第516話 お祭りの初日終了

「二人とも応援ありがとっ!

 やっぱり、注目を浴びながら踊るのは気持ちいいよ~。

 こっちだと観客が少ないって聞いていたけど、舞台と観客が近いからお客さんの喜ぶ顔が見えるのも良いね」

「フィオの剣舞も凄かったですよ。観客席の子供達も目を輝かせて拍手してましたから。

 それにしても、3人でクルクル回って入れ替わって、よくぶつからないね?」

「あはは、そりゃ適当に踊っているんじゃなくて、事前にどう踊るのか決めてあるからね。レッスンの後に集まって、3回くらい練習したし~」

「いや、3回で合わせられる時点で凄いよ。他の二人もビルイーヌ族なのか?」

「ううん、普通の人族だけど、劇団の訓練生だからね! 演劇には騎士物語とか多いから、剣舞を覚える人も多いんだよ。決闘のシーンとか、只踊るだけよりも、実際に武器を持って剣舞をした方が盛り上がるんだ」

 

 現在、幼年学校での舞台を見た後、出番を終えたフィオーレと一緒に帰る所である。

 フィオーレは20人程の群舞に参加した後に、次の演目にも連続で出演。3人による剣舞を披露した。なんでも、クヴァンツコーチのレッスンを受けに行った際、仲良くなった友達に誘われて参加したそうな。レッスンを受け始めて一ヶ月も経っていないのに、コミュ力高いわ。

 午前中は、劇団前の広場の舞台に行って、お客として観劇(有料)していたそうなので、1日中お祭りを堪能していたようだ。


「うん! 折角お給料が増えたんだし、増えた分くらいはパーッと使わないとね!

 明日も観劇に行くし、さっきの幼年学校で『飛び入りライブ』コーナーがあるらしいから、そっちにも参加してくる!

 暇だったら、聞きに来てね!」

「……ほんと、祭りを満喫しているな」

「あはは、楽しめているのなら、それが一番ですよ。あ、でもフィオ、いくら家で食事が出ると言っても、お金を使い過ぎると来月は買い食いも出来ませんよ? 程々にね?」

「は~い。『でも、ミーア姉ちゃんが奢ってくれても良いんにゃよ?』」

「……スティラの真似をしてもだーめ。大体、年上の妹なんて要りません」

「ちぇー」


 俺達も屋台営業が繁盛して楽しかったので、羨ましいとまでは言わないけどな。帰り道でも、食べ物系の屋台を見付けては寄ろうとするフィオーレを引っ張り、「皆が待っているから」と先を急いだ。




 第2ダンジョンギルド前、白銀にゃんこの屋台まで戻って来たのだが、まだ営業をしているようだ。唐揚げ棒の2列に10人ずつくらい並んでいるのが見えた。

 ……17時を知らせる5の鐘で、今日の営業は終了する筈だったのに?

 近付いてみると、列整理をしていたテオが、『本日終了』と書かれた紙を掲げては、列に並ぼうとする人を断っていた。どうやら、

 バックヤードに入ると、最後の販売をしている面子以外が撤収作業をしていた。綿菓子販売のテーブルを拭いていたスティラちゃんが、いち早く俺達に気が付いて手を振る。

「あっ! ミーア姉ちゃんとザックス兄ちゃん、お帰り~。こっちは最後まで好評だったにゃ! 滅茶苦茶売れたよ~

 デートのついでに観るって言ってた、フィオが出た劇はどうだったにゃ?」

「スティラもお疲れ。フィオの剣舞は凄かったよ~。明日もライブするって言ってたから、休憩時間に見に行って来たらどう? 何時ごろに出るのか聞いておいて、今日みたいにピーネちゃんと一緒に行くとかね」

「う~ん、貴族街も気になるし、馬のレースも気になるから、ピーネと相談するにゃ!」


 姉妹、仲が良くて睦まじい。俺はスティラちゃんの頭を撫でてから、撤収作業を手伝うことにした。取り敢えず、使わない物は全てストレージに入れておく。バックヤードも片づけて行くと、テーブルで書類仕事をしていたフォルコ君が、声を潜めて話しかけて来た。


