第491話 アーマードペンギン?もしくはペンギンナイト?

 〈プラズマブラスト〉で襲来するヴィルファザーンを撃墜しながら、ゲレンデを疾走する。撃つ度にマナグミキルシュをオヤツに貰え要求するフィオーレは、楽しんで砲台役をしていたのだが、5回目でギブアップした。MP消費に回復が追い付かなかったようだ。

 魔導バイクで走った為に、魔物との交戦間隔が短くなった事と、マナグミキルシュの回復力の低さが原因とみられる。普通のマナポーションは「え~、そっちは美味しくないからいいや」と拒否る辺り、オヤツ>魔法の撃つ楽しさ、だったのは言うまでもない。

 ちょっとだけ具合が悪そうにしていたので、MPの消費と回復を繰り返したせいもあるだろう。MPを大量に使う感覚や、MPが減り過ぎて頭が回らなくなる感じは、ある程度経験しないと慣れないからな。


 折角なので、レスミアとベルンヴァルトにも〈プラズマブラスト〉の銀カードを使用してもらった。すると、それぞれ2回と1回が限度となった。元々ランク7魔法なうえに中級属性なので、消費量は格段に多い。銀カードで劣化して魔法陣が少し小さいのに、これだからな。多用は出来ない。


 因みに、簡単にまとめると、

 俺のMPはCランクで、12回分くらい。

 フィオーレのMPはDランクで、4回分。

 レスミアのMPはDランクで、3回分。

 ベルンヴァルトのMPはFランクで、1回分。


 ……明らかに俺だけ多くね?

 CとDでこれだけ違うとは考え難い。レスミアとフィオーレも同じDなのに、差が出来ているからなぁ。

 考えられるのは、フィオーレの方がMPを使うスキルが多いからとか?

 俺も低レベルの頃から、魔法をバンバン使っているし、その分だけ成長しやすいとかありそうである。





 S字ゲレンデの、上のカーブの所までやって来た。ここまで来ると頂上まで後少しである。丁度、上から滑ってきたスキー客(5人パーティーの探索者)が居たので、速度を下げて大回りにカーブを曲がる。


「お疲れ様でーす!」


「……なんだありゃ?!」

「馬じゃねえよな? 坂を登ってんぞ?!」


 すれ違う時に挨拶をしておくのだが、相手側が驚いていて返事が返って来ない。互いに移動しているので、そのまま通り過ぎて行った。

 町中で走った時には、新型ゴーレム馬で納得させられたけど、雪山を走るのは非常識のようだ。そんな愚痴を後ろのレスミアにすると、クスクスと笑われた。


「私達は試作魔道具って知っていますし、ザックス様の検証にも慣れていますからね。普通の人は驚きますよ。

ほら、森の中から様子を覗っている人も居ましたし」

「アレは〈プラズマブラスト〉の見学だろうな。空に向かってバンバン撃っていたから、気になったパーティーが見に来たんだろ」


 ここまでの道中で2回、〈敵影表示〉に緑色の光点が映るのだが、近くにまで来ると停止する不審者が居たのだ。その停止位置は森の中である。俺達が移動を開始するまで、動かないし、何のアクションも掛けてこないので放置したのである。

 まぁ、ミスリル装備のパーティーが〈プラズマブラスト〉を使っていれば、サードクラスの貴族様に見えるだろう。色んな意味で近付きたくないだろうな。多分、見学しているのは、採取パーティーだろうし。


 昨日のスキー客の様に、交流する機会があれば別だが、すれ違ったり見学したりする程度なら気にする必要はないだろう。現状のところ、魔導バイクは非売品であり、〈プラズマブラスト〉の銀カードは(売るにしても)騎士団相手だろうからな。宣伝する必要は無い。

 注目を浴びるのは仕方がないと判断し、先に進んだ。




 頂上に辿り着いたのは昼前である。

 山頂にそびえる巨大なもみの木は、雄大に枝を広げて雪を積もらせていた。年末が近くなってきたので、クリスマスツリーとして飾り付ければ映えるだろうが、ちょいとデカすぎるか。人通りも少ないので、見る人も少ないだろう。現に今も、頂上の広場には俺達の他に2パーティーしかいない。どちらもスキー板を履いたり、背負籠等を準備したりしている。

 既に魔導バイクとソリで注目を集めていた為、軽く挨拶を交わすだけに留めて、根元へと向かった。


 もみの木の根元には大きなうろが口を開け、中に石畳の階段を覗かせていた。そう言えば、村の森林フィールドにあった階段も、こんな風に洞の中にあったな。あっちは枯れ木だったけど、今回は立派過ぎる成木である。幹に大穴を開けても元気に立っている辺り、ダンジョンの不可思議さを痛感するな、今更だけど。

 長い階段を下りながら、午後の予定を相談する。


「取り敢えず、今日の予定は、これで完了。42層に入った直ぐの所にある石像を見たら、昼食にしよう。

 その後の午後はノープランなんだけど、誰か案はある?

 無ければ、そのまま休暇にするけど……」


 元は2日掛かる予定だったが、魔導バイクで駆け抜けたお陰で半日空いたのだ。初めて一泊キャンプでもあったので、疲れている事も考慮して意見を聞く。

 すると、いの一番に元気に手を挙げたのはフィオーレである。食いしん坊が乗り気なのは、アレしかないか。


「それなら、氷結樹の実を取りに行こう!

