第503話 学園の卒業生達と6人パーティー始動

 朝一、ダンジョンギルド第1支部へ行くと、受付の手前にある待合椅子に人集りが出来ていた。

 その中心では、ドレスを着たサファイア髪の貴婦人と、白鎧に身を包んだ金髪女騎士が、周囲の若者達と談笑している。その彼ら彼女らも、探索者としては身なりが良い。装飾付きの鎧や剣、ドレス風なローブ等を見るに、貴族関係者だろう。


 近付いた所で手を振ると、向こうも気が付き上品に手を振り返してくれた。そして、軽くポンッと手を叩いて、話しを打ち切る。


「先輩方の助言は、有り難く頂きます。わたくし達も、34層の壁を乗り越えられるよう、尽力致しましょう。

 では、パーティーリーダーが来たようですので、この辺で失礼致しますわ」


 人集りが割れて、ソフィアリーセとルティルトさんが出て来た。会話から察するに、学園の卒業生かな?


 それまで貴族らしい微笑を浮かべていたソフィアリーセだったが、俺達の前まで来ると花咲く様な笑顔に変わる。


「おはよう、ザックス、ミーア。今日は宜しくね♪」

「おはよう、ソフィ。先に受付でパーティー登録しておこう」


 簡易ステータスから行うパーティーインではなく、ギルドに届け出をする方だ。これで公的に、『夜空に咲く極光』パーティーの実働メンバーが6人、サブメンバー(白銀にゃんこ勢)が4人となる訳である。


 エスコートをしようと、手を差し出す。しかし、その手を取ったソフィアリーセは、反対側の手でレスミアとも腕を組んで歩き始めた。受付の方ではなく、ダンジョンへの改札口に向かってだ。


「登録なら、わたくしが先にしておいたから、大丈夫よ。

 ここに居ると目立つので、先にダンジョンに入りましょう」


 引っ張られながら、思わず受付に目を向けると、メリッサさんが手を振って「行ってらっしゃいませ」と見送ってくれている。


 フィオーレの加入の時は、リーダーの俺が手続きしたのにな。本人不在でパーティーに加入登録されるのは困りものだが……所謂、領主の娘としてといった感じか。権力でゴリ押し出はなく、信用度の高さ故の手続きスキップだろう。もしくは、先日の婚約話がギルドにまで回っていたか。


 どちらにせよ、周囲から注目を浴びているので、先にダンジョンに行くのは賛成である。

 なにせ、今日から……正確には一昨日からだけど、レスミアがドレス装備に変わっている。ソフィアリーセとの色違い双子コーデであり、二人共美少女なので目立つ目立つ。

 更に、麗しの白鎧女騎士と、威圧感のある和風武者が護衛に付いている。オマケに、何故か踊り子衣装の少女も居る。


 ……うん、俺が一番地味だな。

 先立って発注しておいたウーツ鋼製の増加装甲や、手甲脚甲がツヴェルグ工房から届き、装備しているが、ジャケットアーマーに合わせた色合いなので、そこまで目立たない。



【武具】【名称:耐雷のジャケットアーマー+】【レア度:C】

・雷玉鹿は、自身の角に雷を溜め込むため、その毛皮には強い耐電性能を持っている。その革を加工したジャケットはその特性を引き継いるが、元が弱い個体だったため、効果は低い。

 革のジャケットとしては軽さと強度を備えており、硬化処理された部分は金属鎧よりも硬く、人気が高い。

 各部にウーツ鋼製のプロテクターが増加され、防御力向上した。

・付与スキル〈雷属性耐性 小〉



 まぁ、羽織るだけのジャケットアーマーの上から、追加装甲をベルト締めするだけであるが、急所を守り、敵の攻撃をガードするには十分だ。将来的にはミスリル製の鎧を見据えた繋ぎなのだからね。



