第483話 炎の壁と氷結樹
あらすじ:戦闘機のような雉魔物……ヴィルファザーン5機編隊の内、2機を撃墜した。残り3機!
「ヴァルト! 〈挑発〉は出来たか?!」
「おお、効いたかは分かんねーけどな!
……いや、2匹はこっち来るぞ」
ベルンヴァルトが右手のツヴァイハンダーで空を指す。すると、上空に舞い上がったヴィルファザーンが二手に分かれていた。1匹のみ横合いに逸れ、残りの2匹はアクロバット飛行の様に宙返りして反転すると、こちらへ向かって急降下を始める。
急降下しながら魔法陣も展開しているが、〈語らいのブルーバード〉の効果で完成には程遠い。間違いなく〈挑発〉の効果で待ち切れず、攻撃しに来たのだろう。
「直前に壁魔法を使うから、タイミングを合わせろよ!」
「おう!」
旋回する1匹はレスミアに監視を任せて、急降下する2匹を先に対処する。
相対距離と、壁魔法が出来上がるまでの時間も考慮して……今!
「〈フレイムウォール〉!」
ベルンヴァルトの手前に、炎の壁を作り出した。当然、急降下するヴィルファザーンは、避ける事も出来ず、炎の壁へと突っ込んだ。〈フレイムウォール〉に触れれば属性ダメージに加え、炎で炙られる。ただ、実体は無いので、突き抜ける事も可能である。
その突き抜けた先には、ベルンヴァルトが盾を構えて待ち構えて居るんだけどな。
「〈シールドバッシュ〉!」
突き抜けたヴィルファザーンを、盾で殴り返した。スキルのノックバック効果で吹き飛ばされた先には、後続の2匹目が炎の壁に突っ込んだ所である。
当然、2匹は衝突、縺れ合い、炎の中へと落ちて行った。
これは武勇伝に掛かれていた戦術なのだが、面白いように決まったな。火属性が弱点なうえに、燃えやすそうな羽毛しているせいか、炎の壁の中に落ちた2匹は、そのまま丸焼きになったようだ。
残るは1匹。
警戒を頼んだレスミアの元に行き状況を聞くと、魔法を充填しながら旋回しているそうだ。
〈モノキュラーハンド〉で様子を伺うと、充填は半分を過ぎているものの、完成にはまだ掛かるようで、ぐるぐると回っている。その背中には青く光る小鳥が、まだくっ付いていた。
「あー、ブルーバードが効きすぎたか。
〈ダウンバースト〉で落としても良いけど……フィオーレ! 踊り中止!」
風魔法ランク6の〈ダウンバースト〉で、空から落とす事は可能なのだが、下が新雪なので大したダメージにはならないらしい。もう少し、行動パターンも見たいので、MPを使い切らせる方を選んだ。
フィオーレが踊りを止めて、ベルンヴァルトの元へ……いや、〈フレイムウォール〉の方へと駆けて行く。暖を取りに行ったのだろう。
それはさておき、青い小鳥が消え、魔法陣も完成させたヴィルファザーンが急降下を始めた。最初の軌道と同じく、高い所から〈ウインドジャベリン〉を撃ち下ろしてくる。狙われたのは、弓を番えていたレスミアだ。弓矢での攻撃を断念し、回避を優先したお陰か、かなり余裕をもってジャベリンを避ける。
……良し。ジャベリン2発が限度らしいから、そろそろ降りるか?
俺とレスミアの頭上を飛び越えて行ったヴィルファザーンは、翼を広げる事で徐々に速度と高度を落として、着陸態勢へと移っていた。その先に居るのは、〈フレイムウォール〉でぬくぬくと暖を取っているフィオーレである。
「フィオーレ! ヴァルト! そっちに行ったぞ!」
「わわっ! ヴァルト、盾になって!」
「へいへい、任せとけっと」
同じく暖を取っていたベルンヴァルトが盾を構えて歩み出る。
しかし、ヴィルファザーンは、雪を巻き上げながら、その横合いに着陸した。〈挑発〉を掛けていない個体なので、攻撃を優先していないようだ。すると、緩い風が起こり、宙を舞った雪を吹き流す。風を起こしているのは、両の翼を振るうヴィルファザーン。
何をしているのかと思いきや、風の先に有る炎の壁が小さくなった。高さ3mはあった筈なのに、2mに縮む。ヴィルファザーンが踊っているかの様に翼を振るい、風を送ると、更に小さくなり1m程になってしまう。
……あっ、鑑定文にあった、火消しの能力か。
『また、火属性が弱点であるが、その翼で風を起こす事により火属性魔法の威力を半減させる特殊能力を持つ』
どうやら、戦闘よりも優先して火を消そうとするようだ。近くに居るベルンヴァルトそっちのけで翼を振るっている辺り、習性と言っても良いかも知れない。火属性弱点だから、怖がって消そうとするとかかね?
