第517話 お祭り2日目も完売

 お祭り2日目も、白銀にゃんこの屋台は、順調に売り上げを伸ばしている。ケーキ屋の方が休み&屋台メンバーの多数がウチに泊まっていったので、早めに開店出来たのだ。無論、早めに売り切れれば、今日は閉店と皆に伝えてあるので、ヤル気も十分。

 唯一、天狗女子に付き合って深酒していたテオは二日酔いでキツそうだったが、最初の休憩に割り当てて〈ディスポイズン〉しておいた。1時間も休憩すれば復活するだろう。

 まぁ、一緒に飲んでいた天狗女子はケロッとしているのは、種族差なんだろうな。参加賞のお酒、2本とも飲み干してしまったのは流石と言うか、呆れるというか……


 更に、以前作った、環金柑のリキュールも一瓶飲まれてしまったし。まぁ、こっちはサイダーや牛乳で割って飲んでいるので、アルコール度数低め。ただ甘いので、他の女性陣も喜んで飲んでいたけどな。

 夕食後、レスミアの部屋で行われた女子会にも持ち込まれていた。翌朝には、中の果物まで食べられて、空になっていたそうだが……まぁ、犯人は食いしん坊と天狗達だろう。



 それはさておき、朝の内は緑の隊服でお馴染みのヴィントシャフト騎士団員が、来てくれていた。例の件……妖人族の警戒に増員されているので、早朝警邏の人達のようだ。

 今のところ、賊共の発見報告は聞いていない。お祭りの間くらいは大人しくしていて欲しいものだ。


 そして、9時を過ぎる頃になると、隊服ではなくガチの鎧姿の人まで現れ始めた。見回りにしては物々しいし、今からダンジョンに行くというのも変だ。もし仮に賊の捕物だとしても、こんな所で唐揚げ棒を買っている暇はない筈である。


 ダンジョンギルド前なので、平時なら目立つものでは無いが、お祭りの中だと浮くな。

 そんな鎧姿の集団の中に、見知った顔が居たので、販売の順番が来た時に、聞いてみる事にした。彼はお爺様の訓練道場に参加していた、貴族出身の騎士だ。


「なに、ここで良いバフ料理が売っていると、噂になっていたのでな。試合前に足を伸ばしてみたのだよ」

「その格好で試合と言うと、剣闘大会ですか?」

「いや、一騎打ち《ジョスト》の方だな。昨日の見習い騎士の予選で、番狂わせが起こってな。勝った者が、白銀にゃんこのバフ料理のお陰だと話したそうだ。それと、辛いカレー味だったともな。

 カレーと聞いては、試さずに居られんだろう? 騎士寮でも人気メニューだぞ。私も最近、辛口が食べられるようになったのだ」


 詳しく聞いてみると、南の外壁の外で行われる戦闘系の大会では、バフ料理による強化は合法らしい。僧侶系の強化の奇跡はNGらしいので、他者が介在すると駄目なようだ。攻撃力アップの奇跡〈ムスクルス〉とか〈ホーリーシールド〉とか、淡く光るから、バフが掛かっているのバレバレだからな。

 それに対し、試合直前にバフ料理を食べるのは、OKだそうだ。何せ、食べたところで身体が光るわけでもなし、本人のステータス画面にバフマークが付くだけなのだ。他者から見て判別が不可能……隠れて食べられたら禁止も出来ない……なので、黙認されているそうな。


【食品】【名称:スパイシー唐揚げ棒キーマカレー乗せ】【レア度:C】

・下味を付けたレッサーコカトリスの胸肉に、カレー風味の薄衣を付けて揚げた料理。串に刺した事で、食べ歩きも可能。

 そして、キノコ類と各種野菜をじっくりコトコト煮込み、旨味を凝縮させたキーマカレーを乗せる事で、辛味と旨味とバフ効果を引き上げている。

・バフ効果:MP自然回復力小アップ、HP中アップ、筋力値中アップ、耐久値小アップ

・効果時間:20分


「貴族街なら、バフ料理を売っている店も多いが、皿がないと食べられない料理が多くてな。試合の順番待ちをしている時、ナイフとフォークで食べるのも、必死過ぎて格好が悪い。

 それに対し、唐揚げとやらは、持ち歩けるサイズで良いぞ。バフ効果も中々であるからな。

 取り敢えず、10本頂こう。カレー付きでな」

「えーっと、カレートッピングはかなり辛いので、スパイシー唐揚げ棒が食べられる人に限定しています。先に辛さ具合を、スパイシーで試されては如何でしょう?」

「構わぬ。何せ私は、辛口カレーが食べられるのだからな! そのカレートッピングとやらも、問題なく食せるであろう」


 ……大の大人が、「辛口を食べられる!」って自慢するのは、ちょっと微笑ましいな。

 ただし、騎士寮の辛口カレーがどの程度の辛さなのか、俺は知らない……まぁ、昨日買っていった天狗族とか、呑兵衛な人達からは苦情は来ていないので大丈夫か?