「(売り上げ、確認しましたか? 予想以上ですよ)」

「ちょっと待って……(日刊帳簿チェック)!」


【スキル】【名称:日刊帳簿チェック】【アクティブ】

・その日の取引内容と金額が、脳内に表示される。


 自動計算スキルである。これは自身の取引だけでなく、パーティーメンバーや雇っている従業員の分まで計算してくれる優れものだ。

 そこに表示されたのは、総金額で300万円を超えるものだった。流石に、これは驚く。いや、朝のケーキ販売の分、約150万円を含んでいるので、屋台での売り上げは150万円程である。十分予想以上だ。

 ケーキの方は単価が高い嗜好品+銀カード(枚数増量)の売り上げなので順当であるが、単価を低めにした屋台でここまで儲けるとは……売れる本数が決まっている唐揚げ棒はもとより、綿菓子の方も頑張った結果である。


「唐揚げの方は、終了間際に駆け込みがあったので、追加した0.5日分も殆ど売れてしまったようです。ええ、夕飯のオカズに買っていく奥様とか、夜も営業する屋台……まぁ、そこの幸運の尻尾亭ですが……そこに持ち込んで、飲み明かすらしいですよ」


 お祭り期間なので、屋台の深夜営業も届け出をしていればOKである。その為、居酒屋系の屋台は日付が変わるくらいまで営業するらしい。商業ギルドの売り上げコンテストにも影響するので、上位を目指すところは夜も頑張るそうだ。

 白銀にゃんことしては祭りを楽しめばいいので、ここで店仕舞いである。



 販売が終了し、屋台もストレージにしまってから、全員を集めて労いの言葉を掛けた。


「先ずは、初日の営業、お疲れ様でした!

 白銀にゃんこの知名度に加え、皆の宣伝効果もあって予想以上の売れ行きになりました。この調子で明日も売れれば、皆に分配する給料も、かなり増える事でしょう。明日も、よろしく!」


 皆も手応えを感じていたのか、歓声が上がり喜んでくれた。

 ただ、ここで解散と言いたいところではあるが、残業をお願いしないと行けない。丁度良い、交渉材料があってよかった。

 俺も軽く手を叩いて、皆を静めてから話を続ける。


「唐揚げを担当していた人は聞いていると思うが、売れ行きが良すぎたせいで、仕込みをしていた唐揚げを0.5日分、先んじて使ってしまった。そこで、これから手の空いている人には仕込みを手伝ってもらいたい……もちろん、残量代として夕飯をご馳走しよう。丁度、港町ウーファーから届いた大型の海老、ロブスターを手に入れて来たからな!」


 残しておいたテーブルの上に、殻付きの青いロブスターを取り出して見せると、驚きの声が上がる。すると、直ぐさまベアトリスちゃんが跳び付いた。〈中級鑑定〉を掛けたり、爪を持ち上げてみたりと興味津々である。他の者もロブスターを囲むようにして、覗き込んだ。


「こんなに大きな海老は初めてです! 腕の振るい甲斐がありますね!

 ミーア! 解体の仕方は聞いてきてくれた?」

「うん、2匹分捌いて教わったから、後でトリクシーにも教えてあげるね。串焼き以外に、殻の粉末を使ったスープとかクラッカーを教わってきたの。あ、それと、ザックス様がトンカツみたいに揚げて欲しいって……」

「え~、又揚げ物~。まぁ、今日一日中作ってただけで、食べてないけどさ~」


 料理人コンビは早速献立を決め始めた一方で、フロヴィナちゃんはちょっとうんざりしたかのようにボヤく。丸一日揚げ物に関わっていたので、その気持ちは分かるが、エビフライの前には些細な事である。

 そして、テオのパーティーもわいわい、騒ぎ始めた。


「えー、ちょっと魔物みたいな見た目……本当に美味しいの?」

「大きな海老って、アレだろ? 幸運の尻尾亭で売ってる海老串。プリメルは午前中の休憩で買いに行って、美味い美味いって喰ってたじゃねーか」

「え?! あの海老串って、こんなんなの? ……アタシも食べたけど、美味しかったよね? なら、残業に参加しても良いかな」

「うしっ! それじゃ、決まりだな。

 おい、ザックス! 俺達は仕込みを手伝うぜ。その後は、初日の成功を祝って、宴会しようぜ!