魔物が取った変な行動に呆気に取られていたが、炎の壁が完全に消えると、我に返ったフィオーレが叫び声を上げた。
「あーっ! 折角、暖まってたのに、消すんじゃない!」
2本のテンツァーバゼラードを抜刀し切りかかる。すると、その叫び声に驚いたヴィルファザーンは、その場を走って逃げだした。雪の上を走る鳥なんて初めて見たが、意外に早い。それに対し、スノーシューを履いているとはいえ、雪上を走るフィオーレは普段よりも若干遅い。
そんな1羽と1人の追い掛けっこが始まった。無論、逃げ回るだけでなく、時折ジャンプして足爪で飛び掛かってくるが、フィオーレもステップを踏んで回避する。そんな攻防の2、3回続いたが、流れが変わったのは、途中からフィオーレが踊り始めてからだった。
呪いの踊りではなく、自前の踊りの様だ。しかし、先程までの雪に足を取られる様子は全くない。
恐らく、この間覚えた〈流水の舞〉の効果か? どのような足場であっても、流れる水の如き踊りが出来るようになる。そんな踊りの中、ヴィルファザーンの飛び掛かりを、イナバウアーの様に身体を倒して避け、同時にテンツァーバゼラードが交差した。
鳥の脚が宙を舞い、ヴィルファザーンが着地に失敗して雪の上に転がる。
すると、今度はフィオーレが鳥の様に軽やかにジャンプする。両手の剣を翼の如く掲げ、下に向かって振り下ろすと、雪ごと切り裂くような下段×の字斬りでフィニッシュした。
劇の様な一幕に、素直に感心する。労いの意味を込めて、拍手で称賛しておいた。
「ふふ~ん。なかなか、すばしっこい鳥だったけど、一匹くらいは楽勝だよ!
足元が雪じゃなかったら、もっと楽だったのにね~」
「お、それなら〈ダウンバースト〉で落としても良かったのかもな。
それと〈語らいのブルーバード〉の妨害効果も助かったよ。この階層で魔法を使うのは、あの雉型魔物だけだから、姿が見えたら率先して使ってくれ」
「それは良いけど、踊っている時に空を飛んでいる鳥なんて見てられないからね。途中で替えるなら、さっきみたいに指示してよね」
如何せん、空を飛ばれると対処方法が限られるからな。〈挑発〉と〈フレイムウォール〉のコンボは、決まると気持ちが良いが、狙うのは数匹が良い所か?
空を飛ぶ速度の敵に〈挑発〉を掛けるのも、範囲型の〈ヘイトリアクション〉であっても万全と行かないようだからな。〈エクスプロージョン〉で薙ぎ払えば楽なのだが、図書室の武勇伝によると最初の属性ダメージが入った時点で散会して逃げるらしい。バラバラに逃げられるのも面倒だ。全方位からジャベリンが降ってくるよりは、編隊を組んでいた方が予測しやすいからな。
余談ではあるが、ゲレンデに落ちた敵が〈エクスプロージョン〉で爆破されると、最悪の場合、その衝撃で雪崩が発生するらしい。もっと斜面の角度が急になってからの話なので、まだ大丈夫だとは思うが、雪崩なんて大事になる可能性を聞くと使う気にはなれない。
雪と低温という厄介な環境なうえ、魔法まで封じてくるとは、本当に面倒なフィールド階層である。
さて、他の戦術を考えないと。動きを止める系とか……〈影縫い〉は、巡航速度で飛ぶ影を、貫ける自身は無いな。旋回している時ならワンチャン?
〈囚われのメドゥーラ〉は、敵の足を止める妨害系の呪いの踊りだけど、空を飛ぶ相手に効くのかね?
そんな対策を考えていると、使用した矢を拾いに行ったレスミアが戻って来た。そして、目新しい
「ドロップ品の矢が手に入りましたよ。でも、鏃が付いていないので、ザックス様、加工をお願いしても良いですか?」
「ああ、破魔矢だから鏃が無いんだろ。アンデッド系に効くらしいけど、〈ホーリーウェポン〉があれば必要ないからな。
手が空いた時に、ウーツ鋼の鏃を作っておくよ」
【武具】【名称:雉の破魔矢】【レア度:C】
・強いマナが籠ったヴィルファザーンの矢羽根を用いて作られた矢。先端が平らなのは、人や獣を射る為ではなく、邪気を払う為である。ダンジョンに現れるアンデッドに非常に良く効くが、鏃を取り付けると効果は失われる。
一部地方では、ダンジョンのある方向に向けて家の中に飾ると、凶事を払うと言い伝えられているが、別段そんな効果は無い。
……心無い〈詳細鑑定〉さんが、一部地方の風習をぶち壊しに来たけど、どうしたもんか?