 改札口を通り、ダンジョンへ向かう通路へ出ると、好奇の目線はかなり減った。後ろから付いてくる者も居るが、朝一なので、他の人通りもダンジョンへ向かう人だけである。

 雑談交じりで、先程の人達に付いて聞いてみたところ、やはり学園卒業生だったようだ。


「ええ、わたくしよりも一つ、二つ歳上の先輩方よ。同郷のよしみで、仲良くして頂いたの。

 ここのダンジョンは学園の物と比べると、かなり難易度が高いと忠告を……半分くらいは愚痴だったわね」

「一応、主家のソフィ相手には、口を濁すしかないのよ。上手く行っていないなんて、報告出来る訳ないじゃない。貴族のプライド的にもね。

 それと、2年次で30層を攻略した私達に対するやっかみも、遠回しに含んでいたわ」


 ソフィアリーセとルティルトさんが、揃って友達とは言わない辺り、付き合いは浅いのだろう。身分の差もあると思う。

 まぁ、歳下なのに爵位は上で、早々に学園ダンジョンを攻略しているお嬢様なんて、羨望嫉妬の対象に成らない訳はないか。


 先程の3パーティーから聞き出した話から、推測される進捗は以下の様な感じらしい。


・2年先輩の子爵家の子は、火山フィールドで苦戦中。

・同じく2年先輩の男爵家の子は、34層の大角餓鬼に苦戦して進めず。

・1年先輩で、ついこの間卒業した男爵家の子は、学園ダンジョン攻略が遅れ、30層に到達出来たのが3年次の秋頃。ここのダンジョンに来る許可が降りて間もないので、まだ15層程度。


 この中で、2年先輩の男爵家の子息は、自力攻略を諦め掛けているとルティルトさんは言う。


「ここのダンジョンの壁である34層を、2年掛けて乗り越えられないならば、かなり厳しいだろう。そうなると他の道としては、騎士団に入り業務をしながらゆっくりレベルを上げるか、攻略自体を諦め採取専門になるか。ああ、ジョブを変えて別の道で生計を立てるのも有りだ……後者の2つは、折角学園を卒業出来たのに、勿体無い話ではあるな」


 学園卒業生はエリートだと思っていたが、挫折する人も出てくるか。

 確か、テオの従兄弟にあたるナンパ男ことオルトルフも、火山フィールドで苦戦していると聞いた覚えがある。やっぱりフィールド階層は鬼門だな。


「34層以下だと、採掘でウーツ鉱石と黒魔鉄鉱石、採取ならキノコ類。後は30層でコカ肉刈りが金策ですね。ちょっと、稼ぎとしては少ないかも?

 36層の墓地フィールドまで行ければ、キルシュゼーレが沢山採れるのに、勿体無い」

「わたくし……領主一族としては、実家の支援だけで攻略が無理ならば、騎士団に入って欲しいわね。真面目に勤務すれば、25歳までには管理ダンジョンへの挑戦権が得られるもの」



 そんな雑談をしながら、転移ゲート列に並び、10層へと降りた。先ずはボス階層をハシゴして、ボス討伐証を得ないとワープ出来ないからである。第1ダンジョンの10層ボスドロップは、それほど良い物ではないので、他の探索者の姿は無い……俺達の後ろに続いて転移してきた2人組以外は……

 その姿を確認してから、念の為ソフィアリーセに確認をしておく。


「ええと、ソフィ? 彼らは護衛と見て、良いのかな?」

「はい、例の賊を警戒して、お爺様が護衛騎士を付けてくださったの」


  今朝方からソフィアリーセの後を付けていた2人組であるが、昨日の訓練でも見た顔なので、ストーカーや賊でないのは分かっていた。何より、隠れて護衛しているのではなく、ミスリル装備を身に着け、周囲を警戒していたからだ。


