第500話 会議の後も会議と思いきや女子会だった
魂魄結晶の粒を皆に見せるべく、テーブルに置く。パチンコ玉どころかベアリングの玉くらいに小さく、照明を反射すると偏光プリズムの様に様々な光を作り出した。
【元素】【名称:魂魄結晶の粒】【レア度:S】
・龍脈の歪みを浄化した後に出来る結晶体。偏りの無い純粋なマナの塊であり、精霊や天使といった上位存在のエネルギー源にもなる。ただし、高密度に圧縮されている為、定命の者に扱える代物ではない。
その様子を見ようとエディング伯爵やケイロトス様だけでなく、会議室に居た者が挙って集まって来た。
鑑定文の内容を話して聞かせると、感嘆の声が漏れた。
「おお、虹色に光る宝石とは、また珍しい。先日、ソフィアリーセ様が交換した、ダイヤモンドにも匹敵するのでは?」
「うむ、小さくはあるがな。この光を見ると安らぐ気がする。精霊や天使様に関係するのも頷けると言うものだ」
皆、口々に褒め称えてくれる。その流れで、何故コレが出来たのかと質問を受けた。
〈詳細鑑定〉の結果を繋ぎ合わせれば、推測は出来る。
「ネクロドッペルミラーを作る『龍脈の歪み』の正体は分かりませんが、鏡を聖剣で切った後に出て来た黒い煙の事でしょう。
そして、アレを聖剣で斬ることによって浄化出来たのだと思います。〈ブレイブスラッシュ〉を使ったのは、光で浄化するイメージですかね?」
〈ブレイブスラッシュ〉が光属性とは鑑定文にも書いていないが、名前的に勇者が使う剣技っぽいからな。邪気を感じた時に、半ば無意識に使っていたので、多分効果があったに違いない。
そんな推測を語って聞かせると、ケイロトス様がポンッと手を打った。そして、テーブルに手を伸ばす。
「おお、では、もう一つ作れるのではないか?
……エディング、何故隠す」
「父上、コレは王族への説明に使うと、申した筈です。使い道の無い宝石を増やす意味もありません」
「ぬ? 意味が無いだと?」
魂魄結晶の粒の鑑定結果を話したくらいから、ずっと考え込んでいたエディング伯爵であるが、その処遇を考えていたようだ。
曰く、
・レア度Sは国宝級なので、気軽に扱うべきではない。
・『定命の者が扱える物ではない』とあるので、アクセサリーや見世物にするのは辞めた方が良い。
「恐らく、王族に献上しても、持て余して宝物庫行きになるだろう。それならば……ザックス、お前が持っておけ。元より、『ブラックカードの代金』と、其方が欲した物であるからな」
「……了解です。まぁ、ストレージに死蔵する事に成りそうですけどね」
「いや、使い道ならばある。其方の事だ、その内に精霊と出会うのであろう?
餌付けと言っては不敬であるが、精霊にその結晶を融通して、友好的に接触出来るのではないか?」
ああ、そういえば、沼地の水の精霊は弱っていたな。村人のお参りで回復する様な事を言っていたが、魂魄結晶の粒があれば、元気になるのかも知れない。
成る程、今度精霊と遭遇したら、交渉材料にしてみよう。
有り難く頂く事にした。
会議が終了し、エディング伯爵達に分かれの挨拶をしてから、別の部屋へ移動した。俺以外のパーティーメンバーは、お茶会室にて、親睦会を行っている。レスミアは兎も角、ベルンヴァルトとフィオーレは、お嬢様ズとあまり交流していないからな。ダンジョンに潜る前に、互いの自己紹介とパーティー内での役割分割について、話しておくよう頼んでおいたのだ。
執事さんに案内され、入室許可を得てから中に入る。すると、部屋の中央の円テーブルで和やかに談笑していたようだ。給仕をしていたメイドさんが、俺の席を準備してくれる。レスミアの隣に座ると、笑顔で迎え入れられた。
「ザックス様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさい。その様子なら会議は上手く終わったのよね?」
「うん、〈詳細鑑定〉のブラックカードを量産する事になったけど、お祭りは予定通り開催するよ。騎士団が検問を強化したり、巡回中に怪しい奴を見付けたりしたら、〈詳細鑑定〉で偽装を見破る事になった」
会議で話し合った事を情報展開し、こちらの状況に付いても確認する。
「ええ、ダンジョン内では、パーティーメンバー同士、愛称で呼ぶ事にも了承しました。
貴方もわたくしの事は『ソフィ』と呼びなさい。
ああ、そこの粗忽者は、ダンジョン内だけだと心得るように」
「了解だぜ。ソフィアリーセ様」
粗忽者と呼ばれたのは、ベルンヴァルトである。恭しく頭を下げる辺り、既に一悶着遭った後なのだろうか?