 ついでに泊めてくれると助かるわ。どうせ、明日の朝から屋台だろ?」


 テオの提案に、「ああ、助かるよ!」と、サムズアップして返す。すると、天狗女子の二人も、それに乗っかって来た。


「宴会? 宴会ならアタシ達も参加する! お肉切るくらいなら、アタシも出来るし! ちょっとお手伝いして、飲み放題だ~!」

「いやいや、お酒も出すけど、飲み放題って程は出せないぞ。ヴァルトが居ないから、彼の分の在庫には手が付けられないし」

「しょーがないな~。それなら、スカイループの参加賞をみんなで飲もう~。代わりにお摘みよろ~。

 あ、それとお泊りなら私達も混ぜて~。夜飛ぶのは怖いからさー」


 鳥は夜目が効かないと聞くが、天狗族も同じなのだろうか?

 それは兎も角、レスミアやフロヴィナちゃんに話をパスすると、許可が下りた。ただ、レスミアの部屋が大きいと言っても、寝具がダブルベッド一つしかない。その為、ダンジョン用に準備してある布団セットを何個か出す事にした。何というか、修学旅行の女子部屋みたいな感じだ。


 そして最後、迷っている様子だったデボラさん(パートの奥さん)に、手伝ってもらえるのか聞いてみたところ、すまなそうに手を合わされた。


「ごめんなさいね。私は家の夕飯の準備をしないといけないから、手伝えないわ。旦那と他の子供達がお腹を空かせて……あら?どうしたの?」

「お母さん、私は手伝いに行きたいな。スティラちゃんの家にお泊りも楽しそうだし……」

「にゃ! ピーネも泊まるなら、歓迎するよ! 夜遅くまでお喋りするにゃ!」


 デボラさんの服を引っ張っておねだりしたのは、娘のピーネちゃん(バイト)である。引っ込み思案な娘が、お泊りなんて言い出した事に驚いたデボラさんだったが、あれこれと注意や約束をすることで許可してくれた。スティラちゃんだけでなく、他の従業員と仲良くなっていることに加えて、料理ボスであるベアトリスちゃんの「女の子は一部屋に集まって寝るから、安心してくださいね」と太鼓判を出したのが大きかったようだ。

 年頃の男が3人要るので(俺、テオ、フォルコ君)、心配するのはしょうがない。まぁ、その3倍女性陣が居るので、力関係は向こうの方が強いけどな。


 そんな訳で、労働力は確保できた。デボラさんには、お摘み唐揚げをお土産に渡し、皆で帰途に付いた。




 料理人コンビが夕飯を作る間、他のメンバーでコカ胸肉をカットする。流石に9人掛かりなので、夕飯が出来上がる頃には、在庫に残っていたお肉を全て、唐揚げ用に仕込むことが出来た。いや、料理人コンビが流れる様に料理を作っていくのに、感化されたのもあるな。

 キッチンには、濃厚な海老の香りが充満しており、皆お腹を鳴らしてしまう程だった。早く終わらせて宴会したいと、頑張った結果だな。



「うっま! このスープ、海老の味がめっちゃ濃い! 口の中が海老でいっぱいだ」

「海老にはやっぱり白ワインよね! お代わり!」

「アタシも! クラッカーに海老乗せたの美味過ぎ! こんなの幾らでも飲めるよ!」


 ロブスターを2匹分使った豪華な料理は、皆に絶賛された。海老殻粉末で出汁を取った、海老のビスク(ポタージュスープ)は、濃厚な海老を楽しめる。元はスープストックとして保管されている基本スープを、野菜ごとミキサーに掛けて、海老殻粉末を入れて煮込むだけらしいが、時短料理とは思えない程、海老海老してる。