 その二人に挨拶をして、情報をのすり合わせをした。

 ミスリルの装備に身を包んだ守護騎士(騎士系サードクラス)と、ミスリルの軽鎧と弓を携えたDダイバー(スカウト系サードクラス)である。


「今朝の時点の情報ですが、賊の口は固く、目的に関しては分かっておりません。その為、フオルペルクが攫おうとしていたソフィアリーセ様の安全を確保しつつ、街中の捜索を進めています。

 本日は、我らが周辺監視を致しますので、存分にダンジョン探索をお楽しみ下さい」


 俺としては、ソフィアリーセの安全確保に、サードクラスとはいえ2人は少ないんじゃないかと思ったが、お爺様から伝言があった。


『守ると誓いを立てたのだ。一緒に居る間くらいはお主が守れ。私の護衛騎士が2人も居れば、敵がサードクラスであっても、不意打ちは防げよう』

 だそうだ。


 まぁ、婚約者でパーティーメンバーなので守るのは当然である。それに、万が一を考えたら、レベルを上げておいて損はないので、今日のレベリングも予定通り行う。魔道士レベル35でランク7魔法を、騎士レベル35で〈シールドバッシュ〉といった有用なスキルを覚えるので、早めに上げておきたい。可能ならレベル41でステータスアップを狙うのも良いな……いや、流石に初日から雪山は厳しいか。



 取り敢えず、護衛騎士のお二人には、ボス階層を周回するだけでなく、色々な階層を回る事を説明し、改めて護衛をお願いしておいた。




 道中、ショートカットを行く事に驚かれたものの、フロヴィナちゃん用に作った丸太階段を出すと、安心したように笑って、進んでくれた。


「スカートのまま飛び降りるなんて、淑女らしくありませんもの。いえ、ダンジョンなので泥臭く戦う必要もあると分かっているわよ?」

「フフッ、ソフィじゃ飛び降りた時に足を捻りそうだものね。それにしても、ザックス? 学園では『魔物に襲われるから、下の小部屋を覗き込むな』って習うのだけれど、こんな階段で渡っても大丈夫なの?」


 どうやら、学園では律儀に九十九折の道を行くように指導しているようだ。まぁ、安全を考えたら、そうなるか。


「小部屋の入り口付近に魔物が居ると、襲ってきますね。ただ、坂の上までは追ってこないので、問題はありませんが……

 20、30層になると魔法を撃ってくる魔物も居るので、走り抜けた方が良いです。レスミアみたいに壁の上を走らなくとも、坂の下に飛び降りて駆け上がれば、魔法の充填が終わる前に逃げられますよ」


 ウチの古残メンバーは既に走り抜けて対岸の道で待ってくれている。フィオーレなんて、ギターを弾くくらい余裕なようだ。散々、周回してきたから、慣れたんだろう。

 俺の話を聞いたルティルトさんは、ソフィアリーセの手を取り引っ張り始める。


「ほらソフィ、聞いたでしょ? のんびりピクニックに来たのでは無いのだから、私達も走るわよ。ジョギングくらいでいいから、ウォームアップ代わりに走りなさい」

「ええ~」


 走るのは嫌だといった感じのソフィアリーセだったが、ルティルトさんに手を引かれて、えっちらおっちら走り始めた。

 俺はその後ろで、丸太階段をストレージに回収。坂道で二人を追い抜いて、次のショートカットに階段を設置して回った。


 最後尾には護衛騎士が付いて来ているけど、「階段など不要だ。こちらの事は気にするな」との事。まぁ、サードクラスには要らぬ心配だったな。



 そんな感じで移動し、10層、20層のボスを倒した……俺の魔法で瞬殺である。

 いや、経験値が勿体無いので、ルティルトは僧侶、ソフィアリーセは職人ジョブに変更したんだ。他のメンバーも複合ジョブ取得を意識したジョブ変更している。


 まぁ、低層のボスなんて、本職のジョブならば誰が戦っても同じだろう。連携を試すのは、34層にするつもりである。ボス討伐証が目的なので、さっさと先を急いだ。

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