飲み会で無礼講と言われて、お偉いさんにタメ口をきいて怒られた後の様な雰囲気がする。
ただ、隣のベルンヴァルトと目が合うと、何故か同情的な視線を向けられた。
……何だ? ソフィアリーセは怒ると怖い、的な話しか?
レスミアとは、偶に喧嘩をする事もあるけど、直ぐに仲直り出来る程度の小さな諍いである。尻尾を揺らして不機嫌アピールするのも可愛い。
そして、ソフィアリーセとは週1で会っていたのだが、喧嘩する程長い時間を過ごした訳じゃない。これからだけど、いざ喧嘩になったら、笑顔のまま怒ってきそうなイメージがある。
そんな考えを巡らせていると、業を煮やしたベルンヴァルトが、テーブルの下でチョイチョイっと指を指した。
その方向は……丸テーブルの反対側、フィオーレとルティルトさんの方である。
フィオーレは何やらテーブルの下に手を入れ、膝の上何かをしているようだ。その隣でルティルトさんが、コソコソ内緒話をしては、テーブルの下を指差している。
……怪しい。
テーブルを挟んでいるから、何をやっているのか見えないが、ベルンヴァルトの密告からして、嫌な予感がした。
一先ず、紅茶を一口頂いて小休止。二人は夢中に話しているようで、俺に注意を払っている様子はない。
こっそりと立ち上がり、ベルンヴァルトと肩を組んで話す振りをして、反対側へと回る。
ベルンヴァルトの隣は1つ空いて、その向こうにフィオーレが座っている。ここからなら、観察は可能……テーブルの下、フィオーレの膝の上で何か書き物をしているのが見えた。
そこまで分かれば、察しは付く。〈ボンナバン〉で跳び、二人の後ろへ回り込んだ。態と椅子の背を叩くように手を置いてご挨拶。
「やあ、お二人さん。熱心に書き込んでいるけど、一体何だい?」
「みゃ!? ザックス!? いつの間に!って、書いている途中なのに、取るなよ~!」
驚いた一瞬の隙を狙い、紙を奪い取る。
そこには……午前中のフオルペルクとのやり取りや、暗殺者との攻防が文章に起こされていた。間違いない、『侵略カボチャと村の聖剣使い』の第2弾のネタだ。最近は話題にならないから、忘れていたかったのに……
そんな苦言を呈すると、フィオーレは頬を膨らませて反論する。
「も~、伯爵夫人からの指示なんだから、ザックスも諦めなって。それに、アタシはなるだけ事実を書いているんだから良いでしょ?
あ、下の方の改稿案は、ルティのでアタシじゃないよ」
「あー! 待て待て、違うんだ!
あんな情けない男に言い寄られても、ソフィが可哀想なだけでしょ。どうせなら、恋敵でライバルの強い騎士と一騎打ちして、ギリギリザックスが勝つくらいでないと……」
ルティルトさんは顔の前で手をバタバタと振り、否定する。しかし、その後に続いた言葉は、大分妄想が入っていた。
何々、紙に書かれた改稿案によると、『ケイロトス様を若手の騎士団長に変えて、ザックスのライバルにする』、『戦いながら、ソフィに対しての、愛を叫び、競い合う』、『決着後、お互いを認め合うが暗殺者が乱入してきて、ソフィが危ない所を騎士が庇い、落命する』
……もう、新規に書いた方が、良くね?
