第508話 キノコの栽培から散歩、そしてダンジョン掃除隊へ
キノコポケ○ンを求めて東奔西走。30分ほど走り回ったのだが、遭遇するのは小角餓鬼ばかり。やはり、キノコなので草タイプ、洞窟な通路を探すよりも草むらを探した方が良いかも知れない。そう考えて、我々はダンジョンの奥地へと向かった。
そして、ようやく発見したジャングル……ではなく、植物系の採取地……そこでは、未開の部族が怪しげな宴会を繰り広げていた。
部屋の外からこっそりと覗き込んでいると、レスミア隊員が落胆した声を上げる。
「うあ……折角の採取地が、小角餓鬼に荒らされてますよ。それに、探していたキノコも食べられてる。
まだ、大半は残っているから、もうちょっと早く来れば、間に合ったのに……」
「ダンジョンは早い者勝ちだから、しょうがないさ。ついでに、弱肉強食なのもなっ〈ストームカッター〉!
行くぞ! 左は任せた!」
「はいっ!」
採取地の真ん中で食事をしていた2匹に範囲魔法を放ち、少し離れた所で寝転んでいる2匹を分担する。右に居るのは戦士餓鬼のようだ。〈ストームカッター〉に気が付き、慌てているものの、接近する俺に気が付いてボロボロの盾を構えた。それに対し、俺は〈一閃〉を使わずに、抜刀斬りを仕掛ける。スキルに頼り切りにならないようにする練習である。
〈一閃〉の感覚を真似た抜刀斬りは、戦士餓鬼の構えた鉄の盾を両断し、その持っていた左手まで切り落とす。少し踏み込みが浅かったようだ。〈一閃〉だったら、首か胴体まで切れていたと思うからな。
しかし、納刀動作を挟まないのは、利点でもある。返す刀で、ギャアギャア喚く首を切り落とし、駆け抜けた。そして、血振りの動作で刀に付いた返り血を払ってから、納刀する。いや、〈マナ還りの納刀術〉があるので、血塗れのまま納刀しても、汚れはマナの煙へと還元される。なので、血振りの動作自体は不要なのだが、俺のイメージの剣豪を再現すると、血振りの動作を入れた方が格好良いのだよな。
〈ストームカッター〉が消えて行くと、反対側に行ったレスミアの姿が見えた。向こうも問題なく倒せたようだ。
しかし、採取地の荒れ様は頂けない。軽く見て回ったところ、果物や野菜系が悉く食い荒らされていた。なんで、実った状態で一口だけ齧るかな。食べるなら全部喰えよ。食べ方が汚いというか、害獣害鳥の所業である。デリンジャーレモン等の刺激物や、樹液が採取出来る木々は無事であるが、時間が掛かる樹液系は見送ろう。
そんな訳で、デリンジャーレモンを〈自動収穫〉していると、レスミアが弾んだ声で呼んで来た。
「ザックス様~、こっちに大きいエリンギ……歩きマージキノコが残ってますよ!」
「でかした! 直ぐに行くよ」
採取袋をストレージに収納し、レスミアの元へ向かう。すると、ゴーストペッパーが実る低木の合間に、大きなエリンギが2本生えていた。
「ははっ、流石の餓鬼でも、ゴーストペッパーは食べないか。多分、見逃したのかな?」
「ですよね。エリンギにしては育ち過ぎなので、固くて調理には使えないでしょう。このまま、放置しておけば育つんじゃないですか?
あ、周りのゴーストペッパーの辛みで、育ち難いとかあるかも?」
植え合わせってやつか? トウガラシとピーマンを近くに植えると、ピーマンが辛くなるとかは聞いた覚えがある。関係があるか分からないが、先にゴーストペッパーだけ収穫しておけば良いか。どうせ食べ頃を過ぎた歩きマージキノコには〈自動収穫〉は効かない。
〈自動収穫〉をしながら、考える。エリンギにしては大きいが、歩き出すサイズからすると、全高は半分程度。まだまだ、小さい。どれくらいの時間で成長するのかね?
