第501話 パーティー加入契約とステータス

 現在、パーティー内で会議中。全員に複合ジョブを取る事を頼んだところ、一斉にざわめき始めた。複合ジョブのステータスを書き写した資料を手に取り悩む者、さっさと決めてお茶を楽しむ者、隣にお喋りに興じる者など。

 一応、複合ジョブの第一人者である俺は、それぞれの相談に乗る事にした。先ずは、勘違いしている騎士の2人からだな。


「聖騎士が有るかどうかは、未確定だからね。他のを選んでくれ。ヴァルトは、鬼人族の体格を活かして、武僧か剣客が良いんじゃないか?」

「あー、それを言われるとな。しゃあねぇ、武僧にするぜ。刀の扱いは難しそうだからよ。絶対折る自信があるわ」


 ミスリル製の大太刀、野太刀とか、頑丈な刀が作れれば良いのだけど、まだまだ先の話だろうからな。

 同じ様にルティルトさんも悩んでいる。こっちは剣客か魔法戦士のようだ。


「折角、王族から許可が降りたのだ。魔法戦士には憧れも少しある……ただ、私は属性の適性が欠けているから、取得したとしても役に立てるか自身は無い。

 それと、刀とやらは量産するのだったな? 私の分も準備出来るか?」

「属性欠けは、弱点を突ける魔物の時だけ、ジョブを変更すれば対応出来ます。

 刀は……この後にフェッツラーミナ工房に顔を出すつもりなので、確認してからですね。最低でも、練習用や解放条件用は調達して来ますよ」


 剣客の解放条件に『刀を所持』とあるので、多分貸し出しでは駄目な気がする。その為、人数分の刀が必要となる。

 そして、フォルコ君からの報告だと、王都からの鍛冶職人を受け入れてミスリル炉を増設したそうだ。その為、彼らに教える習作くらいはあると思う。ただし、剣客単独で使う場合、魔剣術で保護が出来ないので、出来れば鉄刀よりは頑丈なウーツ鋼製や黒魔鉄製が欲しいところだな。


 折れた刀を手に店に行くのは、ちょっと気が重いけど。



 次、フィオーレだけど、既に決めたようだ。


「アタシはニンジャ! ザックスが良くやってる、空に瞬間移動するの面白そう!」

「ああ、フィオーレは目立つ好きだもんな」


 ソードダンサーもニンジャの二刀流なので、運用としては似た感じになるだろう。

 ニンジャの解放条件である『50人以上から注目を集める』に関しては、吟遊詩人の仕事でクリアしているかも?らしい。

 まぁ、仮に未達でも、お祭りの劇にも参加するので、そこで達成出来ると思う。



 次、レスミアは大分悩んでいるようだ。


「むー……ニンジャは、ちょっと……でも、剣客も難しそうですよねぇ」

「目立つ闇猫なニンジャと、サーベルで曲刀に慣れているから剣客、どっちもレスミアなら合うと思うよ」


 どうも、目立つ行動が恥ずかしいので、ニンジャを選ぶのは躊躇しているようだ。まぁ、猫耳ニンジャでも、猫耳侍でも、似合いそうではある……どちらにせよ、衣装はお花ドレスだけどな。いや、ギャップ的に似合うか?



 次、ソフィアリーセだけど、のんびりお茶を楽しんでいた。既に放棄しているようだ。


「前衛のジョブばかりで、わたくしには似合いませんもの。魔道士を極めると致しましょう」

「いえ、ソフィは魔法戦士を取りましょう。魔剣術の〈エレメント・チャージ〉があると、充填が早くなるので、魔法を使うのが楽になりますから。ついでに、耐久値のステータスが上がるので、怪我の心配が減ります」

「お待ちなさい……ここの解放条件が無理です。近接距離で魔物と戦うなんて、危険すぎますわ」


 ソフィアリーセが気にしているのは、『近接距離で魔法を使い魔物を倒す』条件の事だ。

 ただ、条件さえ知っているのならば、例え接近戦が苦手でも条件を満たす事は容易い。何故なら、魔物に指定がないから。1層の藁人形でも良いし、その辺の魔物でも〈影縫い〉辺りで拘束してから、至近距離でジャベリン系魔法を使わせて止めを刺すだけの話なのだ。何も、王族が独占していた方法の様に、一人で戦う必要など何処にもない。