「もう、ルティルトさん自身が、オリジナルで書いてはどうですかね? ほら、ギルドの図書室にも、自伝が沢山ありますし」
つい、思ったままに言ってしまった。
すると、一瞬硬直したルティルトさんだったが、直ぐに我に返ったようで、逆に俺の方をポンポン叩く。
「ザックス、普通の貴族は、本を出そうにも面白いネタが無いから、ダンジョン攻略を大袈裟に書くのよ。
トップクラスの氷壁伯と死闘を繰り広げて勝つなんて事は、万に一つも無いの。あれ、若者をボコって、父親の偉大さを見せ付ける風習なのだから……
勿論、侵略型レア種に遭遇なんて滅多に聞かないし、王子様と仲良くなるのも、伯爵以上の生まれでもなければ一生あるわけ無い。精霊に会うとか、最早物語の出来事ね。
つまり、ザックスの波乱万丈を題材にした物語の方が面白いのよ。
それに『聖剣使い』の2巻は、ソフィがヒロインなのよね?
乙女心がときめく場面も追加しましょう。私が挿絵を描いても宜しくてよ!」
最後は自分の胸に手を当てて、胸を張るルティルトさんだった。
なんか、厄介なファン化しているなぁ。チラリと奥にいるソフィアリーセに目を向けると、膝の上に隠していた本をこちらに見せて、ニコッと笑う。
『侵略かぼちゃと村の聖剣使い』の表紙違いである。絵画タッチで描かれて……成る程、貴族向けリファイン版のようなので、先週来ていたトゥータミンネ様辺りが布教して行ったのかも?
ついでに、昨日今日とイベント続きだったからな。女性陣がハッスルしている訳だ。ベルンヴァルトが同情的な視線を寄越したのもコレのせいだろう。
取り敢えず、俺のスタンスは決まっている。俺の見えないところでやって。
「貴族向けの『聖剣使い』は実名なので、大きく逸脱した場面はNGです。それに、アドラシャフトの小説家がまとめるので、絵師も向こうの人でしょうね?」
「えーー……」
「暇なら、俺の魔物図鑑とアイテム図鑑の挿絵を描いて下さいよ。ほら、前の聖剣を描いてくれたように、高く買いますから」
「ああ、それなら色付けも終わったわ。明日にでも渡すわね」
取り敢えず、話題を逸らすことに成功した。クスクス笑っていたフィオーレは、頭を拳でぐりぐりして成敗しておいた。
席に戻り、内職を再開しながら、パーティーに付いての話し合いを行う。目下の予定は、明日のレベリングと連携確認である。
明後日は祭りの開始前日で、ソフィアリーセとルティルトさんは祭りの開会式のリハーサルや打ち合わせが有るそうだ。つまり、明日は年内で、6人パーティーを組んでダンジョンに行ける唯一の日である。
現神族が暗躍している事を踏まえても、新規加入の2名をレベル40まで上げておきたいところだ。
「さて、パーティー内の役割分割に付いては、軽く話し合った通り。魔物との相性や戦術に依って、編成も変えていくから、そのつもりでいてくれ」
「私は僧侶、ソフィは錬金術師を育てるなんて、以前話したけれど、それも編成に組み込むのかしら?」
「いえ、非戦闘系ジョブは、10層ごとのボスを周回してレベリングします。戦闘系ジョブの方は魔物次第ですね」
基本的に俺達がやってきた事を基準に、進めていく予定だ。勿論、ソフィアリーセ達が学園で習った事で、有益な事柄は採用していく所存である。その為、意見し易いようにソフィアリーセをサブリーダーに抜擢しておく。
「それと、コレは全員に対してなんだけど、50層以降の脅威を聞く機会が増えて来た。先達の脅しが入っているかも知れないけど、対策せずに進む訳にも行かない。
現状の40層代でも戦えては居るけど、今後を見据えて戦力の拡充を図る。
具体的に言うと、1人一つは複合ジョブを育ててもらうよ」
「ええ~」
「私達もですか?」
「私は聖騎士だったか? それを目指すぞ!」
「ああ、俺もそれで良いわ」
「わたくしに合う複合ジョブなんて、あったかしら?」
ウチのメンバーだけど、各々複合ジョブの性質に対して、微妙に合っていないので、今まで育てていなかったのだ。
ただ、だからといって上位互換な複合ジョブを取得しない手はない。保険は多いほうが良いからな。
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