第485話 ゲレンデを滑走するペンギン
雪山フィールドで登場する2種類目の魔物は、雪上を滑走するペンギンである。レスミア達が防寒用に身に着けているペンギンチャームは、こいつのレアドロップなのだ。
【魔物】【名称:グライピング】【Lv41】
・雪山を滑走するペンギン型魔物。ゲレンデを滑走しながら獲物を狩るのが大好きで、滑りながら獲物に突撃、硬質化した鶏冠で串刺しにする。風属性魔法の亜種〈ジェットゲイル〉を足から出す事により突風を巻き起こし、坂道でも逆走することが出来る。また、嘴から吐くブレスにはデバフ効果があり、浴びると敏捷値が低下してしまう。獲物の敏捷値を下げたところを、高速滑走で串刺しにするのが基本戦術。
また、氷風属性魔法の亜種〈イグルースニーク〉を使うことで、雪の中に隠れる事が出来る。林の中では、雪の中から奇襲を掛け、木々を利用した三次元突撃で獲物を狩る。
・属性:風
・耐属性:土
・弱点属性:火
【ドロップ:滑走ペンギンの毛皮】【レアドロップ:ペンギンチャーム】
コイツもヴィルファザーンと同じく〈ジェットゲイル〉を使うようだ。通りで、急加速する訳である。大きさ的に大型犬サイズなのに、この速度が出るのは反則だと思うが……どれだけの推力があるのやら?
そして、イグルーって、確かエスキモーが作る家だったか? 先程隠れていたのはかまくらではないようだ。具体的にどう違うのか知らんけど、〈イグルースニーク〉なので、中に入っている限り隠密状態になって、〈敵影感知〉の索敵から逃れるのかね?
先制の〈ファイアジャベリン〉で、1羽撃墜した。残りは4羽であり、二手に左右で別れたようだ。俺から見て、左手に回り込む方が近い、こちらを相手取ろう。ベルンヴァルトへ意思表示をしておく。
「左は任せろ」
「おう! なら、俺は右だな。
鳥の癖に、空も飛べん雑魚共がぁ! 焼き鳥にして喰ってやろうぞ!」
ベルンヴァルトが一括するように吠え〈ヘイトリアクション〉を掛ける。すると、左へ迂回していたペンギン、グライピングも方向転換した。器用に翼?……ヒレじゃないよな、魚じゃないし……兎も角、腹ばいに滑走しながら、スキーストックのように翼を雪面に突き立てる事で、ドリフトしながら方向転換する。〈ジェットゲイル〉を使ったままなので、さながらジェットスキーの様だ。
雪を巻き上げ、噴進するグライピング、その直線状には〈ヘイトリアクション〉を掛けたベルンヴァルトが居る。なので、それを邪魔するべく、割り込んだ。
2羽が並ぶように滑ってきているので、連続して〈シールドバッシュ〉を発動させて気絶させたいところ……相対距離と速度を鑑みて、〈摺り足の歩法〉で位置を調整、タイミングを図る。
間合いに入る直前、グライピングが両の翼を広げるや否や、それを雪上へと叩きつけると……飛び上がった。高さはそうでもない、俺の胴体辺り。心臓目掛けて頭のリーゼント、ではなく角状の桂冠を槍の如く突き刺しに来た。
ただ、意表は付かれたものの、その高さは丁度カイトシールドを構えているところである。そのまま裏拳を放つように、〈シールドバッシュ〉で横っ面を殴ってやった。
殴りついでに、盾を押し付けるようにして、グライピングの身体を外側へと受け流す。〈シールドバッシュ〉の効果で気絶している筈なので、止めは後回し。続く2羽目へと意識を向ける。
息をつく暇もなく、間合いへと滑り込んでくるグライピング。ただし、2羽目は違う行動を取った。嘴を大きく開くと、その口から白いガスを吐き出したのだ。咄嗟にカイトシールドを構えるが、特に何も圧は感じなかった。
……いや、身体が重い? 解説文にあった、敏捷値デバフか!?