 そんな説明をすると、明らかにホッとした様子で笑い返してくれた。


「守って下さると、誓ってくれましたものね。頼りにしていますよ、わたくしの闇の神よ」

「お任せあれ、我が光の女神。魔物など、雁字搦めに束縛して見せましょう、ってね」

「アハハ、1層の藁人形ならスティラでも勝てますから、大丈夫ですよ、ね?」

「みゃっ!……も、もちろん楽勝だったにゃ! だから、大人なソフィお姉さんなら、大丈夫にゃ!」

「あら、ありがとうね」


 スティラちゃん VS ストロードールは、大分接戦だった気もするが、言わぬが華か。猫姉妹のフォローで、ソフィアリーセもやる気になった様だからな




 レスミアとルティルトさんは、2つのどちらにするか迷ったままだけど、宿題にしておいた。俺としてはどちらでも良いし、何なら両方でも良いのだ。まぁ、そう言ったら、益々悩んでしまった訳だけど。


 それはさておき、『夜空に咲く極光』パーティーに2人を迎え入れるための契約を進めた。要は、俺がリーダーとして他のメンバーを雇う形態の事である。素材や採取物の様な収入源は俺が管理し、装備品の手配と給料を支払うスタイルだな。

 これは、騎士団も同じなので、特に不満なく受け入れられたのだが、契約書のとある点に付いて突っ込まれた。


「ふむ、細かい分配が無く、一括管理してもらえるのは有り難い。学園の実習ですら、取り分で揉める生徒もいたからな。

ただ、ここの『欲しい採取物があったら、要相談』とは何だ?」

「ああ、レスミアが料理をするので『手に入った食材は、半分だけ好きに使って良い』という契約をしています。

 家での美味しい食事やダンジョンでの昼食、休憩時のお菓子に調理されて返って来るので、寧ろ助かっていますね」

「あら? お菓子と言うと、白銀にゃんこのお菓子かしら?

 ダンジョン内でも食べられるのは良いわね」


 ただし、ベルンヴァルト用のお酒確保や、フィオーレの果物摘まみ食い権等は、怪訝な顔をされてしまった。取り敢えず、ダンジョンへのモチベーションアップの為などと説明し、2人にも納得して貰えたけど。


「他の皆さんが納得されているなら、良いでしょう。わたくしからは特に要求する物もありません。

強いて言うならば、火山フィールドのレア種が落とす、虹光こうこう孔雀の宝眼石が欲しいくらいね。雷属性の宝眼石が有れば、サードクラスの魔導士で使う新装備になるのよ」

「了解です。43層はこれからなので、レア種を見かけたら、優先的に討伐しましょう」


 以前、ツヴェルグ工房でデートした時に、メディウス子爵が「まだ完成していない」と、話していた新作扇の事である。俺としても、装備更新は重要なので問題ない。


 ただ、ルティルトさんは、少し迷っていた後、追加要求を出してきた。


「モチベーションアップでも良いのならば、私もお酒を要求しよう。いや、自分で飲むのは嗜む程度であるが、家族に酒飲みが多いのでな。

 私もダンジョンで稼げるようになったと示す為、お土産があると助かる」


 その言葉に、ガタッとテーブルが揺れた。

 反応したベルンヴァルトが、膝をぶつけた様だ。隣を見ると、口には出さないが、顔に『俺の取り分が減る?』と心配している様に見えた。

 仕方が無いのでフォローしておく。


「ルティルトさんの要望も了承しました。水筒竹系のお酒が出た時は、ヴァルトとルティルトさんで半分ずつにします。代わりに俺の取り分は無しで良いですけど……レスミアが料理で使う分を欲した時は、融通して下さい」

「うむ、よろしく頼む」

「おう、俺も良いぜ……(ありがとよ!)」


 ベルンヴァルトは、お礼を耳打ちしてきた。まぁ、思いっきりニコニコしているので、周囲にもバレバレだけどな。

 鬼人族の酒好きは、これまで一緒に生活してきて嫌という程分かっている。ここで取り分を減らそうものなら、モチベが下がるのは目に見えているから、俺の分を削るのが正解だ。



 他にも契約書に関して確認していく。その中で、物言いが入ったのは給料面だ。ルティルトさん曰く、「少し安めなのだな」らしい。

 一応、ベルンヴァルトから見習い騎士の相場を聞いて、上乗せした額(30万円)なのだが?