 さっきの41層でも良いし、次の42層でも良いけどさ。年末のお休みの間に食べる分くらいは確保したいよね?」

「既に4袋分はあるけど、フィオーレの食欲を考えるとなぁ。

 そうそう、氷結樹は41層の方が多いらしいから、採りに行くなら階段を上り直しだな」


 エントランスにある転移ゲートから41層に入ると、またゲレンデの下からになってしまう。他の採取スキー客の様に、上からの方が楽なのだ。

 そんな説明をすると、ベルンヴァルトも同意した。


「俺も良いぜ。折角、雪が積もっているのに、スキーで滑らないのもな。子供の頃を思い出して、滑りたくなったな。

 それに、今日はソリに乗っているだけで、あんま疲れてねぇしよ。」

「あー、それもあるよね~。毛布だけとか寝袋だと、ちょっと疲れが残るけど、普段と変わらないベッドだもん。アレって、キャンプって言えるのかな?」

「いやいや、テントで寝泊まりしたし、焚火もしたんだから、立派なキャンプだろ」


 まぁ、普通の人はアイテムボックスの容量的に、マットレスや布団を持ち歩かないと思うけど……いや、お貴族様なら似ているような事はしているかも?

 ソフィアリーセ様みたいなお嬢様が、寝袋で野宿をしている姿は想像できないんだよな。魔道具なアイテムカバンに、お泊りセットとか食事セットを入れて、ダンジョンに潜っているのは想像に難くない。


 そんな雑談をしていたら、レスミアが話題に入ってこない事に気が付いた。食材……氷結樹の実を採りに行くと話しているのに、賛同して来ないのは珍しい。いつもなら、真っ先に手を挙げるだろうに。

 ブラストナックルの発熱のせいで少し先行しているので、振り返ってみると、レスミアは少し浮かない表情をして考え込んでいる。どうしたのか聞いてみると、手をパタパタと振って、何でもないように答えた。


「いえ、私も氷結樹の実は欲しいですよ。

 ……ただ、私はスキーをやった事が無いので、大丈夫かなって。

 あ、大丈夫です! 無理そうな時は、走りますから!」


 故郷の猫の国ドナテッラでは、めったに雪が積もらないので、スキーはやったことが無いらしい。41層でスキー客が滑るのを見て、あんな風に滑れるものなのかと内心不安だったそうだ。

 普段のレスミアの運動神経ならば、心配する必要も無いと思うけど、安心させるように笑い掛けておく。


「それなら、俺が教えてあげるよ。スキーなら、5回くらい泊り掛けで滑りに行ったから、そこそこ滑れるんだ」


 もちろん、日本での話である。中高の学校行事でスキー教室があり、大学でも何度か滑りに行った記憶がある。こっちに来てからは初めてになるが、身体が覚えて……身体が違うじゃん。魂が覚えているだろう。多分。

 それに対しレスミアは「よろしくお願いしますね」と、笑い返してくれるのだが、その後ろに居た二人が爆笑した。


「あははっ! 雪の積もっている外が嫌いなアタシでも、20回は経験あるよ~。ザックス、初心者じゃん!」

「ガハハハッ!! お前ら少ねぇな!

 俺なら子供の時に毎日のように雪山に遊びに行っとったから、軽く500回は超えているぜ! 二人まとめて教えてやろうか!」


 ……この雪国出身者共め! 雪国マウントか?!



 そんな雑談をワイワイしていたら、程なくして次の階層へと到着した。

 階段を出た直ぐは休憩所となっているようで、安息の石灯篭とザゼンソウに囲まれた広場となっている。そして、広場の中央には、ペンギンの石像が立っている。アレが、42層から43層へ行くための転移陣を出してくれる石像だ。

 近付いてみると、只のペンギンではない事が見て取れる。何せ、鎧を着たアーマードペンギン、もしくはペンギンナイトとでも名付けたくなる風貌なうえ、ツルハシを担いでいるからだ。

 そして、その前にはお賽銭箱が置かれている。その箱には、こう記されていた。


『我にマナの籠った鉱石、宝石、金属を捧げよ。

 十分なマナがあれば、次の試練に向かう為の転移陣を用意しよう。

 ただし、新鮮な物に限る。我はグルメなのでな』


「新鮮って……お肉や野菜じゃないんですから、鉱物や宝石の新鮮って何の事なんでしょう?」

「ああ、それは調べてあるよ。

 ずばり、この階層で採取した物に限るらしい。外から持ち込んだ鉱石を入れても、反応しないんだってさ。もちろん、この階層で採取してから、一度でも外に出るとアウトで、対象外になる」


 この賽銭箱いっぱいにする必要はないが、ウーツ鉱石や黒魔鉄鉱石だと、結構な数が要るらしい。ただし、マナの含有量が多い、宝石やウーツ鋼インゴット(ドロップ品や、この階層内で加工)などにすれば必要数は減る。


「って事は、この山で鉱石堀りをして来いって事か?

 41層とは違って低い山だけどよ、鉱石の採れる土山を探すのが大変だろ」

「俺達は〈サーチ・ストックポット〉があるから、マシな方だと思うよ。

 採取師系が居ないパーティーで運が悪いと、数日泊まり込みで鉱石掘りするって書いてあったから」

「うぇ~、また雪山を歩くのかぁ」



 取り敢えず、今日のところはチャレンジしないので、後回し。折角の暖かい休憩所なので、昼食を頂くことにした。




 今回のレベル変動は以下の通り。経験値増を付けずに、特殊武具にアビリティポイントを回していた為、殆ど上がっていない。


・基礎レベル41     ・アビリティポイント50

・トレジャーハンターレベル40→41  ・剣客レベル40→41





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 これにて雪山キャンプは終了。続きの42層からはソフィアリーセ様が加入してからになるでしょう。

 次回、伯爵邸にて、加入イベント『外壁上のラスボス戦』です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る