しかし、戸惑っている暇など無い。デバフブレスを吐いた2匹目も、宙を舞って体当たりを敢行して来ているからだ。
幸いだったのはカイトシールドを構えたままだった事である。〈シールドバッシュ〉を発動させる時間は無かったが、そのまま体当たりをカイトシールドで受けた。
新品の盾が金切り声を上げる。大型犬もかくやという大きさなグライピングの体当たりだったが、何とか耐えきった。
不安定な雪の上では押し倒されていたかも知れないが、ミスリルフルプレートの〈設置維持〉のお陰で踏ん張れた。そして、もう一つ、見た目程重くない?
カイトシールドに押し返されたグライピングが、仰向けに倒れ掛かる。その隙を逃す筈もない。
カイトシールドごと左腕を引き寄せ、甲から生えている刀の柄を、右手で握った。
「〈虎走り〉!」
足元を狙う、下段抜刀斬りである。火属性の魔剣術が施された刀は、その白い胴体を切り裂く……筈が、その手応えは固い物を切ったかの様。その証拠に、魔剣術の赤い光が少し舞い散り、グライピングの腹は斬られた線状痕はあれど、血も流していない。
スキルの効果で自動納刀する間に、その腹を観察する。すると、光加減で反射しているのが見て取れた。その様子はまるで鱗のよう。それだけ分かれば十分である。鱗っぽいのは腹だけなので、他を狙えば良いのだ。
「〈一閃〉!」
普段よりも、若干遅い高速抜刀斬りで駆け抜けて、その首を斬り飛ばした。ペンギンさんの首が舞い、目が合う。その可愛さからちょっとだけ罪悪感が……いや、リーゼントな角は厳ついので、微妙に可愛くないか。
魔物相手と割り切っておくしかない。
〈ボンナバン〉で元の位置に戻り、気絶している1羽目に止めを刺した。背中から突き刺してみたが、こっち側は固くないようだ。背中から入った刃先が、お腹を貫通せずに止まってしまったので、固いのは白い腹の部分だけみたい。
検証は後回し。周囲を見回して、現在の戦況を探る。ベルンヴァルトが担当している2羽が居たのだが、1羽は既に倒れ伏している。頭に矢が刺さっているので、気絶させたところでレスミアが止めを刺したのだろう。
もう一羽は、元気に雪上をドリフト中の様だ。
「みゃーっ! 身体が重いんだけど!」
真ん中でフィオーレが踊る〈スローアダージオ〉は、その名の通りスローペースな踊りなのだが、今日は一段と遅い。回転ジャンプとか、勢いが無さ過ぎて1回転で着地している程である。グライピングのデバフブレスを喰らったのは、想像に難くない。そこから離れた場所で、レスミアが弓を構えているが、雪上を滑るグライピングを捉えかねているように見える。先に動きを止めないと、時折ジャンプやドリフトをするグライピングは狙い難いのだろう。
そして、ベルンヴァルトは……軽快に雪上を走り、グライピングを追いかけ回していた。重い武者鎧に、タワーシールドとツヴァイハンダーを抱えてである。
「ガハハハッ! そんなブレスなんぞ、効かねぇって!」
〈挑発〉が効いているのか、ベルンヴァルトを中心に回るグライピング。足から出す〈ジェットゲイル〉の推力に対し、翼で舵取りをする事で器用に旋回し、距離を取っている。その嘴からは、白いブレスが吐かれるが、ベルンヴァルトは気にした様子もない。
ここまで見れば、何が起こっているのかピンっと来た。武者鎧……血魂桜ノ赤揃えの付与スキル〈デバフ反転〉の効果だろう。狙い通りとも言うけどな。重い武者鎧で雪山フィールドに来たのも、事前情報から考えていたのだ。
・〈デバフ反転〉:装備者に掛けられたデバフの効果を反転し、良い効果へと変える。効果時間は元のスキルに準じる。
ふと気付いたが、自分の身体に感じていた重さ……敏捷値低下のデバフが消えていた。先程喰らってから、体感で1分程度か? 効果が短い代わりに、デバフによる減少効果が高いのかも知れない。
そして、グライピングが執拗にブレスを吐くのも、習性かな? 鑑定文には『獲物の敏捷値を下げたところを、高速滑走で串刺しにするのが基本戦術』なんて書いてあった。ブレスを当ててもベルンヴァルトが遅くなるどころか、早くなって追っかけてくるので、パニクっているのかも?