「わたくしは家からの予算があるので、お給料はコレで構いませんよ?」

「ソフィ、働きに準じた報酬は要求するべきよ。そう、学園の卒業生くらいはあるべきね」


 詳しく聞いてみると、どうやら騎士の中でも差がある様だ。平民でも成れる見習い騎士と、学園卒業生が配属される見習い騎士とでは給料面と待遇がかなり違う。

 要は、高卒と大卒みたいなもんだな。


 学園卒業生は、実家が太い場合は自力でのダンジョン攻略を目指す。そうではない者(下級貴族出身とか)は、第3騎士団に配属され、ダンジョン攻略を目指す。

 ルティルトさんが言っているのは、後者の騎士団に入った場合だ。具体的には、学園卒業生の方が倍くらい多い(40万程)。


 最近は内職で稼げているので、給料を増やすのは訳ない。

 ただ、先に頑張って来たレスミアやベルンヴァルトを差し置いて、新規加入の2名だけ高くするのもなぁ……


 全員一律に上げても良いのだが、妙案を思いついた。


「それじゃ、こんなのはどうだろう?

 現状の給料は、提示した通り。サードクラスになったら、稼ぎに準じて給料の見直しをしよう。

 そして、それとは別に、複合ジョブを入手すれば資格手当……ジョブだから職業手当かな……として10万プラスする。もちろん複数取れば、その数だけ増やそうじゃないか。

 ただし、ちゃんと戦闘で戦力になるくらいに、使い熟すこと」

「……成る程、一つ取れば卒業生くらい。二つ取れば上回るのか。悩ましい選択だな」

「ええ~、二つで20万円かぁ」


 複合ジョブで悩んでいたレスミアとルティルトさんが、更に悩み始めてしまうのだった。




 そんなこんなで話は進み、無事契約となった。

 俺の簡易ステータスの『追加』ボタンを押してもらい、パーティーに加入してもらい、ステータスを見せてもらう。



【人族】【名称:ソフィアリーセ・ヴィントシャフト伯爵、17歳】【基礎Lv30、魔道士Lv30】

HP  E □□□□□

MP  B □□□□□

筋力値F

耐久値F

知力値B

精神力C

敏捷値F

器用値F

幸運値C


ボス討伐証:ZS260ダンジョン30層●

所持スキル

(省略)


 清々しい程の後衛ステータスである。運動が苦手と言うのも、むべなるかな。まぁ、学園ダンジョンを30層分踏破して来ているので、行軍は問題ないと思うが……広いフィールド階層を練り歩くのは、少し心配かな? 

 習得済みのジョブは、見習い修行者、戦士、魔法使い、魔道士、僧侶、スカウト、職人。

 採取地で採取をするだけの採取師や、店で買い物をするだけの商人が無いのは、お嬢様だからか? 側仕えやパーティーメンバーにお世話されていたのだろう。



【人族】【名称:ルティルト・セアリアス子爵、17歳】【基礎Lv30、騎士Lv30】

HP  B □□□□□

MP  F □□□□□

筋力値C

耐久値B

知力値F

精神力F

敏捷値E

器用値C

幸運値C


ボス討伐証:ZS260ダンジョン30層●

所持スキル

(省略)



 こちらは、HPと耐久値が高めな、ザ・騎士といったステータスをしている。少し器用値が高めなのは、ベルンヴァルトに稽古を付けられる剣の技量故か。恐らく、剣術や槍術などの厳しい訓練を受けて来たのだろう。


 習得済みのジョブは、見習い修行者、戦士、重戦士、軽戦士、騎士、魔法使い、僧侶、スカウト、商人、採取師。

 基本ジョブが揃っているのに、唯一職人が無いのは、幼年学校で服作りを投げたのだろうか? 義妹なトゥティラちゃんの時に検証した覚えがある。



 レベル10毎のステータスアップや、各ジョブの習得状況は、各々の個性が出るので面白い。そんな考察を雑談がてら話していたら、急にルティルトさんが席を立った。お嬢様らしく顔は笑顔なのだが、胸の下で腕を組み、威圧するような態度は、怒っているように見える。


「お待ちなさい、ザックス。今の話を聞いていると、私のステータスを盗み見しているように聞こえるのだけれど……どう言う了見なのかしら?! 無作法にも程がありますよ!」


 ……あれ? ステータスを見るのって無作法だったのか? 他のメンバーは苦情を言った事は無いのに?

 思わず周囲を見回すと、レスミアとソフィアリーセは、揃って苦笑をしていた。

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