第505話 連携訓練をしつつ、ラムカツパーティー
あらすじ:30層でボス戦中。
ともあれ、お供の2匹は倒した。
残るボス、デカいヒヨコこと、レッサーコカトリスに、レスミアとルティルトさんが相対している。いつも通り、尻尾の蛇担当なのは〈宵闇の帳〉状態のレスミアである。何故、正面に居るかと言うと……
「〈
前に出た暗幕が、半円を描くように急加速する。そして、レッサーコカトリスの背後に回ると、〈不意打ち〉で蛇尻尾をぶつ切りにした。驚いたヒヨコが甲高い鳴き声を上げると、それと同時に正面のルティルトさんが盾を構えて突撃した。
「たあああっ!」
裂帛の気合と共に、カイトシールドの陰から短槍が付きだされ、丸いデカヒヨコの腹に突き刺さった。
ルティルトさんの武器は、白鎧とお揃いの白く装飾されたウーツ鋼製のカイトシールドと、身長と同じくらいの短槍である。ケイロトスお爺様が使っていた長槍、ミスリルスピアと比べれば半分程度の長さしかない。ただそれでも、女性が扱うには重いのだが、片手で扱えているのは〈装備重量軽減〉と、日々の鍛錬の賜物なのだろう。
攻撃された事に怒ったレッサーコカトリスが、反撃に出た。全高2mの高さから、嘴が
その攻撃を、ルティルトさんはカイトシールドを斜めに掲げて、受け流す。そして、直ぐさま短槍を引き抜きながらサイドステップ、着地と同時に、2撃目、3撃目を突き入れた。スキルではなく、自前の二連突きだ。
どうやら、深く突き刺すのではなく、穂先が埋まる程度にして、引き抜き易くしている様である。攻撃を盾で受け流し、時には受け止めて、カウンターとして短槍でグサグサ刺して回っていた。
レッサーコカトリスの胴体が赤く染まっていく。致命傷には遠いが、かなりのダメージのようである。一方的な展開になって来た時、レッサーコカトリスが大きく息を吸い、胸元の羽を膨らませた……睡眠効果のあるブレスの予兆だ。
その瞬間、ルティルトさんが弾かれたように、斜め上に短槍を突き出した。これまでとは違い、両手で短槍を握った全力突きだ。
その一撃は、膨らんだ胸に深く突き刺さり、穴の開いた風船の如く萎んでいく。恐らく、肺に穴が開いたのだろう。レッサーコカトリスが悲鳴を上げるが、音量が全然出ておらず、か細い音しか出ていない。
ルティルトさんが軽くバックステップを踏んだ。深く刺さった短槍は、そのまま捨て置かれ、代わりに腰に佩いていたウーツ鋼製のロングソードを抜刀した。そして、苦しそうに項垂れて頭を下げたレッサーコカトリスに、切り掛かる。先程突き刺して回った辺りを真一文字に切り裂き、更に前のめりになったところで、〈一刀唐竹割り〉で頭を両断するのだった。
その流れるような戦いぶりに、拍手を送った。蛇尻尾を切るのにレスミアの手助けはあったものの、本体のデカヒヨコは一人で楽々倒していたのだから、凄い。いや、俺やベルンヴァルトでも倒せるが、華奢な女性が事を成しているのだからな。鎧ではなくドレスを着ていたら、淑女で通るご令嬢なので、ギャップが凄い。
短槍を引き抜き、回収したルティルトさんが拍手に気が付くと、胸を張って得意気に笑った。
「第1ダンジョンの魔物に関しては予習済みだもの。これくらいの相手なら楽勝よ」
「はい、一つ教えてください。魔物がブレスを吐く直前、胸を膨らませた所を攻撃したのは、弱点か何かだったんですか?」
「あら? ザックス、知らなかったの?」
「うむ、あの魔物がブレスを吐くには、肺に呼吸を貯める必要があるそうだ。身体の奥に隠れている肺は狙い難いのだが、膨らませた時だけは狙いやすくなる。ぱんぱんに膨れた肺を破れば、呼吸が出来なくなって、弱体化すると習ったよ」