この部屋を拠点として周辺探索をしても良いのだが、目を放している内に巣立ってしまえば、元の木阿弥である。かといって、ずっと待つのも時間が勿体ない。魔導士が覚える〈グロウプラント〉があれば、成長を促す事が出来そうなのになぁ。
しかし、習得していないのはどうしようもない。頭を悩ませていると、とある木が目に入った。ああ、成長と言えば、アレがあったな。
「レスミア、ザフランケの木の天辺にある、蔦を取ってきてくれないか?
あの樹液を撒けば、キノコの成長も早くなるかも知れない」
「あっ、それは良いですね。試してみましょうよ! ちょっと取ってきます」
得意気に笑ったレスミアは、ザフランケの木の幹を蹴って、スルスルと走り登って行く。そして、30秒もしない内に、上から飛び降りて、着地する。その手には、木の天辺に繋がった蔓が握られていた。
【植物】【名称:魔木ザフランケ】【レア度:C】
・ダンジョン固有の樹木であり、地面から吸い上げたマナを大量に含んでいる。マナが貯蓄出来る許容量を超えた場合、幹の先の蔓から、周囲に向かって樹液を吹き出す習性がある。この樹液にもマナが大量に含まれており、周囲の植物の育成を早める。
周囲の他の植物が欲しい場合、ザフランケの樹液は採取しない方が良い。
※内包マナが増え、レア度が上昇している。
採取地の自動散水機だな。天辺の蔓を切れば、樹液が溢れ出てくるので、ホースの様に水撒きが出来る。普段は魔絶木の樹液の出を良くしたり、収穫後の葉物(の茎)に掛けて二毛作したりしている。果物は直ぐには育たないが、葉物なら小休止の間に生えるので、重宝しているのだ。
ただ、樹液を撒くにしても、先にゴーストペッパーの木を伐採しておこう。そうしないと、またゴーストペッパーが実を付けかねないからな。
そうして、歩きマージキノコの根元辺りに樹液を撒いておいた。流石に、にょきにょきと大きくなる訳でもないようだ。ちょっと残念。仕方がないので、魔絶木の樹液も採取するように樽をセットし、少し観察するとするか。
15分程で4樽設置し、様子を見に戻って来たところ、2本生えていた歩きマージキノコが、1,5倍くらいに膨れ上がっていた。驚きの膨張率である。
「あ、お帰りなさいませ! ね、ね、凄い大きくなったでしょう?
面白いんですよ。樹液を撒いて、少し経つと膨らむんです。多分、地面に染み込んだ分を吸収しているのかな?」
レスミアが、再度樹液を撒く。すると、数分してから徐々に大きくなり始めた。ゴム風船……は言い過ぎか。じっと見ていると、ほんの少しだけの変化であるが、目を離してから改めて見ると、変化の大きさが分かる微妙な速度である。何といえばいいのか……お風呂に入れると、大きく膨らむ人形みたいな感じか?
まぁ、大きくなるなら、それで良い。魔絶木の樹液採取の様子も見つつ、歩きマージキノコの育成を見守る事にした。
30分経過後、大きな樽サイズにまで膨れ上がると、ついに手が生えた。40分を経過すると、今度は根元が足の様に割れ始めた。そして、程なくして、地面から足を引っこ抜いて、のそのそ動き始める。それらをずっと見ていたレスミアは、感動したかのように、手を叩いて喜んだ。
「わぁ! 立った! 歩きましたよ!」
「ああ、ようやく散歩が出来るな。取り敢えず、ロープを括ってと……わぷっ、いきなり胞子を撒くな!」
歩き出したキノコ2本……匹?……は、周囲の採取物に向かって頭突きをしては、胞子を撒き始めた。ここからは、溜め込んだマナで歩き、胞子を撒き散らすので、動かなくなるまでマナを消耗させるのが目的となる。先日の老夫婦の話では、胞子を撒く方が早く動かなくなるので、出来だけ繁殖活動をさせる方が良い。
マナが充実した採取地は、絶好の繁殖場である。その為、しばらく好きにさせる事にした。
「バラバラに動くみたいだから、二手に分かれよう。おっと、胞子を吸い込まないように、マスクは付けておくように」
「はい。それじゃあ、こっちの少し背の低い弟君は、私が面倒を見ますね」
「……ペットみたいだけど、あんまり感情移入しないようにな」
名前でも付けそうな雰囲気だったので、釘を刺しておいた。2時間ほどで動かなくなってしまうのだから、愛着を持っていては後が辛くなる。のそのそと歩き回り、植物の生えている所でヘッドパットをかますキノコ……可愛いか?