まぁ、どこの事かも分からないし、報告書にまとめる分には問題ないよな(無慈悲)
いや、〈詳細鑑定〉のゴールドカードを売っている時点で、いつかはバレるだろうから……
それは兎も角、見た目は立派な矢羽根が付いた矢である。先端が平らな事以外に破魔矢要素は無いので、飾るなら鈴とかお札、紅白の紐とかをセットにしたいところである。ここら辺に、お正月飾りとして浸透しているのか知らんけど……パーティーメンバーの誰も知らなかったので、鏃を付けて武器にしちゃっても良いか。
少し進んだ先に、一番近い〈サーチ・ストックポット〉の反応がある。反応のある方を見ると、斑に生えた針葉樹の林の中の様だ。俺一人で採取しに行こうかと思ったのだ、他の皆も「まだまだ元気!」と付いてくる事になった。まぁ、レスミアとフィオーレの期待している物だと良いんだけど……
ゲレンデから林の中に入ったが、目当ての物は直ぐに見つかった。それと言うのも、目立つ木だからである。
木々の間から差し込む日の光を浴びて、青やピンク色にキラキラと反射をしていた。それが3本生えている。近付いてみると、存外小さい木で、俺の背丈と同じ程度。しかし、その幹や枝が氷の様に青白く半透明、その枝には葉は無くピンク色の実が沢山生っていた。自然の物とは思えない程、幻想的な佇まいで、とても目立つ。
そう、女性陣が期待していた氷結樹だ。一口大のピンク色の実は、マナポーションや、フリッシュドリンクの材料である。
【植物】【名称:氷結樹】【レア度:C】
・極寒の寒さの中でしか育たないハスカップの木の変異体。別名『アイスの木』などと呼ばれる通り、周囲の氷のマナを吸収して育つ木であり、火や熱にめっぽう弱い。切り出す熱で溶けてしまう程なので、材木としては見た目が綺麗な以外に使い道は無く、マナの薄いダンジョン外に持ち出しても直ぐに溶けてしまう。
【素材】【名称:氷結樹の実】【レア度:C】
・氷結樹の氷のマナを凝縮したハスカップの実。果実ではあるが、氷のマナのせいで半分凍っている。ねっとりとした食感に、冷たく爽やかな甘酸っぱさは、夏場に大人気。また、マナの多い食材である為に、調合や菓子にも使われる事も多い。
【氷属性】【熟成100%】
「わわっ! 落ちる、落ちる! 勿体ない!」
「フィオ、拾い集めましょう!」
鑑定文を読んでいたら、周囲が騒がしくなった。何事かと思い、鑑定文の表示を消してみると……一番手前の氷結樹の枝が、ぐんにゃりと垂れ下がり始め、ピンク色の実を下に落としていたのだ。それを、慌てた様子で拾い集める女性陣。
原因は直ぐに思い付いた。そりゃ、ブラストナックルが発熱したままじゃ、そりゃ溶ける。
両手への魔力供給をカットするが、発熱した分は直ぐには冷えない。慌てて、特殊アビリティ設定を開き、ポイントに戻してから、〈ブリーズ〉の魔法で熱気を吹き散らした。
それで、大体溶けるのが止まった。やっぱり、熱の影響だったらしい。ただ、大体と言うのは、完全に止まってはいないからである。ゆっくりと枝が溶け始めているのは、一番手前の木のみ。俺達に囲まれている奴だな。
つまり、ブラストナックルの発熱は論外だが、ヴァルムドリンクを飲んで体温を高く保っている人間が多くても駄目なようだ。繊細な木だな!
そんな、仮説を話しながら採取袋を取り出して、〈自動収穫〉のスキルを使用した。果物なので、〈果物農家の手腕〉の対象になる。枝に実っていた氷結樹の実は、ひとりでに宙に浮き、袋に飛び込んできた。
ただし、下に落ちた物は対象外っぽい。いや、農家だと、そんなものなのか?
「みんな、残りも拾い集めるぞ! 俺は他の木に〈自動収穫〉!
つーか、寒いから急いで!」
「えー? ひんやりする木だけど、そこまでじゃ無くない?」
「あっ! ザックス様だけヴァルムドリンクを飲んでません!
やせ我慢してないで、収穫より先に飲んでくださいよ!」
少しの時間なら大丈夫かと思ったが、存外にミスリルフルプレートは冷たくなって来ていた。手が震え始めたところで、レスミアに促されてヴァルムドリンクを飲むのだった。
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