初耳である。第1支部の図書室で読んだ自伝には、書いてなかった。俺が読んだのは麻痺煙幕で、状態異常にする方法だったのだ。いや、麻痺煙幕も十分に有用な方法なので、今までの周回でも使ってきた。どちらが正解と言う訳でも無く、解法が複数あっただけに過ぎない。
ただ、図書室だけでは、情報に偏りがあるようだ。まぁ、全部の本を読んだわけでも無いし……詳しく聞いてみると、セアリアス家がまとめた第1ダンジョンの本らしい。
貴族の子弟は幼年学校を卒業しジョブを得た後、貴族学園に入学するまでの2年間の間、家で訓練し、家庭教師を付けられて勉強をする。その内容は、学園の授業内容だけでなく、自領のダンジョンの情報も習うそうだ。(画一的な教科書ではなく、各家の探索者が書いたメモ書きだったり、まとめた物だったり、自伝っぽい物等。無論、爵位が高く、古い家程情報が多い)
……平民探索者は各自図書室で調べるのに、お貴族様は家庭教師付きで勉強とか、教育格差だなぁ。
まぁ、貴族は貴族で、家の存続のために、攻略者を一人は出さないといけないので、教育に必死になるのだろう。
そんな折、レスミアとフィオーレが弾んだ声を上げて、寄って来た。ドロップ品を拾ってきてくれたのか、両手に抱える程のお肉を抱えている。
「ザックス、ザックス! ラムラックが2つも出たよ! 今日のお昼はこれにしようよ!」
「あはは、今日は人数が多いから、良いかも知れませんね。それと、ジューシーコカもも肉も出たので、屋台で出す料理の試作を食べてもらうのはどうでしょう?」
「ああ、ラムラックは在庫がないから、久しぶりだもんな。お祭り前の景気付けにもなるから、豪勢に行くか」
取り敢えず、お昼にはまだまだ時間があるので、ストレージにしまい先に進む事にした。
次は40層……ではなく、34層だ。折角なので、31層以降に登場する魔物とも戦い、連携を試すことにしたのだ。どの道、倒し方を確立したとはいえ、大角餓鬼は40層でもお供で出る。その前に、ここのダンジョンの壁である大角餓鬼とは、実際に戦って経験しておいた方が良い。
多分、この街の探索者同士の話題に、大角餓鬼はよく上がるだろう。その時にレベリングでスキップしたと話しては、恥ずかしいそうだ。
「〈魔攻の増印〉〈エクスプロージョン〉!」「〈魔攻の増印〉〈フレイムスロワー〉!」
接敵と同時に〈魔道士のラプソディ〉と〈魔攻の増印〉付の魔法を2人で撃ったところ、それだけで片が付いてしまった。壁になる大角餓鬼も雑魚化してしまう辺り、魔法使い系を2人欲しがるパーティーが多い訳だ。
ただし、腕試しに来ている前衛陣からは不評である。
「魔法が強いのは分かったから、次は私に相手をさせてくれないか?」
「了解です。
それなら……ソフィはそのまま〈フレイムスロワー〉、撃ち漏らしの小角餓鬼はレスミアが片付けてくれ。
ルティが大角餓鬼と正面戦闘で、ヴァルトは援護兼〈カバーシールド〉役。俺は……罠術で足止めでもするよ。
あ、フィオーレは〈守護騎士のバラード〉で防御力アップな」
次の獲物を探しつつ、戦術を変えるよう相談した。
この階層では、〈潜伏迷彩〉で隠れる採取餓鬼や、罠を動かして嵌めようとするスカウト餓鬼が鬱陶しいのだが、新しいスキルのお陰で苦でもなくなっていた。剣客の〈第六感の冴え〉で隠れた採取餓鬼は発見できるし、〈遠隔設置〉でスカウト餓鬼を逃がさず嵌めることが出来る。まぁ元々、歩きマージキノコの切れ端を投げれば引っ掛かる連中なので、手間がちょっと減った程度だけどな。
そして、大角餓鬼……重戦士な牛頭鬼VSルティルトさんの戦いも、時間は掛かったものの一方的な戦闘で終了した。