途中で気が付いたのだが、どうやら2匹は、胞子が撒かれた場所は把握しているようで、重複しては胞子を撒かない。
そして、採取地に胞子を撒き終わると、2匹は別々の通路に向かって歩き始めた。レスミアと別行動するのは不味いので、1匹を抱えて合流させる。しかし、2匹一緒には行動したがらず、再度別々の道に向かって歩き始めた。
「これはアレだな。種の保存的にバラバラの方角で繁殖しようとしているんだと思う」
「どうします? 流石に私一人じゃ、この子を守りながら小角餓鬼4匹と戦うのは無理ですよ?」
「俺は魔法があるから、どうとでもなるけど……しょうがない、こっちの方を抱えて行くよ。折角育てたのに、ここで1匹放流するのは勿体ない」
あれだけ樹液を吸ったせいだろうか? 抱えてみると意外と重い。レスミアの方はロープで繋いだまま散歩スタイルで、先に進んだ。
のだが、意外とヒカリゴケが少ない事に気が付いた。主な光源となる天井には、そこそこの頻度で生えている。しかし、地面や壁にはあまり生えていないのだ。曲がり角では生えてくれているものの、直線の通路だと殆ど見当たらない。最近は暗い場所では〈サンライト〉を使っていたので、地面の光源が少ないなんて気にも留めていなかったなぁ。
このまま練り歩くとなると、確かに時間は掛かりそうだ。レスミアと散歩するのは良いが、2時間も只歩くほど、老成はしていない。時短の方法を考えるべきだな。
「天井にヒカリゴケが生えているんだから、アソコに胞子を撒かせればいい……つまり、こうだな。
そうら、高い高―い!」
抱えていた歩きマージキノコを、天井に向かって、思いっきり放り投げた。重いキノコであるが、何とか天井にまで届き、頭をぶつける。しかし、期待していたのとは違い、胞子は出なかった。そして、そのまま自由落下して来たのを、両手で受け止める。
……ぐぉっ! 腰に来る重さだ。筋力値と耐久値が、ステータス補正で強化されていなかったら、ギックリ腰になっていたかも。
そんな様子を見ていたレスミアは、ちょっと心配したように言う。
「ザックス様、将来子供が出来ても、そんな風に放り投げては駄目ですよ?」
「いやいや、子供なら手加減するし、これはキノコだって。そっちこそ、感情移入し過ぎ。
それにしても、天井に放り投げても、あの一瞬じゃヒカリゴケと認識してくれないか……それなら、直接持って行くか」
今度はニンジャの〈壁天走り〉の力を借りて、壁を走り昇り、天井に沿って走り始める。この近さなら、コイツもヒカリゴケを認識できるだろう。手に持ったまま、天井に傘をぶつけてやると、胞子を巻き散らした。
成功である。キノコを斜め上に打ち付ける事で、身体を壁の方に押し返し、天井近くを走り続ける。天井にキノコのスタンプをポンポン押すことで、胞子を撒き散らした。
気分は髭の生えた配管工かな? キノコを持っているし、ブロックじゃないけど天井を叩くし。
しかし、50mも走らない内に、体勢を崩して壁から足が離れてしまった。キノコが重いとの、斜めの体勢で壁を走るのは、存外疲れる。何とか着地は出来たものの、また腰を痛めてしまった。
自分に〈ヒール〉を掛けて置き、レスミアに手を振って呼び寄せる。この方法だと、一人先行してしまうし、小角餓鬼が潜んでいたら、対処し難いな。うん、没。
レスミアが合流するまでに、次の方法を考えよう。
「お待たせしました~。この子、足が遅いのが難点ですよね。