 天狗女子が盛り上がって、ワインと交互に食べているのは、海老とクリームチーズのカナッペである。もちろん、女将さんに教わった海老殻粉末を練り込んだクラッカーを使っているので、こっちも海老尽くしだ。


「海老串も美味しかったけど、エビフライの方が好きかな? 揚げ物は太るのに、止まらないよ」

「まぁ、今日一日働いたし、万が一の時はアレがあるから大丈夫だって~。やっぱり、サクサク感が美味しいね~」

「む~。ヴィナが言ってるアレって、まだ教えてくれないの?」


 ダイエットカードは秘密なのに、またもや口を滑らせてしまったのはフロヴィナちゃんだ。揚げ物で口が滑り易くなったのかも知れない。まぁ、最終日まで頑張ってくれたら、1枚進呈するつもりなので、今はスルー。


 それは兎も角、やっぱりエビフライは美味い。

 不満点があるとしたら、ダンジョン産ではないのでバフ効果が付かない事と、海老の尻尾が無いので見た目がエビフライっぽくない事くらいか?

 いや、チキンカツスティックとか、トンカツスティックみたいな棒状のエビフライなので、情緒に掛けるのだ。味は文句なしに美味しいし、身もぷりっぷりなので、一般的な車海老以上に美味しい気がする。


 ……ふむ、タルタルソースもウスターソースも合うけど、エビフライなら味噌ダレも欲しいなぁ。無いもの強請りだけど。

 それに余ったら、明日の朝食用に、エビフライサンドを作って貰おうかと思ったが、このペースで食べられると残りそうもないな。しょうがない、今作るか。

 食卓に上がっているロールパンでもいいが、やはりサンドイッチには食パンだろう。ストレージに保管してある焼き立て食パンを薄切りにし、タルタルソースをたっぷりと塗る。そこに、ウスターソースを染み込ませたエビフライを5本並べて、付け合わせの千切りキャベツを適量乗せる。最後はバターを塗ったパンで挟み、ぎゅっぎゅと押してやれば完成!

 少し時間を置いた方が馴染むだろうけど、自分で食べるだけなので問題ない。さっさと包丁を入れて、真っ二つにする。すると、断面には綺麗に整列したエビフライが白い身を覗かせていた。ついでに、レスミアも寄ってきて、完成品を覗き込む。


「また、変な事をしているのかと思ったら、綺麗なサンドイッチですね。(これも異世界の料理なんですか?)」

「ああ、萌え断エビフライサンド……要は切った時に、綺麗な断面になる様に計算されたサンドイッチ……」「なに、なに? また美味しそうな物、作ったの? 一切れ、頂き!」

「あ、コラ、フィオーレ! まだ俺も食べてないんだぞ!」


 レスミアに断面の美しさについて語って聞かせていると、反対側から現れた山賊に半分奪われた。油断も隙も無い。

 取り敢えず、〈フェザーステップ〉で追いつき、とっ捕まえたのだが、既に口の中。仕方ないので、頭にチョップ1発喰らわせて、更に余興を何かする事で許してあげる事にした。


 ぶー垂れたフィオーレは、ギターを〈小道具倉庫〉から取り出すと、テンポの良い曲を弾き始める。


「有名な曲だから、みんな歌詞は知ってるよね。みんなで歌おう!」

「知ってる!」「了解にゃ~!」「あ~、年末に歌う、定番の奴だね~」


 フィオーレの伴奏に合わせて、俺以外の皆が歌い始める。天狗女子の二人は、ふわふわ宙を浮きながら手拍子も始めた。

 例によって俺は知らない曲なのだが、手拍子ならリズムに乗れば参加できる。周りに合わせて手を叩き、一体感を感じて楽しんだのだった。



 こうして、臨時のカラオケ大会になった宴会は、夜遅くまで続いた。

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