ベルンヴァルトがタワーシールドを構えて、牛頭鬼と殴り合う姿はよく見たが、同じ事をルティルトさんが行うのは、目を疑う光景である。なにせ、レスミアよりちょっと背が高い程度の女の子が、牛頭鬼と殴り合うのだ。体格差はまるで大人と子供。騎士のスキル〈アブソープシールド〉で、受ける衝撃を大幅に減らせるとはいえ、大したものである。
基本戦術はレッサーコカトリスの時と同じで、攻撃を受け止めるか受け流し、カウンターで関節……牛頭鬼の防具の薄い個所を短槍で突き刺す。正確無比な槍捌きは、的確に牛頭鬼の肘を破壊し、武器である棍を取り落とさせるまで、そう時間は掛からなかった。
ただし、そこからは牛頭鬼が防御中心になった為、攻めあぐねた。騎士は攻撃系のアクティブスキルが少ないので、決定打に掛けるのだ。〈ランスチャージ〉、レベル35で覚える〈ペネトレイト〉は、騎乗せずに使うと隙が大きく使い難い。
結局、〈トラバサミの罠〉で拘束した足に対し、重点的に攻め立て、擱座させてから頭に〈脳天割り〉を叩き込んで気絶させてフィニッシュとなった。
止めを刺したルティルトさんは、流石に疲れた様子で大きく息を吐く。
「ふ~、流石は噂に聞く大角餓鬼ね。ここまで固いとは思わなかったわ」
「本当にね。途中、魔法で援護しようか迷ったのよ? まぁ、ルティなら大丈夫って思っていたけどね」
ソフィアリーセ様は、最初に〈フレイムスロワー〉を撃った後、直ぐに次の魔法を充填待機させていたのだ。学園ダンジョンからの相棒らしいので、信頼して任せつつも、保険を準備しておいたのだろう。
取り敢えず、魔物の強さを実感して貰えたのならば十分だ。次は連携を試すように提案した。
「それじゃ、次からはルティ、ヴァルト、俺の3人で盾役と攻撃役をローテーションしながら戦ってみよう。攻撃役は、隙を見て角を折るだけだから、連携すればあっと言う間に倒せるよ」
「ふむ、了解した。盾役も交代するのだな。ヴァルト、次は君がやれ」
「おう、任せろ」
こんな感じでパーティー内の連携を強めて行った。ある程度34層で戦ったら、次は37層のチェーンスネークとも戦いに行く。ただ、チェーンスネークは大角餓鬼のオマケでしかないので、魔物の紹介みたいなものだけどな。
暫く戦い続け、お昼時になったので、37層の適当な小部屋で昼食を取る事になった。
今日はソフィアリーセとルティルトさんの初加入だからか、レスミアは張り切って昼食の準備に取り掛かる。メインは運良く手に入れたラムラック……子羊の骨付き肉の塊の事で、切り分ければ骨付きロース肉(ラムチョップ)となる。それに、塩コショウ、各種ハーブ、ハニーマスタードを塗ってから、小麦粉、卵液、パン粉で衣付け。最後に魔道天ぷら鍋でカラッと揚げれば完成。
【食品】【名称:ラムチョップの香草カツレツ】【レア度:D】
・子羊の骨付き肉にパン粉を付け、カリッと揚げたトンカツならぬ、ラムカツ。骨付きなので晴れの日にふさわしい、豪勢な料理となった。豪快に齧り付き、骨周りの美味しい肉まで頂こう。
・バフ効果:睡眠耐性中アップ
・効果時間:25分
今日は護衛騎士の2人も居るので、テーブルを2つ出し、8人分の料理を準備した。レスミアが一辺に陣取り、鍋奉行ならぬ、揚げ奉行となって、ラムカツをどんどんと揚げる。ラムチョップが大きいので、天ぷら鍋には2枚ずつしか入らない。順次揚げられ、身分が上の者から配られていった。
あ、揚がるのが待てないフィオーレとベルンヴァルトには、出来合いのスープとパン、サラダ、それと屋台の唐揚げの余り(肉の切れ端部分)を先に出しておいた。
「ラムカツは一人1枚ですからね~。足りない人はコカ肉の唐揚げもあるので、言って下さいね」
「はい! 予約3人前!」「俺も頼むぜ」!