「ちょろちょろすんじゃねぇ! 〈ホークインパルス〉!」
今日のベルンヴァルトのジョブは、重戦士である。雪山では突進系スキルが使い難いだろうと考え、騎士ではなく重戦士にしたのだ。〈シールドバッシュ〉も使えるしね。
下が雪では、重い武器を振り回すのも一苦労だと思うが、〈ホークインパルス〉ならば大丈夫。バグった挙動で、いつの間にか振り上げているので、不整地でも攻撃スピードは速い。
現に今も、旋回するグライピングを捉えて、ツヴァイハンダーで叩き潰すのだった。
倒したグライピングの実況見分をする為、裏返して白い腹を確認する。鱗状の光沢のあるお腹……腹甲とでも言えばいいか、手で軽くノックすると、硬質な音が返って来た。
「なるほど、この固い腹甲がソリ替わりになって、滑るのか」
「あははははっ! 見てよこのお腹、ぶよぶよで手が埋まる!」
フィオーレが、グライピングの脇腹に手を入れている。それはまるで、ぬいぐるみに手を押し込んでいるかのようだ。俺も触らせてもらったところ、和らかな毛皮の奥に、分厚い脂肪があるような感じがした。毛皮で膨れている分だけ見た目よりは軽いが、角から首、胴体に掛けて真っ直ぐ突っ込めば、十分に威力のある突撃になるのだろう。
そんな話をしていると、死体が消えていきドロップ品へと変化する。出て来たのは、1m四方くらいの黒っぽい毛皮である。
【素材】【名称:滑走ペンギンの毛皮】【レア度:C】
・断熱性と撥水性の高いペンギンの毛皮。柔らかく暖かい毛皮なので、冬場のコートの素材として人気がある。雪山登山の装備品としては最適である。
しかし、断熱性が良すぎる為、大量に雪が積もる地域でもなければ、暑く感じるだろう。
そう、俺以外が着ているコートの素材なのだ。ベルンヴァルトの物が黒いので、素材そのままに近いかな? 鬼人族のサイズ的に5、6枚は使っていそうである。
レスミアとフィオーレの白いコートも同じ毛皮だな。貴族向けに白く染めて、刺繍が追加されており、貴族街を歩いても問題ないくらい、お洒落な毛皮のコートである。ただし、ヴィントシャフトの街中だと、歩くだけで汗をかくので不向きだけどな。
まぁ、雪山なので、白い方が保護色になって良いかと選んだ次第である。お値段的にも黒の倍はするのだが、大型のベルンヴァルト用よりも安い。素材の枚数的に仕方がないのだけど、掛かる費用的には同じなので、可愛い方を選んだのだった。
残念ながらレアドロップのペンギンチャームは手に入らなかったが、既に購入しているから、良いか。滑走ペンギンの毛皮を5枚回収し、軽く反省会をする。
ベルンヴァルトが〈デバフ反転〉の凄さを、興奮気味に語ってくれたとかね。効果が凄いのは見ていて分かったが、戦術的にはよろしくない。追っかけ回すよりも、〈挑発〉〈シールドバッシュ〉の方が、確実だからである。
その他、レスミアから「林の中なら闇猫の方が良い」など、相談を受けてから、林の中の採取地を目指すのだった。
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