肥えたのか。
因みに、レグルス殿下からお土産で頂いたチョコは、配給制に移行している。残りが少ないので個数制限をされているのだ。いや、貰った初日の夜、女性陣が食べ過ぎたのが原因だ。(467話のダイエットカード量産の裏側)
数日後には「太った気がする」とダイエットカードを使っていたらしいからなぁ。本当に美味しかったから、しゃーないけど。
チョコケーキはサイズも小さいので、ものの3口で食べ切ってしまった。最後に残った、小鳥チョコをポリポリと頂くまで、3分も掛かっていない。もっと味わって食べるべきだったか?
白銀にゃんこのケーキなら、この4倍くらいのサイズがありお値段も2千円。その為、余計に割高に感じてしまう。チョコが輸入品なのでしょうがないとは思うが、この小ささも高級感を煽るとか、客の回転を速める為なんだろうなぁ。
レスミア達もお喋りをしながら、10分弱で食べ切ってしまった。行列に並んでいる人が居るので、食べ切った後にお喋りは興じ難い。そそくさと店を後にした。
そんな感じで、貴族街の屋台をはしごして回る。3件ほど回ったところで、俺とレスミアは用事があるので、移動する事にした。ベアトリスちゃんは、まだ料理研究をするために、はしごを続けるそうな。まぁ、貴族街の屋台料理はどれも小さ目なので、まだ食べられるのだろう。フィオーレだったら、10人分食べても物足りないだろうからなぁ。アイツが満足するまで食べたら絶対破産する。コカ肉料理も大体3千円~5千円位だった。白銀にゃんこの唐揚げ棒は、貴族街に出店していたら倍の値段でも良かったな。
大通りから路地へ入って行く。路地の片面には、屋台を出せなかった人達が露店を開いており、大通り程ではないが賑わいを見せている。呼び込みの声が、活気の良さを表していた。
「さあ、さあ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! ダンジョンのレア物を集めてあるよ! ギルドで買うより断然お得だ!」
「そこのお嬢さん、ちょっと見て行かないかい? 貴族の間で流行っている髪飾りもあるよ!」
小さな屋台もあれば、布を広げて商品を置いただけの露店もある。売っている物も料理だけでなく、趣味で作った手芸品や服、ダンジョンの採取物やレアドロップ品、それらを加工した武具や薬品、アクセサリー……これは、見習いの職人や錬金術師だな。お店を持てない職人が習作を売っているのだ。
武具屋を覗いてみたところ、シュヴィロッヘン(砂漠エイ)のヒレ甲殻を並べて連結した、ノコギリ状の大剣を勧められた。独創性に溢れているとは思うが、溢れすぎて実用性はなさそうだ。
他にも、義弟妹のトゥティラちゃんとアルトノート君用のお土産になりそうな物を探したのだが、これといって良い物は見当たらなかった。13歳の従妹のような少女にお土産と言っても難しい。あんまり接点が無いし、アクセサリーとかじゃ、変に誤解を生みそうだしなぁ。アルトノート君は、玩具になりそうな手裏剣(光る奴)があるので、見つからなければそれで良い。
レスミアは手芸品等の小物を幾つか買っていたが、俺が買ったのは1個のみ。それも、偶々発見したレア物『付与の輝石』である。露店に無造作に置かれていたので、2度見してしまった程だ。ただし、お値段70万円と強気のお値段。
店主さんに話を聞いてみたところ、採取パーティーで活動中に発見した宝箱から産出したそうな。ただ、買い取り所で売ると半額くらいに買い叩かれてしまうので、お祭りで売る為に取っておいたそうな。まぁ、採取パーティーなら、スキル付与の武具も必須ではないからね。
結局、値段交渉の末、60万円で購入した。適正価格は50万円なので割高であるが、希少性を考えたら、このくらいは安いものだ。次のミスリル武具用に取っておこう。
露店を冷かしながら進み、東の外壁へ到着した。15時くらいから、この外側のレース場でルティルトさんが出場するらしいので、応援に来た次第である。昨日のフィオーレもそうだけど、パーティーリーダーとして、メンバーの活躍は応援しておきたいのだ。
ただその前に、少し寄り道をする。少し北に戻れば、家の近くの『貴族街の勝手口』に出るからだ。そこの近くのナールング商会の前には食べ物の屋台が出店していた。
売り物は……エール等のお酒類にぶっといフランクフルト、小さなピザを折りたたんだ半円状のカルツォーネ、そして、串に刺した豚足が焼かれていた……ワイルドだな!
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