食いしん坊共がバクバクと平らげる中、ソフィアリーセとルティルトは、啞然とした様子でラムカツを見ていた。
「ソフィとルティ、揚げ物は揚げたてが美味しいから、早目にどうぞ……ああ、カロリーが気になるのなら、こっちのレモンソースをどうぞ。脂っこさが消えて食べやすくなるよ」
「ええ、頂くわ…………あら、意外と美味しい!
ねぇ、貴方達、いつもこんな食事をしているの?」
「いやいや、今日は特別ですよ。普段はストレージに入っている出来合いのスープと、焼き立てのパン、サラダ、後はメインの肉料理を取り出して食べるだけです。
時間が有る時や、レスミアの料理欲が高まった時は、ダンジョン内でも料理しますけど」
そんな軽い話題を返したのだが、ソフィアリーセは目を丸くして驚いていた。ついでに、隣のテーブルで食べている護衛騎士が笑い声を上げた。
彼等は、食いしん坊共を真似ているのか、骨を持ってカツに齧り付いている。その肉で俺を指差し、笑ったのだ。
「ハハハッ、こんな家で食べるような豪勢な料理は、ダンジョン内で食べられんよ。私も騎士団で長いが、拠点が近いときは弁当を持っていける程度であるな。数日掛かる任務の時は、糧食と水だぞ。ああ、採取中心で荷物に余裕がある時は、弁当の量が増え、魔道具のポットと紅茶を持って行けるくらいだな」
「ええ、わたくしも学園のダンジョンでは、それと同じでしたわ。もっとも、お菓子くらいは糧食代わりに持っていきましたけど。採取地で食べる果物は癒しですわ」
……あれ? お貴族様なら、ダンジョン内でも豪勢な料理を食べていると思ったのに。
どうやら、俺の勘違いだったようだ。どうも、アイテムボックスが付与された魔道具『アイテムカバン』は数が少なく、普段は貸し出してもらえないそうだ。優先で貸し出されるのは、試練のダンジョン(55層以上)の攻略に向かう有力者パーティーと、地方で災害が起こった時の救援に向かうパーティーであるそうだ。
「まぁ、採取地で調合する錬金術師が居ると、聞いた事があります。なら、採取物やドロップ品で料理するのも同じだよな?」
「ですよね! 私達は今まで通りで良いじゃないですか。美味しい物を作れる&食べられるのが一番ですよ!」
「沢山食べられるから、賛成!」「ああ、態々糧食なんて喰わんでもなぁ」
取り敢えず、レスミアを仲間に付けて、これまで通りと宣言しておくと、食いしん坊共も諸手を上げて賛成した。
ソフィアリーセとルティルトも、苦笑しながら了承してくれた。
食後のお茶をしながら、気になっていた事を話題にあげた。食事をしている最中くらいから、小部屋の周りの通路をうろうろする人がいるのだ。〈敵影表示〉では緑色の光点が2つなので、他の探索者……の筈。偽装されていなければだが。
そんな話をすると、護衛騎士のDダイバーが同意してくれた。
「ああ、私にも見えているが、判断が難しいな。ここの近くまで来たのだが、脇道に逸れて行ったし、その後もふらふら歩き回っているだけだ」
「ふむ、例の賊が追いかけて来た可能性は無いか? こちらの様子を見て、機会を伺っているとか?」
護衛騎士達が話し合った結果、様子を見に行く事になった。もし、賊ならば人込みの中よりも、確実に捕らえられる。
「我々が先行して確認と尋問をする。君達は少し離れてから追って来てくれ」
「あ、俺は〈詳細鑑定〉が使えるので、そちらと一緒に行くのはどうでしょう? もし、偽装していても見破れます」
「ふむ、我々もブラックカードが支給されているが……では、ザックス殿だけ我々に付いて来てくれ。他の者は、ソフィアリーセ様を護衛し、遅れて付いてくるように」
そんな訳で、怪しい緑色の光点の職質へ向かうのだった。
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