私も抱えて歩こうかと……今度は何を作ったんですか?」
「あー、トンボって名前だったかな? これで天井のヒカリゴケを削り落としてやろうってね」
グラウンドの整備に使う道具のトンボである。ただし、高い天井に届くよう、柄の長さを6m程に延長加工した一品だ。村時代に使っていた3m棒では天井に届かなかったので、固めの木材を使って延長しT字の棒を先端に付ける。ただ、それだと強度が心配なので、三角形に棒を渡し補強を入れた。うん、最初は意図していなかったけど、完成したら凸凹地面を均すトンボになった訳である。
早速、天井に向かって持ち上げてみた。流石にプラズマランスよりも倍近く長いので、重く扱い難いが、紅蓮剣程ではない。天井に生えているヒカリゴケを、こそげ取るように掻いてやると、パラパラと光が舞い落ちた。
ふむ、木の棒では剥がし難いか。釘でも打って、鉤爪にした方が良いかも?
そんな改善案を考えつつ、ヒカリゴケを削り落とした。通路には、舞い落ちたヒカリゴケが薄く広がり、地面が発光しているような状況になる。
しかし、肝心の歩きマージキノコはウロチョロ歩くだけで、落ちたヒカリゴケには興味を示さない。
「ほら、ご飯ですよ~。胞子撒かないの?……駄目ですねぇ」
「キノコを育てるのも難しもんだな。地道に歩いて回るしかないのか?」
「歩きながら考えましょう。
あ、その前に箒を出してもらえませんか? ここを、こんなに汚したまま行くのも、何だか悪い気がします」
ヒカリゴケをばら撒いた事が、散らかした様に感じたらしい。戦闘の後でもなく、自発的にゴミで散らかした様なものだからか? どの道、放っておいてもダンジョンに飲まれていくだろうが、その前に他の探索者が来たら迷惑なるという考えだ。
「メイドとしては、汚したまま放置は気持ちが悪いですからね。直ぐに終わりますよ」
最近は家の掃除も〈ライトクリーニング〉で終わらせているので、掃除欲が疼いたらしい。俺の知らない欲だ。
箒を手にしたレスミアが、さっさと掃き、散らばったヒカリゴケを壁際へとまとめて行く。うん、壁際なら、自然に生えている事もあるので、目立たないだろう。
そんな様子を見ていたら、2匹の歩きマージキノコが急に方向転換した。ル○バの様にウロチョロしていたのが、急に餌を発見した猫のように、壁際へ殺到する。そこは、レスミアが掃き集めたヒカリゴケの山である。そして、壁に頭を打ち付けて、胞子を撒き散らした。
「あー、もしかして、ヒカリゴケがある程度まとまって居ないと駄目とか?
一定以上のマナが溜まっている所にしか反応しないのかも?」
「やった! 私の掃除欲のお陰ですね!
それじゃあ、私が箒で集めますから、ザックス様は天井から落として下さい」
そんな訳で、分業体制になった。先頭の俺が、釘付きトンボでヒカリゴケを削り落とす。真ん中のレスミアが、箒で壁際へ集める。最後尾の歩きマージキノコが、胞子を撒き散らして付いてくる。
どうやら、胞子を撒きたい場所が沢山あれば、2匹まとめて行動してくれるようだ。足りなくなると、反対側へ歩こうとするのは困りものだが、
ともあれ、普通に歩き回るよりは格段に胞子を撒く回数が増えた。
ただ、なんかダンジョンの掃除をしている気分だ。他の探索者に会いませんようにと、祈りつつ掃除して回った。
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