 結局、知らない仲でもないので、特別に販売する事にした。まぁ、騎士寮で食べている人なら、解禁しても良い事にするか。


 そんな訳で、噂を聞きつけて来た騎士達にも、販売して行く。お昼が近くなると、昨日のリピート客も増えていき、順調に売れて行くのだった。





 13時前には、2種類の唐揚げ棒が売り切れてしまった。早目に開店したとは言え、昨日の様に宣伝した訳でもないのに、こんなに早く売り切れるとは思わなかった。

 在庫が少なくなってから列を切って、お客さんに売り切れを説明するのも大変だったよ。お昼時だったので列も長かったのだ。


 原因としては、天狗男子によるレースのお陰だろう。昨日の天狗女子のスカイループルーフとは違い、純粋な速さを競うレースだ。平民街の上を飛び回る、競馬ならぬ競天狗ってね。勿論、お金を掛ける事も出来、馬券が買える小さな屋台が各所に設置されていた。その1つが、白銀にゃんこの屋台の近くにも出来たのである。

 そこにギャンブル好きな人が詰め掛け、馬券を買ったついでに白銀にゃんこでも、唐揚げ棒を買っていく流れが出来たのだった。


 ……成る程、立地が良いと、他の屋台参加者が羨む訳だ。



 ともあれ、屋台営業は終了。撤収作業に入ったのだが、一つ問題が発生していた。綿菓子の行列が予想以上に伸びていたのだ。特に子供や、親子連れが多い。昼食後のデザートでも買いに来たのかも知れない。

 綿菓子の材料であるザラメは、大量に仕入れてあるので、販売を続ける事は可能である。ただ、従業員の皆には「早く終わらせて祭りを楽しもう」なんて言ってしまったんだよな。

 店長であるフォルコ君や、料理長のベアトリスちゃんを交えて相談していると、丁度、綿菓子販売を担当していたデボラさんが、手を挙げてくれた。


「折角、綿菓子を楽しみに並んでいる子供達を帰すのは、可哀想よ。私が販売を続けるから、皆さんは祭りを楽しんでらっしゃい」


 デボラさんは、母親の貫禄を見せるように、胸を叩いて笑った。明日には、アドラシャフトへ帰省するので、その前にヴィントシャフトのお祭りを楽しみ、土産話にしなさい、という粋な計らいである。

 それに賛同する者が手を……翼を上げる。雀の羽のヤパーニちゃんだ。


「それなら、アタシも付き合うよ! 昨日のアタシの宣伝を見たってちびっ子も居るからね~。綿菓子のアイドルとしては、サービスしないとね!

 ……ついでに、明日以降の酒代も稼いでおきたいし」

「あっ! 酒代を稼ぐなら、アタシも付き合うよ! それにヤパーニだけじゃ、心配だしさ!」


 レルフェちゃんも手を上げてくれたので、これで3人。綿菓子だけなら、休憩要員を入れて丁度良い。お任せする事にした。


 屋台はそのまま残し、天ぷら鍋等の唐揚げ部分のみ片付けた。【唐揚げ売り切れ】の札を立てておけば、間違える人もいないだろう。

 そうして片付けを終えてから、皆を集めた(綿菓子販売の3人以外)。今日の販売数は予定通りなので、予め計算し準備しておいた、お給料を順に配布する。布袋に入れた硬貨はズッシリと重く、渡された者は顔を綻ばせて中身を確認していた。


「おいおい、ザックス。こんなに良いのか? いや、ダンジョンの稼ぎよりは少ないけどよ、只の販売員しちゃ多くね?」

「むふ~。ザックス、太っ腹」

「たった2日にしては、かなり多い……有り難く頂くよ。孤児院への差し入れに使わせて貰うね」


 テオパーティーは、三者それぞれに驚いていた。まぁ、無理もない。布袋に入っていた給料は、大銀貨1枚、銀貨10枚の計20万円だからだ。あ、大銀貨2枚でなく、銀貨を細かくしてあるのは、直ぐにお祭りで使えるようにとの、フォルコ君の心配りである。


 白銀にゃんこのメンバーが驚いていないのは、普段のケーキの売り上げを見ているからか。いや、バイトのスティラちゃんとピーネちゃんは、驚きの余り、口を開けたままフリーズしている。見習いには、少し多過ぎたか? しかし、屋台での働きぶりは1人前だったので、差をつける訳にも行かないよな。


 2日間の利益を、俺を除く12人で等分した結果である。俺としては、材料費等の経費分さえあれば良いのだ(商業ギルドへの売り上げ報告もあるので、有耶無耶には出来ない所)。


「この2日間、屋台販売お疲れ様でした。来年、年が明けてからの3、4日も同じように、屋台を開くので宜しく。同じように完売すれば、同じくらいの給料も出しますからね。

 間の4日間は、祭りを楽しむなり、ゆっくり休暇を取るなりして下さい。

 それじゃあ、解散!」

「「「「ありがとうございました!」」」」


 おっと、忘れずにデボラさん達、綿菓子販売続行組にも、お給料を渡しておいた。皆、喜んでいたのだが、レルフェちゃんが「あれ? こんだけ稼げれば、暫く大丈夫?」なんて、呟いていたので、釘を刺しておく。いや、立候補したのに、今更バックレられては困る。


「お昼以降の綿菓子の売り上げは、当番を買って出てくれた3人に分配しますから、頑張って売ってください。売れば売るだけ、給料に反映しますから」

「……仕方が無いわね! お酒は夕方まで我慢するわよ」

「あはは! この子達も良い子だから、大丈夫よ」


 デボラさんは、笑ってレルフェの頭を撫でると、そのまま肩を組んで引っ張って、販売へ戻って行った。

 うん、任せておけば大丈夫そうだ。

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